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IASBが、金利指標改革-フェーズ2を提案:IFRS第9号、IAS第39号、IFRS第7号、IFRS第4号及びIFRS第16号の修正案
IFRS in Focus|月刊誌『会計情報』2020年6月号
注:本資料はDeloitteの IFRS Global Officeが作成し、有限責任監査法人トーマツが翻訳したものです。この日本語版は、読者のご理解の参考までに作成したものであり、原文については英語版ニュースレターをご参照下さい。
トーマツIFRSセンター・オブ・エクセレンス
目次
- IASBが、金利指標改革-フェーズ2を提案:IFRS第9号、IAS第39号、IFRS第7号、IFRS第4号及びIFRS第16号の修正案
- 背景
- 修正案
- 金融資産及び金融負債の条件変更
- 経過措置、発効日及びコメント期間
本IFRS in Focusは、2020年4月に国際会計基準審議会(IASB)によって公表された公開草案ED/2020/1「金利指標改革-フェーズ2」(IFRS第9号、IAS第39号、IFRS第7号、IFRS第4号及びIFRS第16号の修正案)(以下、EDという。)に示された、IFRS第9号「金融商品」、IAS第39号「金融商品:認識及び測定」、IFRS第7号「金融商品:開示」、IFRS第4号「保険契約」及びIFRS第16号「リース」の修正案を取り扱っている。
これは、IASBが実施している金利指標改革(IBOR改革)に関する2段階プロジェクトの第2フェーズである。2019年9月、IASBは修正の最初のセット(フェーズ1)を公表した。詳細は本誌2019年12月号「IFRS in Focus:IASB、『金利指標改革』(IFRS第9号、IAS第39号及 びIFRS第7号の修正)を公表」を参照いただきたい。
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背景
IBORなどの金利指標は、世界の金融市場において重要な役割を果たしており、何兆ドルもの金融商品の指標になっている。システミック・リスクの懸念に対応して、多くの法域で代替的な金利指標への移行作業が進行中である。金融安定理事会(FSB)は、主要な金利指標の抜本的な見直しを行い、改革に向けた提言を発表した。その結果、公的機関は、そのような金利は、流動性のあるアンダーライニングの市場取引を基礎とし、専門家の判断に基づく呈示に依存しないことを目的として、主要通貨における新しいRFRを選択している。この目的は、これらの新しい金利がより信頼性が高く、既存のIBORに組み込まれた信用リスク・プレミアムを組み込む必要がない商品や取引に対して堅牢な代替金利を提供することにある。
見解 修正案は、既存の金利指標が代替的なRFRに置き換えられた時に財務報告に影響するかもしれない論点、すなわち置換えの論点に関連している。 既存の金利指標が代替的なRFRに置き換えられる前に生じる会計上の論点、すなわち置換え前の論点は、以前IASBによって検討され、2019年9月に公表された「金利指標改革」(IFRS第9号、IAS第39号及びIFRS第7号の修正)で対処された。当該修正は、企業が、金利指標がIBOR改革の結果として変更されていないと仮定してヘッジ会計の要求事項を適用するように、特定のヘッジ会計の要求事項に対する一時的な例外を提供している。当該例外は、企業がIBOR改革から生じる不確実性だけの理由でヘッジ関係を中止しなければならないことを避けるために設定された。詳細は、本誌2019年12月号「IFRS in Focus:IASB、『金利指標改革』(IFRS第9号、IAS第39号及 びIFRS第7号の修正)を公表」を参照いただきたい。 |
修正案
プロジェクトの第 2 フェーズの目的は、代替的なRFRへの移行の影響に関する有用な情報を企業が提供することを支援し、代替的なRFRの移行の結果として契約上のキャッシュ・フロー又はヘッジ関係に変更が行われた場合に、 IFRSの要求事項を適用する際に作成者をサポートすることである。EDは、金融資産、金融負債及びリース負債の条件変更、ヘッジ会計及び開示の主要分野の修正を提案している。これらの分野を、順に要約する。
金融資産及び金融負債の条件変更
