「わたしが叶えたい世界」
がテックへの扉を開く。
Women in Techの挑戦

PROFESSIONAL

  • 松森 理恵 デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 ディレクター
  • 久保田 詩音 デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 シニアマネジャー

ビジネスの現場において、ダイバーシティの重要性が強調されるようになった。しかしその実、ダイバーシティが自社のビジネスにもたらすインパクトを実感できている人は、まだ少ないのではないだろうか。

いまだジェンダーバイアスの根強いテクノロジー領域において、女性活躍を推進するデロイト トーマツ コンサルティングの取り組み「Women in Tech」のメンバーにフォーカスする。

彼女たちはどのように自らのプロフェッショナルを発揮してきたのか。そして、女性へ向けたテクノロジー領域の啓発活動に結びつけているのか。2人の話からは、コンサルタントならではの社会課題へのアプローチが見えてきた。

※本記事内ではWomen in TechをDTCの取り組みとしていますが、現在はさらにその活動をデロイト トーマツ グループ全体に拡大しています。

“テクノロジーだけ”が必要な仕事はない

──松森さんも久保田さんも、新卒からずっとコンサルティングファームで働かれているのですか?

松森 はい。新卒入社した大手コンサルティングファームでは、企業内すべての業務を一元管理するシステム「SAP」に関わる案件に従事しました。

その後退職して数年間はフリーでSIerをしていましたが、2012年末からデロイト トーマツ コンサルティング合同会社(以下、DTC)です。

専門はSAPですが、DTCではより幅広いサービスをクライアントに提供すべく、医薬品・医療機器の領域でのテクノロジー活用の推進に注力しています。

デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 ディレクター 松森理恵 大手コンサルティングファーム、SIerを経て、2012年より現職。Globalizing Digital Enterpriseユニットに所属し、テクノロジーとライフサイエンスの軸で、IT戦略から実行まで幅広いテーマの案件をリード。

久保田 私も新卒でコンサルティングファームに入り、2014年にDTCへ転職しました。

現在は松森さん同様に医療や製薬業界、そしてグローバル規模のテクノロジー案件に広く携わっています。国内外を問わず、顧客やメンバーと日々コミュニケーションしながら進める業務にはやりがいを感じています。

デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 シニアマネジャー 久保田詩音 大手コンサルティングファームを経て、2014年より現職。Globalizing Digital Enterpriseユニットに所属し、製薬業界を中心としたグローバル規模のデジタル変革をリード。

──そもそもお二人は、初めからテクノロジー領域を志望されていたのでしょうか。

松森 いいえ、元々私も久保田さんも文系出身で、テック系のバックグラウンドをまったく持っていないんですよ。

たとえば私は新卒の会社で縁あってSAPと出会い、さまざまな人や案件とつながって経験を積むなかで、テクノロジー人材と呼ばれるまでになりました。

DTCには、最初からテクノロジーの専門性を持っていたメンバーも多くいますが、経営企画や組織設計、関連する業務プロセス改革などの案件への参画を通してテクノロジーの素養を身につけた方も少なくありません。

久保田 そもそも現代のあらゆるビジネスは、どこかで必ずテクノロジーとつながっているはずです。切っても切れないものですよね。

確かにテクノロジーは私たちの専門分野ですが、テック系のバックグラウンドがあるか、プログラミングの知見が膨大にあるのかと言われれば、そんなことはありません。

たとえば製薬業界においては、政府や業界団体がさまざまなレギュレーションやチェックを設けています。医薬品や医療機器を流通させるには、既存のテクノロジーに対する理解だけではなく、こういったビジネスへの深い知識が必要になります。

つまり、テクノロジーを活かしたソリューションまでビジネスを落とし込むのが、私たちの仕事なのです。

必要なのは“機会の創出”

──お二人が携わってきたテクノロジー領域での課題感はありますか?

