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2020年3月期決算の会計処理に関する留意事項

月刊誌『会計情報』2020年4月号

有限責任監査法人トーマツ 公認会計士 石川 慶

本稿では、2020年3月期決算の会計処理に関する主な留意事項について解説を行う。

2020年3月期に適用される新基準等(2020年3月期に適用することが提案されている会計基準等の公開草案を含む)には、下記Ⅰ〜Ⅴがある。Ⅰは2019年3月期から早期適用が可能であったが、2020年3月期から原則適用となっている(2021年3月期期首から適用することも可能)。また、2020年3月期から早期適用できる新基準等(2020年3月期から早期適用できることが提案されている会計基準等の公開草案を含む)には、下記Ⅵ〜Ⅷがある。

なお、本稿は2020年2月末までに公表された情報に基づいて作成したものであり、例えば、公開草案に関する記載については、最終基準の公表までに行われる審議の内容は織り込まれていない。そのため、会計基準等の適用にあたっては、企業会計基準委員会(以下「ASBJ」という。)が公表する最終基準の内容を確認する必要がある点に留意が必要である。

784KB, PDF ※PDFダウンロード時には「本誌に関する留意事項」をご確認ください。

目 次

【2020年3月期に適用される会計基準等(2020年3月期に適用することが提案されている会計基準等の公開草案を含む)】

Ⅰ 2018年改正実務対応報告第18号「連結財務諸表作成における在外子会社等の会計処理に関する当面の取扱い」等
※2020年3月期期首から原則適用であるが、2021年3月期期首から適用することも可能。なお、2020年3月期期首から適用しない場合には、適用していない旨を注記する。

Ⅱ 2019年改正実務対応報告第18号「連結財務諸表作成における在外子会社等の会計処理に関する当面の取扱い」

Ⅲ 改正企業会計基準第21号「企業結合に関する会計基準」等
※2020年3月期期首以後実施される組織再編から適用

Ⅳ 金利指標改革に起因する会計上の論点に関するASBJの議事概

Ⅴ 実務対応報告公開草案第58号「連結納税制度からグループ通算制度への移行に係る税効果会計の適用に関する取扱い(案)」
※本公開草案は、第201回通常国会に提出されている「所得税法等の一部を改正する法律」案が法律として成立した後に、実務対応報告が公表されることが前提とされている。また、仮に当該法律が2020年3月31日までに成立した場合には、成立後、2020年3月31日までに実務対応報告が公表されることが想定されており、公表日以後適用することが提案されている。

【2020年3月期から早期適用できる会計基準等(2020年3月期から早期適用できることが提案されている会計基準等の公開草案を含む)】(注)

Ⅵ 企業会計基準第30号「時価の算定に関する会計基準」等
※2022年3月期期首から原則適用であるが、2021年3月期期首又は2020年3月期末から適用することも可能

Ⅶ 企業会計基準公開草案第68号「会計上の見積りの開示に関する会計基準(案)」
※2020年3月に最終基準化することが目標とされており、2021年3月期期末から原則適用、公表日以後終了する年度末(2020年3月期期末)から適用することも可能とすることが提案されている。

Ⅷ 企業会計基準公開草案第69号(企業会計基準第24号の改正案)「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準(案)」
※2020年3月に最終基準化することが目標とされており、2021年3月期期末から原則適用、公表日以後終了する年度末(2020年3月期期末)から適用することも可能とすることが提案されている。

(注)上記の他、企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」等が2019年3月期から早期適用することができる。

なお、次号の本誌(『会計情報』2020年5月号(Vol.525))において有価証券報告書の開示について解説を行う予定である。

Ⅰ 2018年改正実務対応報告第18号「連結財務諸表作成における在外子会社等の会計処理に関する当面の取扱い」等

ASBJは、2018年9月14日に改正実務対応報告第18号「連結財務諸表作成における在外子会社等の会計処理に関する当面の取扱い」(以下「2018年改正実務対応報告第18号」という。)及び改正実務対応報告第24号「持分法適用関連会社の会計処理に関する当面の取扱い」(以下合わせて「本改正実務対応報告」という。)を公表した。

1 2018年改正前の実務対応報告第18号の概要

原則的な取扱い 
連結財務諸表を作成する場合、同一環境下で行われた同一の性質の取引等について、親会社及び子会社が採用する会計方針は、原則として統一しなければならない(連結財務諸表に関する会計基準17項)。

当面の取扱い
実務対応報告第18号においては、当面の取扱いを定めており、在外子会社の財務諸表が国際財務報告基準(IFRS)又は米国会計基準に準拠して作成されている場合、及び国内子会社が指定国際会計基準又は修正国際基準に準拠した連結財務諸表を作成して金融商品取引法に基づく有価証券報告書により開示している場合(当連結会計年度の有価証券報告書により開示する予定の場合も含む。)には、当面の間、それらを連結決算手続上利用することができるとされている。

ただし、その場合であっても、
① のれんの償却
② 退職給付会計における数理計算上の差異の費用処理
③ 研究開発費の支出時費用処理
④ 投資不動産の時価評価及び固定資産の再評価
については、当該修正額に重要性が乏しい場合を除き、連結決算手続上、当期純利益が適切に計上されるよう当該在外子会社等の会計処理を修正しなければならないとされている。

 

2 公表の経緯・目的

ASBJでは、2006年の実務対応報告第18号の公表から2018年改正実務対応報告第18号の検討時点までの間に、新規に公表又は改正されたIFRS及び米国会計基準を対象に、修正項目として追加する項目の有無について、我が国の会計基準に共通する考え方と乖離するか否かの観点や実務上の実行可能性の観点に加えて、子会社における取引の発生可能性や子会社において発生する取引の連結財務諸表全体に与える重要性の観点等から検討が行われた。当該検討を行う際には、IFRSのエンドースメント手続の結果を参考にしたとされている。

その結果、2018年改正実務対応報告第18号では、IFRS第9号「金融商品」における、資本性金融商品の公正価値の事後的な変動をその他の包括利益に表示する選択をしている場合の組替調整が、修正項目として追加されている。

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(参考)修正項目の見直しにおいて検討された会計基準
修正項目の見直しにおいて、具体的には主に以下の会計基準の検討が行われたとされている。

(IFRS)
(1) IFRS第9号「金融商品」
(2) IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」
(米国会計基準)
(3) 米国会計基準会計基準更新書(以下「ASU」という。)第2016-01号「金融商品-総論(Subtopic825-10):金融資産及び金融負債の認識及び測定」
(4) ASU第2014-09号「顧客との契約から生じる収益(Topic606)」
(5) ASU第2016-13号「金融商品-信用損失(Topic326):金融商品に係る信用損失の測定」

(注) IFRS第16号「リース」、IFRS第17号「保険契約」及びASU第2016-02号「リース」は検討対象に含まれていない。

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3 在外子会社等においてIFRS第9号「金融商品」を適用し、資本性金融商品の公正価値の事後的な変動をその他の包括利益に表示する選択をしている場合の組替調整に関する取扱い

在外子会社等においてIFRS第9号「金融商品」を適用し、資本性金融商品の公正価値の事後的な変動をその他の包括利益に表示する選択をしている場合には、

① 当該資本性金融商品の売却を行ったときに、連結決算手続上、取得原価と売却価額との差額を当期の損益として計上するよう修正する

② 企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」の定め又は国際会計基準第39号「金融商品:認識及び測定」の定めに従って減損処理の検討を行い、減損処理が必要と判断される場合には、連結決算手続上、評価差額を当期の損失として計上するよう修正する

とされている。

また、持分法適用関連会社において2018年改正実務対応報告第18号に準じて処理を行う場合には、上記修正を行う。

4 適用時期等

2019年4月1日以後開始する連結会計年度の期首から適用する。
ただし、以下の時期から適用することができる

① 本改正実務対応報告の公表日以後最初に終了する連結会計年度及び四半期連結会計期間において適用することができる。

② 2020年4月1日以後開始する連結会計年度の期首又は在外子会社等が初めてIFRS第9号「金融商品」を適用する連結会計年度の翌連結会計年度の期首から適用することができる。なお、2019年4月1日以後開始する連結会計年度以降の各連結会計年度において、本改正実務対応報告を適用していない場合、その旨を注記する。

 

本改正実務対応報告の適用初年度においては、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱う

ただし、会計方針の変更による累積的影響額を当該適用初年度の期首時点の利益剰余金に計上することができる。この場合、在外子会社等においてIFRS第9号「金融商品」を早期適用しているときには、遡及適用した場合の累積的影響額を算定する上で、在外子会社等においてIFRS第9号「金融商品」を早期適用した連結会計年度から本改正実務対応報告の適用初年度の前連結会計年度までの期間において資本性金融商品の減損会計の適用を行わず、本改正実務対応報告の適用初年度の期首時点で減損の判定を行うことができる

 

Ⅱ 2019年改正実務対応報告第18号「連結財務諸表作成における在外子会社等の会計処理に関する当面の取扱い」

ASBJは、2019年6月28日に改正実務対応報告第18号「連結財務諸表作成における在外子会社等の会計処理に関する当面の取扱い」(以下「2019年改正実務対応報告第18号」という。)を公表した。

