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ISSBは、IFRS S1号「サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的要求事項」を公表

IAS Plus 2023.06.26  

ISSBは、IFRS S1号「サステナビリティ関連財務情報開示に関する全般的要求事項」を公表した。IFRS S1号は、一般目的財務報告の主要な利用者に有用なサステナビリティ関連のリスク及び機会に関する開示のために、全般的要求事項を定めている。IFRS S1号は、2024年1月1日以後開始する事業年度に発効する。

国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)は、IFRS S1号「サステナビリティ関連財務情報開示に関する全般的要求事項」を公表した。IFRS S1号は、一般目的財務報告の主要な利用者が企業に資源を提供することに関連する意思決定を行う際に有用なサステナビリティ関連のリスク及び機会に関する開示を要求することを目的として、全般的要求事項を定めている。IFRS S1号は、2024年1月1日以後開始する事業年度に発効する。

背景

2021年11月(デロイト トーマツのWebサイト-※1)に、ISSBは、投資者の情報ニーズを満たす高品質なサステナビリティ開示基準の包括的なグローバル・ベースラインを開発するために創設された。2022年3月(デロイト トーマツのWebサイト-※2)に、ISSBはIFRSサステナビリティ開示基準の最初のドラフト(IFRS S1号及びIFRS S2号)の協議を開始した。120日の協議期間の後、ISSBは基準案における提案を再審議し、本提案を最終化することを決定した。

 

主要な要求事項

IFRS S1号における主要な要求事項は、公開草案ED/2022/S1「サステナビリティ関連財務情報開示に関する全般的要求事項」における提案を広範に反映しているが、次の分野について変更を導入している。

  • 「企業価値」の概念
  • 要求される報告の幅広さ
  • サステナビリティ関連のリスクまたは機会に対する「重大な(significant)」の用語の使用
  • (他の基準設定主体の作業を使用することを含む)重要性がある(material)サステナビリティ関連のリスク及び機会及び開示する情報の識別
  • 重要性(materiality)の評価の適用
  • つながりのある情報(Connected information)
  • 報告の頻度(または時期)
  • 比較情報及び更新された見積り
  • 要求事項のプロポーショナリティ(proportionality)
  • サステナビリティ関連及び気候関連のリスク及び機会が、企業の財務業績、財政状態及びキャッシュ・フローに与える、現在の及び予想される(anticipated)財務的影響

主要な要求事項は次のとおりである。

  • 目的:IFRS S1号の目的は、一般目的財務報告の主要な利用者が企業に資源を提供することに関連する意思決定を行う際に有用なサステナビリティ関連のリスク及び機会に関する開示を要求することである。IFRS S1号は、短期、中期及び長期にわたる企業のキャッシュ・フロー、ファイナンスへの企業のアクセス及び資本コストに影響を与えることが合理的に見込まれる、すべてのサステナビリティ関連のリスク及び機会に関する情報を開示することを企業に要求する。
  • 範囲: 企業は、IFRSサステナビリティ開示基準に準拠してサステナビリティ関連の財務開示を作成し報告する際に、IFRS S1号を適用することを要求される。企業は、企業の関連する一般目的財務諸表がIFRS会計基準、または他の一般に公正妥当と認められた会計原則または慣行(GAAP)に準拠して作成されるかどうかに関係なく、IFRSサステナビリティ開示基準を適用することができる。
  • 概念上の基礎:サステナビリティ関連情報に有用性があるためには、関連性(relevant)があり、かつ、それが表現しようとするものを忠実に表現しなければならない。その情報に比較可能性があり、検証可能性があり、適時性があり、かつ理解可能性がある場合、サステナビリティ関連情報の有用性は、補強される。
  • 適正な表示:完全な1組のサステナビリティ関連財務開示は、企業の見通しに影響することが合理的に見込まれるすべてのサステナビリティ関連のリスク及び機会を適正に表示する。
  • 重要性(Materiality): 短期、中期及び長期にわたる企業の見通しに影響を与えることが合理的に見込まれる、サステナビリティ関連のリスク及び機会に関連する重要性がある情報を開示することが要求される。その情報を省略したり誤表示したり覆い隠したりしたときに、一般目的財務報告の主要な利用者が、当該報告に基づいて行う意思決定に影響を与えることが合理的に予想される場合には、情報に重要性がある(material)。
  • 報告企業: 企業のサステナビリティ関連財務開示は、関連する一般目的財務諸表と同じ報告企業に関するものであることが要求される。
  • つながりのある情報: 企業は、情報が関連する項目とのつながり及び企業が提供する開示のつながりを、一般目的財務報告の利用者が理解できるようにする方法で情報を提供することが要求される。
  • コア・コンテンツ: 企業は、ガバナンス、戦略、リスク管理、指標及び目標に関する開示を提供することが要求される。
  • ガイダンスの情報源
    サステナビリティ関連のリスク及び機会の識別: 企業は、IFRSサステナビリティ開示基準を適用し、産業別のSASBスタンダードにおける開示トピックを参照し、その適用可能性を考慮することが要求される。さらに、企業は、水及び生物多様性関連の開示についてのCDSBフレームワーク適用ガイダンス、一般目的財務報告の利用者の情報ニーズを満たすように要求事項が設計されている他の基準設定主体による直近の公表文書、及び同じ産業または地域においてオペレーションを行う企業によって識別されたサステナビリティ関連のリスク及び機会を参照し、その適用可能性を考慮することができる。

