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コマーシャルバンキング業界の未来

未来を切り開くための新たな羅針盤を探し求めて

商業銀行はマクロ経済が融資需要に与える影響や、顧客関係でデジタル化が果たす役割の増大、そして信頼できるアドバイザーとしての銀行の役割強化など、多くの変化に対処しています。商業銀行が自らの未来を再定義するためには何をするべきでしょうか。

商業顧客が不確実性という雲の合間を切り抜けるための支援

商業銀行は、警戒心と高い感応度を持って2023年を展望しています。金融政策の引き締めやマクロ経済の不確実性は、複数の業界で企業の成長に、より大きな負荷を課しています。

商業銀行事業における競争は、ますます高まりつつあります。実利主義的な理由から、多くの法人顧客は、銀行取引を多数の金融機関へ拡大する傾向があり、それが顧客シェアをめぐる競争に拍車を掛けています。さらには、ノンバンクが特別目的会社スキームのレバレッジドバイアウトへの融資を増やしており、シンジケート形式のレバレッジドローン市場のシェアを銀行から奪っている状況です。

その対策として、多くの銀行は自分の縄張りを守り、顧客シェアを拡大させる戦略を実施しています。しかしながら、顧客の進化するニーズを鑑みると、顧客シェアの拡大は多くの金融機関にとって難題となる可能性があります。このような中、商業銀行がより多くの顧客ビジネスを獲得するには、他に何をするべきでしょうか。

私たちは、顧客の財務ニーズや期待、そしてメインバンク(自社の金融取引で利用頻度の高い、ローンやクレジットラインを優先的に維持している銀行)に対する認識を把握することを目的に、100名以上の法人経営幹部を対象に調査を実施しました。調査結果と一部の銀行経営陣へのインタビューから明らかになったのは、顧客の期待と銀行のサービス品質の間にはギャップがあるということです。
 

高い信頼を得るための、リレーションシップマネージャーの強化

リレーションシップマネージャー(RM)は何年も費やして顧客との関係を開拓し、多くはそれを非常に大切にします。ところが、担当するRMが別の銀行に転職したら、自社もメインバンクを切り替えるだろう、と回答した経営幹部はわずか10%でした。

経営幹部は必ずしもメインバンクに不満足ではありませんが、メインバンクの業界知識と知見が「非常に良い」または「素晴らしい」と回答したのはわずか26%でした。多くの経営幹部は、信頼関係を構築するために、RMが技術スキルと対人スキル(例えば先見性と解決志向)の高度な融合をもたらすことを期待しています。しかし、そうした期待に応えることは口でいうほど簡単ではなく、RMは変化に抗い、自分たちの昔のやり方でやりたいと思っていることが銀行経営陣へのインタビューから明らかとなっています。

RMが顧客へより多くの付加価値を提供するには、データとテクノロジーが不可欠になるでしょう。RMがデータとテクノロジーを駆使する能力を備えれば、日常的な業務タスクを行う時間から解放され、業界特化と顧客への助言提供に注力できるようになり、ひいては実行可能な知見や洞察を提供することが可能になります。

 

デジタル体験の向上が顧客の興味関心の維持につながる

銀行が取引手続きや顧客接点のデジタル化推進を加速させる中、自己完結型の手続きの利便性に対する顧客満足度は依然として多くの問題を抱えています。従来の問題点として、融資申請に複数の承認過程を伴うこと、顧客は同じ情報を複数の異なるプラットフォームに提供するよう求められること、そして承認状況の一部しか見ることができないことなどが挙げられます。おそらく、顧客がリテールバンキングにおいて個人的に得たデジタル化による利便性の体験が、彼らの商業銀行での接点や総体的な顧客体験に対する期待を形成してきました。

私たちの調査では、経営幹部の45%はデジタルでのローン申請を経験しておらず、自身の体験に満足している、または非常に満足していると回答したのはわずか28%でした。

今では円滑なデジタル体験は信頼の同義語となっており、銀行は標準に満たない体験をもたらすリスクを負うことはできません。商業顧客は信頼できる人物に口座を監視してもらうことを希望しているほか、銀行との取引を簡易化するデジタル特性や利便性を求めています。

したがって、銀行は自己完結型のサービスの選択肢を増やし、紙ベースの記入を必要とする手間や、支店訪問を求める回数を削減しなければなりません。それと同時に銀行は、デジタルを取引可能にする手段とみなすことから、顧客がバンキングサービスを体験する方法を真に差別化することへと、自らのマインドセットを変える検討をすべきでしょう。RMが顧客ニーズを予測したり、小規模セグメント向け融資の機動的なプライシングを実現したり、意思決定プロセスを自動化したりするうえで、人工知能(AI)や機械学習(ML)の技術が一助となり得る場合も多くあります。
 