EDは、IBOR改革の結果として、条件変更される、又は契約上のキャッシュ・フローを決定する基礎を変更することが発動される既存の契約条件を有する金融資産と金融負債をどのように会計処理するかについての具体的なガイダンスを提案している。本提案は、当該条件変更が当初認識後に発生する契約上のキャッシュ・フローを決定する基礎の変更とみなしている。これには、金融商品が実際には修正されていないが、参照金利の計算の基礎が変化する場合が含まれる。
実務上の便法として、IASBは、既存の条件変更の要求事項 *1を適用する代わりに、IFRS第9号B5.4.5項を適用し、実効金利を改定することにより契約上のキャッシュ・フローの変更が将来に向かって適用されるようにすることを提案している。この実務上の便法は、条件変更が金利指標改革の直接の結果として要求されており、契約上のキャッシュ・フローを決定する新たな基礎は、従前の基礎(すなわち、条件変更の直前の基礎)と経済的に同等である場合にのみ適用される。契約が変更されていないが、既存の契約条件(フォールバック条項など)が発動し、契約上のキャッシュ・フローを決定する基礎を変更する結果となる場合に、実務上の便法が適用される。条件変更と同様に、実務上の便法に適格となるためには、当該条件の発動は金利指標改革の直接の結果でなければならず、契約上のキャッシュ・フローを決定する新たな基礎は、従前の基礎と経済的に同等でなければならない。
見解 IASBは、金利指標改革によって要求されると考えられる条件変更の例を提供している。 例示には、以下に限定された変更が含まれる。 (a) 金融資産又は金融負債の契約上のキャッシュ・フローを決定するために使用される既存の金利指標を代替的なRFRへの置換え(例えば、LIBORの代替的なRFRへの置換え)、又は金利指標を計算するために使用する方法を変更することによるそのような金利指標の改革の実施 (b) 既存の金利指標と代替的なRFRとの間のベーシス差異を補償するための固定スプレッドの追加 (c) 金利指標の改革を実施するために必要な金利改定期間、金利改定日、又は利払日の間隔の変更 (d) 上記(a)から(c)のいずれかの変更を実行できるような、金融資産又は金融負債の契約条件へのフォールバック条項の追加 EDは、上記の例が網羅的ではないことを認識している。 IASBの例示は、IBORを代替的なRFRに置き換えるためにこれらの条件変更が導入された場合、当該条件変更はIBOR改革の直接の結果であることを示している。契約条件の他の変更は、相手先との二者間契約の再交渉の一環として合意される可能性がある。IBOR改革の直接の結果とそうでない結果の条件変更を識別するには、注意が必要である。 |
他の条件変更がIBOR改革の直接の結果である条件変更と同時に生じる場合、企業は最初に、改革に起因する条件変更に実務上の便法を適用する。 IFRS第9号の適用される要求事項は、当該他の条件変更に適用される。例えば、金融負債の利息の基礎が LIBOR から新しい RFRに変更された場合、当該変更は実務上の便法の範囲に含まれ、IFRS第9号B5.4.5項を適用して将来に向かって会計処理される。IBOR改革の直接の結果ではない契約条件に対するその他の変更は、実務上の便法の対象とならず、適切な会計処理がIFRS第9号を適用して決定される。例えば、企業が条件変更が認識の中止につながらないと判断した場合、IFRS第9号B5.4.6項を適用して、直ちに条件変更による利得又は損失として純損益に認識される。
見解 IASB は、ED のBC23項に、RFRはリスク・フリーで、交換されるIBORはリスク・フリーではないため、多くの場合、その差異を補償するために固定スプレッドが追加されることを示している。これが唯一の変更である場合、IASBは、RFRへの移行のみでは金融商品の認識の中止となる可能性は低いと考えている。したがって、IASBの作業の焦点は、既存の条件変更の要求事項が財務諸表の利用者に有用な情報をもたらすかどうかを評価することであった。条件変更されたキャッシュ・フローは当初の実効金利によって割引かれるため、既存の条件変更の要求事項は通常、条件変更による利得又は損失につながるため、IASBは、このようなことが起こることを避けるために実務上の便法を導入し、代わりに将来に向かって実効金利を更新することを決定した。IASBは、特に存在しなくなった変動金利の場合、当初の実効金利に基づいて将来の金利収益又は金利費用を認識することには意味がないと考えているため、この決定に到達した。 |
リース負債の条件変更
