【なぜ】2021年、コンサルが
人工衛星を打ち上げる

現在、世界の宇宙ビジネスの市場規模は約40兆円。2040年には100兆円規模にまで飛躍すると予測されている。
しかし、ここに早くから参入した企業の多くは、成長期待に反して足下のビジネス創出に課題を抱え、参入を検討している企業の多くは明確な戦略を描けず二の足を踏んでいる。
そんな企業を世界中でサポートしてきたのが、デロイト トーマツだ。コンサルティングのみならず、宇宙ビジネスの可能性を信じて「オールデロイト」での宇宙関連施策も始動する。
さまざまなステークホルダーの業界・社会・環境にまたがる地球課題を、宇宙ソリューションをもって解決するビジネスマッチングプログラム「GRAVITY Challenge」とは何か。先日行われた日本ローンチイベントの一部を記事化する。

2040年、宇宙ビジネスは100兆円規模になる

 月にはうさぎがいる。七夕の日には織姫と彦星が天の川を越えて年に一度だけ会える。「宇宙戦艦ヤマト」や「ガンダム」などの宇宙を題材にした作品がある。

 このように見ていくと、日本人が古くから文化として「宇宙」を身近に感じてきたことがわかる。

 こうした文化をベースに科学技術を発展させてきた日本は、今や世界有数の「宇宙大国」でもある。たとえば、過去5年の衛星打ち上げ数は、アメリカ、中国などに続いて世界第5位となっている。

Seradata, SpaceTrakを基にデロイト作成

 「今、世界的に見ても宇宙ビジネスが盛り上がっています」と話すのは、デロイト トーマツコンサルティング合同会社 執行役員の桐原祐一郎氏だ。

 「私は過去15年間、航空宇宙領域のコンサルティングをしてきました。

 最初の頃のクライアントは、従前から宇宙ビジネスをしている『オールドスペース』と呼ばれる企業・組織でしたが、最近では新たに宇宙ビジネスをはじめた、『ニュースペース』と呼ばれるクライアントが増えています。

 現在、世界の宇宙ビジネスの市場規模は約40兆円。これでも十分大きなマーケットですが、2040年頃には100兆円規模にまで飛躍すると言われています。ビジネスとして非常に魅力的な産業だからこそ、新規参入も増えているのです」

Morgan Stanley, “Space: Investing in the Final Frontier”, (2019)を基にデロイト作成

 宇宙ビジネスの代表的なものとしては、打上げ機や衛星の製造、衛星と地上の通信、衛星データ利活用、宇宙ステーションの開発・利用など。近年では、宇宙を活用したエンタメ事業や、月探査によって宇宙に移住する可能性を探るような事業も現れている。

  しかし、これではまだ宇宙を活かしきれていない、というのがデロイト トーマツの考えだ。

 「これまでの宇宙ビジネスは、衛星で取得したデータありきのものでした。『こんなデータがとれたから、何かに使えないか』というシーズドリブンな考え方です。ですが、衛星データ提供者が増えた今、データ販売だけではスケールが望めなくなっています。

 これからは、地球の課題を宇宙活用によって解決していく『課題ドリブン』なアプローチに変えていかなくてはいけません」(桐原氏)

日本は宇宙産業でもトップランナーになれるか

 地球の課題を宇宙で解決する。かなり壮大な話になってきたが、桐原氏の構想は言葉通りにダイナミックだ。

 「最近、『サステナビリティ』という言葉をよく聞きますが、突き詰めればこれは、地球が限界に来ているということでしょう。

 それなら、私たちの生活空間やビジネス空間を宇宙に広げてみる。すると、地球の負荷が下がってサステナブルな地球環境が実現するかもしれない。

 当然、1社でできることではないので、複数の企業や国が協力してエコシステムを形成していくことになります。私たちは、宇宙領域での事業創出も含めたそうした動きを、積極的に支援していきます」(桐原氏)

 この取り組みの一環として、グローバルデロイトでは2019年から、ビジネスマッチングプログラム「GRAVITY Challenge」を実施。宇宙をソリューションとして、影響の高い課題の解決に向けて取り組んでいる。

 「GRAVITY Challenge」とは、宇宙技術や宇宙データを利用して産業・社会・環境課題を解決するグローバルなプログラム。

 ① 「チャレンジャー」として(社会)課題を抱える企業や政府機関を募集。

 ② それらの課題に適するソリューションを提供できる中小・スタートアップ企業や大学が、「イノベーター」として参加を表明。

 ③ チャレンジャーが一緒に取り組みたいイノベーターを選出。

 ④ マッチングした暁には、共同でソリューションを検討、課題解決に取り組み、デロイト トーマツがそれをサポートする。

 オーストラリアからはじまったGRAVITY Challengeは、イギリス、アメリカ等でも実施され、日本では今年からのスタートだ。すでに「チャレンジャー」の募集ははじまっており、2022年1月中旬からは「イノベーター」の募集を開始する。

 「過去3回のGRAVITY Challengeでは、アメリカ、欧州の12カ国からチャレンジャー36社、イノベーター691団体がエントリーしてくれました。

 日本では、宇宙ビジネスに興味があっても二の足を踏む企業が多いですが、本当はもっといろんなプレイヤーが関われる世界なんですよ。GRAVITY Challengeはそれを知らしめるきっかけになる。日本から多くのチャレンジャー・イノベーターを輩出していきたいですね」(桐原氏)