革新的な商品、サービス、およびビジネスモデルの創出

Buy Now Pay Later(BNPL、後払い決済)方式の個人間決済、クラウドファンディング、デジタルウォレットといった形態の商品イノベーションの波が押し寄せた結果、私たちのリテールバンキングに対する見方は変貌を遂げました。それとは対照的に、コマーシャルバンキングでは融資商品や預金商品のイノベーションが不足しており、競合からの差別化を図るためにサービスや商品のカスタマイズへの依拠が強まっています。
しかしながら、銀行は現在、商品やサービス、流通モデルを刷新するための新たなビジネス機会を有しています。イノベーションに関する戦略的ビジョン、事前対応型の姿勢、そしてアジャイルな戦略を持つ銀行は、受け身的なアプローチで様子を窺っている銀行には真似できないような強みを生み出すことでしょう。

銀行ベースのトランジション・ファイナンス(ローン)について考えてみましょう。これは、CO2排出量が多い業界がオペレーションを移行することによって、よりグリーンな未来に貢献できるようになるうえで、大いに必要とされている支援を銀行が担うことができるというものです。ここでは、借り手企業が主なサステナビリティ実績を達成すると、低い金利や有利なコベナンツ(特約事項)が付与されるサステナビリティ関連ローンを組成(オリジネート)している銀行も見受けられます。

一方で、バンキング アズ ア サービス(BaaS)や組込型金融、バンキングプラットフォームといった革新的なビジネスモデルによって、銀行は顧客に新たな価値を提供できるようになりました。

調査では、経営幹部の76%が、他行やフィンテックなどの新しい商品やサービスが単一のプラットフォームに統合されるなら使ってみたいと回答しており、前向きな姿勢を示しています。

銀行側としては、市場進出の機動性を高め、商品やサービスのイノベーションにおける利便性の格差を解消し、多くの顧客が使いこなせるようになるまでの時間を削減することが可能になります。

 

融資の収益性を維持するプライシングとコスト最適化

銀行は、金利が上昇している環境においては、高金利を預金者よりも先に借り手にいち早く転嫁しようとする傾向があります。米国の金利感応度を鑑みると、商業預金の一部が高利回りの機会に流れています。自行の過剰流動性を踏まえ、ある程度の預金の解約をよしとする銀行がある一方で、そうでない銀行の多くは預金金利の引き上げに対する圧力の高まりに直面し、貸出増加に対応するために大口取引先からの資金調達の選択肢や、投資家からの資金調達へ軸足を移す可能性があります。

銀行は増加した資金調達コストを自行のローンプライシングモデルに反映させていますが、資本コストと顧客獲得コストの増加を考慮するべきです。顧客の変化するリスクプロファイルや、他銀行やノンバンクへのローン債務といった最新情報を機動的に反映させるため、データの質を向上させることで、利益率の低い取引を行う確率を低下させられるでしょう。顧客の生涯価値に合わせて報酬体制を再構築し、適切な統制を敷くことで、RMは売上増加率を向上しながら自制を利かせることができるようになるでしょう。

コスト最適化への取り組みは、収益性を高めるにはプライシングと同じくらい重要です。銀行は、人材とデジタル化への投資を維持しつつ、複雑性、非効率性、冗長性を軽減しコスト削減の機会を模索することを検討すべきです。

 

価値の新たな源泉を探す

コマーシャルバンキングの未来では、デジタル化が進んで相互接続性がより強まり、過去よりも一層厳しい対応が求められるでしょう。未来に向けた成長見通しでは、依然として強固なリレーションシップが基盤になる一方で、法人顧客は取引銀行が助言や円滑な体験、革新的な商品およびサービス、そして新しいビジネスモデルといった価値の新たな源泉を提供してくれることへの期待を高めつつあります。

激しい競争の中、メインバンクとしての取引関係を維持し、顧客シェアを拡大するのは並大抵のことではありません。過去が未来を切り開くための羅針盤にはならないことは明白です。価値の新たな源泉を追求する銀行は、金融仲介機関や商業顧客から信頼されるアドバイザーとしての存在意義に忠実でありながら、信念を持って前進していかねばなりません。一方、予算、文化、デジタルの精緻化、人材や経営トップの姿勢という制約に囚われて、様子見の姿勢を取っている銀行は、メインバンクとしての取引関係から容易に外されてしまうことになりかねないでしょう。

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