JFEスチールが歩む未来への道筋

300年の歴史を30年で変革
次世代へとつなぐために
CO2の削減・再利用を推進する

 脱炭素の動きが加速する中、鉄鋼業界ではカーボンニュートラル時代に対応した新しい鋼材の需要を見極め、生産体制を整えることが求められている。JFEスチールでは、2050年のカーボンニュートラル実現に向けた取り組みを進めている。全社を挙げた技術開発と並行して、化学メーカーなどとの産業間の連携にも動いている。複数の難題に立ち向かうJFEスチールの挑戦を、デロイト トーマツ コンサルティングはどのようにサポートしたのか。

カーボンニュートラル実現に向けて社運を賭けた挑戦が始まった

 2020年に政府が発表した「2050年カーボンニュートラル宣言」に向けて、全産業でその実現に向けた検討、取り組みが始まっている。鉄鋼は化学、エネルギー産業と並び、CO2の排出量が多い業界である。それをどう削減し、あるいは産業界の中で再利用していくかという問題に直面している。

JFEスチール株式会社
代表取締役 副社長
福島 裕法氏


1984年に東京大学工学部を卒業し、旧日本鋼管に入社。一貫して製鉄所で製造プロセス畑を歩む。2008年JFEスチール西日本製鉄所 製鋼部製鋼技術室長。15年常務執行役員、18年専務執行役員を経て、20年4月より現職。

 高い目標が課せられた中、日本を代表する鉄鋼メーカーの一つであるJFEスチールでは、どう対応しているのか。同社副社長で、技術部門を統括する福島裕法氏は、「生き残りをかけた開発競争だ」と表現する。

 「私たちは、21年に、『JFEグループ環境経営ビジョン2050』を発表し、イノベーションによってカーボンニュートラルの実現を目指す決意表明をしました」(福島氏)

 ただし、その道のりは簡単ではない。例えば自動車業界であれば、製品製造過程でのCO2排出問題は存在するものの、ガソリン車から電気自動車へのシフトなど、明確な解決策が用意されている。だが鉄の製造工程では、鉄鉱石とコークス(石炭)を化学反応させ、鉄鉱石から酸素を除去する「還元工程」で、必然的にCO2が発生する。一部ではこのCO2を分離・吸収するプロセスに成功しているが、全体からするとまだわずかだという。

 「高炉法という鉄の製造方式は、コークスが用いられて以来約300年の歴史があります。その間に効率化、大規模化が進みました。この製法を、これから30年で根本から変える挑戦ですから、かなり高いハードルとなることは自覚しています。ただ、ここで手をこまねいていれば、確実に淘汰されることになります。同時に、今私たちの世代が手を抜けば、次の世代、その次の世代にそのツケは回ります。そうならないように、私たちの世代で何とかカーボンニュートラルへの道筋をつける覚悟で、全社を挙げて取り組んでいます」

 JFEスチールでは21年、カーボンニュートラルのための3つの全社横断的な技術開発部署を立ち上げ、開発を加速させている。具体的に、カーボンニュートラルを実現するための技術候補はそろいつつあるが、技術開発は各社、各国がまだ横一線。先んじて実用化すれば、競争優位に立つことができるため、社内のモチベーションは高いと福島氏は話す。

JFEスチールが取り組む「3つのエコ戦略」

 JFEスチールでは、カーボンニュートラル実現に向けて、「エコプロセス」「エコプロダクト」「エコソリューション」の3つの視点で取り組みを進めている。

 エコプロセスは、先に触れた鉄鋼事業におけるCO2排出量削減で、技術開発の主戦場となる。鉄の製造工程で発生するCO2は莫大な量で、国内全体の排出量の14%に達する。ここを抑えれば社会的にもインパクトは非常に大きい。

 「具体的には、カーボンリサイクル高炉と呼ばれる方法が有効な選択肢の一つと考えています。製造工程で発生したCO2を水素と反応させメタンを生成し、これを還元材として活用することで、CO2を再利用して削減していく方法です。他にも、コークスの代わりに水素を用いた還元方式の研究や、スクラップを電気炉で溶かして高級鋼材を製造する技術開発等も業界を挙げて進めています」(福島氏)

 2つ目のエコプロダクトとは、社会全体がカーボンニュートラルに向かう中で生まれることが予想される、新たな鉄の需要に対応することだ。より軽くて丈夫な鉄を作ることで自動車の燃費を向上させることはもとより、電気自動車のモーターの効率をアップさせる電磁鋼板や風力発電設備の基礎に利用する厚鋼板といった高機能製品をさらにレベルアップさせることを目指している。

 最後のエコソリューションについて、福島氏は「JFEスチールが長年磨き上げてきた省エネルギー、高効率な鉄鋼生産技術を海外に展開、移転することで、地球規模でのCO2削減を目指す取り組み」だと言う。

 国内鉄鋼事業単体のカーボンニュートラル化を進めるだけでは、地球全体の温暖化を食い止めることは難しい。国内で開発された技術を海外でも導入することで、地球環境全体に貢献していくのが狙いだ。



