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航空業界の税務上の論点(1) 

~国際航空運送事業と相互免除主義~

国際運輸業所得に対して課される法人所得税について、国際航空運送事業を踏まえた観点から解説を行います。

1.はじめに

複数の国又は地域を跨いで業務を行う国際運輸業には、一般的な事業会社とは異なるビジネス上のイシュー及びそれに伴う税務上の論点があります。本稿では、国際運輸業所得に対して課される法人所得税について、国際航空運送事業を踏まえた観点から解説を行います。なお、本文中の意見に関わる部分は私見であり、デロイト トーマツ グループの公式見解ではなく、また税務判断は個別の状況に応じて異なる可能性がある点をお断りします。

2.国際航空運送事業

航空法第2条第18項において、「航空運送事業」とは、他人の需要に応じ、航空機を使用して有償で旅客又は貨物を運送する事業をいうとされています。同条第19項において、「国際航空運送事業」とは、本邦内の地点と本邦外の地点との間又は本邦外の各地間において行う航空運送事業をいうとされています。

3.国際航空運送事業における国際税務上の課題

国際航空運送事業は、国内及び国外にわたって多くの国や空を通過することで運行されています。また、空港所在地などに常時拠点を置くことも多いと考えられ、よって当該空港所在地などにおいて、恒久的施設(Permanent Establishment、以下「PE」とします。)を有していると判断されるケースも多いと考えられます。国際税務上、PE所在地国においては、当該所在地国において課税権が認められることが原則のため、国際航空運送事業を営む者の当該事業に係る所得(以下「国際運輸業所得」とします。)については、当該者の居住地国(わが国の場合は本店所在地国となります。)と、PE所在地国の双方においてどのように課税を行うかという課題が生じます。

4.国際運輸業所得に係る国内法の取扱い

わが国の内国法人については全世界所得課税が行われることが原則であるため国際運輸業所得に係る特段の規定は有していません。一方で、外国法人については、わが国にPEを有する場合に、その事業所得に対して課税が行われることとなります(法人税法第141条)。わが国にPEを有する外国法人が国内及び国外にわたって航空機による運送の事業を行う場合、「当該事業により生ずる所得のうち、……(中略)……、その国内業務に係る収入金額又は経費、その国内業務の用に供する固定資産の価額その他その国内業務が当該運送の事業に係る所得の発生に寄与した程度を推測するに足りる要因を基準として判定したその法人の国内業務につき生ずべき所得」を、国内において行う事業から生じる所得とします(法人税法施行令第176条第1項第四号)。すなわち、わが国法人税法では、国際税務上の標準原則の1つとされている、いわゆる「PEなければ課税なし」を国際運輸業所得に対して適用していると解されます(「外国人等の国際運輸業に係る所得に対する相互主義による所得税等の非課税に関する法律」については下記5.で述べています。)。

5.租税条約における国際運輸業所得の相互免除主義

一方で、租税条約における考え方は国内法とは異なっており、一般に相互免除主義と呼ばれる手法が用いられています。わが国が各国と締結している租税条約においては、わが国の居住者である内国法人の国際運輸業所得に対してわが国における法人所得税の課税権が認められる一方で、租税条約締結国の居住者である外国法人の国際運輸業所得のうちわが国の国内源泉所得とされる部分に対してわが国は法人所得税の課税を行わないことが定められています。この背景には、国際運輸業所得について、関係国間で統一した課税手法を構築・適用することが難しいと考えられることや、租税条約の本来の目的である国際的二重課税の排除という目的達成のための解決手段として特別な手立てが必要と考えられたことなどがあるものと推察されます。

 

わが国においては、各国と締結している租税条約とは別に、「外国人等の国際運輸業に係る所得に対する相互主義による所得税等の非課税に関する法律」が施行されています。本法により、わが国が租税条約を締結していない国との間においても国際運輸業所得に対する相互免除主義の適用が可能となっています。但し、各国におけるエアライン産業の大きさの違いなどを考慮して、半額免税や40%免税とすることにより課税権の配分を図る例もあります。また、国際運輸業所得の国内法による相互免除の非課税所得には、日本国が締結した租税条約に基づき免除される国際運輸業所得を含まないものとし、国内法と租税条約において免除される所得が重複しないようにされています。

 

なお、相互免除主義とは言っても、その適用対象となる国際運輸業所得及び税目の範囲が租税条約ごとに異なる場合がある他、租税条約締結国における現地法令解釈により課税関係が決定されるため、国際運輸業所得に対する国際的二重課税がすべて排除されない場合もあることに留意が必要です。

相互免除主義のイメージ

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