松森 この領域の仕事に携わりたいという人材が、当社においても市場全体を見ても需要に対して圧倒的に足りていないと感じています。

さらに女性となると、ますます比率が下がる。まさにブルーオーシャンなんですよ。

久保田 松森さんの言う通り、一昔前までは社内のテクノロジー案件でも、女性はチームに一人いるかいないかでした。

ただ個人的には、女性がテクノロジーに接する機会が以前よりは増えてきた印象を持っています。

私もマネジメントをする側の人間として、チームメンバーの男女比はできるだけ半々に近づけ、より有機的なチームでプロジェクトに従事しようと務めています。

テクノロジー領域に興味を持ってもらうために大切なのは、“機会の創出”です。そのためのサポートを、マネジメントレベルでも企業レベルでも実践する必要があると感じています。

──なるほど。機会を与えられないことが女性たちの抵抗感につながっている、と。ご自身のキャリアを振り返って、ハードルを感じたことは?

松森 幸いにも、キャリアのスタートでの戸惑いは特にありませんでしたね。私が携わってきたSAPは、理系的というよりも「業務をどう回していくか」の視点からのアプローチが中心だったのも大きいと思います。

久保田 実は初めてテクノロジー案件にアサインされることがわかったときは、正直尻込みしました……。

お恥ずかしながら、「薄暗いサーバールームで、24時間PCをカタカタ叩いている職場」みたいな古い偏見があったんです(笑)。

蓋を開けてみたら、まったくそんなことはありませんでした。重要なのは技術力ではなく、プランニング力や考える力、テクノロジーを生かす力だと気づいてからは、徐々にやりがいを感じていきました。

松森 そもそもなぜ女性はテクノロジーに尻込みしてしまうのか?

ある統計によると、小学生まではプログラミングへの興味に男女差はないそうです。それが中学生になった途端、女子の比率は大幅に下がる。

題材がゲームやクルマだったり、あるいは身近な家族や社会になんとなく存在する性別のイメージに触れたりしているうちに、徐々に「プログラミングも男の子のものだ」というジェンダーバイアスが生まれてしまうようなんです。

そのバイアスを取り払い、尻込みする女性を減らしたいという思いが、DTCの「Women in Tech」という女性向けの啓発活動につながっています。

「どんな世界を実現したいか」から考える

──Women in Techとは、どのような活動なのでしょうか。

松森 テクノロジー領域における女性の活躍を推進するDTCの取り組みです。

元々はデロイト グローバルで始まった取り組みですが、その後「女性の活躍がまだまだ少ない日本でも活動に注力すべきだ」という日本法人の経営層の思いのもと、2021年6月に日本独自の戦略チームが発足しました。会社として投資しており、看板だけではない“本気の”取り組みです。

男女合わせて現在40人ほどが参加し、世の中全体を変えていくために、DTC内にとどまらず、幅広い層へ向けた啓発活動を行っています。

品川女子学院で行われた授業の様子(画像提供:DTC)

現在は大きく分けて3つのセグメント、キャリア層と大学生、そして中高生向けのプログラム提供が主な活動内容です。

キャリア層向けには、NPO団体や自治体と協力して、就業支援や専門性を修得するためのプログラムを。大学生には、テクノロジーに関わる仕事がプログラミングだけでなく、多様性にあふれていることを知ってもらう講義を実施しています。

そして最近新たに加わった中高生向けの活動では、一緒にプログラミングを触ってみたり、テクノロジーが進化した未来を想起したりしてもらう授業を行っています。

より早い段階で、テクノロジーに触れてもらい将来のキャリアの可能性を広げる狙いでスタートしました。

──プログラムでは具体的にどのようなことに取り組むのですか?

久保田 セグメント共通で、特に中高生に人気なのが「未来ワークショップ」というプログラムです。

まず、それぞれ「自分が身の回りで何かひとつ変えたいこと」を自由に発表してもらい、「なぜそうしたいのか?」「それが変わるとどんなふうにハッピーになれるのか?」といった対話を通して、中高生が実現したい世界観を一緒に描いていきます。

たとえるなら、オリジナルの“ドラえもんのひみつ道具”を考えてみるようなイメージで、実現したい未来を叶えるには、どのようなテクノロジーが生かせそうかを想像してもらうのです。

