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CFO Insights 2021 January

職場における多様性(ダイバーシティ)

CFOが直面する課題に関しての最新情報や知見を毎月発信しています。今月は、職場におけるダイバーシティについて考えていきます。なぜ職場においてダイバーシティ&インクルージョンが重要なのでしょうか?

「ダイバーシティ&インクルージョン」 について耳にする機会は多いと思いますが、このテーマは大企業における優先事項の上位5項目に毎年含まれています。

最も基本的な定義として、「ダイバーシティ」とは、人種、性別、宗教、民族、性的指向、年齢、教育など、さまざまな属性の労働者を雇用する多様性を意味します。「インクルージョン」はそれらを一歩推し進め、職場内で多様性(=ダイバーシティ)が奨励、尊重、評価されている状態のことを指します。

「ダイバーシティ」 の捉え方が変化し、雇用や昇進に多様性や受容性が考慮されるようになったのは1970年代初頭以降です。アフリカ系アメリカ人のような少数派民族を支援する動きを契機として多様性が重視され始めたとされていますが、それが過去50年間で全ての少数派グループにまで拡がりました。数年前までは、“LGBT”という言葉が組織のダイバーシティの取り組みの中でよく使われていましたが、現在では他の少数派の人たちも包括して“LGBTQIA”と呼ばれています。

また、ダイバーシティの定義は国によって異なることを理解することも重要です。アメリカのように、移住者を受け入れてきた国を例にとると、日本は大きく違って見えるかもしれません。

「ダイバーシティ」の定義

ダイバーシティの主要な論点は、それをどのように定義し、認識するかだと言えます。狭義の定義では、ダイバーシティは外見上での非差別的な法規が反映されています。例として以下が挙げられます。

  • 性別:性別による偏見
  • 年齢:年齢または業務経験年数
  • 人種:“アフリカ人”や“韓国人”など特定の国籍、または特定の外見をもつ人種
  • 性的指向:ゲイ、レズビアン、バイセクシャル、トランスジェンダー、同性愛者、インターセックス、または無性愛者 (LGBTQIA)
  • 文化・宗教:特定の社会・宗教に属する人
  • 障がい:精神的及び身体的障がい。今日では企業による障がい者支援および活躍推進のための障がい者雇用が行われています。

表層レベルのダイバーシティは容易に認識可能ですが、深層レベルのダイバーシティは長年の認識や価値観に由来するため識別が困難です。次の例を考えてみましょう。

  • 面接官がフィットネス信者のため、面接で肥満の候補者を断る
  • 他の候補者が同様の経験/資格を持っているにもかかわらず、面接官と同じ大学を卒業した候補者を採用する
  • 直近で別の女性チームメンバーが産休に入った事例があるため、同様のパフォーマンスにも関わらず女性従業員ではなく男性従業員を昇格させる

この例に際限がないのは、偏見が意識的あるいは無意識的に重大な意思決定の要素として働いているためです。これは「アンコンシャス・バイアス」 と呼ばれ、組織におけるダイバーシティの戦略と実行を妨げるものです。

GoogleやIBMは、D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)の分野で影響力のある変革を行い、好事例になるとともに、ベンチマークになりました。

Googleは職務記述書内の必要条件として、経歴の上限や学歴を定めていません。「4年以上の経験、技術学士号取得または関連業務の経験があること」のみを条件とし、年齢、経歴、学歴におけるバイアスを持たないようにしています。

IBMは、出産による休職によって仕事復帰に苦労している女性のために、「return to work」 プログラムを開始しました。このプログラムの参加者は、3か月間のトレーニングを通じて、実際のクライアント業務遂行に当たって必要な最新技術やスキルを習得することが可能です。これはジェンダーギャップを埋めるためにIBMが積極的に投資しているプログラムです。

なぜ多様性が重要なのか?

先進企業はダイバーシティ&インクルージョンに関するポリシーを制定しています。一部は国の法律によって義務付けられていますが、企業によっては競合他社の基準に合わせて追加で制定しているところもあります。

しかし、なぜ企業にダイバーシティが必要なのでしょうか。雇用主と従業員にとってのメリットは何でしょうか。私たちが集中すべきなのは利益を増やすことではないのでしょうか。

ある民間企業は、企業内の多様性のレベル(管理者層の女性の人数、人種や民族の多様性)と同社の業績との関係に注目することで、この問いに答えようとしています。この調査では、英国、カナダ、米国、ラテンアメリカの、さまざまな業界の366社のデータを分析しました。この調査によると、競合他社よりもジェンダーの多様性が高い企業は、自国産業の中央値を上回る収益を上げる可能性が15~35%高いことがわかりました。ただし、これは女性の人数や従業員の多様性が増加すれば収益が増加するという意味ではありません。

上記とは別の2017年の調査では、ダイバーシティはイノベーションの重要な推進要因であり、収益を19%増加することを示しました。これは、多様性のある企業が、世の中の変化するニーズに合わせて、より適切な製品・サービスを顧客向けに開発できることを示しています。機敏性と適応性が、今日のダイナミックな世界でビジネスを成長させるための鍵となります。どちらの要素も、多様なバックグラウンドを持つチームにより創出されたものであり、結果としてクリエイティブで適切なアイデアを生み出すことができたのです。

企業は、多様な従業員に活躍する機会を与えることで、彼らのアイデア、スキル、エンゲージメント面から恩恵を受けることができ、従業員定着率の向上も期待できます。

変革を起こす

ダイバーシティ推進のために、多くの企業は専門チームを作り、変革プログラムを実行しています。ハーバード大学のDavid Thomas教授は、最も効果的に推進している企業は、ダイバーシティを採用、評価、満足度、キャリア、トレーニング、スキルアップといった人材開発のすべてのプロセスに取り入れている企業だと論述しました。

一定期間をかけてインパクトのある変化を徐々に起こすことが、大きな成果をもたらすことに繋がります。ダイバーシティの確保を短期的な目標にすることはできません。時世や国、地域の状況に応じて対応することが重要です。例えば、黒人が大多数を占めるナイジェリアでは、黒人に対する人種差別はありませんが、多民族国家のため、様々な民族の人々を雇用し、民族のダイバーシティを確保することが求められます。このように、ダイバーシティの定義は時世や国の状況により変化します。

多様なリーダーシップの下では、多様なメンバーで構成されるチームが最も有効です。リーダーが公正さと受容さを示すと、従業員はより意欲的に従事し、有能な人材を引きつける組織文化を作り出します。

ただし大切なのは、個々人がインクルーシブな思想を持つこと、アンコンシャス・バイアスが働いていないか意識すること、多様性と相互関係について学ぶことだということを忘れてはなりません。お互いの違いを尊重し合い、他者の意見を聞き、 時として、「間違っている」 と声を発することも重要なのです。

参考文献

  1. Mckinsey&Company: “Diversity Matters”
  2. Forbes: “The benefits of creating a diverse workforce”
  3. Yale insights: "What do leaders need to understand about diversity?"
  4. SHRM: “6 ways of building an inclusive workplace”
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