1 公表の経緯・目的

実務対応報告第18号の2018年改正において検討の対象から除かれていた、国際財務報告基準(IFRS)第16号「リース」及び米国会計基準会計基準更新書第2016-02号「リース(Topic842)」を対象に、修正項目として追加する項目の有無について検討が行われた。当該検討を行う際には、IFRSのエンドースメント手続の結果を参考にしたとされている。

実務対応報告第18号の「本実務対応報告の考え方」に基づき、これらの会計基準の基本的な考え方が我が国の会計基準に共通する考え方と乖離するか否かの観点から検討が行われた結果、新たな修正項目の追加は行わないこととされた。

なお、我が国の会計基準におけるリース会計の取組みについては、別途、審議が行われている。

2 適用時期

2019年改正実務対応報告第18号は、公表日以後適用する。

 

Ⅲ 改正企業会計基準第21号「企業結合に関する会計基準」等

ASBJは、2019年1月16日に改正企業会計基準第21号「企業結合に関する会計基準」(以下「改正企業結合会計基準」という。)及び改正企業会計基準適用指針第10号「企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針」(以下「改正結合分離適用指針」という。)を公表した。

1 公表の経緯・目的

2013年12月の第277回企業会計基準委員会において、公益財団法人財務会計基準機構内に設けられている基準諮問会議より、企業会計基準第21号「企業結合に関する会計基準」(以下「企業結合会計基準」という。)に係る条件付取得対価に関連して対価の一部が返還される場合の取扱いについて検討を求める提言がなされ審議を行うこととなった。

検討の結果、条件付取得対価について企業結合契約締結後の将来の特定の事象又は取引の結果に依存して、企業結合日後に追加的に交付される又は引き渡されるもののみでなく返還されるものも含まれる旨、及び将来の業績に依存する条件付取得対価について対価が返還される場合の会計処理を明確にする改正が行われている(改正企業結合会計基準65-2項)。

また、企業会計基準適用指針第10号「企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針」(以下「結合分離適用指針」という。)については、上記の条件付取得対価に係る改正の他、結合当事企業の株主に係る会計処理に関する適用指針の記載について企業会計基準第7号「事業分離等に関する会計基準」(以下「事業分離等会計基準」という。)の記載と整合性を図るなどの改正が行われている(改正結合分離適用指針1-2項、338-6項)。

2 条件付取得対価の定義

条件付取得対価について、企業結合契約締結後の将来の特定の事象又は取引の結果に依存して、企業結合日後に追加的に交付される又は引き渡されるもののみでなく、返還されるものも含まれる旨が明確にされた(改正企業結合会計基準(注2))

改正前

改正後

条件付取得対価とは、企業結合契約において定められるものであって、企業結合契約締結後の将来の特定の事象又は取引の結果に依存して、企業結合日後に追加的に交付又は引き渡される取得対価をいう(改正前企業結合会計基準(注2))。

条件付取得対価とは、企業結合契約において定められるものであって、企業結合契約締結後の将来の特定の事象又は取引の結果に依存して、企業結合日後に追加的に交付される若しくは引き渡される又は返還される取得対価をいう(改正企業結合会計基準(注2))。

  (下線は筆者による)
 

3 対価が返還される条件付取得対価の会計処理

条件付取得対価が企業結合契約締結後の将来の業績に依存する場合において、対価の一部が返還されるときには、条件付取得対価の返還が確実となり、その時価が合理的に決定可能となった時点で、返還される対価の金額を取得原価から減額するとともに、のれんを減額する又は負ののれんを追加的に認識する(改正企業結合会計基準27項(1)、改正結合分離適用指針47項(1))。

追加的に認識する又は減額するのれん又は負ののれんは、企業結合日時点で認識又は減額されたものと仮定して計算し、追加認識又は減額する事業年度以前に対応する償却額及び減損損失額は損益として処理する(改正企業結合会計基準(注4)、改正結合分離適用指針47項(1))。
条件付取得対価が企業結合契約締結後の将来の業績に依存する場合とは、被取得企業又は取得した事業の企業結合契約締結後の特定事業年度における業績の水準に応じて、取得企業が対価を追加で交付する若しくは引き渡す又は対価の一部の返還を受ける条項がある場合等をいう(改正企業結合会計基準(注3))。

(結論の背景)
対価の一部が返還される条件付取得対価は、追加的に交付される又は引き渡される条件付取得対価の場合と同様に、契約交渉の過程における買手側と売手側のリスク分担によって設定されるものであり、対価の追加的な交付等を行う場合と対価の返還を受ける場合で異なる性質はないものと考えられる。したがって、対価の一部が返還される条件付取得対価の会計処理は、対価が追加的に交付される又は引き渡される場合と同様に取り扱うことが適切であると考えられるため、改正企業結合会計基準においては、企業結合契約締結後の将来の業績に依存して返還される条件付取得対価について、対価の返還が確実となり、その時価が合理的に決定可能となった時点で、返還される対価の金額を取得原価から減額するとともに、のれんを減額する又は負ののれんを追加的に認識することとしたとされている(改正企業結合会計基準96-2項)。

なお、条件付取得対価の会計処理に関して、対価を追加的に認識する時点が我が国における一般的な引当金の考え方と異なっていることから、対価の一部が返還される場合にどの時点で会計処理すべきかについて検討を行われた。この点、我が国におけるこれまでの考え方と整合的であり、有用な会計情報を提供できるものと考えられることや、これまでの偶発事象を資産として認識する場合の会計基準と整合的であることから、条件付取得対価の返還が確実となり、その時価が合理的に決定可能となった時点を用いることが適切であると考えたとされている(改正企業結合会計基準96-3項)。

 

4 結合分離適用指針の記載内容の改正

結合当事企業の株主に係る会計処理に関する結合分離適用指針の記載について、事業分離等会計基準と記載内容の整合性を図るための改正が行われている(改正結合分離適用指針279項から289項)。
また、分割型会社分割が非適格組織再編となり、分割期日が分離元企業の期首である場合の分離元企業における税効果会計の取扱いについて、平成22年度税制改正において分割型会社分割のみなし事業年度が廃止されていることから、関連する定めが削除されている(改正結合分離適用指針第109項及び第403項)。

削除された改正前の定め

▶ 分割期日が分離元企業の期首である分割型の会社分割において、適格組織再編(適格合併等、税務上、簿価引継又は簿価譲渡として取り扱われる組織再編をいう。以下同じ。)に該当しない場合、分割期日の前日である前期末において、税務上の移転損益に係る未払法人税等と当該一時差異に対する繰延税金資産及び繰延税金負債が計上されるが、当該繰延税金資産の回収可能性の判断についても、原則として、107項(1)と同様に、分離元企業における事業分離日以後の将来年度の収益力に基づく一時差異等加減算前課税所得等により判断する(改正前結合分離適用指針109項)。

▶ 分割型の会社分割において適格組織再編に該当しない場合、税務上は分割期日の前日において移転損益に課税されることとなり、分離元企業が移転する事業に係る資産及び負債は時価に評価替えされたものと同様と考えられるため一時差異が生じ、翌日の分割期日に当該一時差異は解消することとなる。特に、分割期日が分離元企業の期首である場合には、分割期日の前日である前期末において、税務上の移転損益に係る未払法人税等と当該一時差異に対する繰延税金資産及び繰延税金負債が計上されるが、当該繰延税金資産の回収可能性の判断についても、原則として、分離元企業における事業分離日以後の将来年度の収益力に基づく一時差異等加減算前課税所得等により判断することとなると考えられる(改正前結合分離適用指針403項)。



5 適用時期等

改正企業結合会計基準及び改正結合分離適用指針は、2019年4月1日以後開始する事業年度の期首以後実施される組織再編から適用する(改正企業結合会計基準58-3項、改正結合分離適用指針331-5項)。

これは、一般に、組織再編の会計処理を過去に遡って処理することは、長期にわたり相当程度の情報を入手することが必要になることが多く実務的な対応に困難を伴うことが考えられるためとされている(改正企業結合会計基準129-3項、改正結合分離適用指針460項)。

改正企業結合会計基準及び改正結合分離適用指針の適用初年度において、これまでの会計処理と異なることとなる場合には、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱う(改正企業結合会計基準58-4項、改正結合分離適用指針331-6項)。

なお、改正企業結合会計基準及び改正結合分離適用指針の適用前に行われた企業結合及び事業分離等の会計処理の従前の取扱いについては、改正企業結合会計基準及び改正結合分離適用指針の適用後においても継続することとし、改正企業結合会計基準及び改正結合分離適用指針の適用日における会計処理の見直し及び遡及的な処理は行わない(改正企業結合会計基準58-4項、改正結合分離適用指針331-6項)。

 

Ⅳ 金利指標改革に起因する会計上の論点に関するASBJの議事概要

ASBJは、2020年2月25日に開催された第426回企業会計基準委員会において、2020年3月期決算等への対応について審議を行った。その結果、金利指標改革に起因する会計上の論点のうち、ヘッジ会計の適用要件の判断について、ASBJにおける議論の内容を周知するために、「議事概要別紙(審議事項(1)金利指標改革に起因する会計上の論点について)」(以下「議事概要別紙」という。)を公表した。議事概要別紙の主な内容は以下のとおりである。なお、議事概要別紙は、ASBJのWebサイトに掲載されている。

