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シリーズ「監査報告書の透明化」(6)・最終回 監査基準の改訂により予想される影響

(月刊誌『会計情報』2018年8月号)

本誌前号で概観した公開草案に対する意見募集を経て、企業会計審議会監査部会より2018年7月5日付で「監査基準の改訂について」が公表され、監査報告書へのKAMの記載を主体とした監査基準の改訂が示されている。本シリーズの掉尾として、本号では監査基準の改訂により想定される影響について考えてみたい。

著者:公認会計士 結城 秀彦

本誌前号で概観した公開草案に対する意見募集を経て、企業会計審議会監査部会より2018年7月5日付で「監査基準の改訂について」が公表され、監査報告書へのKAMの記載を主体とした監査基準の改訂が示されている。本シリーズの掉尾として、本号では監査基準の改訂により想定される影響について考えてみたい。

1.予想される影響 ─ 大枠としての方向性

監査基準改訂の出発点となった2017年6月の金融庁による「監査報告書の透明化について」(http://www.fsa.go.jp/news/29/sonota/20170626.html)には、会計監査の透明性を向上させ、監査報告書の情報価値を高めることにより、以下が誘発・促進されることが示されていた。

(1)財務諸表利用者の会計監査や企業の財務諸表に対する理解が深まるとともに、財務諸表利用者と企業との対話が促進される

(2)財務諸表利用者や監査役等が、会計監査の品質を評価するための情報となる

(3)監査人・経営者・監査役等の間のコミュニケーションの更なる充実により、コーポレート・ガバナンスの強化や、会計監査上のリスク認識の共有による適切な監査の実施につながる。

公開草案を見る限り、監査基準の改訂はこの方向性に沿ったものであり、大枠としてはこれらに派生した影響が生ずることが予想される。

2. 予想される影響その1 ─ 監査役等の監査の相当性の評価及び監査人とのコミュニケーションの深化

本誌前号で解説した通り、監査基準の改訂に伴う、監査上の主要な検討事項(本稿において「KAM」という。)の記載は、当面の間、会社法監査報告書には適用されない予定である(第42回企業会計審議会監査部会資料3を参照。)。しかしながら、KAMの記載は、財務諸表利用者と企業との対話を促す契機となるものであることを勘案すると、金融商品取引法監査の監査報告書が未公表であっても、株主総会において、「会計監査が相当であると判断する上で、監査役等又は会計監査人は何を重要な論点と考えてどのような対応を行ったのか?」という疑問・問合せが、従前以上に誘発されることは、想像に難くないと思われる。

このような動向が、監査役等の監査報告書における報告内容の見直しにまで繋がるかどうかは定かではない。しかしながら、株主との対話又は財務諸表の利用者との対話を意識する監査役であれば、このような動向に対応して、計算書類等において開示される情報のうち、いずれが重要であるか、又は重要な虚偽表示リスクが高いかに関する情報を従前以上に詳細に入手して株主総会に備えることとなろう。そして、当該情報を利用して、実施される監査の相当性や監査の品質を判断し、これを監査人の評価及び選解任の根拠として活用することとなろう。

そのために、監査役は監査人とのコミュニケーションの中で、監査人が財務諸表に関して何に特に注意を払おうとしているのかに従前以上に関心を寄せているのか、そしてその中でとりわけ何が重要であるかに関して、従前以上に腐心することとなろう。

※続きは添付ファイルをご覧ください。

(561KB, PDF)
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