Well-being向上で「人が変わる、成果も出せる」秘訣(Impact Month)
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目次
若い世代ほど幸福度の低い「日本」を変えるために何が必要か?
「あるとき、仕事をしている自分に自信を持てなくなってしまったんです」
彼女はデロイト トーマツの淺井明紀子。有限責任監査法人トーマツでパートナーを務めるほか、グループのA&A Well-being・DEIリーダーでもある。デロイト トーマツの中でWell-beingを推進する中心的人物が、過去に自分自身のWell-beingで苦悩していたというのだ。
素晴らしい仕事をしていても、結果を出していても、それにより自分が心から幸せと感じられるかは別問題だ。日本ではそれが顕著といえるかもしれない。2024年版の国連の世界幸福度レポート(World Happiness Report)のランキングで日本は総合ランキング51位に後退し、G7の中で引き続き最下位となった。年代別では60歳以上では36位、45-59歳で52位、30-44歳で63位、30歳未満は73位と、若い世代になればなるほど幸福度が低くなっている。
「仕事にやりがいを感じていましたし、成果をだしている自信もありました。ただ、自分で勝手に作ってしまっていた組織の中での雰囲気に、うまく合わせられないと感じることが多々あったんです。そのことで『いたらない自分』とずっと自責していました」
淺井は苦笑するが、当時の苦悩はいかほどか。組織の中で自分がうまくできていないと感じてしまえば、自己肯定感は減り、モチベーションも下がるだろう。
「悩んで自分を変えようと自分のVISIONを考える勉強会にも参加してみたんです。そこでも、自分のことがまったく語れなかった。自分の主体的な気持ちで仕事を選び、してきたはずなのに、いつのまにか自分軸から他人軸の考え方になってしまっていました」
彼女を救ったのは勉強会後の参加者との懇親会だ。
「勉強会では仕事のことは語れても自分のことは語れずにいて悩んでいたのですが、その後のオフ会で皆さんと食事に行って、そこで『淺井さんがこんなに楽しい人だと思わなかった』といってもらえたんです。そのときに、自分が気づけていなかった自分がいたことに気づきました。自分でなんとか輝こうともがいていたのに、そんなことをする必要はない。自分らしく話せば、それを輝きと受け止めてくれる人たちが、ずっと身近にいたんだと知れたんです」
「あそこが私のサードプレイスであり、他人軸から自分軸に戻れた転換点でした」と淺井は振り返る。今ではどんな場所でも自然体の自分でいられるという。サードプレイス(第三の場所)とは自宅や学校、職場とは別にある居心地のよい場所のことだ。アメリカの都市社会学者レイ・オルデンバーグ「ザ・グレート・グッド・プレイス(The Great Good Place)」(1989年)で提唱した。
「フィルターを変えるだけで自分は変えられる。このWow!の体験をみんなにも感じてもらいたい」
社外活動を仕組み化することで、インパクトを最大化させる
デロイト トーマツ グループでは毎年10月の1カ月をImpact Monthとし、150以上のボランティアプログラムにメンバーが参加している。去年は延べ約2,300人が参加し、参加者からは「地域社会や地球の課題解決について考える機会になった」「普段意識しない行動をとる良い機会になった」といったコメントが寄せられた。
Impact Monthを通じて、デロイト トーマツのメンバーのWell-beingな行動が束になることで、大きなインパクトを社会に創出することが狙いだ。
「これらの活動の根幹となっているのは“Making an impact that matters”というデロイトのPurposeです。ビジネスでインパクトを出す事はもちろんですが、ボランティア活動による貢献もまた、社会にインパクトを与える重要な取り組みの一つです」
「私は偶然、自分を変えるきっかけに出会えました。この偶然を必然に変える仕組みづくりとして、プログラムを選定し、メンバーに提案しています。大切なのはプログラムの中で誰かに言われるのではなく、自分が参加しようと決めること」
メンバーのWell-beingを高めるためにこのような社外活動を推進する理由は心理的・生理的なデータに基づく。淺井が強調する「自分で決める」行為は、「自己決定理論」に通じる。この理論では個人が自発的に興味を持って行う活動は、自主性、有能感、関係性の三つの基本的な心理的欲求を満たし、幸福感を高めるとされている。
プログラムの中で、淺井自らも2年連続で参加したのは三重県御浜町の「みかん収穫ワーケーション」だ。これはみかん収穫体験を楽しみながら地域の農家の手伝いにつながる取り組み。仕掛け人は三重県農業研究所紀南果樹研究室の荒巻幸子氏だ。彼女にも話を聞いた。