森林火災、乱獲に対する宇宙の答え

 では、実際にどのようなソリューションが生まれているのか。デロイト オーストラリアで行われたGRAVITY Challengeの事例を紹介しよう。

 1つ目は、南オーストラリアの公益企業がチャレンジャーとして提示した「森林火災」という課題だ。今、世界各地で森林火災が問題になっており、カリフォルニアやスペインでの大規模な森林火災のニュースは記憶に新しい。

 それに対して、地球観測衛星搭載型データ処理システムを開発するイノベーター・Spiral Blue社が開発したのが、森林火災リスクを予測するためのシステムだ。

 森林火災の原因のひとつに、「電線」がある。成長した木が電線と接触すると、気候条件などによって火災が発生するのだ。

iStock.com/My Photo Buddy

 そこでSpiral Blue社は、IoTカメラや地球観測衛星、さらには気象庁からの情報を総合して、森林火災が発生するリスクを予測。

 チャレンジャーである南オーストラリアの公益企業は、ハイリスクな場所の電線を切断するなどの判断ができるようになり、火災予防の一助になっているという。

 「GRAVITY Challengeそのものも素晴らしい結果になりましたが、その成功によってさまざまなチャンスが得られました。チャレンジャー企業の幹部層と直接話ができたこともそうですし、オーストラリア宇宙庁の助成金も獲得しました。

 まだ具体的なアイデアはありませんが、今後は発展途上国の課題をテクノロジーによって解決するようなことにもチャレンジしていきたいです」(Spiral Blue社CEOのTaofiq Huq氏)

イベントにはオーストラリアからSpiral Blue社CEOのTaofiq Huq氏、海洋管理協議会元代表のAshleigh Arton氏、デロイト オーストラリアのRosie Jonas氏も参加した。

 2つ目に紹介するのは、サステナブル・ラベルのひとつとして知られる「MSC認証」の運営機関である海洋管理協議会がチャレンジャーとして参加した例だ。海洋管理協議会元代表のAshleigh Arton氏は次のように語る。

 「私たちのビションは、世界の海が生命であふれ、現在そして将来の世代にわたって水産物の供給が守られることです。

 持続可能な漁業に向けた取り組みを推進するとともに、水産物を購入する際の消費者の選択を変え、その両輪でサステナブルな海を守ろうとしています。

 ですが、政策はまだ不十分であり、乱獲も続いている。そこで、最先端の宇宙技術を使って、海にイノベーションを起こしたいと思ったのです」

iStock.com/GuidoMontaldo

 結果として、衛星とAIのアルゴリズムをかけ合わせた監視システムが開発された。乱獲のような違法な漁業を検知し、そうでない優良な漁業者には海洋管理協議会が認定証を発行できるようになったのだ。

 地球の課題を宇宙で解決する。それを体現するようなプロジェクトが行われていることがわかってもらえただろう。

なぜデロイト トーマツが「宇宙」に取り組むのか

 ここまで聞いても、「なぜ今、デロイト トーマツが宇宙なのか」と疑問に思う人もいるかもしれない。

 しかし、デロイト トーマツ サイバー合同会社 執行役員 CTO 兼 サイバーセキュリティ先端研究所 所長 神薗雅紀氏の説明を聞けば納得だ。

 「まず第一に、デロイト トーマツは航空宇宙領域でのコンサルティングに強みがあり、日本の宇宙業界をどう伸ばしていくかを考えてきた長い歴史があります。

 第二に、スタートアップ支援は私たちのコア事業でもあり、オープンイノベーション領域でのマッチングも昔から行ってきたことです。

 第三に、社会課題を解決しようとしたときに、やはり地球は狭すぎるんですよ。宇宙を活用すれば、世界にとってインパクトのある変革ができる。だからこそ今、宇宙なんです」

 誰よりも宇宙に可能性を感じているからこそ、その活動はGRAVITY Challengeにとどまらない。宇宙を使った変革のカタリストとなるべく、今年からは「オールデロイト」での宇宙関連施策を始動する。

 まず最初に取り組むのが、デロイト独自の衛星の打ち上げだ。次に、次世代衛星のためのPoCや、衛星を利用した新たな研究領域の開発・ビジネス創出の基盤となる「Deloitte衛星オペレーションセンター」の設計もはじまっている。

iStock.com/3DSculptor

 これらを自社だけでなく、さまざまなプレイヤーと共に利活用することで、宇宙産業全体を盛り上げながら、社会課題を解決していく狙いだ。

 「当たり前のことですが、地球の常識は宇宙では通用しません。だから、宇宙で何かを解決しようと考えると、発想がガラッと変わるんですよね。それが面白いんです。

  かつては、隣町に行くのも大変だった。でも、今は誰でも普通に海外旅行ができます。それと同じ感覚で宇宙に行けるような世界を、私たちが作っていきたいと思っています」(神薗氏)




撮影:露木聡子
デザイン:seisakujo
編集:大高志帆

NewsPicks Brand Design制作
※当記事は2021年9月8日にNewsPicksにて掲載された記事を、株式会社ニューズピックスの許諾を得て転載しております。

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