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財務数値からみる航空業界の特徴(3)

航空業界をめぐる経営環境を踏まえ、主要な航空会社の業績を分析します。 著者: 有限責任監査法人トーマツ 航空運輸事業ユニット 公認会計士 佐藤和基

世界経済成長の硬直化と地政学リスクが業績に作用

ビジネス、レジャーを主とした航空需要は経済動向によって大きく変動する傾向にあります。2015年は引き続き低金利が世界的に続いており、世界経済成長率も3.3%と予測されていましたが結果として3.1%にとどまりました。加えて、2015年は世界的にテロ活動が多く、フランスパリ同時多発テロ(2015年11月)やタイバンコク爆発テロ(2015年8月)が航空需要に歯止めをかけるかたちとなりました。
航空会社の主要な費用となる燃油は、原油価格が引き続き低調に推移したため、この点では業績良化要因となりました。
アジアは世界全体に比べて経済成長率が高く、日本も観光需要を喚起してアジアの航空需要を取り込んでおり、訪日外国客が引き続き増加した結果、引き続き好業績の要因となりました。他方で、各航空会社においては特定の路線のシェアを奪い合う競争も激化しており、消耗戦の様相を呈することも考えられます。
 

図1:原油価格の推移

出典:IMF Primary Commodity Prices(http://www.imf.org/external/np/res/commod/index.aspx) Price & Forecasts Monthly Dataを基に筆者が作成。

費用面の変動によりイールドの動きに比して営業利益が改善

燃油価格の下落を主因として航空会社各社の営業利益は全体的に増加しました。加えて、運賃に付加する燃油価格相当額(燃油サーチャージ)も減少したため売上高の減少要因ともなっており、イールド(RPK 当たり収入単価=旅客収入/RPK)の低下要因にもなっていると考えられます。他方、「財務数値から見る航空業界の特徴(2)」において、イールドの高い会社は営業利益も高い傾向について述べていますが、営業利益は費用の影響も受けるところ、営業利益の動きに対してイールドは硬直性があることがわかります。

図2:イールドと営業利益の近似曲線の推移

出典:筆者が選定した航空会社のアニュアルレポート・有価証券報告書、決算説明資料を基に作成。

ロードファクターの上昇も航空会社の業績改善に寄与

ロードファクター(有償座席利用率 =RPK/ASK )については、分析対象とした大手航空会社においては概ねどの会社においても上昇していました。一概にこの要因は定かではありませんが、競争が激化する環境下において、比較的体力のある大手航空会社は価格競争によりシェアを確保することができ、結果としてロードファクターが上昇したことが考えられます。また、航空機機材については、需給の変化への対応が図りやすい大型機から中小型機中心の経営にシフトする傾向が近年みられ、供給量の調整によりロードファクターが上昇したと考えることもできます。また、近年では技術革新により中小型機でも長距離を飛行する性能を有する新機材が増えており、これもロードファクターの上昇要因になっていると考えられます。

RPK(Revenue Passenger Kilometers)=各区間の旅客数×各区間距離の合計
ASK(Available Seat Kilometers)= 各区間の有効座席数×各区間距離の合計
 

図3:ロードファクターと営業利益率の推移

出典:筆者が選定した航空会社のアニュアルレポート・有価証券報告書、決算説明資料を基に作成。なお、営業利益率は各社の単純平均値を採用した。

日本国内ではLCCの台頭が続くものの単価が上昇

日本においては、依然としてLCCの台頭が著しく、着実にシェアを伸ばしてきています。他方で、2014年度から2015年度にかけて輸送人員当たり旅客収入が増加しています。FSCとLCCの競争の過程でここ数年FSCの運賃が低下傾向にありましたが、訪日外国人の増加を中心とした旅客需要の増加によって単価が上昇したものと考えられます。

図4:FSC、LCCの輸送人キロシェアの推移(国内線)

出典:国土交通省 特定本邦航空運送事業者に係る情報(平成27年度)(http://www.mlit.go.jp/koku/h27zigyo_bf_14.html)を基に筆者が作成。

図5:FSC、LCCの輸送人員当たり旅客収入(国内)

出典:国土交通省 特定本邦航空運送事業者に係る情報(平成27年度)(http://www.mlit.go.jp/koku/h27zigyo_bf_14.html)を基に筆者が作成。

 

航空会社の規模と成長性と財務安全性

航空会社は高価な航空機を調達して事業を行うことから、資金調達が課題となります。資金調達方法は、増資、借入、社債、リース等様々であり、航空機の調達においても大別すると自社所有とリースに分けられます。これらの資金調達に関連し、財務安全性の指標として簡便的にD/Eレシオがあります。航空会社の規模の一つと考えられるASKと比較した場合、ASKが大きくなるにつれてD/Eレシオが高くなる傾向がみられます。これは、増資による資金調達にも限界があり、他人資本(借入、社債、リース等)による調達が多くならざるを得ないものと考えられます。(図6 緑色囲い参照)
他方、ASKが低くてもD/Eレシオが高くなる可能性もあります。たとえば需要が旺盛で、他人資本による調達によっても十分に拡大し、収益性が見込める場合には、比較的短期的な他人資本を増やし、規模の拡大を図ることが考えられます。(図6 水色囲い参照)
 

図6:D/EレシオとASKの関係

出典:筆者が選定した航空会社のアニュアルレポート・有価証券報告書、決算説明資料を基に作成。
※D/Eレシオは簡便的に次の方法により算定しています。
D/Eレシオ=総負債÷純資産
 

今後の展望

原油価格が低調に推移しているため航空会社の業績は世界的に比較的好調となっています。他方で、一部の路線ではシェアの獲得により消耗戦の様相を見せている面もあります。また、急速な成長が負債比率を高め、負債コストの負担増加により業績を悪化させるリスクがあると考えられます。特に、金利が上昇局面にある場合には急速に財政状態を悪化させるリスクがあり、地政学的リスクのみならず、金融市場のリスクにも大きくさらされる点で航空会社の経営の難しさが読み取れます。

※本文中の意見に関る部分は執筆者の私見であり、デロイト トーマツ グループの公式見解ではございません。

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