2014年7月の金融安定理事会による提言に基づく金利指標改革(以下「金利指標改革」という。)が進められている中、LIBORの公表が2021年12月末をもって恒久的に停止される見通しが高まっている。LIBORを参照する取引は多く、その影響は会計処理にも及び得ることから、金利指標改革に起因する会計上の問題について、審議が行われている。

ASBJは、これまでの審議では、ヘッジ会計の取扱いを中心として議論してきており、金利指標改革に対応する実務対応報告の公開草案を2020年2月又は3月までに公表することを目標としてきたが、国際的な会計基準の開発の動向等を踏まえ、実務対応報告の公開草案の公表の目標時期を2020年4月又は5月に変更することとした

ここで、ヘッジ会計の適用要件を判断する際に、ヘッジ有効性の評価や、予定取引をヘッジ対象とする場合のその主要な取引条件の予測可能性及び当該取引の発生可能性について、金利指標改革の影響を考慮する必要があるか否かについて疑問が生じる可能性があると考えられる。

そのため、ASBJは、これらの混乱が生じる可能性を避けるために当該実務対応報告が公表されるまでの取扱いについて、これまでの審議内容を踏まえ、以下のとおり確認した。

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今回の金利指標改革に伴う金利指標の変更は現時点で確定したものではないが、仮に金利指標の変更が行われる場合、それは企業自身の意思決定に基づくものではなく、不可避的に発生する事象である。現行の会計基準はそのような事態を想定して開発されたものではないため、金利指標の変更について現行の会計基準に当てはめた場合、当該会計基準の開発時には想定されていなかった結果が生じる可能性があると考えられる。

よって、今後、実務対応報告が公表されるまでの間、ヘッジ会計の適用要件を判断する際に、金利指標改革の影響を考慮せず、ヘッジ対象及びヘッジ手段の金利指標が変更されないものと仮定して差し支えないものと考えられる。

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Ⅴ 実務対応報告公開草案第58号「連結納税制度からグループ通算制度への移行に係る税効果会計の適用に関する取扱い(案)」

ASBJは、2020年2月13日に実務対応報告公開草案第58号「連結納税制度からグループ通算制度への移行に係る税効果会計の適用に関する取扱い(案)」(以下「本公開草案」という。)を公表し、2020年3月9日までコメントを募集している。

なお、本公開草案は、第201回通常国会に提出されている「所得税法等の一部を改正する法律」案が法律として成立した後に、実務対応報告が公表されることが前提とされている。また、仮に当該法律が2020年3月31日までに成立した場合には、成立後、2020年3月31日までに実務対応報告が公表されることが想定されている。

1 公表の経緯・目的

2020年度税制改正において従来の連結納税制度が見直され、グループ通算制度に移行する税制改正法(「所得税法等の一部を改正する法律」)(以下「改正法人税法」という。)案が第201回通常国会に提出されている。

改正法人税法が成立した場合、グループ通算制度の適用は2022年4月1日以後開始する事業年度からであるが、グループ通算制度の適用対象となる企業は、改正法人税法の成立日以後に終了する事業年度の決算(四半期決算を含む。)において、グループ通算制度の適用を前提として繰延税金資産の回収可能性の判断を行う必要がある。しかし、当該判断を行うことについて、実務上対応が困難であるとの意見が聞かれたことから、本公開草案は、税効果会計の適用に関して必要と考えられる取扱いを示すことを目的としている(本公開草案1項、6項)。

2 範囲

本公開草案は、以下の企業を対象とする(本公開草案2項)。
▶ 改正法人税法の成立日の属する事業年度において連結納税制度を適用している企業

▶ 改正法人税法の成立日より後に開始する事業年度から連結納税制度を適用する企業

(参考)
改正法人税法の成立日の属する事業年度において連結納税制度を適用している企業及び改正法人税法の成立日より後に開始する事業年度から連結納税制度を適用する企業は、税務署長に対して届出書を提出しない限り、2022年4月1日以後開始する事業年度からグループ通算制度の適用対象となる(本公開草案7項)。

 

3 会計処理

改正法人税法の成立日以後に終了する事業年度の決算(四半期決算を含む。)についてグループ通算制度の適用を前提とした税効果会計における繰延税金資産及び繰延税金負債の額については、実務対応報告第5号「連結納税制度を適用する場合の税効果会計に関する当面の取扱い(その1)」(以下「実務対応報告第5号」という。)及び実務対応報告第7号「連結納税制度を適用する場合の税効果会計に関する当面の取扱い(その2)」(以下、実務対応報告第5号と合わせて「実務対応報告第5号等」という。)に関する必要な改廃をASBJが行うまでの間は、グループ通算制度への移行及びグループ通算制度への移行にあわせて単体納税制度の見直しが行われた項目について、企業会計基準適用指針第28号「税効果会計に係る会計基準の適用指針」(以下「税効果適用指針」という。)44項の定めを適用せず、改正前の税法の規定に基づくことができる(本公開草案3項)

(結論の背景)

税効果適用指針44項では、「繰延税金資産及び繰延税金負債の額は、決算日において国会で成立している税法(以下、法人税等の納付税額の計算方法が規定されている我が国の法律を総称して『税法』という。)に規定されている方法に基づき8項に定める将来の会計期間における減額税金又は増額税金の見積額を計算する。なお、決算日において国会で成立している税法とは、決算日以前に成立した税法を改正するための法律を反映した後の税法をいう。」とされている。このため、2022年4月1日以後、グループ通算制度の適用を行う企業については、改正法人税法の成立日以後に終了する事業年度の決算(四半期決算を含む。)において、グループ通算制度の適用を前提とした税効果会計の適用を行う必要がある(本公開草案8項)。

連結納税制度を適用する場合の税効果会計の適用に関する取扱いは、実務対応報告第5号等に定められている。実務対応報告第5号等は連結納税の範囲に含まれる連結会社群が法人税法上同一の納税主体となることを前提としているのに対し、グループ通算制度は、企業グループ内の各法人を納税主体として、各法人が個別に法人税額の計算及び申告を行い、損益通算等の調整を行う制度とされている。連結納税制度とグループ通算制度では納税主体等が異なることを踏まえると、グループ通算制度の下での連結財務諸表及び個別財務諸表における繰延税金資産の回収可能性の企業による判断にあたっては、ASBJにおける、グループ通算制度に基づいた繰延税金資産の回収可能性の判断についての考え方の整理が必要であり、当該整理に合わせて実務対応報告第5号等を改廃する必要がある(本公開草案9項)。

このように、グループ通算制度に関する税効果会計の取扱いについては、繰延税金資産の回収可能性の判断に関する考え方が必ずしも明らかではないこと等から、グループ通算制度の適用を前提とした税効果会計の適用に関しては、税効果適用指針44項の定めを適用せず、改正前の税法の規定に基づくことができるものとする特例的な取扱いを定めることとしたとされている(本公開草案11項、12項)。

また、改正法人税法ではグループ通算制度への移行にあわせた単体納税制度の見直しが行われている。当該見直しはグループ通算制度を適用しない企業も対象となるが、グループ通算制度への移行にあわせて設けられたものであるため、本公開草案2項の企業を対象とした特例的な取扱いを定めるにあたって、その対象に含めることとした。なお、グループ通算制度への移行にあわせた単体納税制度の見直しが行われた項目は以下のとおりである(本公開草案13項)。

(1) 受取配当等の益金不算入制度
(2) 寄附金の損金不算入制度
(3) 貸倒引当金
(4) 資産の譲渡に係る特別控除額の特例

特例的な取扱いを定めるにあたっては、例えば、繰越欠損金に重要性のない企業では、特例的な取扱いを適用する必要のない場合が生じることも考えられるため、選択適用とされている(本公開草案14項)。

また、グループ通算制度の適用を前提とした税効果会計の適用が実務上困難と考えられる主な理由がASBJにおいて実務対応報告第5号等の改廃を検討する必要があることである点を踏まえ、特例的な取扱いを適用する期間は、実務対応報告第5号等に関する必要な改廃をASBJが行うまでの間とされている(本公開草案15項)。

 

4 開示

税効果適用指針第44項の定めを適用せず、改正前の税法の規定に基づくこととした場合、繰延税金資産及び繰延税金負債の額について、本公開草案の取扱いにより改正前の税法の規定に基づいている旨を注記する(本公開草案4項)。

(結論の背景)
本公開草案に基づき特例的な取扱いを適用した場合、原則的な方法による場合と見積りの基礎が異なることから、繰延税金資産及び繰延税金負債の額について、本公開草案の取扱いにより改正前の税法の規定に基づいている旨の注記を求めることとしたとされている(本公開草案16項)。
 

 

5 適用時期

本実務対応報告(本公開草案が最終化された実務対応報告)は、公表日以後適用することが提案されている(本公開草案5項)。

【参考 2020年度税制改正の大綱におけるグループ通算制度の記載(抜粋)】

以下は、2020年度税制改正の大綱に示されたグループ通算制度に関する記載のうち、繰延税金資産の回収可能性を判断するにあたって関連があると考えられる項目を抜粋したものである。

