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保険ERMの新たな潮流

「INSURANCE FORUM 保険規制の動向とリスクマネジメントの高度化」(アフターレポート)

2017年11月21日(火)に、株式会社セミナーインフォ主催「INSURANCE FORUM 保険規制の動向とリスクマネジメントの高度化」が開催され、有限責任監査法人トーマツからは後藤茂之が「保険ERMの新たな潮流」の講演を行いました。

金融行政方針の中でも、ERM態勢の強化は、顧客本位の業務運営や持続可能なビジネスモデルの構築と並んで、重要なテーマとなっている。これらは相互に関係しているため、各テーマで期待されている方向性がどのように連動するのかを理解し、全体として有機的な対応をとることが重要だ。金融モニタリング有識者会議におけるトピックをERM経営の観点と結びつけると、「リスクガバナンスの強化」、「フォワードルッキング経営の強化」、「リスクカルチャーの浸透」などのキーワードとつながる。

ERMの高度化は内部監査における重要課題となっている。内部監査には、単なる保証機能だけではなく提言機能も求められている。これを踏まえ監査計画に織り込み、実現に向けて効果的な経営資源の確保・分配を検討しなければならない。

経済価値ベースの枠組みの導入はどのような変化をもたらすか。IFRS17の導入により、海外保険会社や他業界との比較、将来予測に基づく経営管理が可能になるなど、新たな効果が期待される。

それと同時に重要なテーマになるのが、経済価値数値、特に予測・見積りの信頼性をいかに確保していくかという課題だ。前提条件や枠組みの違いによって、各数値には、現行会計で扱う確定数値とは異なり、差異が生まれることとなる。その差異の原因の特定と、そこから何を読み取り、経営にどう活かすかという視点が今後の競争力を左右していくだろう。監査実務においても、会計基準への準拠や不正操作の有無の確認に加え、予測の妥当性に関する確認が必要となる。これにはアクチュアリーやIT領域の専門家の関与の拡大が想定される。

予測・見積りの信頼性確保のためには、ガバナンスがより重要となる。内部モデルの採用は、他社と全く同じ枠組みでの比較可能性においては標準式に対して劣後するが、リスクナレッジを集大成し、エマージングリスクや様々な脅威に直面した際のインパクトを見通し、適切な対策を打つ、すなわちERMの実効性の点ではメリットが大きい。

非清算店頭デリバティブにおける規制も変化している。規制の対象会社は、変動証拠金に加えて当初証拠金授受の義務を負うこととなった。その際、取引相手とリスクについて合意し、翌日に担保を提供する必要がある。今後のリスク管理の意思決定と行動には一層のスピードアップが要求される。

ロボティクス、AIの活用によりビジネスプロセスはますます自動化されよう。これによりサイバーセキュリティ強化の必要性はさらに高まる。保険の基礎は統計にあるため、AIの活用範囲は拡大していくが、価値観を伴った判断などAIがカバーできない領域が存在し、人との共存が新たな課題となるだろう。

同時に、テクノロジー対応を目的とするオープンタレントエコノミーの普及、海外展開の加速に伴うリスクカルチャーの浸透やガバナンス強化のため、人的資本への関心は一層高まっていく。米国ではミスセリング防止のため、販売目標を設けず顧客への貢献度で報酬を評価する事例がある。インセンティブ・報酬制度を高度化しガバナンスシステムにおける経営ツールとして有効活用することは戦略課題となるだろう。

保険業界をとりまく様々な環境変化は、今はまだ入り口の段階にある。今後発生が予想される一つひとつの変化に対し本質を見極めて対応していかなければ、全体としての対応を誤ってしまう。ERMの枠組みは、それらを体系的に検討するにあたって非常に重要かつ有用な手段であるといえる。

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