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「SDGsを使いこなす」企業が、勝ち抜く

国連「持続可能な開発目標(SDGs)」は、企業を主要な実施主体の一つと位置付けています。今後は様々な投資原則や報告基準がSDGsにアラインされることも予想されます。これに対応するためには、従来の社会貢献活動のアプローチを改め、バリューチェーン全体における自社活動の社会・環境インパクトを総点検し、コアビジネスそのものをSDGsにアラインさせることが、戦略上の課題になります。

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貧困を放置することは、ビジネス機会の喪失を意味する。そこには新規市場、投資、イノベーションを通じて得られる、何兆ドルという利益が眠っている。しかし、これを勝ち取るためには、ビジネスのやり方を変え、貧困、格差・不平等、環境課題に取り組む必要がある。持続可能な開発目標(SDGs)の達成は、より衡平でレジリエントな世界という、好ましいビジネス環境をもたらす。

―― ポール・ポールマン、CEO、ユニリーバ
 

ビジネス慣行の変革を促す大きな経済的インセンティブの存在を、企業経営者に知らせる必要がある。企業は雇用を生み公平な賃金を実現することで、「誰も取り残さない」社会発展の実現に貢献できる。企業のイノベーションは効率的なゼロ・カーボン経済の実現に向けた技術的革新をもたらせる。企業の多数派がこのことに気づき、行動すれば、企業と社会双方の利益を両立できる。

―― シャラン・バロウ、書記長、国際労働組合総連合

以上、GCBSD News - New Global Commission to Put Business at the Centre of Sustainable Development
(January 21, 2016)より引用

 

SDGsはグローバル企業の戦略指針となる

SDGsロゴイメージ出典:国連広報センター

2015年9月、ニューヨークにある国連本部。193の加盟国首脳が一堂に会し、「21世紀における人間と地球の憲章」を採択した。「持続可能な開発のための2030アジェンダ」と呼ばれるそれは、各国政府だけでなく、経済界、NGOなども参加した、数年に及ぶ大規模な交渉を経て合意されたもので、2016年から30年までの国際社会の羅針盤となるものである。

なぜこの15年間なのか。首脳宣言には強烈な当事者意識と切迫感が込められている。

「我々は、貧困を終わらせることに成功する最初の世代になり得る。同様に、地球を救う機会を持つ最後の世代にもなるかも知れない。」

本アジェンダの中核を成す「持続可能な開発目標(SDGs: Sustainable Development Goals)」は、最貧国の食料、教育、保健医療などの『ベーシック・ニーズ』に集中していた前身の「ミレニアム開発目標(MDGs: Millennium Development Goals)」とは異なり、雇用と経済成長、産業化といった『経済課題』、持続可能な消費と生産、気候変動、生物多様性などの『環境課題』、腐敗対策やガバナンス強化といった『政治課題』など、17領域・169ターゲットに及ぶ。

また、MDGsの対象が「途上国の貧困」だったのに対して、SDGsは、「先進国を含む世界全体の、経済・社会のあり方」を対象としており、経済活動による環境負荷を持続可能な水準まで抑えつつ、資源や機会、人権などを巡る格差や不平等を是正することで、「我々の世界を変革する」(首脳宣言のタイトル)と宣言している。

そして、SDGsのもう一つの大きな特徴は、企業を主要な実施主体の一つと位置付けていることである。
 

民間企業の活動・投資・イノベーションは、生産性及び包摂的な経済成長と雇用創出を生み出していく上での重要な鍵である。我々は、小企業から協同組合、多国籍企業までを包含する民間セクターの多様性を認める。我々は、こうした民間セクターに対し、持続可能な開発における課題解決のための創造性とイノベーションを発揮することを求める。「ビジネスと人権に関する指導原則」と国際労働機関が定める労働基準、「子どもの権利条約」及び主要な多国間環境関連協定等の締約国において、これらの取り決めに従い労働者の権利や環境、保健基準を遵守しつつ、ダイナミックかつ十分に機能する民間セクターの活動を促進する。