2020年度税制改正の大綱の本文における記載
3 連結納税制度の見直し
(国税)
連結納税制度を見直し、次のグループ通算制度へ移行する。
(略)
(2) 所得金額及び法人税額の計算
 ① 損益通算

イ 欠損法人の欠損金額の合計額(所得法人の所得の金額の合計額を限度)を所得法人の所得の金額の比で配分し、所得法人において損金算入する。この損金算入された金額の合計額を欠損法人の欠損金額の比で配分し、欠損法人において益金算入する。
ロ グループ通算制度の適用法人又は通算グループ内の他の法人の所得の金額又は欠損金額が期限内申告書に記載された所得の金額又は欠損金額と異なる場合には、期限内申告書に記載された所得の金額又は欠損金額を上記イの所得の金額又は欠損金額とみなして上記イの損金算入又は益金算入の計算をする。

 ② 欠損金の通算

イ 欠損金の繰越控除額の計算は、基本的に連結納税制度と同様とする。
ロ 通算グループ内の他の法人の当期の所得の金額又は過年度の欠損金額が期限内申告書に記載された当期の所得の金額又は過年度の欠損金額と異なる場合には、期限内申告書に記載された当期の所得の金額又は過年度の欠損金額を当期の所得の金額又は過年度の欠損金額とみなす。
ハ グループ通算制度の適用法人の当期の所得の金額又は過年度の欠損金額が期限内申告書に記載された当期の所得の金額又は過年度の欠損金額と異なる場合には、欠損金額及び中小法人等以外の控除限度額(欠損金の繰越控除前の所得の金額の50%相当額をいう。)で期限内申告において通算グループ内の他の法人との間で授受した金額を固定する調整をした上で、その適用法人のみで欠損金の繰越控除額を再計算する。

(略)
(4) 各個別制度の取扱い
受取配当等の益金不算入等の個別制度については、親法人及び各子法人が申告を行うことに鑑み個別計算を原則としつつ、企業経営の実態や事務負担、制度趣旨・目的、濫用可能性等を勘案し、適切な仕組みとする。
(略)
(7) グループ通算制度への移行にあわせた単体納税制度の見直し
 ① 受取配当等の益金不算入制度について、次の見直しを行う。

イ 関連法人株式等に係る負債利子控除額を、関連法人株式等に係る配当等の額の100分の4相当額(その事業年度において支払う負債利子の額の10分の1相当額を上限とする。)とする。
ロ 関連法人株式等又は非支配目的株式等に該当するかどうかの判定については、100%グループ内(現行:連結グループ内)の法人全体の保有株式数等により行う。

 ② 寄附金の損金不算入制度について、損金算入限度額の計算の基礎となる資本金等の額を、資本金の額及び資本準備金の額の合計額とする。
 ③ 貸倒引当金について、100%グループ内(現行:連結グループ内)の法人間の金銭債権を貸倒引当金の対象となる金銭債権から除外する。
 ④ 資産の譲渡に係る特別控除額の特例について、100%グループ内(現行:連結グループ内)の各法人の特別控除額の合計額が定額控除限度額(年5,000万円)を超える場合には、その超える部分の金額を損金不算入とする。
(8) 適用関係
グループ通算制度は、2022年4月1日以後に開始する事業年度から適用する。また、連結納税制度からの移行に関する経過措置等を講ずる。
(略)

(出所)実務対応報告公開草案第58号「連結納税制度からグループ通算制度への移行に係る税効果会計の適用に関する取扱い(案)」の公表の【参考】

 

Ⅵ 企業会計基準第30号「時価の算定に関する会計基準」等

ASBJは、2019年7月4日に以下の会計基準等(以下合わせて「本会計基準等」という。)を公表した。

▶ 企業会計基準第30号「時価の算定に関する会計基準」(以下「時価算定会計基準」という。)
▶ 改正企業会計基準第9号「棚卸資産の評価に関する会計基準」(以下「棚卸資産会計基準」という。)
▶ 改正企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」(以下「金融商品会計基準」という。)
▶ 企業会計基準適用指針第31号「時価の算定に関する会計基準の適用指針」(以下「時価算定適用指針」という。)
▶ 改正企業会計基準適用指針第14号「四半期財務諸表に関する会計基準の適用指針」(以下「四半期適用指針」という。)
▶ 改正企業会計基準適用指針第19号「金融商品の時価等の開示に関する適用指針」(以下「金融商品時価開示適用指針」という。)
また、日本公認会計士協会(会計制度委員会)は、ASBJからの本会計基準等に関連する実務指針等の改正の依頼を踏まえ、2019年7月4日に以下の実務指針等の改正を公表した。
▶ 会計制度委員会報告第4号「外貨建取引等の会計処理に関する実務指針」(以下「外貨建取引等実務指針」という。)
▶ 会計制度委員会報告第14号「金融商品会計に関する実務指針」(以下「金融商品会計実務指針」という。)
▶ 金融商品会計に関するQ&A(以下「金融商品会計Q&A」という。)

1 公表の経緯・目的

我が国においては、金融商品会計基準等において、公正価値に相当する時価(公正な評価額)の算定が求められているものの、算定方法に関する詳細なガイダンスは定められていない。一方、国際会計基準審議会(IASB)及び米国財務会計基準審議会(FASB)は、公正価値測定についてほぼ同じ内容の詳細なガイダンスを定めている(国際財務報告基準(IFRS)においてはIFRS第13号「公正価値測定」(以下「IFRS第13号」という。)、米国会計基準においてはAccounting Standards Codification(FASBによる会計基準のコード化体系)のTopic820「公正価値測定」(以下「Topic820」という。))(時価算定会計基準23項)。

ASBJは、2018年3月に開催された第381回企業会計基準委員会において、金融商品の時価に関するガイダンス及び開示に関して、国際的な会計基準との整合性を図る取組みに着手する旨を決定し、検討を重ねて、本会計基準等を公表した(時価算定会計基準23項)。

2 開発にあたっての基本的な方針

時価算定会計基準の開発にあたっての基本的な方針として、統一的な算定方法を用いることにより、国内外の企業間における財務諸表の比較可能性を向上させる観点から、IFRS第13号の定めを基本的にすべて取り入れている(時価算定会計基準24項)。
ただし、これまで我が国で行われてきた実務等に配慮し、財務諸表間の比較可能性を大きく損なわせない範囲で、個別項目に対するその他の取扱いを定めている(時価算定会計基準24項)。

また、IFRS第13号では公正価値という用語が用いられているが、時価算定会計基準では代わりに時価という用語を用いている。これは、我が国における他の関連諸法規において時価という用語が広く用いられていること等を配慮したものである(時価算定会計基準25項)。

3 範囲

時価算定会計基準は、次の項目の時価に適用する(時価算定会計基準3項)。
▶ 金融商品会計基準における金融商品
▶ 棚卸資産会計基準におけるトレーディング目的で保有する棚卸資産

(結論の背景)
国際的な会計基準では、公正価値の測定及び開示の首尾一貫性を高めるために、公正価値の測定が求められる(又は認められる)項目のうち、一部の項目を除いてすべての公正価値の測定及び開示に対してIFRS第13号又はTopic820が適用され、金融商品のみならず固定資産等の公正価値測定も当該基準の範囲に含まれている(時価算定会計基準26項)。
ここで、金融商品については、国際的な会計基準と整合させることにより国際的な企業間の財務諸表の比較可能性を向上させる便益が高いものと判断し、会計基準の範囲に含めることとしたとされている(時価算定会計基準26項)。
一方、金融商品以外の資産及び負債については、時価算定会計基準の範囲に含めた場合の整合性を図るためのコストと便益を考慮し、原則として、金融商品以外の資産及び負債は時価算定会計基準の範囲に含めないこととしたとされている(時価算定会計基準26項)。

ただし、棚卸資産会計基準におけるトレーディング目的で保有する棚卸資産については、売買目的有価証券と同様に毎期時価をもって貸借対照表価額とし、評価差額は当期の損益とする処理が求められており(棚卸資産会計基準15項)、時価の算定についても金融商品と整合性を図ることが適切と考えられることから、時価算定会計基準の範囲に含めることとしたとされている(時価算定会計基準27項)。

 

4 時価の定義

「時価」とは、算定日において市場参加者間で秩序ある取引が行われると想定した場合の、当該取引における資産の売却によって受け取る価格又は負債の移転のために支払う価格をいう(時価算定会計基準5項)。

時価は、直接観察可能であるかどうかにかかわらず、算定日における市場参加者間の秩序ある取引が行われると想定した場合の出口価格(資産の売却によって受け取る価格又は負債の移転のために支払う価格)であり入口価格(交換取引において資産を取得するために支払った価格又は負債を引き受けるために受け取った価格)ではない(時価算定会計基準31項(2))。

