最新動向/市場予測

Transportation業界におけるグローバルトレンドとオポチュニティ

ポストコロナ時代の航空・物流・海運・鉄道領域の展望

この2年以上にわたるパンデミックによって、航空・物流/郵便・海運・鉄道といった運輸業界は大きく混乱したと共に、消費動向の変化によって恩恵を受けた領域もあった。こうした混乱や変化が、今後運輸業界にどのような変革をもたらし、各領域の主要プレーヤーはどこを目指していくのだろうか。

本稿では、グローバル及びアジア太平洋・日本における市場概況、主な展望、主要プレーヤー動向、イノベーション/ディスラプションについて解説・考察する。

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航空

求められる顧客戦略の再構築とDXによるカスタマーエクスペリエンスの向上、加速する脱炭素化の推進

グローバル市場における2022年からの航空旅客回復傾向は、2023年以降も継続・加速が見込まれる。しかし2019年水準への回復は北米では2023年に、アジア太平洋では2025年と、地域ごとの状況には差が窺える。

航空業界における論点の一つは、需要全体に占める法人・個人割合の変化に伴うターゲット顧客の見直しや、消費者行動・旅行形態の変化を踏まえた顧客戦略の再構築である。顧客のニーズをとらえたデジタルトランフォーメーション(以下、DX)によるカスタマーエクスペリエンスの向上を差別化の優先事項として位置付ける傾向が強くなっている。これに対応すべくグローバル主要各社では、ロイヤルティプログラムを中心とした顧客戦略の再構築への取り組みを進めている。

航空業界における二つ目の論点は燃料に関わるものである。2022年からの燃料費高騰トレンドは、米国航空市場では一旦収束の兆しを見せているが、依然として高止まりをしている。継続する世界情勢の混乱への対応として、現状ないしそれ以上の燃料コストを織り込んでいくと共に、より燃費性能の高い機材の採用なども必要に迫られることが想定される。
加えて、中長期的にはIATAが目標として掲げた温室効果ガス排出量削減目標や、政府の指針や消費者意識の高まりとともに、欧州を中心に航空会社や航空機メーカーの地球温暖化対策への圧力が急速に強まっている点も航空業界に大きな影響を与えている。主要企業では、持続可能性に大きな変化をもたらす「Green Aero Tech」の最前線にいるスタートアップへの投資を拡大させており、今後航空業界の脱炭素化推進に期待が高まる。

 

物流/郵便

eコマースが業界の成長の追い風となる一方、世界レベルでの労働力不足に対するデジタルを活用した自動化・効率化が加速

グローバルの物流市場規模は、パンデミックによる混乱がありつつも、アジア太平洋と北米が業界全体の成長を牽引し、今後も成長が見込まれている。

その要素の一つとして、パンデミック下で拡大したeコマース物流の継続的な高需要が挙げられる。グローバル全体におけるeコマース物流については、今後も成長が見込まれるが、他方で北米では主要企業が物流施設の拡大戦略を見直す動きや、中国ではECの年間最大イベントである「独身の日」セールの2022年の伸び率は史上最も小さくなり、期間中の小包量が減少したという事例も出てきているため、日本企業への影響を含め注視が必要である。

市場が成長している一方で、グローバルレベルでの労働力不足と賃金高騰により、物流価格が上昇傾向にある。こうした課題を解決すべく、主要企業はデジタルを活用したサプライチェーンの可視化・最適化、及び物流業務の自動化に取り組んでいる。

今後の物流業界においても、物流自動化市場の成長率(2020-2026年)は、グローバル・アジア太平洋共に10%以上の成長が見込まれている。その中で、特に拡大が見込まれている分野は、「AGV(無人搬送車)」や「AMR(自立走行搬送ロボット)」などの移動ロボットである。手作業を代替させ、労働力不足に伴う遅延や高コストを抑える移動ロボットの活用は、今後も成長が見込まれるeコマース物流において、特に注目すべき技術であると言える。

 