IFRS 第9号の金融負債とIFRS第16号のリース負債との類似性を考慮して、IASBは、IFRS第16号について同様の実務上の便法を提案している。実務上の便法は、リース料が基礎とする金利指標が金利指標改革の直接的な結果として変更され、当該変更が経済的に同等である場合に適用される。IFRS第9号の実務上の便法と同様に、契約上のキャッシュ・ フローの変更は、IFRS第16号42項を適用することによって、将来に向かって適用される。リース契約に追加の条件変更が行われた場合、借手は、金利指標改革によって要求されるものを含め、同時に行われるすべてのリースの条件変更を会計処理するために、IFRS第16号の適用される要求事項を適用しなければならない。
見解 リースについての実務上の便法は、借手にのみ適用され、貸手には適用されない。貸手はリースの条件変更にIFRS第 9号の要求事項を適用することが求められることを考慮し、IASBは、貸手に対してIFRS第16号の修正が必要であるとは考えなかった。これらの条件変更が金利指標改革によって要求される場合、前のセクションで説明した修正案が適用されることとなる。オペレーティング・リースについては、IASB は、貸手に対するIFRS第16号の現在の要求事項は、オペレーティング・リース会計モデルの仕組みに照らして、本改革によって要求される契約条件の変更を適切に反映すると考えた。 |
ヘッジ会計
金利指標改革の直接の結果として要求され、及び経済的に同等に行われたヘッジ対象、ヘッジ手段又はヘッジされるリスクに対する条件変更を反映させるために必要なヘッジ文書の変更が、ヘッジ会計の中止又は新しいヘッジ関係の指定にはならないように、EDは、既存の要求事項に対する例外を導入するためにIFRS第9号及びIAS第39号の修正を提案している。
見解 企業は、ヘッジ関係で指定された金融資産又は金融負債に対する条件変更を反映するために、ヘッジ文書を修正する必要がある。既存の要求事項では、これは通常、企業にヘッジ関係の指定の解除を要求する。修正案は、金利指標改革の直接の結果及び経済的に同等に行われた当該文書の変更は、既存のヘッジの継続とみなすことを要求する。これらの条件変更は、以下の変更の 1 つ又は複数に限定される。 (a) 代替的な指標金利をヘッジされたリスクとして指定 (b) ヘッジ対象の記載を代替的なRFRに言及するように修正 (c) ヘッジ手段の記載を代替的なRFRに言及するように修正 (d) 企業がどのようにヘッジ有効性を評価するのかの記述を修正 (IAS第 39号のみ) |
公正価値ヘッジ
EDは、IFRS第 9号又はIAS第 39号において、公正価値ヘッジのヘッジ指定が金利指標改革のために修正された場合、企業は以下のことを行わなければならないことを提案している。
- 代替的なRFRに基づいてヘッジ手段を再測定し、対応する利得又は損失を純損益に認識する。
- ヘッジ対象の帳簿価額をヘッジされるリスクに指定した代替的なRFRに基づいて再測定し、対応する利得又は損失を純損益に認識する。
LIBORのような指標金利の変動に対して、固定金利の負債性金融商品のキャッシュ・フローの全部、又は指定された一部の公正価値の変動に公正価値ヘッジを行うことは、企業にとって一般的である。EDは、企業が新しいRFRに指定を変更し、そのRFRが指定された日に独立して識別可能な要素でない場合において、企業が当該金利が指定された日から24か月以内に独立して識別可能となると合理的に予想している場合に、その時点で独立して識別可能の要求事項を満たしているとみなすことを規定している。指定後、当該RFRがリスク要素として指定された日から24か月以内に独立して識別可能とはならないと合理的に予想する場合、ヘッジ会計はその見直しの日から将来に向かって中止される。
キャッシュ・フロー・ヘッジ
EDは、IFRS 第9号又はIAS第 39号において、キャッシュ・フロー・ヘッジのヘッジ指定が金利指標改革のために修正された場合、キャッシュ・フロー・ヘッジ剰余金は、以下のいずれか低い方に再測定することを提案している。
- 代替的なRFRに基づいて計算したヘッジ手段に係る利得又は損失の累計額
- 代替的なRFRに基づいて計算したヘッジ対象の公正価値変動の累計額
したがって、企業がヘッジ対象の記述を修正する日のキャッシュ・フロー・ヘッジ剰余金に累積されている金額は、ヘッジされる将来のキャッシュ・フローを決定する代替的なRFRに基づいているものとみなされる。
