デジタルアセットを
付加価値に
プロフェッショナル
サービスを提供する意味
不確かなこの世界のコンパスになり得る新しい手法「AEB」
不確実性の高い現在の経済社会において、企業が持続的な成長をしていくことはそれだけで困難を極める。セクター間の垣根はなくなり、領域を越えたビジネスが生まれる中、コンサルタントの知見も、その人個人の力だけに頼るのでは限界が生じてくる。デロイト トーマツ グループは、この問題を解決する上で新たなプロフェッショナルサービスのモデル 「Assets Enabled Business (以下、AEB)」を推進している。旗振り役はデロイト トーマツ コンサルティング(以下DTC)の代表執行役社長である佐瀬真人だ。
「過去のコンサルタントは課題への解決策を提示することが一般的な成果でした。しかし今、そしてこれからは解決策を提示するだけでなく、その結果をデータで見て新たな価値を示していくことが求められています。つまり構想段階からオペレーションのエンドまでを見ていく——いわばend to endのサービス提供を企業は欲しているのです。こうした状況で、コンサルタントである私たちは登山における案内役のシェルパのように、顧客である企業と共に、目的地まで歩んでいく必要があります。成長や変化という山を登らんとする企業が目指すべき山の標高が高ければ高いほど、相応の準備や道具が必要になるのは登山と同じ。AEBがまさにそのためのサービスモデルです」と佐瀬は話す。
AEBは、デジタルアセットを付加価値としてコンサルティングサービスを提供するモデルだ。プロフェッショナルファームの人材ベースのビジネスをAEBが進化させていくと佐瀬は捉える。「AEBは、コンサルタントの情報収集・分析力を加速化・精緻化できる仕組みであると同時に、彼ら、彼女らがどのように解を導き出すかという暗黙知部分を可視化・集積する場にもなります」。
佐瀬は、AEBにおけるデジタルアセットとコンサルタントの組み合わせの妙をDTCが提供する役員報酬データベース「DEX-i(デックス・アイ)」で説明する。東証一部上場企業を中心に900社以上から回答を得ている、日本最大級の役員報酬調査「役員報酬サーベイ」※のデータを基に、顧客のニーズに対応した報酬水準データ・分析レポートを作成するデジタルアセットだ。役員報酬には、2015年のコーポレートガバナンス・コードの策定以降、2019年の企業内容等の開示に関する内閣府令・会社法改正などにより、固定報酬と業績連動報酬の比率といった方針や、その運用においても各社で客観性・透明性の高い報酬決定プロセスが求められている。DEX-iがいわゆるデータベース企業やSIerの提供するサービスと異なっている点は何か。それは、このデジタルアセットを単に役員報酬データベースとして提供するだけではなく、コンサルタントがDEX-iを用いることで、より付加価値の高いコンサルティングを提供しているという点です」と佐瀬は話す。DEX-iには、業種や売上規模、時価総額、上場区分といった多面・多層的な情報が含まれている。さまざまなシミュレーションや将来の見通しを踏まえた報酬分析などを行う際、DEX-iはそれらの分析を加速化・精緻化するツールとして欠かせない。
※役員報酬サーベイ:デロイトトーマツコンサルティングが2002年以降実施している役員報酬調査で、2017年以降は三井住友信託銀行株式会社と共同で実施。2020年度は東証一部上場企業を中心に954社から回答を得ており、参加社数規模で日本最大級の調査となる。
「これまでさまざまな顧客に対して、特に多く用いられてきた手法は定型化されアセットに組み込まれています」と佐瀬は話す。これを用いることでコンサルタントは迅速に精度の高い課題解決策を提示できる。また、ここにチームとして他の専門分野を持つプロフェッショナルも参画すれば、その相乗効果はいっそう高まる。「異なる専門性を持つメンバーが連携しAEBを開発したり、データを多角的に見て知見の相乗効果を提供できたりするのが私たちの本質的な強みです。それだけではなく、複数のデジタルアセットに蓄積された異なるデータとデータをつなぎ合わせることで、これまで発見できなかった課題を発見することも可能になるでしょう。人だけでなく、開発されたロジックも、集められたデータも、スタンドアロンではなくネットワークでつながり合って価値を創造していくのです」。
経済社会の不確実性が増大するにつれ、企業は自社の課題そのものの発見・明確化が困難になっている。この困難を乗り越えるには、異なる専門家達が複眼的に考察し課題の導きから解決策の提示までを行うことが求められる。「デロイト トーマツ グループは、専門家達が連携するカルチャーとインセンティブ、それによる成功体験の蓄積があります」と佐瀬は話す。AEBによって、この好循環をさらに加速させることが狙いだ。
異能集団「dX Garage」がデジタルアセットの開発から保守・運用までを実施
プロフェッショナルたちの新しい道具であるデジタルアセットを高速で生み出すためには、当然、新しい製造拠点が求められる。そこでデロイト トーマツ グループは、2019年9月に「dX Garage」を発足させ、AEBのためのデジタルアセットの開発・保守・運用に関わる機能と人員をグループ内で横断的に集約させた。これまで開発してきたデジタルアセットも集約し、現在その数は50に上っている。