――「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」 第67条
 

特に大企業や多国籍企業などの企業に対し、持続可能な取り組みを導入し、持続可能性に関する情報を定期報告に盛り込むよう奨励する。

――持続可能な開発目標 ターゲット12.6
 

これらの文言を、国連や政府から企業への一方的なラブコールと考えるのは間違いである。先進的なグローバル企業たちは、SDGsに関する国連政府間交渉の開始に合わせて共同マニフェストを発表し、企業の役割と責任を強調するとともに、交渉過程においても、「持続可能な発展のための世界経済人会議(WBCSD)」などの枠組みを通じて関与した。各国の首脳たちが集まった国連総会では、日本を含む各国のリーディングカンパニーのトップが集い、SDGs達成に向けた個別のコミットメントを発表した。これらの企業は個社レベルにおいて、SDGsの経営戦略への統合を始めているのである。

これらのビジネスリーダーたちが、「SDGsを傍観する」のではなく、積極的に関与することを選択する、そのビジネス上の動機とは、どのようなものであろうか。
 

1. 未来のグローバル市場を創造する:

2010年には12兆ドルだった新興国やアジア、アフリカなどの途上国の市場は、2025年までに約30兆ドル規模にまで成長する潜在性を有していると言われる。しかしながら、これらの国々は、深刻な貧困、格差、気候変動、高失業率などの構造的要因により、近年はその成長が減速。社会の不安定化も相まって、市場としての潜在力を活かせずにいる。

同時にこれら構造的な要因は、途上国と先進国両方の企業の成長にも負の影響を及ぼしている。気候変動に伴う天候不順や災害の頻発がビジネスに与えるダメージは多くの日本企業も実感しているところであるが、ジェンダー格差による女性の貧困や偏った都市化による農村の貧困といった社会的要因もまた、グローバル・マーケットの成長を阻害している。

ある英大手家庭用品メーカーのCEOが指摘するとおり、「機能不全に陥った経済システムの中では企業は成長できない。企業はシステムの傍観者であることをやめ、自らシステムの改善に主体的にかかわる必要がある」。
 

2. グローバルな政策の流れを読み、先取りし、ルール形成に参画する: 

SDGsの達成が各国の政策的優先課題に位置づけられることにより、今後、ビジネスに影響を及ぼす規制や法令、公共調達方針の導入や見直しが進んだり、国際条約や協定が締結されたりする可能性もある。

例えば国連の「人権とビジネス」指導原則はすでに英国の「現代奴隷法」などに具体化され、日本企業の活動に直接の大きな影響を与えるに至っている。
これらのトレンドを読み、先取りし、可能な場合には国際的なルール形成そのものに参画し、リードしていくためには、SDGsを理解しその動向を把握しておくことがビジネス戦略上不可欠となる。
 

3. ステークホルダーの関与を強化する: 

統合報告書やESG投資への動きなどに見られるように、企業の価値はすでに財務情報のみならず、多様な関係者(ステークホルダー)により多様な観点で測られ評価されつつある。

この点、SDGsはこれまでのどの指標よりも包括的な視座を有し、持続性の観点から企業とそのビジネス活動を評価する際の、投資家、顧客、NGOなど広範なステークホルダー間の『共通言語』になることが見込まれる。
すでに、既存の様々な投資原則や報告基準をSDGsに合わせて調整しようという試みも始まっている。
 

4. 圧倒的な優位を確立する: 

これら3つの認識の基にSDGsへの貢献を公にコミットする企業が増える中、SDGsへの貢献度で競争が起きることが予想される。国連におけるアジェンダの採択は、その号砲に他ならない。