中止されたヘッジ関係において過去にヘッジ対象に指定されていた金融資産又は金融負債の契約上のキャッシュ・フローを決定する基礎に変更がある場合には、中止されたヘッジ関係についてキャッシュ・フロー・ヘッジ剰余金に累積されていた金額は、契約上のキャッシュ・フローの基礎となる代替的なRFRに基づくものとみなされる。
項目グループ
EDは、企業が項目グループをヘッジし、金利指標改革のためにヘッジ指定を修正した場合、企業はヘッジ対象をヘッジされる指標金利に基づいてサブグループに配分し、ヘッジされるリスクとしてその金利を指定しなければならないことを提案している。企業は、サブグループにおける個々の項目の公正価値の変動が、項目グループのヘッジされたリスクに起因する公正価値の全体的な変動とおおむね比例的であると見込まれるれるかどうかを、各サブグループについて別々に評価しなければならない。
IAS第39号での非常に有効であるというテスト
2019年9月に公表された修正の最初のセットは、ヘッジの実際の結果が非常に有効でない、すなわち遡及的評価を適用した際に80%から125%の範囲の外であるという理由のみで、企業が金利指標改革から生じる不確実性の期間中にヘッジ関係を中止することを要求されないように、IAS第39号に例外を導入した。EDは、金利指標改革から生じる不確実性がもはや存在しなくなった時とヘッジ関係が中止された時の、いずれか早い時期にこの例外の適用を終了するようにIAS第39号を修正することを提案している。
金融商品開示
IASBは、金利指標改革から生じるリスクの性質及び程度、企業がそれらのリスクをどのように管理しているか、金利指標から代替的なRFRへの移行の完了における進捗状況、及び当該移行をどのように管理しているかを、利用者が理解できるようにする開示を企業が提供しなければならないことうを提案している。この目的を達成するために、企業は以下を開示しなければならない。
- 金利指標から代替的な指標金利への移行をどのように管理しているか、報告日現在の進捗状況及び移行から生じるリスク
- 重要な金利指標ごとに分解して、金利指標改革の対象となる金利指標を引き続き参照している非デリバティブの金融資産帳簿価額、非デリバティブ金融負債の帳簿価額及びデリバティブの名目金額を、それぞれ区分して示す。
- 企業が晒されている重要な代替的なRFRのそれぞれについて、企業がベース金利及び当該金利に対する関連性のある調整をどのように決定したのか(金融商品の条件変更に対する実務上の便法を適用するために必要な条件が満たされているかどうかを評価するために企業が行った重要な判断を含む)
- 金利指標改革により企業のリスク管理戦略の変更が生じた範囲で、当該変更の記述及び企業がこれらのリスクをどのように管理しているか
IFRS第4号で会計処理される保険契約
EDは、IFRS第9号からの一時的な免除を適用する保険者に、金利指標改革によって直接的に要求される条件変更を会計処理する際に、IFRS第9号についての修正案を適用することを要求するように、IFRS第4号を修正することを提案している。
本提案の終了
本修正は、金利指標改革の結果として生じる金融商品又はヘッジ関係を変更する時点に関連しているため、IASBは、本修正によって導入される要求事項が終了する固定の日付を含めることを提案していない。したがって、修正案の適用は自然に終了するように設計されている。
経過措置、発効日及びコメント期間
IASBは、2021年1月1日以後開始する事業年度において、IFRS第9号、IAS第39号、IFRS第7号、IFRS第16号、IFRS第4号の修正を適用することを提案している。早期適用は認められる。修正案は、企業が修正案を最初に適用する報告期間の開始時点で存在していた項目に遡及的に適用される。過去の期間の修正再表示は要求されない。しかし、企業は事後的判断を使用せずに可能な場合、かつその場合にのみ、過去の期間を修正再表示することができる。改革によって直接的に要求される変更のみのために、修正案を適用する前に中止されたヘッジ関係は、復活する。修正案は、強制的に適用される。
IASBは、2020年5月25日までEDに対するコメントを募集している。
以上
*1 金融資産はIFRS第9号5.4.3項、金融負債はIFRS第9号B5.4.6項
本記事に関する留意事項
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