Smart City Expo World Congress 2022から見る世界のスマートシティ最新事情
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- 山﨑 大樹 デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 シニアマネジャー
世界最大級のスマートシティイベントSmart City Expo World Congress 2022(SCEWC)が3年ぶりにスペイン、バルセロナで現地開催された。デロイトも270㎡規模のブースを出展し、約5000名がブースに足を運んだ。
スマートシティのグローバルトレンドはどこにあるのか?日本が注力すべきポイントはどこにあるのか?現地で参加したデロイト トーマツ コンサルティング合同会社シニアマネジャーの山﨑 大樹に話を聞いた。
センサー・デバイスが当たり前となり、「可視化と運営高度化」がトレンドに
——SCEWCは、2019年のリアルイベントから3年ぶりのリアル開催となりました。まず全体を通して感じられたことを教えてください。
山崎:私がSCEWCに初めて参加したのは、ちょうど前回リアル開催だった2019年。当時は、様々な国やICTプレイヤーが都市OSを中心としたIoTプラットフォームを訴求していました。中でもセンサー・デバイスの重要性を訴える企業が多く、ごみ箱や駐車場のセンサーで満空情報を元に業務の効率化を実現するものが目立ちました。今年はセンサー・デバイスが目立たず、データを可視化するダッシュボードとそれが都市の運営にどのように有益かを展示しているケースが多かったですね。
——データの可視化は、各国共通でしたか?
山崎:国毎に差がありました。例えば、米国は防犯カメラやセンサーを活用して防犯対策や警備体制の高度化・効率化に使うケース、それから交通量・駐車場を街路灯やカメラでデータ化・ダッシュボード化してインフラオペレーションに活用するケースが目立ちました。欧州では、二酸化炭素や気候変動の可視化や海洋資源に対する管理監視と運営が目立ちました。
——差があるのはなぜでしょうか。
山崎:シンプルに各国の課題や注力領域の違いが、そのまま出ているのでしょう。しかし、共通して「データを可視化して、リアルタイムor予測により都市の運営を効率化する」ものが目立ちました。それをベースに、差別化が行われています。たとえば、カナダの企業はツールを活用する人材育成やスーパーバイザーの派遣サービスをセットで行ったり、EUの次世代インターネット官民連携プログラム(FI-PPP)で開発・実装された基盤ソフトウェアのFIWAREのように国をまたいでも同じサービスを展開できるように都市間でのデータ規格の統一化を図る運動を行ったりと、デジタルだけでないリアルな仕組みづくりに各国・各企業取り組んでいたことが注目ポイントです。
——今回、EXPOのキーワードとして「CITIES INSPIRED BY PEOPLE」というものもありました。
山崎:まだ実態として直接住民向けのサービスや可視化のソリューションは少なく、非パーソナルデータを扱う交通インフラや環境・防犯領域が多い印象です。どの国もヘルスケアや住民コミュニティ形成などには苦労していることがうかがえました。もちろんソーシャルメディアを通じて道路の状況や市民の声を拾い上げ、傾向をつかむ仕掛けや、交通サービスとして自分の位置に基づいて最適な経路やモーダルを紹介する機能は存在していましたが、個別最適なサービスを行うようなものは少なく感じました。
——やはりGDPR(EU一般データ保護規則)も含めたプライバシーの問題も含めた「個人」との取り組み面の難しさがあるということでしょうか。そうすると、資金面での担い手はどこになっているのでしょうか。
山崎:私はほぼすべてのブースを回りましたが、どの展示の担当者に聞いてもデバイスや可視化・運営に関する資金の担い手は「行政・政府」が多かったですね。ソリューションによっては、学校やビル管理会社が担う場合もありましたが。
日本でも学ぶべき「住民巻き込み型」の仕組み
——日本でも活用できそうな事例はありましたか?
