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コロナウイルス2019感染症に関連する会計上の検討事項

IFRS in Focus|月刊誌『会計情報』2020年5月号

注:本資料はDeloitteのIFRS Global Officeが作成し、有限責任監査法人トーマツが翻訳したものです。この日本語版は、読者のご理解の参考までに作成したものであり、原文については英語版ニュースレターをご参照下さい。また、コロナウイルス2019感染症に関連するIFRS基準適用上の検討事項の最新情報につきましては、デロイト トーマツのウェブサイトの「IFRS(国際会計基準)」のページに掲載しておりますので、ご参照ください。(https://www2.deloitte.com/jp/ja/pages/finance/topics/ifrs.html)

トーマツIFRSセンター・オブ・エクセレンス

本IFRS in Focusの目的は、2019年12月31日以後終了する期間にIFRS基準を適用した財務諸表を作成する際に、企業が検討すべきいくつかの主要な論点を強調することである。本ニュースレターは、間違いなく検討する必要がある、経営者報告及びリスク報告は取り扱っていない。

はじめに

コロナウイルス感染症2019(COVID-19)の流行に対する世界的な対応は、急速に拡大し続けている。COVID-19はすでに世界の金融市場に重大な影響を与えており、多くの企業に会計上の影響を及ぼす可能性がある。

主要な影響には以下が含まれるが、これらに限定されない。

  • 生産の中断
  • サプライ・チェーンの混乱
  • 人員の利用可能性の欠如
  • 売上、利益又は生産性の低下
  • 施設及び店舗の閉鎖
  • 計画的な事業拡大の遅延
  • 資金調達が不可能
  • 金融商品の価値についてのボラティリティの上昇
  • 観光の減少、不必要な旅行及びスポーツ、文化及びその他のレジャー活動の混乱

さらに、企業は、COVID-19が世界経済及び主要な金融市場に悪影響を及ぼす結果、COVID-19のますます広範な影響を検討しなければならない。

最近の事象が財務報告にどのような影響を与えるかを分析する際には、企業は独自の状況及びリスク・エクスポージャーを慎重に検討する必要がある。具体的には、財務報告及び関連する財務諸表の開示は、COVID-19のすべての重要性のある影響を伝える必要がある。

554KB, PDF ※PDFダウンロード時には「本記事に関する留意事項」をご確認ください。

会計上の検討事項

COVID-19は世界的に広がり続けているため、企業は以下に関連する会計上の結論及び開示に対する今回の流行の影響を検討することが適切である可能性があるが、これらには限らない。

  • 非金融資産の減損(のれんを含む)
  • 棚卸資産の評価
  • 予想信用損失引当金
  • 公正価値測定
  • 不利な契約の引当金
  • リストラクチャリング計画
  • ローンのコベナンツ違反(流動対非流動の負債の分類への影響を含む)
  • 継続企業
  • 流動性リスク管理
  • 後発事象
  • ヘッジ関係
  • 事業の中断に関連する保険による補償
  • 従業員解雇給付
  • 株式に基づく報酬の業績条件及び条件変更
  • 契約上の取決めにおける条件付対価
  • 契約上の取決めの条件変更
  • 税金の検討事項(特に、繰延税金資産の回収可能性)

これらの論点に関連する会計上の影響の最終的な認識は、それぞれの企業の特定の事実と状況によって異なる。しかし、COVID-19の流行の結果として、以下の会計領域が影響を受ける可能性が高いかもしれない。

 

重要な判断及び不確実性

不確実な時期に報告を行う際には、財務諸表の利用者に対して、企業が直面しているリスク及び不確実性、及び財務情報を作成する際に行われた判断に関する適切な洞察を提供することが特に重要である。

企業の特定の状況に応じて、本ニュースレターで説明されている各領域は、IAS第1号「財務諸表の表示」を適用する開示が要求される重要な判断及び不確実性の発生要因となる可能性がある。この場合、企業は、以下を区分して開示を提供しなければならない。