    適用される開示要求の識別: 企業は、サステナビリティ関連のリスクまたは機会に具体的に適用されるIFRSサステナビリティ開示基準を適用することが要求される。サステナビリティ関連のリスクまたは機会に具体的に適用されるIFRSサステナビリティ開示基準が存在しない場合、企業は、一般目的財務報告の利用者の意思決定に関連性があり、サステナビリティ関連のリスクまたは機会を忠実に表現する情報を識別するために判断を適用することが要求される。当該判断を行う際に、企業は、SASBスタンダードに含まれる開示トピックに関連する指標を参照し、その適用可能性を考慮することが要求される。また、IFRSサステナビリティ開示基準と矛盾しない範囲で、水及び生物多様性関連の開示についてのCDSBフレームワーク適用ガイダンス、一般目的財務報告の利用者の情報ニーズを満たすように要求事項が設計されている他の基準設定主体による直近の公表文書、及び同じ産業または地域における企業が開示する指標を含む情報を参照し、その適用可能性を考慮することができる。さらに、企業は、IFRS S1号の目的を企業が満たすことを当該情報源が支援し、IFRSサステナビリティ開示基準と矛盾しない範囲で、グローバル・レポーティング・イニシアティブ(GRI)スタンダード及び欧州サステナビリティ報告基準(ESRS)を参照し、その適用可能性を考慮することができる。
  • 記載場所及び報告の時期: 企業は、IFRSサステナビリティ開示基準により要求される開示を、一般目的財務報告の一部として提供することが要求される。企業は、サステナビリティ関連財務開示について、関連する財務諸表と同時に報告することが要求される。企業のサステナビリティ関連財務開示は、関連する財務諸表と同じ報告期間を対象とすることが要求される。
  • 比較情報: 企業は、報告期間に開示されるすべての金額について、前期に係る比較情報を開示することが要求される。そのような情報が、報告期間についてのサステナビリティ関連財務開示の理解に対して有用である場合、企業は、説明的及び記述的なサステナビリティ関連財務開示情報についての比較情報を開示することが要求される。
  • 準拠表明:サステナビリティ関連財務開示がIFRSサステナビリティ開示基準のすべての要求事項に準拠している企業は、 準拠の旨の明示的かつ無限定の記述を行うことが要求される。開示がIFRSサステナビリティ開示基準のすべての要求事項に準拠している場合を除き、企業は、サステナビリティ関連財務開示がIFRSサステナビリティ開示基準に準拠している旨を記述することは認められない。
  • 判断:企業は、金額の見積りに伴う判断と共に、企業がサステナビリティ関連財務開示を作成するプロセスで行っており、当該開示に含める情報について最も重大な影響を与える判断を、一般目的財務報告の利用者が理解することができる情報を開示することが要求される。
  • 不確実性: 企業は、サステナビリティ関連財務開示において報告される金額に影響を与える最も重大な不確実性を、一般目的財務報告の利用者が理解することができる情報を開示することが要求される。
  • 誤謬: 企業は、重要性がある過去の期間の誤謬について、そうすることが実務上不可能性ない限り、開示された過去の期間の比較対象の金額を修正再表示することに訂正することが要求される。

 

発効日及び経過措置

企業は、IFRS S1号を2024年1月1日以後開始する年次報告期間に適用することが要求される。早期適用は認められる。企業がIFRS S1号を早期適用する場合には、その旨を開示すること及び同時にIFRS S2号を同時に適用することが要求される。

次の移行上の救済措置が利用可能である。

  • 比較情報: 企業は、IFRS S1号を適用した最初の年次報告期間において、比較情報を開示することは要求されない。
  • 報告の時期: 企業がIFRS S1号を適用した最初の年次報告期間において、企業は、(IFRS S1号において定められているように)関連する財務諸表を公表後に、サステナビリティ関連財務開示を報告することが認められる。
  • 気候以外のサステナビリティ関連のリスク及び機会に関する情報: 企業がIFRS S1号を適用した最初の年次報告期間において、企業は、(IFRS S2号に従った)気候関連のリスク及び機会のみについての情報を開示し、その結果、気候関連の財務情報の開示に関連する範囲のみのIFRS S1号についての要求事項を適用することが認められる。

 

さらなる情報

以下の追加情報がIFRS財団及びIAS PlusのWebサイトから入手可能である。

 

 

※1》 IAS Plus「IFRS財団は、新しいサステナビリティ基準審議会を創設する」(デロイト トーマツのWebサイト)
※2》 IAS Plus「サステナビリティ報告の全般的要求事項に関するISSB公開草案」(デロイト トーマツのWebサイト)

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