調査レポート

ファミリーエンタープライズの転機:資金ニーズの評価

資金調達オプションによる新たな機会の創出

未来志向のファミリーエンタープライズには、新しい産業に向けた多角化、既存事業の拡大、最新テクノロジーの導入など至る所に成長の機会があります。実施のための追加資本が必要になりますが、ファミリーエンタープライズには特有の複雑な問題が生じる可能性もあります。何に、いつ追加資本が必要になるか、そしてどのような方法で追加資本を入手し活用するかについては、ファミリーの力学に大きく影響される可能性があります。

新しい産業に向けた多角化、既存事業の拡大、最新テクノロジーの導入など、ファミリーエンタープライズには、至る所に成長の機会が訪れるでしょう。そして、その場合には追加資本が必要になるかもしれません。

このような機会を捉えることがエキサイティングである一方で、ファミリーエンタープライズに特有の複雑な問題が生じる可能性もあります。何に対して、いつ追加資本が必要になるか、そしてどのような方法で追加資本を入手し、活用するかについては、ファミリーの力学に大きく影響される可能性があります。本シリーズの第1回で説明した通り、明確なガバナンス体制を確立することで、「何を」「いつ」「どのように」行うかについて、事前にファミリーエンタープライズ内の意思統一を図ることができます。これにより、ファミリーエンタープライズは自信と機敏性を持ち、新たな機会を掴む準備ができるようになるばかりではなく、ビジネスのニーズとファミリーメンバーのニーズのバランスが取れるようになっていきます。

John Deering(Managing Director, Deloitte Corporate Finance LLC)は、「ビジネスの資金ニーズに備えることは、戦略の柔軟性を高めることに有用であり、必要に迫られときに、最適なソリューションが何であるかの選択肢が広がる」と述べています。

伝統的な貸付機関と非伝統的な貸付機関によって広がる資金調達の選択肢

かつて、ファミリーエンタープライズには資本入手の選択肢がほとんどなく、結果として、多くの企業が伝統的な銀行に頼っていました。しかし、あいにく商業銀行は保守的で、資金使途を制限することが多かったため、ファミリーエンタープライズが達成できることには限りがありました。その後、債券市場が発展し、非伝統的な新しい貸付機関も登場したものの、ファミリーエンタープライズの多くがこのような選択肢を把握できていないのが現状です。

Deeringは、「民間債券市場は急速に発展しています。近年は、ファミリーエンタープライズの資金ニーズに応えるために、独創的で用途が広い、ノンバンクの代替手段が選択肢として数多く存在しています。」、「これらの選択肢により、与信枠の追加や借り換えなど、状況の変化に応じた柔軟な対応を受けることができます。借入の選択肢を評価する際の共通のテーマは、コストと柔軟性の最適なバランスを見つけることです。」と述べています。

近年の融資の動向を見ると、事業開発会社(Business Development Companies、以下BDC)、ヘッジファンド、保険会社、メザニンファンドがプライベートカンパニーの資金調達でより重要な役割を担うようになっており、民間のレバレッジドファイナンス取引全体の大半を占めるようになっています(S&P Capital IQ)。これらの新興プレーヤーは、買収やその他の成長戦略の推進、オーガニック成長を加速するための資本支出の加速、特別配当のための資金調達、少数株主の買収のため、または債務再編により既存の潜在的な財務制限条項を取り払うために、独創的な資本構成を提供しています。

BDCは、上場株式と債券市場の代替手段を求める適格投資家や機関投資家にとって魅力的な手段として登場した、注目に値するノンバンクの貸付機関です。投資可能な資金、いわゆる「ドライパウダー」の調達額が過去最高となる中、BDCは、第一順位抵当ローン、ユニトランシェ融資、劣後債、仕組み株、株式共同投資などを求めるミドルマーケット企業の間で人気の高い選択肢となりました。

プライベートエクイティファンドもまた、長期的な資金ニーズや株主の流動性目標を評価する際の重要な選択肢として挙がってきています。BDCと同様に、プライベートエクイティファンドも大量のドライパウダーを保有しています。未投資のプライベートエクイティ資本は、2021年9月の時点で約1.3兆米ドルに上り、ファンドマネジャーはこの資本を新たな機会に振り向けなければならないというプレッシャーにさらされています。しかし、2021年を振り返れば、プライベートエクイティによる取引金額の上昇は、大きな話題を呼んでいます。

Phil Colaco(Managing Director, Deloitte Corporate Finance LLC)は、「プライベートエクイティがいつM&Aの原動力に取って代わったかということが大きな話題を呼んでいます。」、「2021年においては、プライベートエクイティファンドがストラテジックバイヤーよりも高いマルチプルを支払っていましたが、このような例は自分のキャリアでは見たことがありません。この1年でプライベートエクイティが支援した取引は増加し、その額は天文学的なものでした。」と述べています。

 

資金ニーズの評価の重要性

キャピタルソリューションの普及は、ファミリーエンタープライズに自由と独創性を与えることから、それらの企業にとって確かに朗報でしょう。しかし、これらの選択肢を最大限に活用するにあたって、内部的要素と外部的要素の両方が作用することから、適切なタイミングを見極めることが重要です。

ファミリーエンタープライズにおいては、リーダーの交代、懸案となっている分配金の要件、主要なイニシアティブなどが、資本入手の最適なタイミングを決定する契機になるかもしれません。同様に、経済動向、政治情勢、労働力問題等の環境要因も、現時点での優先すべきソリューションを判断する際の重要な考慮事項となるでしょう。また、ファミリーエンタープライズにおいて、資金提供者と重要な関係を構築するために必要な時間を考慮に入れることも必要でしょう。オーナーが、初期の融資者との間に信頼関係を築くために時間を費やしたように、ノンバンクの資金提供者と知り合うには、関係を構築していくことが重要です。

そこで役立つのが、資金ニーズの評価です。この評価は全て、将来の資金調達に備えるために行うもので、ファミリーエンタープライズとファミリーのリーダーが資金調達の目標や優先順位を決定し、最適なタイミングを見極め、資金調達の選択肢を検討する上で役立ちます。ファミリーエンタープライズでは、資金ニーズの評価を通じて、一代目、二代目、さらには三代目のファミリーがニーズについて話し合うことを促し、それによって、必要なときに迅速かつ十分な情報に基づいた意思決定ができるようになります。

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ファミリーエンタープライズの転機:資金ニーズの評価 [PDF: 777KB]

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