この競争を制するためには、競争ルールの形成に積極的に関わりつつ、勝利に向けて投資することによって、SDGsがもたらす新規市場における圧倒的な優位を確立することが必要不可欠になる。逆に、SDGsの潮流をいち早く察知せず対応が遅れた企業は、市場において後塵を拝すことになる。

 

SDGsを使いこなす企業が、勝ち抜き、躍進する

社会・環境に関する諸課題へのステークホルダーの関心が高まる中で、企業は従来から、CSR、サステナビリティ、CSVなどの観点から、様々な活動を展開してきた。しかし、これまでは、テーマ領域の選定や目標の設定などが基本的に各企業の裁量に委ねられており、また、実際の取組み姿勢や効果などの面でも企業間のバラつきが大きかったため、総体としての企業の活動が社会・環境課題の解決に及ぼし得る影響は限定的であったと言わざるを得ない。

また、これまでの国連開発アジェンダとビジネスの関係においては、MDGsは対象となる課題が貧困国における貧困の社会的側面に集中していたため、そもそもコアビジネスとの有意な関係を見出せる企業は限られていた。

これに対して、すべての国の経済、環境、社会のあらゆる側面について到達すべきターゲットを定めたSDGsが採択されたことで、グローバル企業のコアビジネスと国連開発アジェンダの関係が一気に高まり、また企業活動の環境・社会インパクトがより包括的に問われることになる。

言い換えればSDGsは、国際社会の大きな流れと公共政策がそれぞれの企業の活動にダイレクトに影響を及ぼすことを意味するのである。これからの15年、企業が生き残り躍進するためには、自社のバリューチェーン全体を169の課題項目に照らして総点検し、ギャップを埋め、かつポジティブな貢献をすることが求められる。

一企業にとってSDGsのすべての課題に取り組むことは不可能であり、各社なりの優先づけなどは必要になるが、企業の経営規模や資産として有する技術などにより、より有利な分野が決まってくるだろう。例えば優れた防災技術は日本が世界をリードできる分野である。一方で、人権などのように世界の基準に日本が追いついておらず、追随を余儀なくされる分野もあろう。いずれにしても、SDGsと自らの強みと弱み、そしてそれぞれの分野におけるグローバル・トレンドを研究してこれに同期していくことが勝つための条件となる。

このような数多くの高い要求に、これまでのビジネスモデルを据え置いたまま受動的に応えることは、端的にいって非効率である。それよりも、SDGsを貫く論理を理解し、コアビジネスの中心に位置づけ、企業価値を高めるためにSDGsを「使いこなす」ビジネスを展開する方が、合理的である。

では、「SDGsを使いこなす」とは具体的にどのようなことであろうか。
以下の事例はそのヒントを与えてくれる。

 

● 長期企業戦略へのCSRの統合:

スイスのある医療器具メーカーは、NGOとの連携を通じて安価な水のろ過装置を開発した。「ろ過装置の利用は、飲料水の煮沸による森林伐採需要の削減に資する」という趣旨で炭素取引市場から資金を調達し、これを原資にCSRとして途上国に大量に無償提供。これによるブランド構築を足掛かりに、大規模な新規市場開拓に成功している。 

● 「ミニマム・コンプライアンス」から「ベスト・プラクティス」へ:

SDGsに関する法規制が不十分な国や地域にサプライチェーンや事業を有する場合、法令順守を越え、SDGs達成から逆算したイニシアティブを取ることで、SDGsの達成に大きく貢献するとともに、企業価値を向上させることができる。

■ イギリスのある大手家庭用品メーカーは、サプライチェーンにおける公平な生活賃金の支払いにコミットしており、法令上の最低賃金が生活賃金を下回る国や外注先の従業員も対象としている。これを確実にするために、当該国政府、NGO、バイヤーなどと連携している。同社はこのほか、廃棄量やCO2排出量の削減を実現しつつ、売り上げを着実に伸ばしている。

