資産運用業界におけるLIBOR移行:英FCAのCEO宛てレター ブックマークが追加されました
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資産運用業界におけるLIBOR移行:英FCAのCEO宛てレター
資産運用会社に対して至急行動するよう呼び掛け
規制当局による継続的な精査とLIBORからの移行の監視の一環として、FCAは2020年2月27日、英国規制対象の全ての資産運用会社に対して新たなDear CEOレターを公表しました。FCAは、資産運用会社がレターで指摘された点を確認し、適切な行動をとることが不可欠であることを明確にしています。
※本記事は今回公表されたDear CEOレターの内容についてデロイトUKが解説したペーパーの翻訳版です。
これは、FCAが資産運用会社に対する監督方針を公表した1月20日のCEO宛てレターの中でこの問題を取り上げていたことから、FCAが改めて資産運用会社向けにレターを公表したことは資産運用セクターにおけるLIBOR移行の重要性に着目している表れである。
このレターは、運用会社に対して「LIBORの終了に向けて今から準備」し、自らの責任において「間違いなく」秩序ある移行を促進し、それに貢献することを奨励している。このレターは、資産運用会社がとるべき具体的な行動について、以下の点から明確な期待を示している。
- ガバナンスと監視
- 移行計画
- 商品・サービス
- コンダクトリスクと利益相反の軽減
全般的な期待
- 資産運用会社はLIBORの終了が市場の混乱や投資家の被害につながらないことを確保するため、また、円滑な移行を確保するための業界のイニシアティブを支援するため、あらゆる合理的な措置を講じることが期待される。
- 資産運用会社は、LIBORの秩序ある終了を促進し、それに貢献する責任があることを疑うべきではなく、顧客からの指示を待つことなく、また、移行計画の策定にあたっては、将来の規制上の救済若しくは指導、または立法上の解決策があることを期待したり、前提とすることなく、前向きな措置をとるべきである。
その他の洞察と要件は、次のように領域毎にまとめられている。
移行のガバナンスと監視
- 取締役会は、移行プロセスを監視し、第二線および第三線からの支援とけん制を求めるべきである。
- 上級管理職は、LIBOR移行のリスクを認識する必要があり、移行の各側面を管理するための明確な説明責任体制が必要である。また、責任表明文書はLIBOR移行計画に起因する全ての事象を網羅すべきである。
- LIBORに重大なエクスポージャーを有している、あるいはLIBORに依存している資産運用会社は、それに見合った移行計画を策定し取締役会と合意すべきである。LIBORへのエクスポージャーや依存度がほとんど、あるいは全くない資産運用会社は、取締役会の監視下で定期的にこの見解を検証すべきである。
- 取締役会がLIBOR移行計画を必要としないと判断した場合、FCAはこれに対し説明を求めるかもしれない。
- 移行への障壁が克服できないと取締役会が判断した場合、または移行準備が間に合わないと判断した場合、資産運用会社は直ちにFCAに報告しなければならない。
移行計画
資産運用会社が策定しているLIBOR移行計画には、以下のことが期待される。
- すべてのビジネス機能を網羅し、総合的に考案される。
- 既存のエクスポージャーをどのようにして適時に取り除き或いは改善するか、また新規のエクスポージャーをどのようにして防止するかを検討する。
- LIBORのエクスポージャー或いはこれに依存するすべての投資、業務、活動を注意深く定量化する。
- 変更が生じ、実行される際に、顧客にその変化を適切且つ継続的に知らせるための戦略を含める。
- LIBOR移行から生じるリスクを検討し、適切な軽減策を特定する。
- 適切なマイルストーンを設定し、適切なリソースを割り当て、適切な速度での進捗を確保するために監視する。
効果的な移行計画は、FCAが概説している優先順位とマイルストーン やISDAによるベンチマークのフォールバック調整などの業界イニシアティブと必要に応じて平仄が取られるはずである。
商品・サービス
- LIBORを参照している、またはLIBORに依存している商品/サービスを提供する資産運用会社は、これらが顧客のニーズを満たし、2021年以降も期待される方法で機能するかどうかを慎重に検討する必要がある。
- 2021年以降にLIBORエクスポージャーを有する新商品を提供する場合には、そのような商品がガバナンスのルールに準拠しているかどうかを検討する必要がある。
- 資産運用会社が、LIBORを参照する目的やその他の特徴を持つファンド、集団投資スキーム(CIS)および分別管理された運用をする場合、代替金利を参照する新商品の開発・提供を含む移行計画を有している可能性があり、また、フォールバック条項を挿入するか、LIBORを代替金利に置き換えるために既存商品の基本文書を修正する可能性がある。
- 商品関連文書の変更に関連するすべての義務を考慮すべきである。
- 債券、ローン、スワップ、ストラクチャード商品など、LIBORを参照する商品に顧客の代わりに投資する資産運用会社は、LIBOR移行のリスクを回避または管理するために、代替金利を参照する商品やフォールバック条項を有する商品に投資することを検討すべきかもしれない。
- また、発行体やカウンターパーティと協力して、発行済み商品を代替レートに変換したり、フォールバック条項を追加したりすべきである。
コンダクトリスクと利益相反の軽減
- FCAは、資産運用会社がビジネスの包括的な原則に沿って行動することで、手腕、注意、精励さを発揮し、利益相反の適切な管理を行い、顧客に誤解を与えず公平に扱うことを保証し、顧客の利益を最優先した行動をとることを期待している
- それは、2019年11月の声明にあるLIBOR移行中のコンダクトリスクに関するQ&Aを再確認させると共に資産運用会社に宛てられた以下の具体的な期待を強調している
- 顧客は、予測不可能または不合理なコスト、損失またはリスクにさらされてはならない
- すべての顧客は公平に扱われなければならず、LIBORの移行期間中、彼らの利益は維持されるべきである
- ベンチマークを変更する際には、たとえ不注意であっても、資産運用会社はパフォーマンスを誤って表示してはならない
- 運用報酬を調整する際に、顧客に不利益を与えてはならない
- LIBOR移行によって生じる利益相反は、軽減されなければならず、それが不可能な場合には、適切に管理されなければならない
当面の優先事項
資産運用会社が既に実行しているべき、または実行していない場合は直ぐに実行すべき、いくつかの重要な優先アクションがある。
- 経営層の理解、協力、支援の確保
- 移行のための実施プログラムを具体化とその動員
- 影響分析の完了
- (現状LIBORを利用していることによる)問題の拡大の防止
- 外部の関与、業界の進展のモニタリング、および顧客や競合他社の反応
デロイトでは、このDear CEOレターの内容が資産運用会社が策定するLIBOR移行プログラムおよび行動計画にどのように織り込まれたかを確認することにFCA監督チームが2020年中およびそれ以降、焦点を当てるであろうと予想している。
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