(用語の定義)
▶ 「市場参加者」とは、資産又は負債に関する主要な市場又は最も有利な市場において、次の要件のすべてを満たす買手及び売手をいう(時価算定会計基準4項(1))。
   ① 互いに独立しており、関連当事者(企業会計基準第11号「関連当事者の開示に関する会計基準」(以下「関連当事者会計基準」という。)5項(3))ではないこと
   ② 知識を有しており、すべての入手できる情報に基づき当該資産又は負債について十分に理解していること
   ③ 当該資産又は負債に関して、取引を行う能力があること
   ④ 当該資産又は負債に関して、他から強制されるわけではなく、自発的に取引を行う意思があること
▶ 「秩序ある取引」とは、資産又は負債の取引に関して通常かつ慣習的な市場における活動ができるように時価の算定日以前の一定期間において市場にさらされていることを前提とした取引をいう。他から強制された取引(例えば、強制された清算取引や投売り)は、秩序ある取引に該当しない(時価算定会計基準4項(2))。
▶ 「主要な市場」とは、資産又は負債についての取引の数量及び頻度が最も大きい市場をいう(時価算定会計基準4項(3))。
▶ 「最も有利な市場」とは、取得又は売却に要する付随費用を考慮したうえで、資産の売却による受取額を最大化又は負債の移転に対する支払額を最小化できる市場をいう(時価算定会計基準4項(4))。

 

(その他有価証券の期末前1か月の平均価額に関する定めの削除)
時価の定義の変更に伴い、改正前の金融商品会計基準(注7)におけるその他有価証券の期末の貸借対照表価額に期末前1か月の市場価格の平均に基づいて算定された価額を用いることができる定めについては、その平均価額が改正された時価の定義を満たさないことから削除されている(金融商品会計基準(注7))。これに併せて、金融商品会計実務指針及び金融商品会計Q&Aにおいても、同様の規定が削除されている(金融商品会計実務指針75項、金融商品会計Q&A Q32)。

ただし、その他有価証券の減損を行うか否かの判断については、減損の判断が合理的な範囲で幅のある定めとなっていることを踏まえて、期末前1か月の市場価格の平均に基づいて算定された価額を用いることができる取扱いを踏襲している。なお、この場合であっても、評価差額の算定には期末日の時価を用いる(金融商品会計実務指針91項、284項)。

また、上記の取扱いに併せ、外貨建取引等実務指針において時価として期末前1か月の市場価格の平均に基づいて算定された価額を用いる場合の換算についての取扱いも削除されている(外貨建取引等実務指針11項)。


5 時価の算定単位

資産又は負債の時価を算定する単位は、それぞれの対象となる資産又は負債に適用される会計処理又は開示による(時価算定会計基準6項)。

しかし、次の要件のすべてを満たす場合には、特定の市場リスク(市場価格の変動に係るリスク)又は特定の取引相手先の信用リスク(取引相手先の契約不履行に係るリスク)に関して金融資産及び金融負債を相殺した後の正味の資産又は負債を基礎として、当該金融資産及び金融負債のグループを単位とした時価を算定することができる。なお、本取扱いは特定のグループについて毎期継続して適用し、重要な会計方針において、その旨を注記する(時価算定会計基準7項)。

(1)企業の文書化したリスク管理戦略又は投資戦略に従って、特定の市場リスク又は特定の取引相手先の信用リスクに関する正味の資産又は負債に基づき、当該金融資産及び金融負債のグループを管理していること
(2)当該金融資産及び金融負債のグループに関する情報を企業の役員(関連当事者会計基準5項(7))に提供していること
(3)当該金融資産及び金融負債を各決算日の貸借対照表において時価評価していること
(4)特定の市場リスクに関連して本項の定めに従う場合には、当該金融資産と金融負債のグループの中で企業がさらされている市場リスクがほぼ同一であり、かつ、当該金融資産と金融負債から生じる特定の市場リスクにさらされている期間がほぼ同一であること
(5)特定の取引相手先の信用リスクに関連して本項の定めに従う場合には、債務不履行の発生時において信用リスクのポジションを軽減する既存の取決め(例えば、取引相手先とのマスターネッティング契約や当事者の信用リスクに対する正味の資産又は負債に基づき担保を授受する契約)が法的に強制される可能性についての市場参加者の予想を時価に反映すること


6 時価の算定方法

「評価技法」に「インプット」を投入して算定対象であるアウトプットの時価を算定する。

(1) 評価技法

時価の算定にあたっては、状況に応じて、十分なデータが利用できる評価技法を用いる(時価算定会計基準8項)。

(評価技法の種類)
時価を算定するにあたって用いる評価技法には、例えば、次の3つのアプローチがある(時価算定適用指針5項)。
(1)マーケット・アプローチ
マーケット・アプローチとは、同一又は類似の資産又は負債に関する市場取引による価格等のインプットを用いる評価技法をいう。当該評価技法には、例えば、倍率法や主に債券の時価算定に用いられるマトリックス・プライシングが含まれる。
(2)インカム・アプローチ
インカム・アプローチとは、利益やキャッシュ・フロー等の将来の金額に関する現在の市場の期待を割引現在価値で示す評価技法をいう。当該評価技法には、例えば、現在価値技法やオプション価格モデルが含まれる。
(3)コスト・アプローチ
コスト・アプローチとは、資産の用役能力を再調達するために現在必要な金額に基づく評価技法をいう。


評価技法を用いるにあたっては、関連性のある観察可能なインプットを最大限利用し観察できないインプットの利用を最小限にする(時価算定会計基準8項)。

時価の算定に用いる評価技法は、毎期継続して適用する。当該評価技法又はその適用(例えば、複数の評価技法を用いる場合のウェイト付けや、評価技法への調整)を変更する場合は、会計上の見積りの変更(企業会計基準第24号「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」(以下「企業会計基準第24号」という。)4項(7))として処理する。この場合、企業会計基準第24号18項並びに企業会計基準第12号「四半期財務諸表に関する会計基準」19項(4)及び25項(3)の注記(会計上の見積りの変更の内容及び影響額の注記)を要しないが、当該連結会計年度及び当該事業年度の年度末に係る連結財務諸表及び個別財務諸表において変更の旨及び変更の理由を注記する(金融商品時価開示適用指針5-2項(3)②)(時価算定会計基準10項)。

(2) インプット

「インプット」とは、市場参加者が資産又は負債の時価を算定する際に用いる仮定(時価の算定に固有のリスクに関する仮定を含む。)をいう。インプットには、相場価格を調整せずに時価として用いる場合における当該相場価格も含まれる。インプットは、次の「観察可能なインプット」と「観察できないインプット」により構成される(時価算定会計基準4項(5))。

「観察可能なインプット」とは、入手できる観察可能な市場データに基づくインプットをいう。
「観察できないインプット」とは、観察可能な市場データではないが、入手できる最良の情報に基づくインプットをいう。


時価の算定に用いるインプットは、次の順に優先的に使用する(レベル1のインプットが最も優先順位が高く、レベル3のインプットが最も優先順位が低い。)(時価算定会計基準11項)。

観察可能なインプット/観察できないインプット
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(用語の定義)
▶ 「活発な市場」とは、継続的に価格情報が提供される程度に十分な数量及び頻度で取引が行われている市場をいう(時価算定会計基準4項(6))。


時価は、その算定において重要な影響を与えるインプットが属するレベルに応じて、レベル1の時価、レベル2の時価又はレベル3の時価に分類する。なお、時価を算定するために異なるレベルに区分される複数のインプットを用いており、これらのインプットに、時価の算定に重要な影響を与えるインプットが複数含まれる場合、これら重要な影響を与えるインプットが属するレベルのうち、時価の算定における優先順位が最も低いレベルに当該時価を分類する(時価算定会計基準12項)。

図表1 時価のレベルの分類における評価技法とインプットの関係
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(参考)
時価のレベルは、時価の算定に用いるインプットが観察可能であるか及び経営者の見積りによる不確実性が存在するかを表すものであるため、時価の算定対象となる商品の複雑性や市場における流動性を必ずしも示すものではない。例えば、商品としては単純なものであっても時価の算定に用いるインプットによって時価のレベルが異なる場合がある。また、時価がレベル3に分類される商品であっても当該商品の市場における流動性が低いとも限らない(企業会計基準第30号「時価の算定に関する会計基準」等の公表(別紙1))。


(3)資産又は負債の取引の数量又は頻度が著しく低下している場合等

資産又は負債の取引の数量又は頻度が当該資産又は負債に係る通常の市場における活動に比して著しく低下していると判断した場合、取引価格又は相場価格が時価を表しているかどうかについて評価する(時価算定会計基準13項)。

当該評価の結果、当該取引価格又は相場価格が時価を表していないと判断する場合(取引が秩序ある取引ではないと判断する場合を含む。)、当該取引価格又は相場価格を時価を算定する基礎として用いる際には、当該取引価格又は相場価格について、市場参加者が資産又は負債のキャッシュ・フローに固有の不確実性に対する対価として求めるリスク・プレミアムに関する調整を行う(時価算定会計基準13項)。

(4)負債又は払込資本を増加させる金融商品の時価

負債又は払込資本を増加させる金融商品(例えば、企業結合の対価として発行される株式)については、時価の算定日に市場参加者に移転されるものと仮定して、時価を算定する(時価算定会計基準14項)。

負債の時価の算定にあたっては、負債の不履行リスクの影響を反映する。負債の不履行リスクとは、企業が債務を履行しないリスクであり、企業自身の信用リスクに限られるものではない。また、負債の不履行リスクについては、当該負債の移転の前後で同一であると仮定する(時価算定会計基準15項)。

