Posted: 17 May 2021 3 min. read

「打ち上げ産業」活性化を国策に

宇宙ビジネスの民間委託(後編)

前編はこちら

 

宇宙関連ビジネスへの民間参入が広がる中で、日本企業はその能力や産業の広がりの点において、海外に比べ見劣りをしている。小型衛星などでは多くのベンチャー企業が活躍しているが、打ち上げ系のビジネスについては小型ロケットの成功例はあるものの実証実験段階の域を出ず、といった状況だ。JAXAでは次世代型のH3ロケットが出番を控えているが、「民間による」取り組みは、国全体としては諸外国よりも出遅れていると言わざるを得ない。

 

もともと日本は東南に海が開けており、様々な種類の軌道への打ち上げを、近隣諸国に気兼ねすることなく行える。ロケットなどの原材料も、輸出規制などの影響を受けない国内のサプライチェーンでほぼ調達可能であることも併せ、打ち上げ産業には極めて向いている国情と言える。さらに、近年、日本企業にとって福音をもたらす新しい技術面の試みが世界で生まれている。

 

一例として、海外企業で航空機からのロケット発射を試みる企業がある[1]。打ち上げ場所の柔軟性を確保しつつ、商用航空機を流用することでコスト低減も可能だ。また、航空機で最初に高度を稼ぐことで、小型ロケットでも地球周回軌道への投入がより楽になるという側面もある。このアイデア自体は古くからあるものの、既存技術をうまく組み合わせ実現に漕ぎつけており、現在の宇宙産業を取り巻く技術実装やビジネス環境の変化を表している。
[1]Virgin Orbit社

 

別の構想として、リニアモータを使った「打ち上げカタパルト」もある。リニア新幹線で使用予定のリニアモータ技術を使って、ロケットの打ち上げを助けるというものだ。リニアモータによる加速を最初に得られることで小型のロケットでも軌道投入が容易になると考えられる。また、カタパルト部分の打ち上げコストは電気代のみであり、化学燃料を利用する大型のエンジンを使うよりはるかに低コストでの運用が可能になることも想定される(最初の建設費の減価償却は除く)。こちらも個別の技術の難易度はそれほど高いものではなく、超電導素材ならびにリニアモータの技術、発射台を構築する技術など、国内にも多数の関連企業が存在している。

 

このような状況を踏まえると、日本での民間によるロケット打ち上げビジネスの課題の本質は、技術力の不足にあるのではなく、既存技術をベースとした体系的な性能向上の取り組みやそのために必要な資金調達を促す仕組みの未整備にあるのではないかと考えられる。そのブレイクスルーとして、前編で紹介したNASAの取り組みに倣い、「日本版COTS」とでも言うべきプロジェクトが期待される。国策として、打ち上げ系におけるビジネス上の劣勢を一気に挽回する方策を取っても良いのではないか。

 

プロジェクト実施の際は、NASAに倣って個別の技術は指定せず、性能要件だけを指定することが望ましい。例えばISSに●●トンの物資・人員を輸送できる能力をもつこと、●●kgのペイロードを高度●●kmまで運べる事など求められる性能を軸に、実現方策は民間の創意工夫に委ねるという方式がベストであろう。また、プログラムの責任者には技術者に加えて、スタートアップビジネスを深く理解した人材や、法律の専門家などの多様な人材の登用も必要と考えられる。

 

日本ではこの様な技術開発を伴った総合的な官民パートナーシップについてはまだ経験が浅い部分も多いが、NASAにしても試行錯誤を経てプロジェクトを進めてきた。日本においても同じことができると期待したい。過度な産業保護政策に陥ることは避けねばならないが、今後発展が予測される多様な宇宙ビジネスに対して、基盤となる打ち上げ系産業については、国策としての推進体制への支援も必要ではないだろうか。

執筆者

𦚰本 拓哉/Takuya Wakimoto
デロイト トーマツ コンサルティング合同会社

※所属などの情報は執筆当時のものです。

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増山 達也/Tatsuya Masuyama

増山 達也/Tatsuya Masuyama

有限責任監査法人トーマツ マネージングディレクター

大手金融機関、民間企業において新規事業構築、事業再編、IPO支援、広報・IR、医療・介護事業等に従事し、全国に事業を展開する上場企業グループの代表取締役など歴任。 特許庁、地方自治体における地域活性化事業のビジネスプロデューサーとして数多くの新規事業を創出し、官民連携による地方創生エコシステムを推進している。国立大学非常勤講師など、全国で講演活動、テレビ、ラジオ、新聞、雑誌などの出演、出稿多数。著書に「事業プロデューサーという呼び水(共著・静岡新聞社)」がある。