  • 重要な判断(IAS第1号122項により要求される開示)、すなわち、企業の会計方針を適用する際に行われた見積り以外の判断。多くの場合、どのように項目を特徴付けるかについての判断。
  • 見積りの不確実性の重要な発生要因(見積りの不確実性の発生要因のうち、翌事業年度中に資産又は負債の帳簿価額に重要性のある修正を生じる重要なリスクがある場合、IAS第1号125項により要求される開示)、すなわち、主として項目の価値に関する仮定又は他の見積りの不確実性の発生要因(見積りを伴う判断を含む)。

IFRS in Focus「主要な判断と見積りの開示にスポットライトを当てる」1は、重要な判断及び見積りの不確実性の発生要因の開示に関するより詳細な情報を提供している。

 

非金融資産の減損(のれんを含む)

企業は、COVID-19の影響が資産の減損につながるかどうかを評価する必要があるかもしれない。将来キャッシュ・フローの見積り及び利益を含む財務業績は、最近及び進行中の事象の直接的又は間接的な影響によって重大な影響を受ける可能性がある。IAS第36号「資産の減損」は、資金生成単位が減損している可能性を示す兆候がある場合、各報告期間の期末に減損テスト(すなわち、影響を受ける資金生成単位の回収可能価額を見積る)を実施することを、企業に要求する。減損の兆候には、当期中に発生したか又は近い将来に発生すると予想される企業に悪影響のある著しい変化が含まれる(がそれらに限定されない)。

  • 企業が事業を行う市場又は経済環境
  • 資産を使用する又は使用する予定である範囲又は方法(例えば、遊休状態になった資産、資産が属する事業を廃止又はリストラクチャリングする計画、これまでの予想日より前に資産を処分する予定)

COVID-19の影響の結果として、特定の企業は、(少なくとも毎年、のれん及び耐用年数を確定できない無形資産の減損テストを実施する要求事項に加えて)資産の減損を評価する必要があるかもしれない。

 

棚卸資産の評価

棚卸資産は、原価と正味実現可能価額(NRV)とのいずれか低い方で測定される。困難な経済環境では、NRVの計算は報告日に追加の課題及び精査を必要とするかもしれない。

また、企業の生産レベルが異常に低い場合(例えば、生産ラインの一時的な操業停止の結果として)、未配賦の固定間接費が発生した期間に純損益で認識されることを確保するために、棚卸資産の原価計算を見直す必要があるかもしれない。

 

予想信用損失引当金(ECL)

COVID-19は、法人又は個人を問わず、借手がローン関係の下での義務を果たす能力に影響を与える可能性がある。個人及び法人の借手は、地域及び産業セクターにおける経済的影響に対する特定のエクスポージャーにさらされる可能性がある。より広い意味では、経済成長予測の下落により多くの借手の債務不履行確率が上昇し、より一般的な資産価格の下落による明らかな担保価値の下落のために、債務不履行時損失率が上昇するかもしれない。

IFRS第 9号「金融商品」 を適用する際には、以下の点を反映する方法で ECL を測定しなければならない。

  • 一定範囲の生じ得る結果を評価することにより算定される、偏りのない確率加重金額
  • 貨幣の時間価値
  • 過去の事象、現在の状況及び将来の経済状況の予測についての、報告日において過大なコストや労力を掛けずに利用可能な合理的で裏付け可能な情報

ECLは、営業債権、貸付金、負債性証券、及びローンコミットメント及び金融保証契約の測定において認識される損失に適用される。

予想信用損失の金額及び時期、及びそれらに割り当てられる確率は、事後的判断を使用せずに報告期間の末日に過大なコストや労力を掛けずに利用可能な合理的で裏付け可能な情報を基礎としなければならない。場合によっては、これは重要な判断が要求される可能性がある。

 

