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ASBJが企業会計基準第31号「会計上の見積りの開示に関する会計基準」を公表

月刊誌『会計情報』2020年5月号

『会計情報』編集部

企業会計基準委員会(ASBJ)は、2020年3月31日に、企業会計基準第31号「会計上の見積りの開示に関する会計基準」を公表した。

2018年11月に開催された第397回企業会計基準委員会において、公益財団法人財務会計基準機構内に設けられている基準諮問会議より、「見積りの不確実性の発生要因」に係る注記情報の充実について検討することが提言された。

この提言を受けて、ASBJにおいて、2018年12月より、「見積りの不確実性の発生要因」に係る注記情報の充実について審議が行われ、今般、2020年3月27日開催の第428回企業会計基準委員会において、表記の「会計上の見積りの開示に関する会計基準」(以下「本会計基準」という。)の公表が承認されたことを受け、公表することとしたものとされている。

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<本会計基準の概要>

■開発にあたっての基本的な方針(本会計基準第14項)

ASBJでは、本会計基準の開発にあたっての基本的な方針として、原則(開示目的)を示したうえで、具体的な開示内容は開示目的に照らして判断することとしたとされている。また、本会計基準の開発にあたっては、IAS第1号第125項の定めを参考とすることとしたとされている。

なお、検討の過程では、IAS第1号第125項は「見積りの不確実性の発生要因」の表題のもとに定めが記述されているものの、注記が要求されている項目は会計上の見積りの対象となる資産及び負債に焦点を当てていると分析された。このため、本会計基準の開発にあたっても、IAS第1号第125項と同様の内容の開示を求めたうえで、内容をより適切に表す会計基準の名称として「会計上の見積りの開示に関する会計基準」を用いることとしたとされている。

 

■会計上の見積りの開示目的(本会計基準第4項及び第15項から第17項)

本会計基準は、当年度の財務諸表に計上した金額が会計上の見積りによるもののうち、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクがある項目における会計上の見積りの内容について、財務諸表利用者の理解に資する情報を開示することを開示目的としている。

 

■開示する項目の識別(本会計基準第5項及び第21項から第23項)

本会計基準は、会計上の見積りの開示を行うにあたり、当年度の財務諸表に計上した額が会計上の見積りによるもののうち、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクがある項目を識別するとしている。

 

■注記事項(本会計基準第6項から第8項及び第26項から第31項)

●会計上の見積りの開示の対象とした項目名の注記

本会計基準は、開示する項目として識別した項目について、本会計基準に基づいて識別した会計上の見積りの内容を表す項目名を注記するとしている。当該注記は独立の注記とし、識別した項目が複数ある場合には、それらの項目名は単一の注記として記載することを求めることとしている。

●項目名に加えて注記する事項

本会計基準は、開示目的に基づき識別した項目のそれぞれについて、会計上の見積りの内容を表す項目名とともに次の事項を注記することとしている。

(1)当年度の財務諸表に計上した金額

(2)会計上の見積りの内容について財務諸表利用者の理解に資するその他の情報

(1)及び(2)の事項の具体的な内容や記載方法(定量的情報若しくは定性的情報、又はこれらの組み合わせ)については、開示目的に照らして判断することとしている。

●財務諸表利用者の理解に資するその他の情報

本会計基準は、会計上の見積りの内容について財務諸表利用者の理解に資するその他の情報としては、例えば次のようなものがあるとしている。なお、これらは例示であり、注記する事項は開示目的に照らして判断するとしている。

(1)当年度の財務諸表に計上した金額の算出方法

(2)当年度の財務諸表に計上した金額の算出に用いた主要な仮定

(3)翌年度の財務諸表に与える影響

 

■個別財務諸表における取扱い(本会計基準第9項並びに第32項及び第33項)

本会計基準は、連結財務諸表を作成している場合に、個別財務諸表において本会計基準に基づく開示を行うときは、本会計基準第7項(2)の注記事項(会計上の見積りの内容について財務諸表利用者の理解に資するその他の情報)について連結財務諸表における記載を参照することができるとしている。

 

■適用時期及び経過措置(本会計基準第10項及び第11項並びに第34項)

本会計基準では、適用時期等について、次のように取り扱うこととされている。

(1)2021年3月31日以後終了する連結会計年度及び事業年度の年度末に係る連結財務諸表及び個別財務諸表から適用する。ただし、公表日以後終了する連結会計年度及び事業年度における年度末に係る連結財務諸表及び個別財務諸表から本会計基準を適用することができる。

(2)本会計基準の適用初年度において、本会計基準の適用は表示方法の変更として取り扱う。ただし、改正企業会計基準第24号第14項の定めにかかわらず、本会計基準に定める注記事項について、適用初年度の連結財務諸表及び個別財務諸表に併せて表示される前連結会計年度における連結財務諸表に関する注記及び前事業年度における個別財務諸表に関する注記(比較情報)に記載しないことができる。

 

■その他

詳細については、ASBJのウェブページ(https://www.asb.or.jp/jp/accounting_standards/accounting_standards/y2020/2020-0331-02.html)を参照いただきたい。

以 上

本記事に関する留意事項

本記事は皆様への情報提供として一般的な情報を掲載するのみであり、その性質上、特定の個人や事業体に具体的に適用される個別の事情に対応するものではありません。また、本記事の作成または発行後に、関連する制度その他の適用の前提となる状況について、変動を生じる可能性もあります。個別の事案に適用するためには、当該時点で有効とされる内容により結論等を異にする可能性があることをご留意いただき、本記事の記載のみに依拠して意思決定・行動をされることなく、適用に関する具体的事案をもとに適切な専門家にご相談ください。

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