調査レポート

行動するZ世代と沈黙するミレニアル世代

2023年 デロイト Z・ミレニアル世代年次調査日本版 ミレニアル世代を取り囲む負のサイクルとは

本年のZ・ミレニアル世代年次調査は、世界的なインフレの進行が顕著だった2022年11月~2023年3月に実施されました。グローバル・日本のZ・ミレニアル世代の間では、世界的なインフレーションが進行する中で昨年以上に生活費に対する懸念が高まるとともに、職場における燃え尽き症候群の実感やストレスといった問題が注目されています。また特に日本のZ・ミレニアル世代は、生活費の懸念や職場環境の課題を共有しながらも、企業に対して対照的な行動を取っていることが明らかになりました。

調査の概要

2023年度で12回目となるZ・ミレニアル世代年次調査では、世界44か国からZ・ミレニアル世代約22,856名(Z世代14,483名、ミレニアル世代8,373名)を対象に、例年のテーマでもある社会課題に対する意識、企業への期待や自身の就業観に加え、働き方の柔軟性を高める企業の施策に対する各世代の温度感や職場におけるメンタルヘルスの状況などについてアンケートが実施されました。

調査結果①:Z・ミレニアル世代の経済的見通し

最大の関心事は「生活費の高騰」、世界的インフレーションの影響を反映

本年の調査においてはグローバル・日本の各世代で昨年に引き続き“生活費の高騰”が最大の関心事に挙げられました。生活費に対する関心の程度はグローバル・日本の各世代で昨年以上に高まっており、特に日本のミレニアル世代において生活費の高騰を最大の関心事に選んだ回答者の割合は+13ポイントと大きく上昇しています。

最大の関心事(個人の生活関連)
※クリックまたはタップして拡大表示できます

また今後12か月の景気見通しに対しては「今後景気は悪化する」との回答がグローバル・日本のZ・ミレニアル世代で最大の割合を占めました。加えて、景気の悪化・停滞に伴い自身のキャリア・重大なライフイベントの可能性が影響を受けることを危惧するZ・ミレニアル世代の割合についてはグローバルで約50%、日本で約40%存在することから、経済的不安と自身の将来に対する不透明さが世界的に広まっていることが伺えます。

今後12ヵ月の景気見通し
※クリックまたはタップして拡大表示できます
景気の悪化・停滞で困難になること
※クリックまたはタップして拡大表示できます

調査結果②:Z・ミレニアル世代の働き方とワークライフバランス

日本においてはワークライフバランスや働き方に特有の世代間ギャップが散見

このように悲観的な経済的見通しはグローバルと日本、あるいはZ世代とミレニアル世代の間で共通の特徴ですが、就業観や企業に対する姿勢については日本に固有の特徴が明らかになりました。

現在の勤務先を選んだ理由に関する設問では、日本においては“職場の居心地の良さ“に類するワークライフバランスや従業員ファーストの文化、グローバルでは”個人の成長機会”に関する給料・手当や成長・昇進機会が昨年に引き続きそれぞれ重視されていることが分かります。この傾向はミレニアル世代において顕著であり、特に日本のミレニアル世代は重要な勤務先を選ぶ理由としてワークライフバランスを際立って重要視している傾向が見られます。

現在の勤務先を選んだ理由(ミレニアル世代・得票率)
※クリックまたはタップして拡大表示できます

しかしその一方で、ワークライフバランス向上のために期待される施策に関する設問を見ると、グローバルの回答者の間では「パートタイマーのキャリア機会の整備」や「週休三日制」といった働き方の自由度を増す様々な施策へ期待が寄せられているのに対し、日本のミレニアル世代においては「業務が硬直的なので、そのような施策は不可能である」というネガティブな選択肢が最も多くの回答を集めています。

