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【保険ERM】 NAIC動向 2016年 春

(2016.10)

世界第一の保険市場である米国の規制の動向は、監督当局や国際展開をする保険会社にとっても影響が大きいことはいうまでもありません。特に州ごとに監督が異なる米国においては、州当局が共通の課題にどのように取り組もうとしているかは重要な情報といえます。 その意味で、春、夏、秋に開催される全米保険監督官協会(National Association of Insurance Commissioners: NAIC)の会合は注目すべき内容を含んでいます。

米国保険規制と州当局

国際的には、グローバルスタンダードの視点が重視されるようになっているとはいえ、米国の保険規制について主に州当局がその責任を担ってきた経緯にある。金融危機以降、州、連邦、グローバルという3つの異なるレベルで規制当局や準規制当局が関与・影響を及ぼしあっているのが現状である。

この状況は他国にはない特徴であり、外部からは複雑な状況と映るが、世界第一の保険市場を有する米国の動きは、グローバル、各国の当局にとって大きな影響を及ぼす点は疑問の余地がない。

NAICでの課題

春のNAIC会議で論議された主要な課題を列挙すると次の通り。

プリンシプルベースの準備金

重要な論点の一つが、かつてニューヨーク州、カリフォルニア州という有力な2州が反対していたプリンシプルベースの準備金積立(PBR)を導入する法律が米国全体の保険料の75%を占める42州で制定されたことが報告された。新たな責任準備金評価マニュアル(VM)の発効日は2017年1月1日の見込みである。PBRは、NAICのソルベンシー近代化への取り組みの最重要事項の一つと位置づけれられており、重要な前進と捉えられる。

生命保険を対象とする改正標準不没収価格法(モデル第808号)と改正標準責任準備金評価法(モデル第820号)を可決した42州では、実際上NAICの支援を得て、各州において、可決された制定法が基準を充足しているかを決定しなければならない。NAICは「客観的な第三者」の枠組みを通して、2017年1月からPBR実施に向けて、PBRの規制プロセスを評価するためのパイロット・プログラムを始めた。

サイバーセキュリティ・モデル法

NAICの春の会議では、同モデル法に対し、保険協会、代理店協会など各機関から率直な意見交換がなされた。本法は、データセキュリティ、調査、違反通知に関する保険業界向けの基準を設定することを目的としている。2016年3月に第1版が公表されたが、2月に米国大手医療保険会社において、個人情報がハッキングされるという事件が起き、今後クラスアクションへの顕在化の動きも反映して多くの意見がだされた。
その後、8月17日、NAICのサイバーセキュリティ・タスクフォースは、「保険データセキュリティモデル法」草案(第2版)」を公開し、パブリックコメントに付している8月17日、全米保険監督官協会(National Association of Insurance Commissioners:NAIC)のサイバーセキュリティ・タスクフォースは、「保険データセキュリティモデル法」草案(第2版)」を公開し、パブリックコメントに付した。(9月16日締め切り)

大規模災害リスクのリスクベース資本(RBC)への組み入れ

これまで、RBCの重要な欠点とみなされていた大規模災害リスクがRBCに組み込まれる方向へと論議が進められている。大規模災害リスクサブグループでデータの分析がなされており、組み入れた場合の影響などが検討されている。早ければ2017報告年度からリスクチャージされることが見込まれている。

グループ資本算定ワーキンググループの作業開始

IAIS の国際的に活動する保険グループの監督のための共通の枠組み(ComFrame)の動きに連動し、RBCの集計方法を使用した米国のグループ資本の算定方法を構築するために、グループ資本算定ワーキンググループが新たに立ち上がった。

今後の保険規制論議の行方

保険の国際的規制論議は、基本各国ベースの規制がなされているという特徴を持っており、各国当局間でハーモザイゼーションの努力がされているとはいえ、完全に統一されることは考えずらい。当然各国の論議を注視しつつ合理的に対応していく必要がある。保険会社においては、グループの目線、ローカルの目線、共通項、固有性といった観点から、今後の動きを分析し、適切なタイミングで対応していくことが求められている。

 

原文:NAIC Update Spring 2016 (PDF)

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(ブロシュア、PDF、384KB)

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