「御浜町のみかんはIターンやUターンの生産者が増えてきています。ただ、過疎地域のため収穫時期の人手を周辺から集めることは難しい。そこで、和歌山県みなべ町で行われていた『梅収穫ワーケーション』をベースに御浜町で『みかん収穫ワーケーション』ができないかというのがきっかけでした」
梅の一大生産地であるみなべ町も同様の課題があり、それをワーケーションと組み合わせることで都市部の人たちを呼び込んでいた実績があった。しかし、御浜町で人が集まるか、当初は荒巻氏も不安だったという。
「最初に参加の名乗りをあげてくれたのが淺井さんたちでした。デロイトトーマツの社員さん10人で参加すると。ほんとうにうれしかったです」
(参考記事:みかん収穫ワーケーション | note)
生産者に『Well-beingがあがると収量があがる』と言わしめる相乗効果
淺井は参加したみかん収穫ワーケーションを振り返る。
「みかん収穫ワーケーションでお手伝いすると、普段とまったく違う仕事なのでとにかく楽しい。発見もたくさんあります。生産者の皆さんからしてみると日常のことなので、こんなことに驚いたり喜んだりするのかと言われてしまうのですが」
前出の荒巻氏は学びや発見は参加者だけでなく受け入れ先にもあるという。
「生産者の方々も、普段から農地を見ていなければいけないため遠出はしづらい。そんな中、観光地でもない御浜町に外からたくさん人がきてくれることはうれしいし、学びもあるんです」
実際に淺井もお世話になった生産者から「気づいたことがあったら教えてください」と声をかけられたという。荒巻氏いわく、「自分たちはこれがあたりまえだから、改善点を発見しづらい」ため、未経験者の気づきが欲しいのだという。
「もちろんそれだけでなく、淺井さんたちがワーケーションを終えた後、来年もまたくるならちゃんと育てなきゃとこれまで以上に熱心に仕事をしている方もいます。『梅収穫ワーケーション』の中で、特にWell-beingな受け入れ農家として有名な生産者の方がいて、彼は御浜町の生産者の方たちに『Well-beingがあがると収量があがる』と伝えてくれました。実際に彼は収量をあげているのです」
異なる環境、仕事の人々が混ざり合って、お互いのWell-beingを高め、それがインパクトにつながる――デロイトの目指すゴールを感じさせる結果がすでに一部ではあらわれはじめているのだ。
思いは若手に受け継がれ、経験を積む機会を生み出す
淺井らは、みかん収穫ワーケーションに若手のメンバーにも声をかけた。
「私たちは常に企業の経営層と向き合うことになりますが、若手はまだ出会う機会が少ない。みかん収穫ワーケーションでお世話になるみかん農家さんたちは全員が生産者であり、経営者です。彼らのプロフェッショナルマインドに触れてもらえたらと思いました」
この思惑は当たり、現在はみかん収穫ワーケーションだけでなく、社外活動の推進を若手が率先して行っているという。まだ仕事ではクライアントを持っていない若手も、この取り組みの中で自己重要感(自分が価値のある存在であり、他者や社会に対して何らかの貢献や影響を持っていると感じること)を高められる。これが自己肯定感につながり、モチベーションの向上にもつながる。個人の成長や幸福感の向上に寄与するだけでなく、周囲の人々やコミュニティにもポジティブな影響を与える。
「それに、やっぱり経営をしている人は規模の大小に関係なく、すごくパッションがある。その熱量を感じると、私たちももっと頑張ろうって気持ちになれるんですよね。心からやりたいことを事業にしている人たちに触れる素晴らしい機会なんです」
現在、デロイト トーマツが用意しているプログラムはみかん収穫ワーケーションのほか、全国拠点を活かした地域の清掃活動、動物の保護活動やシングルマザーへの支援など100近くに及ぶ。これは淺井の多様なライフスタイルを持つメンバーに対して「選択肢を増やしたい」という強い思いからだ。
意義のあるインパクトをつくりだしていこう(Making an impact that matters)
身の回りに存在する地域社会や地球の課題に目を向け、自分の身をもって課題解決を体験する。それがデロイトの目指すPurpose、“Making an impact that matters”へと繋がっていく。このことをデロイト トーマツ グループの2万人の仲間と共に取り組みインパクトを高め、その結果として自身のWell-beingの向上を目指そうとしている。
「グローバルでの大きな取り組みの中で、日本らしさも生み出していきたい。日本は他の国にない小さいけれどもユニークな地方のユースケースが増えています。みかん収穫ワーケーションもその一つ。こうした社外活動の場を通じてメンバーと地域の人たちがつながりあい、それぞれのWell-beingを高めていけるのが目標です。そしてそれが結果として地域の課題発見や解決への打ち手につながり、ビジネスにもインパクトになっていく」
プログラムは淺井が自主的に参加した取り組みなどの中から選ばれたものもあるという。「さまざまな人のつながりが生まれて、そこからどんどん拡がっています」
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