自分のアイデアを形づくるための手段として、テクノロジーを身近に感じてもらう狙いがあります。

Woman in Techの「未来ワークショップ」 1.ビジョニング:「トマトが好きだから毎日トマトを食べたい」「なんでトマトを食べたいの?どんなトマトが食べたいの?」「トマトの部屋を作りたい!」 2.テクノロジーとの紐付け:「トマトの部屋を作るには?」「買ってきたものは嫌。自分で育てて収穫したい。でも植木は大変」「バーチャルの世界を用意しよう」「ゴーグルはかっこよくない。コンタクトレンズみたいに目立たずに装着できるといい!」 →POINT:自分の実現したい世界を言語化。その世界を現実に叶える手段として、テクノロジーを身近に感じてもらう。

プログラム参加者のアンケート結果でも非常に好評をいただいており、ほんの少し背中を押してあげるだけで、若年層のテクノロジーへの苦手意識が払拭していけるのだと実感しています。

未来ワークショップのように「思考の枠組みを外し新しい発想を生み出す」ことはなかなか難しいのですが、これはコンサルに不可欠な総合力の源泉。つまり、私たちの得意分野とも言えます。

松森 これまでのテクノロジーの考え方は、「新しい技術が出てきたから、これを使って何かやってみませんか?」というプロダクトアウトの発想が主流でしたが、実現したい“Will”から考えていくアプローチへと変わりつつあります。

Will起点の発想の重要性が増している今こそ、私たちの出番が来たと感じています。

実際のビジネスには制約がつきものです。いかにリミッターを外してゼロベースの発想ができるかの実験にもなるWomen in Techは、私たち自身にとっても意義ある試みになっています。

さまざまなバックグラウンドを持つメンバーと、DTCとして活動できる醍醐味

──Women in TechのKPIはどこに置かれているのでしょうか?

松森 具体的な数値目標ではありませんが、まずはセミナーやイベント、授業を通して女性たちの反応を上げていくことでしょうか。

同時に、この活動をいかに広げていくかも課題です。Women in Techは、DTCとして経営判断のもとに投資を受けている活動であり、会社全体でバックアップしてくれています。

とはいえ、「テクノロジー領域の人材不足」という社会課題に対して、私たちだけで取り組めることには限りがあります。

この1年で一橋大学や法政大学、東京女子大学、品川女子学院などでプログラムを実施してきましたが、今後はいかに周囲を巻き込み、学校あるいはNPOや自治体の活動として世の中に浸透させていけるかが、目下の大きな目標です。

その意味では、DTCが培ってきた信頼感やブランド力が大きな後押しになっています。教育系の方やテクノロジー関連団体の方々も、DTCの新しいアプローチに期待を寄せてくださっており、活動にも協力いただいていますから。

──さまざまなプロジェクトを経験し、Women in Techという社会を変える活動にも挑戦されるなかで、DTCという環境が持つ魅力は何でしょうか?

松森 どういった活動であれ、手を挙げる人に対してはマネジメント層も含めて周囲が聞く耳を持ち、応援してくれます。その点はDTCのカルチャーだと改めて実感しています。

久保田 松森さんの言う通り、新しいチャレンジを応援してくれる会社だと思います。

本気で社会を変えるには、活動の規模はどんどん大きくしていかなくてはならないので、挑戦を歓迎する社風はとてもありがたいですね。

多様なバックグラウンドの人が集まっている環境も、こういった大きな社会課題に取り組む上では心強いです。

松森 Women in Techのメンバーには、我々コンサルティングだけでなく監査やTAXなど、本当にさまざまなケイパビリティを持った方が参加してくれています。そのおかげで、より広い視野で、より大きなものを生み出せると感じます。

多様な高い専門性を持つメンバーと、社会にインパクトを与える挑戦ができるのは、DTCというフィールドだからこそだと思います。

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執筆:波多野友子
撮影:小島マサヒロ
デザイン:小鈴キリカ
取材・編集:中道薫

NewsPicks Brand Design制作
※当記事は2022年6月27日にNewsPicksにて掲載された記事を、株式会社ニューズピックスの許諾を得て転載しております。

※本ページの情報は掲載時点のものです。

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