■ 世界的な格差拡大と増税・緊縮財政を背景に、グローバル企業の税務戦略について、法的コンプライアンスだけでなく、社会的公正の観点から評価する動きが高まりつつある。
すでに先進国を中心に、議会による喚問や消費者ボイコットなどを受ける形で規制強化や国際協調の動きも出始めているほか、SDGsの財源問題に直面する途上国からも、規制強化に向けた国際協調を求める声が高まっている。 

● 透明性と説明責任のルールづくりによる業界の牽引:

自社のサプライチェーンにおけるSDGsへのインパクトについて情報を開示することは、SDGs達成への進捗を「見える化」させるとともに、責任企業としての自社ブランド向上に資する。

■ 2005年、ある大手ジーンズメーカーが、「生産現場における労働条件の改善策の一環」として、業界としては初めて、NGOの求めに応じて調達先企業のリストを公開した。ライバル企業もこの動きに追随し、同社は業界における調達行動の規範形成をリードすることで有利な地位を確保するとともに、「責任ある企業」としての評価を確立している。

■ デンマークのある大手製薬企業は、年次サステナビリティ報告書の発行をやめ、年次報告書本体にサステナビリティを包括的に統合。今後はすべてのSDGsを羅針盤として活用し、企業活動に統合していくとしている。米国の大手化学メーカーは、17のSDGsに対応する7つの自社独自のサステナビリティ目標を発表し、2025年までの達成を目指す。これらは社会的に正しいことをするというアピールであるとともに、圧倒的な水準のルールを先に定めることでそれぞれの業界を牽引し、リードしようとする意志の表れである。  

● SDGsにアラインしたルールへの適応:

これまで市場性が低いとされてきた地域や分野の課題解決について、国際機関、政府、市民社会組織などとの連携を通じ、課題解決に見合う水準のルールや規格の形成を促しつつ、これに適う商品やサービスを開発することで、新規市場における優位性を確立することが可能になる。

■ MDGs時代、そのターゲットにマラリア対策が含まれたことを受けて、G8九州・沖縄サミットで大規模な官民合同の「世界エイズ・結核・マラリア対策基金(現「グローバル・ファンド」)」が設立。この基金が求める水準に適合した殺虫剤処理蚊帳に対する需要が大幅に生まれることになった。MDGsよりもはるかに多くの課題を対象とするSDGsの下では、このような政策イニシアティブが多数起こる可能性がある。

 

このようにSDGsを使いこなす事業を展開するためには、研究開発部、事業開発部、調達部、人事部など、全社的な支持と関与が欠かせない。経営トップによる強いビジョンとコミットメントが求められる。 

また、SDGsで正のインパクトを出すということは、企業活動の影響を受けるコミュニティの権利や彼らを支援するNGOの提言に応え、環境課題においては科学的な評価に堪えうるものであることを意味する。これらのステークホルダーとの対話や協議なしに事業を進めると、あとで問題が生じた場合に対応コストが大きくなる。彼らとのパートナーシップを織り込んだSDGs戦略を進めることで、問題を未然に防ぎ、成功の確率を高めることができる。

「我々の世界を変革する(Transforming Our World)」ことを誓った2030アジェンダ。SDGsを使いこなそうとする企業もまた、ビジネスモデルの変革を求められている。 

 

DTCのSDGs関連活動

デロイト トーマツ コンサルティングは、SDGsとビジネスの関係について知見を継続的に強化し、情報を発信している。

さらに、SDGsや「国連グローバル・コンパクト4分野10原則」の普及を行う企業のグローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン(GCNJ)の一員として企業の社会課題への取り組みを促進するとともに、SDGsに関する世論啓発や政策提言を行う非営利組織(NGO/NPO)やSDGsに関係する多くの省庁とも連携を進めることで、2030アジェンダが強調するマルチステークホルダー・パートナーシップの構築や、官民連携やルール形成など、企業が効果的にSDGsに関与するための枠組みの構築にも取り組んでいる。

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