カーボンニュートラル実現には「予測」が足りない──専門家に聞く、再エネテックの最新トレンド

2050年カーボンニュートラル実現に向けて、再生可能エネルギーへのシフトは急務だ。

ただし、単に既存の石炭、天然ガスなどの化石エネルギーを太陽光や風力、地熱といった再エネに“置き換えればいい”という話ではもちろんない。

エネルギー転換にはさまざまな障壁や課題がある一方で、その複雑で見えにくいエネルギーの需給構造や予測をデジタルテクノロジーの力で担おうとする動きも活発化している。

再エネ事情やグローバルのトレンドに詳しいデロイト トーマツ グループ(以下、デロイト トーマツ)の濵﨑博氏に、“再エネテックの最前線”を聞いた。

再エネ比率が高い国、低い国は?

日本の再エネ比率は18%(2019年度)で、ドイツ、イギリス、スペイン、イタリアなど30%台の先進国と比べて再エネへの転換は遅れている。

主要国の発電電力量に占める再エネ比率の比較。出典:IEA「Data Service」、各国公表情報より資源エネルギー庁作成のものをBusiness Insider Japanにて加工

ただ、政府が再エネに消極的なわけではない。2021年発表の第6次「エネルギー基本計画」では、2030年の再エネ比率36~38%を目標に掲げており、そこに向けて洋上風力の建設や送電線の整備が計画されている。

2030年まで10年を切り、加速が叫ばれる日本の再エネシフト。そんな中で、電力システムの課題も浮上している。

化石燃料を主体としてきたこれまで、電力は「大規模輸送」が中心。関わるプレイヤーは限られていて、需給構造はシンプルだった。

しかし、今後はそう簡単にはいかないようだ。濵﨑氏はこう解説する。

「再エネ活用が進むと、発電量の小さい施設が各地に生まれ、供給元が分散化します。

多様なプレイヤーが参入し、これまでの大手電力会社の寡占状態からさまざまな企業が参入する競争時代へとシフトしていくでしょう。

そのような状態になると、ただでさえ太陽光や風力といった自然環境に左右されやすい再エネの需給構造はより複雑化し、需要と供給のバランスを保つことが難しくなります」(濵﨑氏)

デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 スペシャリストディレクターの濵﨑博(はまさき・ひろし)氏。シンクタンク勤務を経て、現職。次世代エネルギーチームのメンバーとして、エネルギーシステムや経済システム視点でのシミュレーションモデルの開発に従事。

そこでキーになるのが、エネルギー効率を最大化させる仕組みづくりだ。

「ドイツでは、電力供給側と需要側の間に立って、テクノロジーを駆使してバランスのコントロールやエネルギー最大化に取り組む “アグリゲーター”の役割が一般化しています。

今後はそのように、分散するエネルギーをつなぎ、需給バランスの変化に柔軟に対応するためのネットワークも重要になっていきます」(濵﨑氏)

「見えない」「分からない」ことを予測する

再エネへの移行に伴い、複雑化していくエネルギーの需給構造。現状はその全体像が不透明で、各プレイヤーがエネルギー転換を模索している状況だという。

「プレイヤーが手探りのまま動くと、『ある事業者が風力発電施設を計画したが、既存の送電線がいっぱいで建設できなかった。または、建設はしたが需給調整のため出力抑制を行わざるを得なかった』といったような事態も起こりかねません。

そうしたリスクがあるから、事業者はエネルギー転換を前提に研究開発や設備投資をしていいのか迷ってしまう。“不透明さ”が、エネルギー転換の足かせになっているのです」(濵﨑氏)

カーボンニュートラル実現のために動きたいが、電源構成やエネルギーコスト、CO2排出量、さらには送電線など、必要となるインフラ投資や開発目標の定量的な予測なしに、エネルギー政策を決定したり民間企業が経営判断をしたりするのは難しい──。

その課題を解決するのが、将来のエネルギー構造や社会像を定量的に予測する、IEA-ETSAPにより提供されているエネルギーモデル開発環境TIMESを活用してデロイト トーマツが独自に開発した「エネルギーシミュレーションモデル」(2020年提供開始)だ。

これまで、シンプルな需給構造を前提にしたエネルギーシミュレーションモデルは存在していたが、再エネを含めた次世代エネルギー社会の複雑性を再現できるものは存在していなかったという。そこで近年はさまざまな機関がモデルの開発に着手。その走りといえるのがこのモデルだ。