公正価値測定

公正価値測定(例えば、特定の金融商品及び投資不動産等の測定に関係するものなど)は、現在の市場状況下での測定日における市場参加者の見解及び市場データを反映しなければならない。企業は、観察可能でないインプットに基づく公正価値測定(レベル3の測定とも呼ばれる)に特に注意を払い、使用される観察可能でないインプットについて、報告日における資産又は負債に関連する将来キャッシュ・フローの予想において、もしあれば、市場参加者がCOVID-19の影響をどのように反映するかを確保する必要がある。

 

不利な契約の引当金

契約による義務を履行するための不可避的なコストが、当該契約により受け取ると見込まれる経済的便益を上回る場合に、不利な契約が生じる。不利な契約の引当金が要求される可能性のある契約の例としては、以下が含まれる。

  • 引渡しの遅延又は引渡しがないことに対するペナルティを含む収益契約
  • 感染した、検疫の対象又は移動が制限されているスタッフの置換えのための顧客契約を履行するコストの増加。又は、より高い価格で代替的な原料を購入する必要があるためのコストの増加。
  • 経済的に実行可能であるグループよりも小さなグループにサービスを提供することを企業に義務付ける、教育又は観光業界でのサービス提供の契約

 

リストラクチャリング計画

困難な経済環境において、資金調達についての困難に直面している場合、企業は、事業の一部の売却又は閉鎖、(一時的又は永久的な)事業のダウンサイジングのようなリストラクチャリング計画を検討又は実施する場合がある。このような計画では、以下を含む、多くの論点を検討することが要求されるかもしれない。

  • 企業が、リストラクチャリングについての詳細な公式の計画を有しており、当該計画の実施を開始すること又は影響を受ける人々に対して当該契約の主要な特徴を発表することによって、企業がリストラクチャリングを実行するであろうという妥当な期待を、影響を受ける人々に惹起しているかどうか。これらの要件の両方が満たされている場合、かつその場合にのみ、リストラクチャリング引当金を認識しなければならない。
  • 事業のどの部分について、現状のままで直ちに売却が可能であり、1年以内にそのような売却を完了する可能性が非常に高いかどうか。そうであれば、処分される資産及び負債は、売却目的保有に分類され、売却コスト控除後の公正価値が帳簿価額よりも低い場合、売却コスト控除後の公正価値に引き下げる。

 

コベナンツ違反

影響を受ける地域における不安定な取引条件及びキャッシュ・フローの不足は、企業が財務コベナンツに違反するリスクが高まる可能性がある。企業は、ローン・コベナンツの違反が、関連するローン及びその他の負債の返済時期(例えば、要求払いでの返済になる)にどのように影響することになるか、及び報告日における関連する負債の分類にどのように影響するかを検討しなければならない。

報告期間の末日の前に違反が発生し、当該違反により貸手に報告日から12ヶ月以内に返済を要求する権利を提供する場合、報告日から12か月を超えて返済を繰り延べる権利を企業に与えるような報告日より前に締結された契約が存在しない場合は、当該負債は企業の財務諸表において流動として分類しなければならない。

対照的に、報告日以降のローン・コベナンツの違反は、情報に重要性がある場合に財務諸表に開示しなければならない修正を要しない後発事象である。報告日以降の違反は、継続企業として存続する企業の能力にも影響する可能性がある。

 

継続企業

経営者に企業の清算若しくは営業停止の意図がある場合、又はそうする以外に現実的な代替案がない場合を除いて、財務諸表は、継続企業の前提で作成される。継続企業の前提が適切であるかどうかの評価は、後発事象を考慮に入れる。例えば、COVID-19の深刻な影響を受ける2019年12月31日が報告日の企業は、事業への著しい影響は年度末の後に生じたにもかかわらず、経営者が財務諸表を継続企業の前提で作成することの適切性を検討する必要がある。経営者が、企業の継続企業としての存続能力に対して重要な疑義を生じさせるような重要な不確実性を発見した場合、企業は財務諸表に当該重要な不確実性を開示しなければならない。

 