(結論の背景)
負債の不履行リスクが当該負債の移転の前後で同一であるとの仮定(15項参照)は現実的なものではないが、負債を引き受ける企業(譲受人)の信用リスクを特定しなければ、市場参加者である譲受人の特性を企業がどのように仮定するかによって、当該負債の時価が大きく異なる可能性があるため、当該仮定を定めている(時価算定会計基準44項)。


7 その他の取扱い(第三者から入手した相場価格の利用)

取引相手の金融機関、ブローカー、情報ベンダー等、第三者から入手した相場価格が時価算定会計基準に従って算定されたものであると判断する場合には、当該価格を時価の算定に用いることができる(時価算定適用指針18項)。

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(判断方法の例示)
第三者から入手した相場価格が時価算定会計基準に従って算定されたものであると判断するに場合に、例えば、企業は次のような手続を実施することが考えられる。なお、次の手続は例示であり、状況に応じて選択して実施する。また、記載したもの以外の手続によることも考え得る(時価算定適用指針43項)。

(1) 当該第三者から入手した価格と企業が計算した推定値とを比較し検討する。
(2) 他の第三者から会計基準に従って算定がなされていると期待される価格を入手できる場合、当該他の第三者から入手した価格と当該第三者から入手した価格とを比較し検討する。
(3) 当該第三者が時価を算定する過程で、会計基準に従った算定(インプットが算定日の市場の状況を表しているか、観察可能なものが優先して利用されているか、また、評価技法がそのインプットを十分に利用できるものであるかなど)がなされているかを確認する。
(4) 企業が保有しているかどうかにかかわらず、会計基準に従って算定されている類似銘柄(同じアセットクラスであり、かつ同格付銘柄など)の価格と比較する。
(5) 過去に会計基準に従って算定されていると確認した当該金融商品の価格の時系列推移の分析など商品の性質に合わせた分析を行う。

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上記の定めにかかわらず、総資産の大部分を金融資産が占め、かつ総負債の大部分を金融負債及び保険契約から生じる負債が占める企業集団又は企業(以下「企業集団等」という。)以外の企業集団等においては、①第三者が客観的に信頼性のある者で企業集団等から独立した者であり公表されているインプットの契約時からの推移と入手した相場価格との間に明らかな不整合はないと認められる場合で、かつ、②レベル2の時価に属すると判断される場合には、次のデリバティブ取引については、当該第三者から入手した相場価格を時価とみなすことができる

(1) インプットである金利がその全期間にわたって一般に公表されており観察可能である同一通貨の固定金利と変動金利を交換する金利スワップ(いわゆるプレイン・バニラ・スワップ)
(2) インプットである所定の通貨の先物為替相場がその全期間にわたって一般に公表されており観察可能である為替予約又は通貨スワップ


なお、オプションを含むような取引については、利用されるボラティリティの種類によってはレベル3の時価に分類されると考えられるため、本項の適用の対象外となる(時価算定適用指針24項)。

(結論の背景)
総資産の大部分を金融資産が占め、かつ総負債の大部分を金融負債及び保険契約から生じる負債が占める企業とは、銀行、保険会社、証券会社、ノンバンク等が想定される。これら以外の企業集団等においては、実務におけるコストと便益を比較衡量した結果、時価の算定の不確実性が相当程度低いと判断される特定のデリバティブ取引については、第三者から提供された価格を時価とみなすことができるとするその他の取扱いを定めることとしたとされている(時価算定適用指針49項)。

 

8 市場価格のない株式等の取扱い

時価算定会計基準においては、時価のレベルに関する概念を取り入れ、たとえ観察可能なインプットを入手できない場合であっても、入手できる最良の情報に基づく観察できないインプットを用いて時価を算定することとしている。このような時価の考え方の下では、時価を把握することが極めて困難と認められる有価証券は想定されない金融商品会計基準の改正は、時価を用いる場合の時価の算定方法を明らかにするもので、時価評価の範囲の変更を意図するものではないが、時価を把握することが極めて困難と認められる有価証券の定めを残した場合、金融商品会計基準の下でも時価を把握することが極めて困難と認められる有価証券が存在するとの誤解を生じさせかねないため、時価を把握することが極めて困難と認められる有価証券の定めが削除された(金融商品会計基準19項、81-2項)。

ただし、市場価格のない株式等(市場において取引されていない株式及び出資金など株式と同様に持分の請求権を生じさせるもの)に関しては、たとえ何らかの方式により価額の算定が可能としても、それを時価とはしないとする従来の考え方を踏襲し、引き続き取得原価をもって貸借対照表価額とする取扱いとするとされている(金融商品会計基準19項、81-2項)。
これにより、これまで時価を把握することが極めて困難であるとして、取得原価又は償却原価法に基づいて算定された価額をもって貸借対照表価額としていたもののうち、市場価格のない株式等に含まれないものについては、時価をもって貸借対照表価額とすることとなる。

また、市場価格のない株式等については時価を注記しないこととされている。この場合、当該金融商品の概要及び貸借対照表計上額を注記する(金融商品会計基準40-2項(2)なお書き、金融商品時価開示適用指針5項)。

図表2 改正後の金融商品の貸借対照表価額及び時価注記の取扱いの概要
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表中における凡例 金:金融商品会計基準、開:金融商品時価開示適用指針
※1 「市場価格のない株式等」とは、市場で取引されていない株式及び出資金など株式と同様に持分の請求権を生じさせるものである(金融商品会計基準19項)。
※2 改正前においては、時価を把握することが極めて困難と認められるため時価を注記していない金融商品については、当該金融商品の概要、貸借対照表計上額及びその理由の注記が求められていた。
※3 市場価格のない株式等については、時価を注記しないこととされている。この場合、当該金融商品の概要及び貸借対照表計上額を注記する(金融商品会計基準40-2項(2)なお書き)。
※4 貸借対照表に持分相当額を純額で計上する組合等への出資の時価の注記に関する経過措置については、本稿「10適用時期等(2)経過措置③(時価算定適用指針27項)」を参照。
※5 時価をもって貸借対照表価額としない金融商品の貸借対照表価額については、例えば、債権は取得原価(又は償却原価)-貸倒引当金、満期保有目的の債券は取得原価(又は償却原価)、組合等への出資は原則として組合等の財産の持分相当額、金銭債務は債務額(又は償却原価)となり、各商品や保有目的により異なる。
(企業会計基準第30号「時価の算定に関する会計基準」等の公表(別紙2)を一部加工)
 

9 開示

金融商品時価開示適用指針では、今回の取組みが国際的な会計基準との整合性を向上させるものである点を踏まえ、基本的にはIFRS第13号の開示項目との整合性を図っているが、一部の開示項目についてはコストと便益を考慮して採り入れていない(金融商品時価開示適用指針39-3項)。

「金融商品の時価のレベルごとの内訳等に関する事項」(金融商品会計基準40-2項(3))として、【図表3】に記載の事項を金融資産及び金融負債の適切な区分に基づき注記する(金融商品時価開示適用指針5-2項)(注記のイメージは、【図表4】を参照)。金融資産及び金融負債の適切な区分は、当該金融資産又は金融負債の性質、特性及びリスク並びに時価のレベル等に基づいて決定することになるものと考えられる(金融商品時価開示適用指針39-5項)。

ただし、重要性が乏しいものは注記を省略することができる(金融商品時価開示適用指針5-2項)。企業は、注記の対象となる金融商品について、貸借対照表日現在の残高のほか、時価の見積りの不確実性の大きさを勘案したうえで、当期純利益、総資産及び金融商品の残高等に照らして、注記の必要性を判断することになるものと考えられる(金融商品時価開示適用指針39-4項)。

なお、連結財務諸表において注記している場合には、個別財務諸表において記載することを要しない(金融商品時価開示適用指針5-2項)。

図表3 金融商品の時価のレベルごとの内訳等に関する事項の注記
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図表4 金融商品の時価のレベルごとの内訳等に関する事項の注記のイメージ
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なお、IFRS第13号では【図表3】に記載の事項に加えて次の注記を求めているものの、金融商品時価開示適用指針では、これらの注記は求めていない。

コストと便益を考慮して、注記を求めないこととしたもの
▶ レベル1の時価とレベル2の時価との間のすべての振替額及び当該振替の理由(IFRS第13号93項(c))(金融商品時価開示適用指針39-17項)
▶ 貸借対照表で時価評価するレベル3の時価の金融商品について、観察できないインプットを合理的に考え得る代替的な仮定に変更した場合の影響(IFRS第13号93項(h)(ii))(金融商品時価開示適用指針39-18項)

金融商品会計基準の適用対象外となるため、注記を求めないこととしたもの(金融商品時価開示適用指針39-16項)
▶ 非金融資産の最有効使用に関する開示(IFRS第13号93項(i))
▶ 非経常的な時価の算定に関する開示(IFRS第13号93項(a)、(b)、(d)及び(g))
▶ 分離不可能な第三者の信用補完とともに発行されている負債の公正価値測定における信用補完の反映方法の開示(IFRS第13号98項)


