ファミリーエンタープライズの転機：リーダーの交代と次世代

ファミリーエンタープライズにとって、リーダーが交代する過程は、不安と恐怖、興奮と楽観、あるいはこれらと他の感情が交ざり合った時期となり得ます。ほとんどの場合において、ファミリービジネス、取締役会、そしてファミリーがどれだけの準備ができているかが、リーダー交代の先行きを決めるのです。

本シリーズを通してお伝えしてきた通り、優れたファミリーエンタープライズは強固なガバナンス体制に支えられており、その体制が、ファミリービジネス、ファミリー、そして世代交代を含む多くの重要事項におけるオーナーシップを導いています。優れたガバナンスが確立されていれば、ファミリーは次世代のリーダーを迎えることを心待ちにするでしょうから、リーダー交代に伴う混乱は祝福に置き換わるのかもしれません。

リーダーの交代が迫っている場合、現リーダーは、交代に向けて基調を整えるという重要な役割を担うことになります。時に、旧世代のファミリーリーダーは、次世代に対して、確立された業務慣行から逸脱することなく、事業の継続性を維持していくことを期待することがあります。このような期待は、ファミリービジネスの成長性や革新性を阻むだけでなく、次世代に権限の欠落を感じさせ、リーダーの役割を担う意欲を減退させる可能性があります。しかし、先見の明のあるリーダーは、次世代への交代を、ファミリーのレガシーを堅持しつつも新鮮な考え方を吹き込むことで、ファミリービジネスを向上させる機会として捉えます。

次世代を担うリーダーが自分なりのやり方を見出すことを認めつつ、ファミリービジネスの設立を支えてきた当初の価値観、原則、目的を尊重することとのバランスを取るには、ファミリーとビジネスの現リーダーが、寛容な心と意志を持って世代交代に取り組むことが必要です。そして、それは観察することから始まります。

観察と関与の価値

多くの家庭では、親がロールモデルとなり、価値観や期待値を伝えます。子どもは、親を観察しながら、家族、人間関係、お金、コミュニティ、仕事が自分にとってどのような意味を持つかを学んでいきます。また、自分自身の考え方も形成していきます。ファミリービジネスにおいても、観察は強力な手助けとなります。観察して学ぶ立場にある見習い中のファミリーメンバーは、ビジネスに関する議論に参加することで、貴重な教育を受けています。このように関与させることで、ファミリーメンバーやファミリービジネスのリーダーと価値観やその他の共通点を共有し合い、将来の強固な協力体制につながる関係を構築することができるのです。また、観察することを通じて、将来に直面するであろうプレッシャーに対応するための心の準備ができます。さらには、見習い中のファミリーメンバーが自分なりの方法でどのようにファミリーの努力や取り組みに最善を尽くすことができるかを学ぶことで、ファミリーは世代を超えて起業家精神と責任あるオーナーシップを育むことができるのです。

ファミリービジネスがこれらの全てを実現するにはどうすればよいのでしょうか。創業家は、次世代のリーダーを日々のビジネス運営にどのように巻き込んでいけるかを、考える必要があります。中には、見習い中のファミリーメンバーを取締役会にオブザーバーとして参加するよう促し、取締役会の終了後に質問の時間を設けているファミリービジネスもあります。ビジネスの複雑さに慣れてきたのなら、事業投資、事業の一部を収益化する潜在的機会、企業の持続可能性または社会的責任への取り組みなど、主要なビジネス上の意思決定や活動について認識させることも重要でしょう。このような度合いで次世代を巻き込んでいくことで、リーダーとしての役割を担う前に意思決定能力を養うことが可能となり、合わせてビジネス知識やスキルを強化しながら、インスピレーションやエンゲージメントの機会を生み出すことができるようになります。