流動性リスク管理

生産性の低下及び売上の減少は、企業の運転資金に影響を与える可能性がある。企業は、企業のサプライヤーに金融機関が支払うのと交換に企業がファイナンスを引き出すことを認める、サプライヤー・ファイナンス及びリバース・ファクタリングを含む、サプライヤーへの後払い及び金融機関との取決めのような、資金調達の代替的な源泉の使用を含め、企業はこのリスクを管理する方法を試みるかもしれない。同様に、企業は、請求金額に対して割引金額で債権を購入する金融機関を通じて、営業債権の早期決済を得ることを試みるかもしれない。

企業は、このような運転資本の技術の利用が、IFRS第7号「金融商品:開示」により要求される流動性リスク管理の企業の開示にどのように反映されるかを検討しなければならない。また、金融資産が運転資金のニーズのために売却される場合、IFRS第7号が要求する金融資産の譲渡に関する具体的な開示の要求事項、及びサプライヤー・ファイナス及びリバース・ファクタリングの取決めを使用する場合、未払金額及び支払額の貸借対照表及びキャッシュ・フロー計算書の表示を決定する際に適用する会計方針及び判断についても検討しなければならない。

 

後発事象

各報告期間の終了時に、企業は、報告日以降に利用可能になるが財務諸表の発行の前に利用可能となった情報を慎重に評価しなければならない。財務諸表の金額は、報告期間の終了時に存在した状況の証拠を提供する事象を反映するように修正しなければならない。さらに、修正を要しない事象(報告期間の後に発生した状況を示す事象) に重要性がある場合、企業は、当該事象の内容及び財務上の影響の見積り、又はそのような見積りが不可能である旨の記述を開示することが期待されることとなる。

2019年12月31日以前に終了する報告期間に関しては、企業への影響は報告日の後に生じた事象の結果(例えば、COVID-19の流行に対応して実施された決定)であると考えるのが一般的に適切である。財務諸表における開示が要求されるかもしれないが、認識された金額には影響しない。

その後の報告期間では、COVID-19は財務諸表における資産及び負債の認識及び測定に影響を与える可能性がある。

 

その他の潜在的な影響

COVID-19 の影響を受ける可能性のある財務諸表の他の多くの領域には、以下が含まれる。

  • デリバティブ及びヘッジの検討事項。例えば、予想される取引の発生可能性がもはや非常に高くはない、又は発生が見込まれないデリバティブに関するヘッジ会計の要求事項
  • 保険金の請求。例えば、事業中断及び/又は他の保険のもとで金額を受け取ることがほぼ確実であるかどうか、及び偶発資産の潜在的な開示
  • 人員削減に起因する従業員解雇給付の適切な認識。例えば、事業の閉鎖又は再編成の結果
  • 株式に基づく報酬契約の下で業績確定条件を満たす可能性、及びそのような契約の条件変更又は清算についての適切な会計処理
  • 企業結合の取決めにおける業績目標を達成する可能性、顧客又はサプライヤーとのリベートの取決め、変動対価、コミッションの計上
  • 契約上の取決めの条件変更についての適切な会計処理。例えば賃借人が賃借人に与えるリース料の減額又は繰延べ
  • 税金に関する検討事項。例えば、移転価格契約に対する財及びサービスのフローの減少の影響。繰延税金資産の回収可能性

 

継続的な検討事項

今後、COVID-19が世界経済や金融市場に与える影響は、引き続き拡大していくことが見込まれる。企業は、事実と状況が変化する中で、上記で説明した関連する会計上の論点及び開示の検討事項を評価しなければならない。

以上

 

1 内容については、本誌2017年7月号を参照いただきたい。

本記事に関する留意事項

本記事は皆様への情報提供として一般的な情報を掲載するのみであり、その性質上、特定の個人や事業体に具体的に適用される個別の事情に対応するものではありません。また、本記事の作成または発行後に、関連する制度その他の適用の前提となる状況について、変動を生じる可能性もあります。個別の事案に適用するためには、当該時点で有効とされる内容により結論等を異にする可能性があることをご留意いただき、本記事の記載のみに依拠して意思決定・行動をされることなく、適用に関する具体的事案をもとに適切な専門家にご相談ください。

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