四半期では、貸借対照表で時価評価する金融商品について、企業集団の事業運営にあたっての重要な項目であり、かつ、前年度末と比較して著しく変動している場合に、【図表3】(1) 「貸借対照表日における時価のレベル(レベル1〜3)ごとの合計額」を、適切な区分に基づき開示する(四半期適用指針80項(3)④)。ただし、総資産の大部分を金融資産が占め、かつ総負債の大部分を金融負債及び保険契約から生じる負債が占める企業集団以外の企業集団においては、第1四半期及び第3四半期では注記を省略することができる(四半期適用指針80項(3))。
 

10 適用時期等

(1) 適用時期

時価算定会計基準、棚卸資産会計基準及び金融商品会計基準は、2021年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用する(時価算定会計基準16項、棚卸資産会計基準21-5項、金融商品会計基準41項(5))。

(結論の背景)
システムの開発やプロセスの整備及び運用までを含めると十分な準備期間が必要であるとの意見や、具体的な実務の運用を検討するためにより時間を要するとの意見が寄せられたことから、2021年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用することとしたとされている(時価算定会計基準45項)。


ただし、速やかに適用することへの一定のニーズがあると想定されることから、2020年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から、また、2020年3月31日以後終了する連結会計年度及び事業年度における年度末に係る連結財務諸表及び個別財務諸表から早期適用することができる。なお、これらのいずれかの場合には、同時に公表又は改正された時価算定会計基準、棚卸資産会計基準及び金融商品会計基準を同時に適用する必要がある(時価算定会計基準17項、45項、棚卸資産会計基準21-6項、金融商品会計基準41項(6))

(2) 経過措置

本会計基準等では、次の経過措置を定めている。

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(時価算定会計基準及び時価算定適用指針)
① 適用初年度の取扱い

原則

時価算定会計基準及び時価算定適用指針が定める新たな会計方針を、将来にわたって適用する
この場合、その変更の内容について注記する(時価算定会計基準19項、時価算定適用指針25項)。

容認

時価の算定にあたり観察可能なインプットを最大限利用しなければならない定めなどにより、時価算定会計基準及び時価算定適用指針の適用に伴い時価を算定するために用いた方法を変更することとなった場合で、当該変更による影響額を分離することができるときは、会計方針の変更に該当するものとし、当該会計方針の変更を過去の期間のすべてに遡及適用することができる

また、適用初年度の期首より前に新たな会計方針を遡及適用した場合の累積的影響額を、適用初年度の期首の利益剰余金及びその他の包括利益累計額又は評価・換算差額等に加減し、当該期首残高から新たな会計方針を適用することもできる。これらの場合、企業会計基準第24号10項に定められる事項を注記する(時価算定会計基準20項、時価算定適用指針25項)。


② 投資信託の時価の算定に関しては、本会計基準等公表後概ね1年をかけて検討を行うこととし、それまでの間は改正前の取扱いを踏襲することができる。この場合、金融商品時価開示適用指針5-2項の注記(時価のレベルごとの内訳等に関する事項の注記)は要しない

当該注記を行わない場合、当該投資信託について、その旨及び貸借対照表計上額を金融商品時価開示適用指針5-2項(1)の注記(貸借対照表日における時価のレベル(レベル1〜3)ごとの合計額の注記)に併せて注記する(時価算定適用指針26項)。

③ 貸借対照表に持分相当額を純額で計上する組合等への出資の時価の注記については、組合等への出資の時価の算定に関して、時価の算定対象が出資そのものなのか構成要素なのかが不明確であり投資信託と同様の論点が生じ得るとの意見が聞かれたため、投資信託の取扱いを改正する際にその取扱いを明らかにすることとし、それまでの間は金融商品時価開示適用指針4項(1)の注記(金融商品に関する貸借対照表の科目ごとの、貸借対照表計上額、時価及びその差額の注記)は要しない

当該注記を行わない場合、当該組合等への出資について、その旨及び貸借対照表計上額を金融商品時価開示適用指針4項(1)の注記に併せて注記する(時価算定適用指針27項、52項)。

(金融商品時価開示適用指針)
④ 金融商品時価開示適用指針5-2項の注記(時価のレベルごとの内訳等に関する事項の注記)については、適用初年度の比較情報は要しない(金融商品時価開示適用指針7-4項)。

⑤ 改正金融商品会計基準を年度末の財務諸表から適用する場合には、適用初年度における金融商品時価開示適用指針5-2項(4)②の注記(レベル3の時価の金融商品の期首残高から期末残高への調整表)を省略することができる。また、この場合、適用初年度の翌年度においては、同注記の比較情報は要しない(金融商品時価開示適用指針7-5項)。

(棚卸資産会計基準)
⑥ トレーディング目的で保有する棚卸資産の時価の定義の見直しにより生じる会計方針の変更については、時価算定会計基準の適用初年度における原則的な取扱いと同様に将来にわたって適用する。この場合、その変更の内容について注記する(棚卸資産会計基準21-7項)。

(金融商品会計基準)
⑦ その他有価証券の期末の貸借対照表価額に期末前1か月の市場価格の平均に基づいて算定された価額を用いることができる定めの削除や、市場価格のない株式等以外の時価を把握することが極めて困難な有価証券の定めの削除など、時価の定義の見直しに伴う金融商品会計基準の改正により生じる会計方針の変更は、時価の算定を変更することになり得るという意味では時価算定会計基準が定める新たな会計方針の適用と同一であるため、時価算定会計基準の適用初年度における原則的な取扱いと同様に将来にわたって適用する。この場合、その変更の内容について注記する(金融商品会計基準44-2項)。

(四半期適用指針)
⑧ 適用初年度においては、四半期適用指針80項(3)④の注記(貸借対照表日における時価のレベル(レベル1〜3)ごとの合計額の注記)を要しない(四半期適用指針81-9項)。

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Ⅶ 企業会計基準公開草案第68号「会計上の見積りの開示に関する会計基準(案)」

ASBJは、2019年10月30日に、企業会計基準公開草案第68号「会計上の見積りの開示に関する会計基準(案)」(以下「本公開草案」という。)を公表した。2020年1月10日にコメント募集を締め切り、現在、2020年3月に最終基準化することを目標として、公開草案に寄せられたコメントへの対応を検討している。

1 公表の経緯・目的

2016年3月及び2017年11月、基準諮問会議に対して、IAS第1号「財務諸表の表示」(以下「IAS第1号」という。)125項において開示が求められている「見積りの不確実性の発生要因」について、財務諸表利用者にとって有用性が高い情報として日本基準においても開示を求めることを検討するよう要望が寄せられた。

その後、2018年11月に、基準諮問会議より、見積りの不確実性の発生要因に係る注記情報の充実について検討することがASBJに提言され、この提言を受けて、ASBJは、2018年12月より審議を開始し、その結果を公開草案として公表した(本公開草案12項)。

2 開発にあたっての基本的な方針

本公開草案の開発にあたっての基本的な方針として、個々の注記を拡充するのではなく、原則(開示目的)を示したうえで、具体的な開示内容は開示目的に照らして判断することとされている。また、IAS第1号125項の定めが参考とされている(本公開草案13項)。

3 会計上の見積りの開示目的

会計上の見積りは、財務諸表作成時に入手可能な情報に基づいて合理的な金額を算出するものであるが、財務諸表に計上する金額に係る見積りの方法や、見積りの基礎となる情報が財務諸表作成時にどの程度入手可能であるかは様々であり、その結果、財務諸表に計上する金額の不確実性の程度も様々となる。このため、当年度の財務諸表に計上した金額が会計上の見積りによるもののうち、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼす可能性が高い項目における会計上の見積りの内容について、財務諸表利用者の理解に資する情報を開示することが目的とされている(本公開草案4項)。

ここで、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼす可能性が高い項目は企業によって異なるため、個々の会計基準を改正するのではなく、会計上の見積りの開示について包括的に定めた会計基準において原則(開示目的)を示し、開示する具体的な項目及びその記載内容については当該原則(開示目的)に照らして判断することが企業に求められている(本公開草案15項)。

4 開示する項目の識別

(1)項目の識別における判断

当年度の財務諸表に計上した金額が会計上の見積りによるもののうち、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼす可能性が高い項目を識別する(本公開草案5項)。
ここで識別するにあたっては、翌年度の財務諸表に及ぼす影響の「金額的な大きさ」と「その発生可能性」を総合的に勘案して企業が判断することとされており、判断のための詳細な規準は示さないこととされている(本公開草案19項、20項)。

(2)識別する項目

識別する項目は、通常、当年度の財務諸表に計上した資産及び負債であるとされている(本公開草案5項)。ただし、当年度の財務諸表に計上した金額に重要性があるものに着目して開示する項目を識別するのではなく、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼす可能性が高いものに着目して開示する項目を識別することとされているため、例えば、固定資産について減損損失の認識は行わないとした場合でも、翌年度の財務諸表に及ぼす影響を検討したうえで、当該固定資産を開示する項目として識別する可能性がある(本公開草案21項)。

なお、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼす可能性が高い場合には、①当年度の財務諸表に計上した収益及び費用(一定期間にわたり充足される履行義務に係る収益の認識や、ストック・オプションの費用処理額の見積りなど)、②会計上の見積りの結果、当年度の財務諸表に計上しないこととした負債(引当金など)、③注記において開示する金額を算出するにあたって見積りを行ったもの(金融商品や賃貸等不動産の時価情報など)についても、識別することを妨げないとされている点に留意が必要である(本公開草案21項)。

