最新動向/市場予測

国内主要都市宿泊市場動向シリーズ 第六回 京都

京都の宿泊業界の動向を振り返りながら、今後の開発見通しを考察する。

2019年から2024年春までの京都ホテル市況

日本有数の観光地である京都市の宿泊市場は既にコロナ禍での需要減少の影響から回復している。京都観光協会「京都観光データダッシュボード」のデータによると、2024年3月のRevPAR(客室1室あたりの収益)は18,592円とコロナ前2019年同月の14,607円を3,895円上回っている。内訳としてはOCC(稼働率)が81.1%で2019年同月比▲3.9%、ADR(平均客室単価)が22,925円で2019年同月比+5,740円である。全国的に2022年後半からADRは順調に上昇したもののOCCの回復が遅れている状況が続いてきたが、コロナによる最初の緊急事態宣言から約4年を経て漸くOCCも回復しつつあるといえる。この宿泊市場の回復には、インバウンド宿泊客の増加が寄与していると考えられる。2024年4月の京都市の延べ宿泊客数はインバウンド客69万人、国内客29万人の合計98万人であり、2019年同月の62万人を大幅に上回っている(京都観光協会「京都観光データダッシュボード」)。とりわけインバウンド宿泊客数は2019年同月比186%と増加している。これだけ宿泊数が増加している背景には、需要増だけでなく宿泊施設の供給側の変化もあり、コロナ禍での開発状況をみていきたい。

【図表:京都市のOCC、ADRの月次推移】

 

近年の開発傾向と今後の展望

京都市では、インバウンドの追い風を受けて2015年頃から宿泊施設の開発が進んでいた。京都市「旅館業法に基づく許可施設一覧」および、厚生労働省「衛生行政報告例」によると、2015年の京都市のホテル・旅館客室数は26,297室であるのに対し、2023年は42,678室と約1.6倍に増加している。1棟当たりの平均客室数は2015年の49室から2023年は67室と約1.4倍に増加しており、京都特有の建物の高さ規制やデザイン規制がある中でも中程度の規模の確保がされているようだ。

また、同データを京都府全域に広げて比較すると、京都市内の開発速度の速さが際立つ。下図の上段に、京都府の市郡別の許可施設数と許可年度の内訳、下段に京都市内の許可施設数と許可年度の内訳を示している。京都市を除く京都府では、2024年3月末時点のホテル・旅館軒数は353軒で、その内2015年以降の10年以内に新規許可された軒数は59軒と全体の17%程度である。一方、京都市内の2024年3月末時点のホテル・旅館軒数は638軒、その内2015年以降の10年以内に新規許可された軒数が296軒と全体の46%を占める。現在運営中の宿泊施設の約半数が、10年以内に新規開発もしくはリニューアル等がされていることがみてとれる。

【図表:京都府の旅館業法に基づく許可施設数(市区別)】

 

但し、こうした傾向も2023年頃から変化が表れている。近年京都市内のホテル・旅館の客室数は年間5%~15%増で推移していたが、2023年は前年比0.2%とほぼ横ばいとなっている。要因としてはコロナ禍で開発計画を中断したり、長引くコロナ禍での需要減に耐え切れず廃業したりといった様々な影響が考えられるが、主要なエリアの開発が一段落し、魅力的な土地が収益に見合う価格で確保し辛くなったことも一因と捉えられる。京都市の地価は2013年にプラスに転じて以降上がり続け、コロナ前の2019年の地価変動率は13.4ポイントと全国の2.8ポイントを大幅に上回っていた(出所:国土交通省「地価公示」)。加えて工事費も高騰しており、今まで通りのやり方では収支が合わず前に進めない開発計画も多数あったと推察する。

【図表:京都市のホテル・旅館軒数と地価変動率の推移】

 

宿泊客目線で捉えれば、近年の開業ラッシュのおかげでバラエティ豊かなホテル・旅館が揃い、選択肢の幅が広がった。新ブランドの一号店や外資系ブランドの日本初出店の場として選ばれることも多く、不足しているといわれているラグジュアリーホテルも増加しつつある。一方で、和模様や竹材、畳風のデザインでわかりやすく京都らしさを表現し、「地元の文化を取り入れた宿泊施設」を謳う和風ホテルは画一的にみえるものも散見される。これだけの数の宿泊施設があれば、その中で唯一無二であることは難しいが、丁寧にその土地らしさとブランドらしさを深堀し、それを掛け合わせることで、新たな価値をもつホテルが求められる。

また、全国的には地方への出店が進んでいる。京都でも、先の図に示した通り京都市外ではまだ新規出店数が少ないことから、今後は北部などでの計画が進むと考えられる。観光地として確立していない地域は、まとまった土地の確保が比較的容易で競合が少ないメリットがあるものの、需要予測が難しく、宿泊施設自体が目的地になるようなコンセプトや施設構成が必要になる。また、自治体との協力や、地元文化や産業の活性化、ホテル周辺の観光資源の整備といったESGを意識した幅広の視点がより必要になってくる。2003年の「観光立国宣言」から20年が立ち、観光業に様々な形でかかわってきた人材は増加しており、その知見を生かした宿泊施設づくりに期待したい。

(2024/7/3)

【執筆者】
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
不動産アドバイザリー THL(トラベル・ホスピタリティ・レジャー)
渡辺 彩未

※上記の社名・役職・内容等は、掲載時点のものです。

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