開発した濵﨑氏は特徴をこう話す。

「太陽光や風力は、時間による発電量の変動が激しく、また地域によっても発電のポテンシャルが異なります。

私たちのモデルは、そうした時間や地域の特性を高い粒度で再現します。

具体的には、どのようなエネルギーがどのようなタイミングで使われているのかを全国350カ所の変電所単位でシミュレーション

さらに再エネだけでなく、水素、EV、蓄電池など次世代エネルギーインフラの情報も取り込んで、複雑なエネルギー社会像を明らかにします。

その粒度の細かさや網羅性は、業界で『変態的』と言われるほど……もちろん誉め言葉として受け取っていますよ」(濵﨑氏)

シミュレーションモデルの利用者は、行政や民間企業の担当者などさまざまな人を想定。棒グラフを羅列するようなUIではなく、地図情報とモーションチャートを活用するなどして誰でも直観的に把握できるよう工夫した。

分かりやすさが増せば、関係者を巻き込むときのコミュニケーションツールとしても役に立つ。

例えばスマートシティを目指す自治体がエネルギーの地産地消システムを住民に説明するとき、「台風が来て一時期に使えなくなっても、ここから電気が引ける」というように電力の流れを解説できる。

再エネ推進には多くのステークホルダーの巻き込みが必要となるだけに、精緻な分析を分かりやすく伝えられるツールは推進の強力な武器になるのだ。

「変態的な技術を面白がってくれた」

現在、このデロイト トーマツが開発したエネルギーシミュレーションモデルは、日本のエネルギー政策の方針を示す「エネルギー基本計画」の検討にも使われるなど、国や自治体で活用されているほか、民間企業や研究機関でも使われている。

シンクタンクや大学でエネルギーや気候変動に20年来関わってきた濵﨑氏にとって、定量的な分析に基づいて議論ができる環境づくりは、ずっと目指してきたことだった。

「シンクタンクで自治体のエネルギー計画に携わっていたころは、数値的なエビデンスがなく、それぞれが抱く感情やイメージをもとに議論が進められていました。

それに違和感を持ち、イギリスの大学でモデル開発を始めたのです。

デロイト トーマツに来たのは4年前。私のモデルは非常に細かくコストもかかるのですが、デロイト トーマツはそれをおもしろがってくれました。

また、いくら優れたモデルでも多くの人に使ってもらわないと意味がありません。社内には高い専門性を持つコンサルタントが多くいる。顧客に理解してもらい実装に結びつけてこそ、社会に大きなインパクトを与えることができると考えています」(濵﨑氏)

「誰でも、どこでも」日本発のモデルをボーダレスに活用していく

提供:デロイト トーマツ

2022年にスペインのバルセロナで開かれた世界最大級のスマートシティイベント、「Smart City Expo World Congress 2022」でも、このモデルは日本発の技術として紹介され反響を呼んだ。今後はさらに進化を重ねる予定だ。

「エネルギー分野は新しいテクノロジーが次々に社会実装されていて、非常に可能性を秘めています。

例えば、最近注目されているのが水素。電力を用いて水電解で水素を作るのですが、これはエネルギーシステム全体で見れば、エネルギー需給一致のために電力を水素として貯蔵していることなります。

また需要サイドから見ても、水素発電、燃料電池、産業利用など用途は多岐にわたります。

現にEUは、ロシアから輸入する化石燃料への依存からの脱却を目的とした『RePowerEU Plan』で、水素活用戦略を公表し、導入を進めています」(濵﨑氏)

さらに、アメリカを中心として小型原子炉(Small Modular Reactor:SMR)活用の動きもある。

「米国原子力規制員会(NRC)は、2007年に設立されたNuScale Power社のSMRに対して設計認証を発給しました。

今後は、新たに生まれる次世代エネルギーに関連した技術やインフラも予測に組み込んでいく必要があるでしょう。

さまざまな国でオープンデータが公開されるようになりましたが、データは正しい解釈をして使われてはじめて社会で生きていく

デロイト トーマツの総合力を武器にエネルギー分野に取り組み、カーボンニュートラル社会実現への道のりを示していきたいですね」(濵﨑氏)

デロイト トーマツのエネルギー関連サービスについてはこちら。

転載元:BUSINESS INSIDER JAPAN

※本ページの情報は掲載時点のものです。

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