(3)識別する項目の数

翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼす可能性が高い項目を識別するとしていることから、比較的少数の項目を識別することになると考えられる(本公開草案23項)。

5 注記事項

(1)項目名

識別した項目について、識別した会計上の見積りの内容を表す項目名を注記する(本公開草案6項)。
なお、当該注記は独立の注記項目とし、識別した項目が複数ある場合には、それらの項目名はまとめて記載する(本公開草案6項)。これはIAS第1号125項では求められていないものの、本公開草案に基づき開示された情報であることが明瞭にわかるようにすることが有用であるとの考えに基づく(本公開草案24項)。

(2)項目名に加えて注記する事項

識別した項目のそれぞれについて、次の事項を注記することを提案している(本公開草案7項)。

① 当年度の財務諸表に計上した金額
② 会計上の見積りの内容について財務諸表利用者の理解に資するその他の情報


なお、上記②のその他の情報として、以下が例示として挙げられている(本公開草案8項)。

(a) 当年度の財務諸表に計上した金額の算出方法
(b) 当年度の財務諸表に計上した金額の算出に用いた主要な仮定
(c) 翌年度の財務諸表に与える影響

 

6 個別財務諸表における取扱い

連結財務諸表を作成している場合、個別財務諸表においては、識別した項目ごとに、当年度の個別財務諸表に計上した金額の算出方法に関する記載をもって、会計上の見積りの内容について財務諸表利用者の理解に資するその他の情報に代えることができる。また、この場合、連結財務諸表における記載を参照することができる(公開草案9項)。

7 適用時期等

本会計基準(本公開草案が最終化された会計基準)の適用時期について、以下のとおり提案されている(本公開草案10項)。

原則適用

2021年3月31日以後終了する連結会計年度及び事業年度の年度末に係る連結財務諸表及び個別財務諸表から適用する。

早期適用

公表日以後終了する連結会計年度及び事業年度における年度末に係る連結財務諸表及び個別財務諸表から早期適用することができる


また、本会計基準の適用初年度において、本会計基準の適用は表示方法の変更として取り扱う。ただし、企業会計基準第24号14項の定めにかかわらず、本公開草案6項及び7項に定める注記事項について、適用初年度の連結財務諸表及び個別財務諸表に併せて表示される前連結会計年度における連結財務諸表に関する注記及び前事業年度における個別財務諸表に関する注記(以下「比較情報」という。)に記載しないことができる(本公開草案11項)。

Ⅷ 企業会計基準公開草案第69号(企業会計基準第24号の改正案)「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準(案)」

ASBJは、2019年10月30日に、企業会計基準公開草案第69号(企業会計基準第24号の改正案)「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準(案)」(以下「本公開草案」という。)を公表した。2020年1月10日にコメント募集を締め切り、現在、2020年3月に最終基準化することを目標として、公開草案に寄せられたコメントへの対応を検討している。

1 公表の経緯・目的

2018年11月に開催された第397回企業会計基準委員会において、公益財団法人財務会計基準機構内に設けられている基準諮問会議より、関連する会計基準等の定めが明らかでない場合に採用した会計処理の原則及び手続に係る注記情報の充実について検討することが提言され、この提言を受けて、ASBJは、2018年12月より審議を開始し、その結果を本公開草案として公表した(本公開草案28-2項)。

2 範囲

本公開草案は、会計方針の開示、会計上の変更及び過去の誤謬の訂正に関する会計処理及び開示について適用する(本公開草案4-2項)。
関連する会計基準等の定めが明らかでない場合に採用した会計処理の原則及び手続に係る注記情報の充実を図るに際しては、関連する会計基準等の定めが明らかな場合におけるこれまでの実務に影響を及ぼさないために、企業会計原則注解(注1-2)の定めを引き継ぐとされている(本公開草案28-2項)。このため、本公開草案は、重要な会計方針の開示における従来の考え方を変更するものではない(本公開草案29-2項)。

3 開示目的

(1)重要な会計方針に関する注記の開示目的

重要な会計方針に関する注記の開示目的は、財務諸表を作成するための基礎となる事項を財務諸表利用者が理解するために、採用した会計処理の原則及び手続の概要(どのような場合にどのような項目を計上するのか、計上する金額をどのように算定しているのか)を示すことにある。この開示目的は、会計処理の対象となる会計事象や取引(以下「会計事象等」という。)に関連する会計基準等の定めが明らかでない場合も同じである(本公開草案4-2項)。

(結論の背景)
重要な会計方針に関する情報は、財務諸表利用者が財務諸表の作成方法を理解し、財務諸表間で比較を行うために不可欠な情報であると考えられる。

また、関連する会計基準の定めが明らかでない場合に採用した会計処理の原則及び手続の開示上の取扱いを明らかにして、財務諸表利用者が財務諸表を理解する上で不可欠な情報が提供されるようにすることは有用であると考えられる(本公開草案44-2項、44-3項)。

これは、現状では、関連する会計基準等の定めが明らかでない場合に、企業が実際に採用した会計処理の原則及び手続が重要な会計方針として開示されているか否かについて実態は様々であり、当該会計処理の原則及び手続について、財務諸表利用者が理解することが困難なことがあるものと考えられるためである(本公開草案44-3項)。

したがって、本公開草案では、開示目的について、関連する会計基準等の定めが明らかでない場合も同じである旨が示されている(本公開草案44-3項)。

 

(2)関連する会計基準等の定めが明らかでない場合

「関連する会計基準等の定めが明らかでない場合」とは、特定の会計事象等に対して適用し得る具体的な会計基準等の定めが存在しないため、会計処理の原則及び手続を策定して適用する場合をいう(本公開草案4-2項)。

また、「関連する会計基準等の定めが明らかでない場合」に該当するものとして、以下が例示として挙げられている(本公開草案44-4項、44-5項)。

① 関連する会計基準等が存在しない新たな取引や経済事象が出現した場合に適用する会計処理の原則及び手続で重要性があるもの
これには、対象とする会計事象等自体に関して適用される会計基準等については明らかではないものの、参考となる既存の会計基準等(他の会計基準設定主体が定めた会計基準等を含む)がある場合には、当該既存の会計基準等が定める会計処理の原則及び手続も含まれる。

② 業界の実務慣行とされている会計処理方法で重要性があるもの
会計基準等には、一般に公正妥当と認められる会計処理の原則及び手続を明文化して定めたもの(法令等)も含まれる(企業会計基準適用指針第24号「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準の適用指針」5項及び16項参照)。これを踏まえると、「関連する会計基準等の定めが明らかでない場合」には、①に加えて、法令等に含まれない業界の実務慣行とされている会計処理方法で重要性があるものも該当すると考えられる。また、これには、企業が所属する業界団体が当該団体に所属する各企業に対して通知する会計処理方法が含まれる。

 

4 注記事項

本公開草案では、重要な会計方針に関する注記について、企業会計原則注解(注1-2)の定めを引き継いでおり、以下のとおり従来から変更されていない。
財務諸表には、重要な会計方針について、採用した会計処理の原則及び手続の概要を注記する(本公開草案4-3項)。会計方針の例としては、次のようなものがある。ただし、重要性の乏しいものについては、注記を省略することができる(本公開草案4-4項)。

① 有価証券の評価基準及び評価方法
② 棚卸資産の評価基準及び評価方法
③ 固定資産の減価償却の方法
④ 繰延資産の処理方法
⑤ 外貨建資産及び負債の本邦通貨への換算基準
⑥ 引当金の計上基準
⑦ 収益及び費用の計上基準


また、会計基準等の定めが明らかであり、当該会計基準等において代替的な会計処理の原則及び手続が認められていない場合には、当該会計方針の注記を省略することができる(本公開草案4-5項)。

なお、開示の詳細さ(開示の分量)については、注記の内容は企業によって異なるものであり、開示の詳細さは各企業が開示目的に照らして判断すべきものと考えられることから、特段定められていない(本公開草案44-7項)。

5 適用時期等

本会計基準(本公開草案が最終化された会計基準)の適用時期について、以下のとおり提案されている(本公開草案25-2項)。

 

原則適用

 2021年3月31日以後終了する事業年度の年度末に係る財務諸表から適用する。

早期適用

ただし、公表日以後終了する事業年度の年度末に係る財務諸表から早期適用することができる。


また、適用初年度において本会計基準の内容を適用したことにより新たに注記する会計方針は、表示方法の変更に該当せず、関連する会計基準等の定めが明らかでない場合に採用した会計処理の原則及び手続を新たに開示するときには、追加情報としてその旨を注記する(本公開草案25-3項)。

以 上

本記事に関する留意事項

本記事は皆様への情報提供として一般的な情報を掲載するのみであり、その性質上、特定の個人や事業体に具体的に適用される個別の事情に対応するものではありません。また、本記事の作成または発行後に、関連する制度その他の適用の前提となる状況について、変動を生じる可能性もあります。個別の事案に適用するためには、当該時点で有効とされる内容により結論等を異にする可能性があることをご留意いただき、本記事の記載のみに依拠して意思決定・行動をされることなく、適用に関する具体的事案をもとに適切な専門家にご相談ください。

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