ワークライフバランス向上のために期待される施策
※クリックまたはタップして拡大表示できます

また理想と実態の勤務形態に関する設問を見ても、「リモート・出社を自由に選べる」ことがグローバル・日本の各世代で理想とされつつも、日本のミレニアル世代は実際には100%出社の勤務形態で働いている割合が大きく、勤務形態の柔軟性に課題を抱えているように見受けられます。

理想の勤務形態・実際の勤務形態
※クリックまたはタップして拡大表示できます

調査結果③:Z・ミレニアル世代のストレス・メンタルヘルス

メンタルヘルスは共通の課題でありながら、Z世代とミレニアル世代の対応は対照的

続いてZ・ミレニアル世代の職場におけるメンタルヘルスの状況に目を向けると、職場で燃え尽き症候群を実感する回答者の割合はグローバル・日本において40%を超えています。同様に、私生活を含めたストレス実感の頻度に関する設問においても「いつも、あるいは概ねストレスを感じている」との回答は各世代で同じく40%前後でした。地域や世代に関わらず一定の割合で燃え尽き症候群・ストレスを抱えながら日々の生活を送っている人々が存在しているようです。

職場での燃え尽き症候群の実感、ストレスを感じる頻度
※クリックまたはタップして拡大表示できます

しかし日本においては、これらのストレスに対するZ世代とミレニアル世代の対応は対照的です。

勤務先の企業が従業員に対して提供するメンタルヘルス支援について利用や認知の状況を尋ねる設問において、日本のZ世代ではメンタルヘルス支援の利用率・認知率はおよそ50%であるのに対し、ミレニアル世代では30%程にとどまります。ミレニアル世代が勤めている企業においてメンタルヘルス支援が整備されていないのか、それとも実際には各種制度・リソースが設けられていながらミレニアル世代の従業員には行き届いていないのか。様々な要因が考えられますが、ワークライフバランスや働き方と同様に、グローバルのZ・ミレニアル世代には見られない日本特有の世代間ギャップがメンタルヘルスの分野でも見られます。

勤務先のメンタルヘルス支援の利用状況
※クリックまたはタップして拡大表示できます

ハラスメント被害を企業とともに解決するZ世代と耐え忍ぶミレニアル世代

また本年の調査では職場におけるメンタルヘルスに大きく影響しうる要素として、直近12か月以内のハラスメント被害の有無やハラスメント被害を受けた際の従業員の対応を聴取しています。日本のZ世代がハラスメント被害を受けた際に職場に通報した割合は78%に上り、これはグローバルのZ・ミレニアル世代の回答と近い数値です。対するミレニアル世代では職場への通報割合は44%に過ぎず、ハラスメント被害を受けても職場に頼ることなく、我慢してしまう傾向があることが分かります。

ハラスメントに対する職場への通報率
※クリックまたはタップして拡大表示できます

またZ世代とミレニアル世代の違いは2年以内の離職意向にも表れています。日本のZ世代の2年以内離職意向は昨年と同水準の40%と高い水準で推移している一方で、ミレニアル世代は13%にとどまりました。ここからも職場に不満があった際に早々に見切りをつけるZ世代と、たとえ不満があっても現在の職場に留まろうとするミレニアル世代という、日本特有の対比が見て取れます。

2年以内の離職意向
※クリックまたはタップして拡大表示できます

調査の総括:ミレニアル世代を失活させる日本社会の要因とは

より良いワークライフバランスやメンタルヘルスのために声をあげるZ世代と、沈黙するミレニアル世代

本年の調査においては日本のZ・ミレニアル世代に特有の対比が明らかになりました。日本のZ・ミレニアル世代は共通して経済的不安やメンタルヘルスの課題を抱えていますが、課題への対応は世代ごとに全く異なっています。