海運

経済の不確実性の高まりによる予測困難な状況は継続するも、市場統合によるサービスの信頼性向上と共にテクノロジーを活用したスマートポート化が進行

グローバルの海上輸送における貨物積み下ろし量は、2020年はパンデミックの影響で減少したものの、2021年には2019年レベルにまで回復した。しかし、コンテナ運賃が大幅に上昇したことで、市場規模は貨物積卸量の伸び率以上の成長を見せた。

コンテナ運賃は、パンデミック下で拡大したeコマース需要とサプライチェーンの混乱、物流の制約が相まって、2021年初頭に2018年の約3倍超となり、2021年末には最高値に達した。2022年11月時点では、コンテナ運賃はパンデミック以前に近い水準に戻っているが、進行中のエネルギー危機、ロシア-ウクライナ戦争、経済政策の不確実性、地政学的リスク、脱炭素化など予測不可能な事業環境下で、見通しが難しい状況にある。

こうした状況下で海運企業は、グローバルアライアンス、M&Aを通じた海運サービスの集約により、船舶共有による効率化・サービスの信頼性向上を図っており、拡大する顧客需要に対するサプライチェーンの安定化・コスト削減や多様化する顧客ニーズへの対応に寄与している。一方、アライアンスによる供給制限の高まりにより、価格の柔軟性に対しては、苦言を呈している顧客もいる。

また、世界の港湾では、港湾インフラと陸上輸送の接続を拡大・アップグレードし、貿易円滑化の改革を進めるとともに、特にデジタル化の推進を加速させている。自動化やビッグデータ、AI、IoT、ブロックチェーンなどを組み合わせることでオペレーションのデジタル化を進める港湾も増えてきており、スマートポート分野の2021-26年のCAGRは+20%超で成長する見込みである。パンデミックで発生したような、港湾混雑、労働力不足などの課題解決が進むことを期待したい。

 

鉄道

カーボンニュートラルへの対応と共に、安全で効率的なシステム構築や優れた顧客体験の提供に向けたテクノロジー活用・データ連携が加速

グローバルの鉄道貨物輸送において、2020年の市場規模はパンデミックの影響が色濃いが、2022年の予測値ではパンデミック以前を超える力強い成長が見込まれる。一方で、労働力不足が引き続き国際的な鉄道貨物輸送の業務運営に影響し、労務コストの急増が喫緊の課題となっている。

グローバルの鉄道旅客輸送については、パンデミックの影響で減少した市場規模は、2021年にはパンデミック以前までほぼ回復し、輸送量も7割超まで回復を見せた。2026年には市場規模は2019年比で約1.4倍、輸送量は約1.3倍に拡大する見込みである。なお、国内の鉄道旅客輸送については、パンデミック以前は漸増傾向にあったが、パンデミックに伴う働き方の変容等により、従前の水準への回復は困難である見通しであり、拡大するグローバル全体とは異なる傾向が予想される。

そうした中、貨物・旅客の共通的な取り組みとして、気候変動による環境問題やエネルギー安全保障への懸念の高まりを背景とした、低炭素排出燃料や再生可能エネルギーの使用など、鉄道輸送をよりサステナブルにするための試みが進んでいる。鉄道輸送は、航空機やトラック輸送に比べエネルギー効率の優れた輸送手段であるが、MaaSなどを通じて自動車も含めた他の移動手段との接続性向上による最終目的地までの速達性・利便性の改善や、サステナブルな移動手段として選ばれるためのブランディングが重要となる。

同時にDXも加速しており、主要企業ではデジタルツイン導入による鉄道ネットワーク全体でのシミュレーション推進など、テクノロジーを活用した安全性や効率性の強化に対応している。今後は、不可逆的な旅客数の減少、技術者不足などの変化も念頭に、パンデミック後の新たな旅客サービス水準を描き、デジタルを用いて、その水準に合わせた業務・システムに変革していく必要があるだろう。

また、顧客接点領域におけるDXとしては、顧客データの統合によるグループ内事業間での相互送客、他社との相互利用、自社のデータ分析ソリューションの外販などに取り組む企業も増えている。しかし、単にデータ活用型の顧客アプローチ・プロモーションだけでは競争優位性を確立することは困難であり、データ活用を個々のサービスそのものの価値や魅力を磨き上げていく活動に繋げていくことも益々重要になるだろう。

 

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