最新動向/市場予測

国内主要都市宿泊市場動向シリーズ 第五回 札幌

札幌宿泊・観光業界の動向を振り返りながら今後の見通し、必要な施策を考察する。

札幌では2030年に冬季オリンピック・パラリンピックを見据え、さらに2030度末には北海道新幹線の札幌駅延伸が予定されており、現在はそれに向けた不動産開発、そしてホテル開発も活発化している。本レポートでは過去からの宿泊需要動向を振り返りながら、今後、札幌ホテルマーケットで宿泊業が推進すべき施策を探った。

札幌ホテル市況

新型コロナ感染拡大前の2019年の札幌市内ホテルの年平均稼働率は全国平均と比較し高めに推移したが、同年におけるADRは全国平均と比較し低い状況だった。

コロナ禍を経て2022年となり稼働率は順調に回復していた。全宿泊者におけるインバウンド比率が比較的高い都市であるため、今後のインバウンド回復に伴い稼働は高まるものと想定している。一方でADRは依然として全国平均を下回っている。2023年に入っても同様の傾向となっている。稼働は順調だがADRが低いという状況はコロナ前後で変化はない。

札幌ホテルADRにかかる考察

札幌市内ホテルのADRは前述したように全国比で低調に推移している。様々な公表レポートでも考察されているように、主な要因として下記3つが挙げられる。

①冬季はどうしても観光客が減るので単価を下げざるを得ない(2月の雪まつり期間は除く)

 

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②開業後一定年数経過している古いホテルが多く、客室もオールドタイプなので単価を上げにくい

③宿泊主体型ホテルや民泊が多く、フルサービス型(複数のレストランや宴会場を付帯するホテル)を含めた各宿泊施設の差別化ができておらず各カテゴリーで適切な価格を追求できていない

③の差別化ができていない状況は比較的リーズナブルな施設に需要が偏ることにつながる。フルサービス型、宿泊主体型、民泊がそれぞれの特徴や強みを十分に発信することができておらず、利用者にとってはどの宿泊施設もそれほど変わりなく感じられるからだ。そのような価格帯に引きずられる形で、市内ホテル全体のADRが低廉化している。競合と比較して自ホテルが有する価値は何か、自ホテルが有する強みは何かを再確認して、それをわかりやすく発信し差別化することが重要である。その軸が強固であれば閑散期も含めて強気の販売単価を訴求できるのではないだろうか。

また札幌エリアに限ったことではないが、ホテルは客室タイプ毎に適切な価格で販売できているだろうか。オーバーブッキングを当然のこととして予約を受け入れ、安易に無料アップグレードするような体制もADRを低廉化させる要因であると考えられる。ツイン客室をシングル価格で販売するようなことはできる限り抑え客室タイプ相応の販売単価を得られるよう、販売量と単価のコントロールを精緻化することが必要であろう。

今後の札幌ホテル市場動向について

今後、2030年には冬季オリンピック・パラリンピックを見据え、さらに2030度末には北海道新幹線の札幌駅延伸が予定されている。現在はそれに向けた不動産開発が行われているが、ホテル開発もラグジュアリーからバジェットまで引き続き市内各所で進んでいる。ラグジュアリーが参入することで国内外富裕層を含め多様な受け入れ環境が整いつつあるなか、各ホテルがターゲットを再確認しマーケットにおける独自のポジショニング設定や差別化を実施していくことで市内ホテル市場は活性化する可能性がある。言い換えれば、このタイミングで自ホテルのあるべき姿を再確認し、戦略をもって取り組めるホテル事業者は、来たるべき将来のマーケットにおいて存在感を増していくものと考えている。

※注釈:本文において「ラグジュアリー」「バジェット」は価格帯による分類であり、ラグジュアリーは超高級、バジェットは低料金のホテルを意味している。

独自のポジショニング設定のために

我々がよく提案しているのは、自ホテルの置かれている状況をよく理解することを目的としたSWOT分析の実施である。現状認識を深めることで、将来のあるべき姿を描くことができると考えている。

Strength、Weakness(自ホテルの強み、自ホテルの弱みの抽出)

  • 客室、レストラン、宴会、その他の各部門において、ゲストから評価されている、またはクレームを受けている内容(顧客アンケート、OTA口コミから抽出するなど)
  • 競合ホテルとの比較で秀でていること、劣ること(立地環境、施設スペック、サービス品質、料理内容など)
  • 顧客基盤の有無(会員数規模やコアとなる顧客の存在、年齢層など)
  • ホテルPLにおいて業界水準比良い値、悪い値を示す部門、さらには科目とその理由

Opportunities、Threats(市場の機会、市場の脅威の把握)

  • 「ホテル」に限定せず、「食」「アパレル」等消費者のトレンドを考察することで、ホテルの「進化」の背景を考える(ファッション誌等を過去から現在まで見て消費者ニーズの変化を抽出するなど)
  • ホテルを楽しむ客層を想定し、その価値観の未来の変化を考察する
  • 国内外専門誌のアワードやランキングからベンチマークすべきホテルを抽出し、各ホテルでの評価ポイントやコンセプト、ファシリティ、デザインの特徴を整理する
  • 近隣および広域の観光スポットの趨勢、地域再開発、新規交通網の整備等、周辺環境の将来像をイメージする
  • 新規開発ホテル動向を確認する

上記事項をサンプルに自ホテルを取り巻く状況を理解し、10年後や20年後にどうありたいか、そのために今から何を自ホテルの強みとして磨き、アピールポイントとしてどのように発信していくのかを考えることが重要だ。

また市場の機会では、他ホテルやエリア内外の観光スポットとの協力のもとでできることはないか、またはメディアと協力できることはないかなど、他社と連携することで面的に魅力あるコンテンツを作り出すための情報を収集するような観点もあると創造性や独自性の面から良いのではないか。

【執筆者】
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
不動産アドバイザリー ホテルチーム
大堀 顕司

※上記の社名・役職・内容等は、掲載時点のものです。

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