日本のZ世代は企業に対する期待値が高く、ワークライフバランス向上の施策やハラスメントの解決に積極的であり、企業のメンタルヘルス支援や勤務形態の柔軟性の恩恵を享受して理想の働き方を実現しています。翻って見れば、企業に対する期待値が高いゆえに離職や社内通報などの行動に繋がりやすく、人事上のリスクが顕在化しやすい世代とも言えます。
対する日本のミレニアル世代は、ワークライフバランスを重視しながらも、ワークライフバランス向上のための企業の施策には後ろ向きであり、ハラスメント被害があっても組織を頼ることはなく、勤務形態の柔軟性に課題を抱えています。それにもかかわらず早期に離職して環境を変える傾向が見られないことから、企業に対する期待感が弱い故に組織への不満をため込んだまま停滞しやすい、つまりは人事管理上の課題がありながら課題を顕在化させない世代と見ることができます。

本調査の総括
クリックまたはタップすると拡大版をご覧になれます

ライフステージの進んだミレニアル世代を停滞させる日本特有の問題とは何か

これまでZ世代とミレニアル世代は従来とは異なる価値観を持つ新しい世代として捉えられてきました。しかし今回の調査で示されたように、ライフステージが進み30代に差し掛かった日本のミレニアル世代は活力を失いつつあるように見受けられます。

ミレニアル世代を失活させていく日本固有の要因として“ミレニアル世代の志向を妨げる日本の社会構造”が考えられます。新卒一括採用・年功序列型賃金・終身雇用に象徴される日本型人事管理の終焉が叫ばれて久しくはありますが、依然として大多数の企業は新しい人事管理の在り方を模索している最中にあり、硬直的なキャリアパスや柔軟性を欠いた勤務形態を残している企業はまだ多く存在しています。社会全体でも流動性の低い労働市場の在り方や、労働者の自発的な学び直し・スキルアップを促す仕組みの不足など、新しいこと・本当に実現したいことに対する若い世代のチャレンジを妨げる要因が累積しています。これらの課題が放置された場合、Z世代やその後に続く新世代も、今のミレニアル世代同様に“負のサイクル“に巻き込まれ活力を失っていく可能性があります。

若年世代を不活性化させる日本固有の要因
※クリックまたはタップして拡大表示できます

解説者紹介:

デロイト トーマツ コンサルティング合同会社
ディレクター 澤田 修一

デロイト トーマツ コーポレートソリューション合同会社
シニアアソシエイト 渋谷 拓磨
ジュニアアソシエイト 石畑 綾子

※所属・役職は執筆時点の情報です。

 

本レポートはDeloitte Globalが発表した内容をもとに、デロイト トーマツ コンサルティング合同会社が翻訳・加筆したものです。和訳版と原文(英語)に差異が発生した場合には、原文を優先します。

デロイトのミレニアル年次調査について

デロイトが2022年11月~2023年3月に世界44カ国14,483人の1995年~2004年生まれのZ世代、8,373人の1983年~1994年生まれのミレニアル世代に対して行った調査。

調査形式

:Webアンケート方式、および一部対象者に定性インタビュー

調査時期

:2022年11月~2023年3月

調査対象

:22,856名(内、国内回答者は801名)

 

グローバルのレポート(英文)はこちらをご参照ください。

過去のミレニアル年次調査

2022

2022年度の調査ではZ世代の回答者数を加増して焦点を当てながら、パンデミックやそれに伴う経済・社会の不透明感がZ・ミレニアル世代の日常生活や社会観、就業・勤続意識にもたらした影響を分析し、日々の生活に懸念を抱えながらも社会や地球環境のために試行錯誤する姿を浮かび上がらせました。

2022年 デロイト ミレニアル年次調査を読む

 

2021

2021年の調査は、世界でも日本でもCOVID-19(新型コロナウイルス)の感染がまだ拡大傾向にあった2021年1月~2月に実施し、パンデミックの同世代への日常生活や社会観、また就業意識における影響を分析しています。今回の調査では、COVID-19の影響を受け、ミレニアル・Z世代が将来に対する悲観的観測を強め、「柔軟性・適応性」を持って乗り越えようとする姿が浮き彫りになりました。

2021年 デロイト ミレニアル年次調査を読む

お役に立ちましたか?