dX Garageのオフィスは、「NO SUITS」などのシンボルが置かれ、自由な気風を感じられる。コンサルタント、エンジニア、デザイナー、データサイエンティストなど異能集団を率いるDTCの執行役員/パートナー の藤岡稔大は、デロイト トーマツ グループの中でも異色の存在だ。「ここでは、グループやクライアントのニーズに即してアジャイルな開発体制を導入し、スクラム型の開発手法に基づき、スキルの異なるタレントが協働しています」と話す。
アセットの開発をサポートするのは、グループ全体で共通して利用するクラウドベースのITプラットフォームで、これは監査業務も担うデロイト トーマツ グループが求める高い安全性を実現している。このITプラットフォーム内で、グループやクライアントが求めるアセットは開発される。アセットの中で流用可能なモジュールは他のアセットへ転用されることもあり、それが高い生産性と効率性を実現している。
デロイト トーマツ税理士法人×dX Garageで生まれた「D&FA’CT」
dX Garageの取り組みで税務の専門家と共に開発したデジタルアセットが「D&FA’CT」だ。これはオーナー企業に代表されるファミリービジネスを主な対象とするファミリーコンサルティングサービスのうち、ファミリーオフィスの運営を包括的に支援するクラウドベースのダッシュボード機能で、2020年6月から提供が開始されている。
ファミリーオフィスサービスは、ファミリーオフィスの財務・税務部門を中心に包括的に支援するアドバイザリーサービスだが、資産・負債情報の可視化が長年の課題だったという。「ファミリー全体の財産ポートフォリオ・税額の最適化や管理部門機能をアウトソーシングできるサービスを提供していますが、情報を一元管理できていないケースが多く、それが顧客にとっても負担となっていました」と話すのは、デロイト トーマツ税理士法人 ファミリーコンサルティングのパートナー 河野絵美と同シニアマネジャー 相原啓人だ。
そこで河野と相原は、藤岡らdX Garageとまず「こうであったらいい」というアイデアベースから話を始めたという。「ファミリーオフィスは保有資産が金融資産だけでなく、不動産やアート、非上場株など多岐にわたり、その報告書がメールで来ていたり、紙であったり、また保管場所も一つでないことが多く、これらをいつでもどこでも管理できるようにすれば、お客様は喜ばれるのではないかと話をしていました。そこから、このプロジェクトが始まったのです」と河野と相原は話す。
「ファミリーオフィスにはプライベートな情報も多い。しかし、長きにわたってオーナーを支えている番頭さんの高齢化と後継者問題、ファミリーオフィスを支える経理スタッフなどの信頼のおけるスタッフの採用の手間といった人事問題が深刻化しています。また、ファミリーは多方面でさまざまな外部専門家と契約されており、その顧問弁護士、会計士、税理士といった方々が個人として関与するため、組織的な運営がなされていないことも課題化しています。さらに新型コロナウィルスの感染拡大で、有事でも業務が継続できる体制構築のニーズも高まっています」と河野は話し、D&FA’CTはそのために誕生したという。
河野によるとD&FA’CTは、ファミリーが保有する現金、株式、有価証券、不動産、美術品などの資産、負債、今まで支払ってきた税金の種目ごとの納税額、そして、それらの資産価値をもとに将来発生するであろう相続税の概算などを、個人、ファミリーオフィス、全体連結というさまざまなレベルで切り取り、レポートする。「D&FA’CTで相談窓口が私たちに一本化されることで、より多方面でのさまざまな専門家を即時にご紹介することが可能になったこともメリットと感じられているようです。また各専門家との交渉や情報共有の手間もなくなり、効率化できるようになりました」。
dX Garageの藤岡は「D&FA’CTの相談を受け、そのニーズをどのようにアセット化していくかをアジャイル手法で推進していきました。デロイト トーマツ グループは専門家の集まりなので、河野さんをはじめとする皆さんが顧客に対してどのようなサービスを提供したいのかを学ぶことも必要ですし、顧客が使う際に、快適に感じてもらえるUX/UIに再変換していくことも求められます」と話す。「現在の経済社会では、短期間で成果を出す必要があります。外部に依頼をすると、まず弊社のカルチャーの説明をしなければならず、説明に加えてその理解にも時間を要します。また私たちが求めるセキュリティや独立性もあり、内部で開発することが求められていました」と、dX Garageの存在意義を説明する。
これについては、税理士法人に所属する河野と相原も「もし外部の会社と開発をしていたら、ここまで短期間にこれだけの成果は出せませんでした」と口をそろえる。その上で河野は「今回、dX Garageと一緒にD&FA’CTを開発していく中で、税理士のあり方も大きく変わってきていると感じました。税法を学びクライアントとやりとりをするだけではなく、もっと柔軟性を持って従来とは異なる頭の使い方で顧客と向き合う必要があります。そうすることで、私たちはこれまで気づけなかった顧客の課題解決策や新しい課題を発見することができるようになるでしょう」と話す。
グループに存在する異なる専門性を持つプロフェッショナルが、同じフィロソフィーを抱きながら、新しい組み合わせによって新しい価値を創造するだけでなく、自己の変革をも促されていく。AEBの取り組みは、グループの人材に変化を起こすきっかけにもなっているようだ。
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