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投資的施策としてのブランディングとその効能
中長期的にビジネスの成長を左右するブランディングの位置付けとそのヒント
すべての施策は単年の費用対効果で判断すべきである、という考え方でブランディングを捉えていないでしょうか。従来型の企業運営だけでは通用しない不確実な社会環境の中で、自社の持つ事業やサービスやプロダクトの成長の後押しをしてくれるブランディング施策は、中長期を見据えた設計と継続的活動が不可欠です。ブランドはその企業にとって、資源となり、資本となり、継続的な成長を支える資産となります。本稿では、企業の成長に不可欠なブランディングの位置付けを投資として捉え、その役割と重要性について解説します。
ブランドは「つくる」ものか、「つくられる」ものか?
現在はデジタルの時代、ソーシャルメディアの時代である。以前は、企業活動においてブランディング活動は、「いいものをつくる」=「ブランド化する」という一方通行で行われていた。しかし、あらゆる物事が生活者間で共有され、多角的に評価される現代の環境下において、ブランドは生活者によって「つくられる」ものであると言える。もはや、いいものを作っていれば勝手にブランドが構築される時代は過ぎており、生活者のニーズに対して提供しているサービスやプロダクトの機能的、情緒的価値にブランドが応えられているかどうか、そして、そのことに対して絶え間なく向き合い、改善、改良のサイクルを重ねているかどうかが、評価として生活者間で共有され、ブランドとして積み重なっていくのである。
ブランディングとは、いきなり企業のサービスやプロダクトブランドへのファン化を狙うものではなく、顧客の中にある文脈やニーズを把握し、その中で、固有のブランドを浸透させる活動である。サービスやプロダクトの作り方も、顧客の捉え方も、チャネルや価格設定も、それぞれの顧客の気持ちに寄り添って設計する必要がある。
ブランドはもはや生活者によって「つくられる」ものなのである。では、そのブランドの構成要素とは何だろうか。
ブランドを形成する要素
ブランドは「識別記号」と「知覚価値」によって形成される。識別記号とは、生活者がA社の商品とB社の商品の違いを認識する記号のようなもので、例えば、ロゴマーク、キーカラー、サウンドロゴと言われる特徴的な音声、商品の形、匂いや手触りなど、つまり、五感で感じられるすべてである。私たちの生活の中には、コンビニエンスストアの色、コーヒーチェーンのロゴマーク、入店時のサウンドロゴや店内に流れる音楽、飲料やワインのボトルの形状など、あらゆる識別記号に溢れており、無意識に商品やサービスのブランドを識別することに役立っている。そして、こうした特徴的な識別記号が、例えば「美味しい」「気持ちいい」「清々しい」「刺激的」といった知覚価値と結びつき、見ただけで、その商品やサービスから得られる自分の体験や便益を想起させる。私たちは、識別価値と知覚価値を無意識に結び付け、そのブランドがどういった価値を自分に提供してくれるかを判断し、ブランドとして認識し、定着させているのである。
更に、この知覚価値にはブランドが提供するものと生活者が主語として語られるべきものが存在する。例えばその商品やサービスがいかに技術的に先進的で優れていたとしても、その機能が生活者のニーズ、インサイトに応えていなければ反応は得られない。ブランディングにおいて、ブランドサイドと生活者発想における知覚価値の対化は非常に重要だと言える。
経営テーマとしてのブランディング
企業の経営イシューとしてブランディングが注目されているのは間違いない。しかし、その活動は必ずしも短期的な「売上」を約束するものではない。マーケティングコミュニケーションの中にはデジタルマーケティングを中心に、短期的な売上に寄与する、あるいは単年度の利益貢献に効果的な手法が多々あるが、ブランディングやブランドマネジメントの活動は意味合いが違う。
ブランディングとは、様々な手法を用いて継続的に識別価値と知覚価値を結びつけ、ある種の人格としてブランドイメージを確立する活動である。そしてその効果は、生活者に対する企業や事業ブランドの定着だけでなく、BtoBにおいても営業支援や販売会社等の協力機関、外部を含むサプライチェーン全体に波及し、更に、採用や投資家へのメッセージの根幹となり、従業員やその家族に対しても、信頼性やロイヤリティ、モチベーションをもたらしてくれる。そして、このような施策は短期的に結果を求めるべきことではなく、市況や環境の変化が激しい時代だからこそ、中長期的視点に立って検討し、実行し続けなければならないのだ。
中長期を見据えて活動することで、たとえ時代が変わり、表現やコミュニケーションの手法が変化しても、生活者の記憶にポジティブなイメージとして残り続け、やがてそのブランドのビジネスの基盤、つまり、資産として保有し、活用することが可能になる。ブランディングとは、今期売上を最大化するための施策ではなく、未来の資産をつくるための投資的施策であり、単年度の費用対効果ではなく、中長期を見据えた投資対効果を判断材料に取り組むべき活動である。年度で回収まで設計できる費用的施策はいわば損益計算書的な評価で判断できるが、ブランディングは継続的に続く投資的施策であり、中長期の貸借対照表的な思想で検討、評価すべきである。
終わりに
ブランドとは、ヒト、モノ、カネと言われる経営資源と同義であり、多岐、かつ、大きいほど事業活動に有利に働くものだ。そして、ブランディングによって得られるブランド力は、継続的な活動によって積み上がり、翌年度以降にも持ち越せる無形資産とも言える。それはビジネスの基盤となり、企業の連続的な成長に貢献するのである。
ブランディングは短期的なキャンペーンや広告だけで形成できるものではなく、継続的かつ中長期を見据えたあらゆる施策の設計、活動によるものであることを意識しなくてはならない。そして、単にマーケティングやコミュニケーションの領域を越えて、影響の範囲はヒト、モノ、カネのすべてに影響する。それはつまり、企業の経営の根幹であり、経営テーマそのものなのである。
(本稿は過去ご支援してきた企業実績・事例や昨今の情勢をもとに考察した私見であることをお断り申し上げます)
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コロナやデジタル化等の外部環境の劇的な変化において、経営戦略に基づきながら、顧客が求める商品とサービスを通した顧客体験価値(CX)の探求を支援します。戦略的価値のある資産として、ブランドを構築し、顧客の心に長く残る価値の創造を支援します。
執筆者
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
ブランディング アドバイザリー
マネージングディレクター 白土 学