調査レポート

ファミリーエンタープライズの転機:長期インセンティブプランニング

企業をゴールへと導く人材獲得のための長期インセンティブプラン

多くの企業が、最も価値のある資産は人材だと述べています。昨今は人材の需要が供給を上回っているため、多くの雇用主が高いパフォーマンスを発揮する人材の獲得と定着に重きを置いています。しかし、いわゆる「大退職時代」の訪れは、引き続き優れた人材を求める企業を悩ませており、世界の経営者の10人に7人が、技術的スキルと人的能力のバランスに優れた人材を見つけるのに苦労していると回答しています。

多くの企業が、最も価値のある資産は人材だと述べています。昨今は人材の需要が供給を上回っているため、多くの雇用主が高いパフォーマンスを発揮する人材の惹きつけと定着に重きを置いています。しかし、いわゆる「大退職時代」の訪れは、引き続き一流の人材を求める企業を悩ませており、世界の雇用主の10人に7人が、技術的スキルと人的能力のバランスに優れた人材を見つけるのに苦労していると回答しています。

今日、一流の人材は優位な立場にあり、そのことを自覚しています。求職者は、多くの選択肢を前に、どこで、どのように働くかはもちろん、何のために働くかの決定権を握っています。この問題に頭を悩ませているのは上場企業だけだと思うのならば、もう一度考えてみてください。

変化する人材事情に対応した報酬の再定義

ファミリーエンタープライズの多くも、昨今の厳しい労働市場に頭を悩ませています。従来であれば、内部から人材を登用していたかもしれませんが、近年は後継者がファミリービジネス以外で活躍する機会を検討するようになっているため、求職者の獲得のために上場企業と競争しなければならないファミリーエンタープライズは少なくありません。また、ファミリーエンタープライズの運営ニーズが複雑化しているため、隣接する業界のエグゼクティブ人材など、外部に目を向けることを選択しているファミリーエンタープライズもあります。これらの事情から、多くのファミリーエンタープライズの間で特に報奨制度などの、より包括的な報酬パッケージを構築する動きが一定程度みられます。

Blaise Kah(Partner, Global Employer Services Rewards Practice, Deloitte Tax LLP)は、「15年か20年前のファミリーエンタープライズであれば、退職金積立のために繰延報酬制度を提供するか、株式を数株提供するだけで十分だったかもしれません。」、「市場全体が様変わりしてしまいました。ファミリーエンタープライズは今や全国で上場企業と人材を奪い合っており、人々の関心も移ろいやすくなっています。」と述べています。

報奨制度は、うまくいけば一流の人材の入社や定着のインセンティブになるだけではなく、従業員のパフォーマンスを伸ばすことになるほか、株主の関心と経営者の行動を一致させ、株主価値の向上を促すのにも役立ちます。つまり、利益は雇用主と従業員の双方にもたらされるうえに、非常に大きな効果を期待できる可能性があるのです。では、そのような目的を全て満たすことができる計画とは、どのようなものでしょうか。以降では、長期インセンティブ(LTI)プランと、当該プランがファミリーエンタープライズにもたらし得る価値について探りましょう。

即座に満足を得ることが当たり前になっている世の中で、LTIプランは、ファミリーエンタープライズが短期的な思考に対抗し、企業と従業員が長期的な目標達成に集中するのを助けます。LTIプランのリーディングプラクティスとして基本にすべきものはまず株主価値の向上であり、もう一つの重要なメリットとして、人材の獲得と定着を含めるべきでしょう。ファミリーエンタープライズは、LTIプランを開始するにあたり、報奨の仕組み、支給時期、報奨の種類という3つの中核要素について十分に検討することにより、自社に最適なプランを設計することができます。

 

LTIの中核要素

LTIプランでは、実績ベースの仕組みとして、業績の向上を促すために、財務目標の達成後に参加者に授与される現金または株式を指定することができます。LTIの報奨を設計する際、組織は業績指標として売上成長率、利益率、キャッシュフローなどの財務指標および戦略的指標を設定することができます。また、エグゼクティブは業績曲線上のスレッショルド、ターゲット、最大目標のいずれかを達成しなければならないことや、報奨を授与する際に個々の指標のウェイトについても、決定することができます。

Kahは、例えば、報奨金の45%を売上高ベースに、45%を収益性ベースに、そして残りの10%を個人のパフォーマンスベースとすることも可能、と述べています。
ファミリーエンタープライズは、将来型の思考と人材の定着を促すために、時間の経過に応じた計画を作成する(つまり、時間ベースの仕組みを選択する)こともできます。多くのファミリーエンタープライズは、3年がLTIプランのスイートスポットであると判断しています。3年という期間は、リーダーがその役割の中で勢いを発揮し、ファミリーエンタープライズのイニシアティブに自らの基本姿勢を示し、所定の業績目標を達成するのに十分な時間でしょう。ファミリーエンタープライズは、成果を最大化するために、業績ベースと時間ベースの報奨を組み合わせることも可能です。

役員報酬やインセンティブ設計を含む報酬戦略に関して組織に助言を提供しているIan Dawson(Principal and HR Strategy Leader, Deloitte Tax LLP)は、「大抵のファミリーエンタープライズが指標としている3年という期間は、人材の定着という観点でも効果が高く、業績ペースのプランを採用している場合では貪欲な目標設定も可能にします。」と述べています。

ファミリーエンタープライズは、報奨の種類について、株式を付与するのか、それともトラッキングストックとも呼ばれるファントムストックを提供するのか、検討する必要があります。実際の株式を配布すれば、オーナーシップの希薄化が起きることは必然であり、既存株主の利益管理に課題が生じます。そのため、既存株主がファミリーメンバーであることが多いファミリーエンタープライズでは、極めて限られたケースでしか、株式は付与しません。多くのファミリーエンタープライズが一般に好んで採用しているのは、賞与のように一定期間の業績が評価されることで得られるファントムストックや業績連動型キャッシュインセンティブプランの提供です。この種の報奨は、実際の株式と同様に会社全体の価値を捉えた報奨であるため、従業員が価値創出に参加することを可能にします。その一方で、実際にオーナーシップに影響はないため、オーナーが保有する株式の希薄化を防ぐことができます。

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ファミリーエンタープライズの転機:長期インセンティブプランニング [PDF:1.0MB]

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