不確実性の高い時代における成長分野を予測する

 JFEスチールのエコプロダクト戦略策定に当たっては、ターゲットとする市場規模が分からなければ、新規投資や人材の確保などの計画を立てることができない。自社での調査には限界があると感じたJFEスチールでは、グローバルにおけるエネルギー関連素材の需要予測分析をデロイト トーマツ コンサルティング(以下、DTC)に依頼した。

 「鉄鋼業界は装置産業です。例えば電気自動車の重要部品であるモーターには電磁鋼板という特殊な鋼材が必要ですが、そうした特殊な素材を提供する体制を整備するためには、グローバルのニーズを早期かつ確実に把握して、正しい投資判断をしなければいけません。今回のテーマは、長期的な社会のエネルギー構成や需給動向を予測し、それにより生まれる鋼材需要を見通すという、極めて複雑な調査であり、当社単独で調べることは困難でした」(福島氏)

デロイト トーマツ コンサルティング合同会社
パートナー
柴田 雄一氏


外資系IT会社コンサルティング& SI 部門を経て現職。鉄鋼業を中心とするプロセス・インダストリー業界における業務改革から、ソリューション導入を多数実施。直近ではグローバル経営管理、海外事業戦略も含め幅広く担当。

 この依頼を受け、DTCでは脱炭素社会時代に鉄鋼需要がどうなるのか、グローバル規模の調査を実施し、分析した。本プロジェクトを主導した、同社パートナーの柴田雄一氏は、次のように語る。

 「気候変動問題に対して、社会インフラ、物流をはじめ、自動車などの消費財の需要も大きく変化することが見込まれますが、不透明な要素が多い中での予測になります。そこで今回は、公開されている予測情報をはじめ、当社に所属する鉄鋼業の専門コンサルタントの知見や、需要側であるメーカー、さらに有識者のインタビューなど、多面的な情報を基に当社としての仮説を立て、その上で市場予測をまとめました」

 調査では、エネルギー需要全体の予測とその中で再生可能エネルギーの割合がどう推移するかの予測をはじめ、実際に需要側がどのタイミングでエコプロダクトを求めるのか意見を聞き取り、分析した上でJFEスチールへ提供した。

 JFEスチールでは、DTCの予測も参考にしながら、来るべきカーボンニュートラル時代の需要に応える鋼材の開発、生産体制の整備を急いでいる。

産業間・地域間連携でカーボンニュートラル社会を実現する

 カーボンニュートラルの実現は、鉄鋼業界だけでなく、あらゆる産業、さらに社会全体で取り組まなければいけない課題である。産業分野別の特性に合わせて知恵とリソースを出し合いながら、協力していく必要がある。

 JFEスチールが産業間連携としてとくに意識しているのが、鉄鋼の製造過程で排出されるCO2を化学メーカーの原料として利用してもらう取り組みだ。

 「日本では、千葉や倉敷など、コンビナートとして鉄鋼プラントと化学プラントが近い距離で稼働する地域があります。これは、世界的に見ても珍しく、連携には有利なロケーションだと思います」(福島氏)

 こうした産業間連携においても、DTCの業界コンサルタントのネットワークはメリットがある。

 「産業間連携には、業界間のコスト負担のルール作りなど、多数の関係者の合意が必要です。当社ではそれぞれの業界の事情を知る専門のコンサルタントが連携することで、支援に当たることができます」(柴田氏)

 また、こうした技術連携を含めた開発、需要予測など、すべての取り組みの迅速な推進にはデジタル技術の活用が不可欠である。

 「すでに製鉄所内のエネルギー最適運用システム等は持っていますが、今後は、すべての製造プロセスをサイバー化しシミュレーションに基づいて予測するCPS(サイバー・フィジカル・システム)の構築を進め、CO2マネジメントにも生かしていきたいと考えています」(福島氏)

 DTC柴田氏も、「需要予測は、これからも継続してウォッチしていかなければいけないと思います。変化に対応するために、AIを使ったモニタリングなども有効です。また今後は、工場内だけでなく、製品のライフサイクル全体でCO2排出量を把握し、取引する時代が来る可能性があります。その際に必要な社内外のデータ連携でも、当社は多くの実績があります」と語る。

 さらに、福島氏は「カーボンニュートラルは世界全体の課題であり、今後も大きな環境変化が起きるかもしれません。それに柔軟かつ迅速に対応していくためには、グローバルでの産業間連携が不可欠です」と語った。

 最後に、DTC柴田氏は、カーボンニュートラルに取り組むすべての企業に対して次のようなメッセージを送った。

 「カーボンニュートラルへの対応は、コストがかかり、企業全体での取り組みとなるため、事業をスリム化し効率化して臨む必要があります。そのためにデジタルの力は不可欠です。また、ビジネスを変革するためにはデジタル人材の育成もセットで考える必要があります。DTCではテクノロジーから人材教育まで含めた企業の変革を支援してまいります」

開発が急がれる「カーボンリサイクル高炉+CCUS」
2050年カーボンニュートラルの実現には、革新的な技術が不可欠となる。JFEスチールでは、「カーボンリサイクル高炉とCCUS(CO2回収・有効利用・貯留)」を組み合わせた技術開発を進めている(写真はJFEスチールの所有する千葉県千葉市の高炉)


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