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【保険ERM】リスクカルチャー:保険ERMとの共鳴(resonance)

(2016.07)

ERMとリスクカルチャーを巡る議論が活発になってきています。それはERMの実効性を考えると、ERM態勢とリスクカルチャーは、共鳴しあって効力を高めていく、相互に不可欠な関係にあるからです。

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保険ERMの深化

今、保険ERMは新たなステージ「ERMの実効性強化」に移行している。経営のリーダーシップにより、リスクアペタイト・ステートメント(RAS)の中で目指すリスクポートフォリオの方針を示し、その方針を具体化するためのガイドラインとモニタリングの枠組み(リスクアペタイト・フレームワーク:RAF)を提示した。トップダウンで導入したERMの機能発揮は、組織構成員一人ひとりの行動に負うこととなる。つまり、リスクに対する的確な意思決定・行動へと導くため、下記のプロセスを検証・強化していかなければならない。

 

【COSOによるCultureの定義】

Culture: The attitudes, behaviors, and understanding about risk, both positive and negative, that influence the decisions of management and personnel and reflect the mission, vision, and core values of the organization.

COSO(米国トレッドウェイ委員会組織委員会)が2016年6月14日に公開したERMフレームワークのアップデート版ドラフトでも、リスクカルチャーを重視している。COSOによるリスクカルチャーの定義は以下のとおりである。
- カルチャーとはリスクに対する態度、行動、そして理解である。ここでリスクとは正負両方のリスクを指し、カルチャーとは経営陣や社員・職員の意思決定に影響し、組織のミッション、ビジョン、コアバリューを反映するものである。-
 

意思決定から行動へのプロセス

リスクカルチャーというチャレンジングな目標

カルチャーとは、社会人類学では考え方、感じ方、行動の仕方のパターンを総称するものと定義されている。そしてカルチャーは、遺伝によって伝達されるものではなく、学習されるものであるとされている。
企業カルチャーは、企業活動を通して築いてきた価値観や諸制度、慣習等の総称であり、各社固有のものである。
リスクカルチャーは、企業カルチャーの一部を構成する。リスクセンス、リスクリテラシー、コミュニケーション、コンダクトを総称するものであり、いずれも組織活動を通じて学習され蓄積されていく。

契約者の危険を積極的に受け入れ、それをマネージすることを業としている保険会社にとって、リスクカルチャーは、業務遂行を支えるもっとも基礎的なものといえる。

リスクの構造

ERMの強化とリスクカルチャー醸成を連動させ組織に浸透

リスクカルチャーとERM態勢は、相互に共鳴しあってその実効性を高めていくことを念頭に施策を展開

リスクナレッジ(リスクセンス、リスクリテラシー、コミュニケーション)の向上

リスクの本質を理解することは容易ではない。それ故、科学的客観的データ分析のみならず、これまでの経験から得られた「リスク感覚」、「洞察力」、「成功体験」といった個人が有する主観的情報を総動員してリスクナレッジ向上に取り組む必要がある。

リスクナレッジ創造の促進

(野中郁次郎・竹内弘田高『「知識創造企業』梅本勝博訳、1996年、東洋経済新報社より)

個人の行動への規制強化とリスクカルチャー

リーマンショック以降、金融機関のガバナンス改革、資本規制強化に関する改革が推進されている中、LIBORの不正操作やマネーロンダリング等のスキャンダルが発生した。このような背景もあり、英国では、個人の行動(コンダクト)に対する個人責任への当局の監視が強化されている。

コンダクトリスクへの関心は、単純な統制環境に対してではなく、会社のビジネスモデル、戦略とリスクカルチャーとの関係に着目しているためである。それ故、保険会社として本リスクへ対応するためには、明らかにオペレーショナルリスク対応よりはレベルが高く、保険ERMの実効性向上との関連性が強いものとして取り組む必要がある。

従来のオペレーショナルリスクにおいては、発生した事故やその類似の事例の再発防止に主眼が置かれる傾向があった。(バックワードルッキング)これに対し、コンダクトリスクへの対応はレピュテーションの向上を念頭にプロセスにおけるヒヤリ、ハットから積極的対策を行うため、従来とは異なる視点(ライフサイクル、サプライチェーン、フォワードルッキング、戦略的思考等)からアプローチする必要がある。

コンダクトリスクを軽減しようとすると、誤解を招くような金融商品の販売促進の中止、ビジネスプロセスにおける各機能の連鎖の明確化、規制や責任関係の透明化、オペレーションの効率化により、コンダクトリスクの原因を軽減するといった戦略的思考が不可欠となる。

また倫理基準、報酬実務、倫理的行動の促進における取締役会と経営陣の役割等、金融機関のリスクカルチャーを構成する幅広い事項に対する検証が必要となる。

リスクカルチャーへの取組みは始まっている

2016年6月9日に第9回Risk Japanが東京で開催され、保険パネルディスカッションが実施された。ERMにとってもリスクカルチャーの重要性についても意見交換された。

パネリスト各位がリスクカルチャー醸成の重要性とその難しさに触れ、各社の実状を踏まえた取組みを進めている点が印象深かった。

(2016年 Risk Japan:保険毎日新聞 2016年6月24日掲載)

ハイレベルの保険ERMの枠組み導入のステージから、その実効性を問う第2ステージへと移る中でリスクカルチャー醸成は取組み課題の1つといえよう。この取組みは、組織内の全ての活動の基礎にあたり、組織構成員各人の業務上の判断にかかわる課題であるが故に、地道で時間を要する。また、強力なリーダーシップと高い組織的価値観が必要となる。

保険ERM態勢高度化支援サービス

デロイト トーマツ グループでは、保険ERM態勢に関し、基礎的な情報提供から、各社固有の問題解決まで幅広く関わり、Deloitte Touche Tohmatsu Limited(DTTL)のグローバルネットワークを駆使し、最新の情報と豊富なアドバイザリーサービスを提供します。

保険ERM態勢高度化支援サービス
(ブロシュア、PDF、384KB)

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