山崎:ドイツのRe:edu社の取り組みは活用できるでしょう。デジタル人材教育とデータ収集を同時に解決し、デジタルダッシュボード・都市運営に資するサービスを展開している企業です。具体的なサービスとして、気温・湿度・人感センサーを搭載したモジュールキットと、小学生でも簡単にプログラミングできるキットを用意し、ドイツの学校教育や地域のNPOなどに配布して、子供がプログラミングを学びながら地域のいたるところにIoTセンサーがばらまかれる仕組みを作っているのです。
ばらまかれたセンサーで得たデータは、自動でオープンデータとしてサイトで可視化され、行政はもちろん誰でもアクセスや編集ができるようになっています。学校や自治体が資金を拠出しますが、それはあくまでプログラミング教育への投資であり、データの可視化やダッシュボードは副産物という位置づけです。この仕組みが秀逸だと感じました。また、そうやって自分たちが組み立てたものが活用され、可視化されているというのは「自分も街づくりに寄与している」という良い市民体験にも繋がるでしょう。
日本としても、スマートシティを立ち上げる際の大きな問いとしてデータをどうやって集めるのか?集めるためのセンサーは誰が負担して、だれが設置するのか?というものと、集めたデータを扱える人材はいるのか?というものがあり、課題として必ず直面します。学校教育やプログラミング教育としてやいわゆるcivic techのような巻き込みを主として扱うことで、日本が抱える課題も解決できるのかもしれません。
——デジタル教育は日本でも推進されていますが、デジタル教育がスマートシティに向けたデータ収集に直結している仕組みというわけですね。実際にこうした教育を受けた子供達であれば、プライバシー問題に対しても柔軟に向き合えるようになるかもしれませんね。他にもありますか?
山崎:ソウルの取り組みも秀逸で、今年度のシティアワードを受賞しました。ここではAIを軸としたスマートシティとして教育・交通・健康・インフラなど7つの分野でのスマートサービスを計画し実行しています。
特に参考となるのが、住民インタフェースです。先ほど話したように様々な国が住民と少し距離のある分野での都市運営を行っているのに比して、ソウルでは万が一の際のSOS(防犯)や交通などが1つのアプリで実行できる形で計画しています。そのために5Gや位置情報が常に追えるインフラ整備も欠かしていません。さらに、道案内などもスマートサイネージと合わせてAI・チャットボットが行っており、一方通行の情報提供でなく住民とのコミュニケーションを軸としたサービス設計がうかがえました。
日本においても、様々な形でスマートシティの取り組みが実行されつつありますが、規制や技術革新スピードにかんがみて、まずは着手しやすい分野からのスマート化が始まっており、今後は住民対話への踏み込みが大切なのではないかと考えます。その際に重要になるのが、どの世代も簡易にサービスにアクセスできるUI/UXではないでしょうか。
デロイトグローバルは現状把握から未来予測というネクストステージへ
——今回、デロイトグローバルの展示はどうでしたか?
山崎:デロイトは3年前から、データの可視化と都市運営をポルトガルで手掛けており、交通・環境・医療領域の全体最適化は既に実現させています。今、デロイトグローバルで注目しているのが「sustainability」と「well-being」の2つです。
sustainability では、米国デロイトが、デジタルツイン上で人流などを様々なデータに基づいて変化モデルを複数パターン立てて、都市への影響をシミュレートするサービスを展開しています。日本でもMulti-regional transmission modelというサービスで、エネルギー需給の将来モデルを予測して計画を立てられるサービスを開発していますが、現状把握から未来予測へと一歩先へ進んでいます。
well-beingに関しては、まさにこれからサービス開発を行う段階ですが個人最適(パーソナライズ)がカギとなるでしょう。今回、日本からは前橋市のデジタルIDを出展しましたが、デジタル上でも本人であること、本人の意思に基づいてデータをシェアできる仕組みが整ってこそ、初めて個人に最適なwell-beingが実現できると考えています。
——デジタルツインでいうと2022年10月開催の「京都スマートシティエキスポ」で、巨大ソフトウェア会社のダッソー・システムズが積極的に推進していることをアピールしていました。ソフトウェア会社とデロイトのようなコンサルティング会社で提供できる価値の違いはありますか。
山崎:デジタルツインのソフトウェアは欠かせませんから、比べるべきところではないかもしれませんが、私たちは都市計画という視点から入っています。都市は国ごと、地域ごとに特長も課題も異なりますから、該当都市が今後どうあるべきかという部分から検討をしていく必要がある。アセットだけでなく、都市計画も都市運営も手掛けることが可能、というところが私たちの提供価値だと考えています。
——デジタルツインの先には何があるとお考えですか?
