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IASBが、負債の流動又は非流動への分類を明確化するためにIAS第1号を修正
IFRS in Focus|月刊誌『会計情報』2020年4月号
注:本資料はDeloitteのIFRS Global Officeが作成し、有限責任監査法人トーマツが翻訳したものです。この日本語版は、読者のご理解の参考までに作成したものであり、原文については英語版ニュースレターをご参照下さい。
トーマツIFRSセンター・オブ・エクセレンス
このIFRS in Focusは、国際会計基準審議会(IASB)が公表したIAS第1号「財務諸表の表示」の最近の修正を扱っている。本修正のタイトルは、「負債の流動又は非流動への分類(IAS第1号の修正)」である。
IAS第1号の修正は、
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背景
本修正は、IASBが受領した、負債を流動又は非流動として分類する要件の明確化を求める要望書の結果として行われたものである。特にIASBが求められたのは、債務について借換え又はロールオーバーをする裁量権を有していること(IAS第1号73項)と、決済を延期することのできる無条件の権利を有していること(IAS第1号69項(d))をどのように整合させるかであった。これは、決済を延期することのできる無条件の権利を有していることが、裁量権を有していることよりも、はるかにハードルが高いと考えられるためである。
IASBは、公開草案ED/2015/1「負債の分類」においてIAS第1号の修正を提案することによって、この問題に対応することを決定した。IASBは、追加的な明確化を行うが、根本的な変更はせずに、これらの提案を最終化することを決定した。
見解 本修正は、資産、負債、収益もしくは費用の認識の金額又は時期、又はこれらの項目について企業が開示する情報に影響を与えるものではなく、財政状態計算書における流動又は非流動としての負債の表示にのみ影響を与える。ただし、流動又は非流動としての分類の変更は、借入の財務制限条項の企業の遵守状況に影響を及ぼす可能性がある点に留意が必要である。 |
本修正
IASBは、負債を流動又は非流動として分類する要件を明確化するために、多くの修正を行った。最も重要な変更点は以下のとおりである。
1.負債が非流動として分類されるには、決済を延期する企業の権利が「報告期間の末日」現在において存在しなければならないことを強調するために、IAS第1号69項と73項の両方に追加的な明確化がなされている。これは、従前から設例において示されていたが、明示的に規定されてはいなかった。
2.IASBは、負債が非流動になるためには、企業が権利を行使するであろうかどうかについての評価ではなく、企業が負債の決済を延期する権利を有するかどうかについての評価が必要であることを具体的に規定した。IAS第1号73項における企業の見込みへの言及が削除され、新しいパラグラフが追加されて、分類は経営者の意図や見込みによって影響を受けないことを明示的に規定している。
3.「無条件の」という単語がIAS第1号69項から削除され、新しい項が追加されて、決済を延期する権利が財務制限条項の遵守を条件とする場合には、貸手は報告期間の末日後の日までその遵守をテストしない場合であっても、報告期間の末日現在に条件が満たされるならば、権利が存在することを明確化している。
見解 IASBは、条件が報告期間を超える長い期間の企業の累積的な財務業績に関連するものである場合、企業がその条件の遵守をどのように決定するかを検討したが、明確化しないことを決定した。 |
4.「決済」という単語の定義が追加され、「負債を流動又は非流動として分類する目的上、決済とは、相手方への移転のうち負債の消滅をもたらすものを指す」と規定された。この移転は、現金、財及びサービス、又は企業自身の資本性金融商品である可能性がある。
5.IASBは、相手方の転換オプションが流動又は非流動の分類に影響を与える場合の範囲も明確にしている。本修正を適用すると、負債が、相手方のオプションにより、企業自身の資本性金融商品の移転によって決済される可能性のある条件を持っている場合、IAS第32号「金融商品:表示」を適用することにより企業がこのオプションを資本性金融商品として別個に認識しているならば、これらの条件は負債の流動又は非流動としての分類に影響を与えない。
見解 この結果、転換可能な金融商品の一部として発行された資本性金融商品を移転する義務が資本として分類されない場合、資本性金融商品の移転が、流動又は非流動として分類する目的上、転換可能な金融商品の決済を構成することを本修正が意味している点に留意すべきである。これは、これまで現金支払が必要な日付のみを考慮していた企業にとって、重大な変更になる可能性がある。 |
発効日
企業は、IAS第1号の本修正を2022年1月1日以後開始する事業年度に適用し、早期適用は認められる。本修正は、IAS第8号「会計方針、会計上の見積りの変更及び誤謬」に従って遡及的に適用される。
以上
本記事に関する留意事項
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