山崎:リアル(アナログ)からバーチャル(デジタル)へ進んできた今ですが、次のフェーズは未来予測を受けて、リアルが変わる時代になるのではないでしょうか。昔のリアルではなく、デジタルと融合された新しいリアルの世界が待っていると考えています。
日本と世界の対比から、日本の注力ポイントを考えていく
——今回デロイトグローバルが出展した前橋市のデジタルIDにも関与されていますが、世界と日本でスマートシティにおける課題感の違いのようなものはあるのでしょうか。
山崎:日本は高度成長期にしっかりオペレーションが組まれて他国と比べても進んでいる箇所はたくさんあります。自治レベルは他国と比べても高いといえるでしょう。電気や上下水道などの整備も優れています。一方で、少子高齢化など他国より先んじて改善しなくてはいけない部分もある。そこをデジタルでしっかり改善していくことが求められます。例えば福祉や防災、交通などは真っ先に向き合うべき課題でしょう。
——課題に対して向き合うために、日本はどのような考え方でスマートシティを推進していくべきでしょうか。
山崎:日本の市町村合併は明治、昭和、平成と大きく3回行われてきましたが、このような考え方をデジタルで行うべきではないかと考えています。何が言いたいかというと、日本の課題の1つである災害は、市区町村がそれぞれ単独で対策するようなものではありませんよね。例えば河川の氾濫リスクはその流れにあるすべての自治体に関わってきます。1つの自治体でどうにかできる問題ではなく、自治体間がデジタルで繋がりあい広域で見ていく。市区町村単体としては、そこに住む人たち一人ひとりの安全安心、健康を守っていく、住みやすさを追求していくといったことが求められるのではないでしょうか。まだ課題感はありますが、個人最適(パーソナライズ)をどうしていくか。例えば災害時の避難も住んでいる場所や住んでいる人の状態で経路や手法は変わります。だからこそ、個人個人に最適化したサービスの提供が必要になってきます。
——全体最適と個別最適を同時にしていくわけですね。それにあたる業務の洗い出しや連携などにおいては、第三者的な人が必要となりそうです。
山崎:まさに、その部分で私たちデロイト トーマツが経済社会の変革のカタリストとして支援できる部分は多いかと思います。私自身が強く思っているのは、スマートシティを夢物語にせず、事業として推進できるようにしたいということ。そのために、自分自身も率先してまちづくりに関わっていこうということです。実際、自治会にも入っていろいろな発信もしています。当事者意識をもって、スマートシティを事業として成立させていきたいですね。
【関連リンク】
Mini Column
Smart cityの取り組みをいち早くスタートしたバルセロナ。街を歩いていて気がついた事例がいくつもありました。
自転車や、スクーター(電動)の専用道路が街全体に張り巡られており、通勤にも利用されています。
市内のゴミは、センサーで管理されており、満杯になったゴミのみを効率的に回収します。ルートも毎回変えるそう。土曜ですが、ゴミ回収車が動いていました。
また、市内を走るバスには、Baby car専用の場所が設置されています。
Smart cityの取り組みスタート時に、犯罪防止目的で、街全体に監視カメラが備えつけられていますが、市民に聞くと、「安全なのが一番、特に違和感なし」との事。
住民の実に8倍の観光客が訪れるバルセロナ。寄付で成り立つサグラダファミリアも2026年に完成予定だそうです。
人々が歩いて楽しめる都市空間作りそのものが、街の経済発展に貢献するという事を、本当に強く感じたバルセロナでした。
デロイト トーマツ コーポレート ソリューション合同会社 シニアマネジャー / 小西 芳子
※本ページの情報は掲載時点のものです。
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