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新型コロナウイルス感染症緊急経済対策における税制上の措置

月刊誌『会計情報』2020年6月号

新型コロナウイルス感染症に関連する緊急経済対策における税制上の措置について、特例法及び関係法令並びに財務省・国税庁・総務省のウェブサイトに掲載された内容(令和2年5月1日現在)に基づき、主な内容を説明する。

デロイト トーマツ税理士法人 公認会計士・税理士 大野 久子

はじめに

令和2年4月30日、「新型コロナウイルス感染症等の影響に対応するための国税関係法律の臨時特例に関する法律」(令和2年法律第25号)(以下「特例法」)及び「地方税法等の一部を改正する法律」(令和2年法律第26号)が成立した。関係施行令・省令と共に同日公布され、一部を除き同日施行された。

財務省のウェブサイトでは、4月から公開されている「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策における税制上の措置」  *1のページについて、4月30日付で更新が行われている。また、国税庁のウェブサイトでは、4月30日に 「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策における税制上の措置」  *2のページが開設され、「国税における新型コロナウイルス感染症拡大防止への対応と申告や納税などの当面の税務上の取扱いに関するFAQ」  *3(以下「FAQ」)についても更新が行われている。

さらに、総務省のウェブサイトにも「新型コロナウイルス感染症の影響に伴う地方税における対応について」  *4のページが設けられている。

以下、新型コロナウイルス感染症(以下「本感染症」)に関連する緊急経済対策における税制上の措置について、特例法及び関係法令並びに財務省・国税庁・総務省のウェブサイトに掲載された内容(令和2年5月1日現在)に基づき、主な内容を説明する。

577KB, PDF ※PDFダウンロード時には「本記事に関する留意事項」をご確認ください。

1. 納税の猶予制度の特例 【全ての納税者】

本感染症の感染拡大防止のための措置に起因して多くの事業者の収入が急減しているという状況を踏まえ、無担保かつ延滞税なしで1年間、納税を猶予する特例が設けられた(特例法3、地法附59)。

 

(1)適用対象者

以下①②のいずれも満たす場合に対象とされ、個人法人の別、規模は問わないこととされている。

① 本感染症の影響により、令和2年2月以降の一定の期間(1カ月以上)において、事業等に係る収⼊が前年同期に比べて概ね20%以上減少していること

② ⼀時に納税を行うことが困難であること。(判断に当たっては、少なくとも向こう半年間の事業資⾦を考慮するなど、納税者の置かれた状況に配慮し適切に対応し、柔軟な運用が行われる)

 

(2)適用対象となる税金

令和2年2月1日から同3年1月31日までに納期限が到来する国税・地方税(印紙で納めるもの等を除く)が対象とされる。

対象となる税金であれば、既に納期限が過ぎている未納のもの(既存の制度により猶予中のものを含む)についても、特例法施行日から2カ月間(令和2年6月30 日まで)に限り、遡って適用を受けることができる(特例法附2)。

 

(3)担保の要否

担保は不要とされる。

 

(4)延滞税

延滞税は免除される。

 

(5)申請手続

特例法の施行から2カ月後(令和2年6月30日)、又は納期限(申告納付期限が延長された場合は延長後の期限)のいずれか遅い⽇までに申請が必要とされる。すなわち、令和2年6月30日までに限定して、納期限後でも受け付けられることになる。申請書のほか、収入や現預金の状況が分かる資料の提出が必要とされるが、提出が難しい場合は口頭による説明も受け付けられる見込みである。

 

(6)現行制度との違い

現行制度においても、納税の猶予(国税通則法46)及び換価の猶予(国税徴収法151の2)が設けられており、要件を満たせば利用可能である。しかし、財産に相当な損失を受けた場合等を除き、原則として担保の提供が必要とされているほか、延滞税が課される(年1.6%に軽減)こととされている(財産に相当な損失を受けた場合は担保の提供不要、延滞税免除)。

これに比べ、本特例は、本感染症に関連して一定の期間(1カ月以上)につき収入が大幅に減少した場合とされており緊急性が高いほか、財産に損失が生じていなくても、担保不要・延滞税免除で納税猶予を認める等の内容となっている。

 

2. 欠損金の繰戻しによる還付の特例 【法人】

現在、中小企業(資本金1億円以下の法人)に認められている青色欠損金の繰戻し還付について、いわゆる中堅企業(資本金1億円超10億円以下の法人)も適用できることとされた(特例法7〜9)。

 

(1)青色欠損金の繰戻し還付とは

青色欠損金の繰戻し還付制度とは、青色申告書を提出する法人について、その確定申告書を提出する事業年度において生じた欠損金額がある場合に、その法人の請求によりその事業年度開始の日前1年以内に開始したいずれかの事業年度に繰り戻して法人税の還付を受けることができる制度である。現行制度では、解散等の事実が生じた場合と中小企業(資本金1億円以下の法人)にのみ適用が認められており、資本金の額が1億円を超える法人については適用が停止されている。

 

(2)適用対象となる法人

(1)のとおり、現行制度では、資本金の額が1億円を超える法人については適用を停止されているが、本措置により、次の法人を除き、青色欠損金の繰戻し還付を受けることが可能となる。

①大規模法人(次の法人をいう。以下同じ。)

 ・資本金の額等が10 億円を超える法人

 ・保険業法に規定する相互会社

②大規模法人との間にその大規模法人による完全支配関係がある普通法人

③複数の完全支配関係がある大規模法人に発行済株式等の全部を直接又は間接に保有されている普通法人

④投資法人

⑤特定目的会社

なお、連結納税を適用している場合についても、連結親法人が①〜③に該当する場合を除き、連結欠損金の繰戻し還付の適用を受けることが可能となる。

 

(3)適用対象となる欠損金

令和2年2月1日から令和4年1月31日までの間に終了する事業年度に生じた欠損金額について適用される。

 

(4)還付手続

原則として確定申告書の提出と同時に還付請求書を提出することが必要であるが(法法80①)、令和2年7月1日より前に確定申告書を提出した法人については、還付請求書の提出期限は、令和2年7月31日となる(特例法附4)。連結納税の場合も同じである(特例法附5)。

 

3. テレワーク等のための中小企業の設備投資税制(中小企業経営強化税制の拡充) 【法人・個人事業者】

中小企業経営強化税制が拡充され、テレワーク等のための設備投資を行った場合に、即時償却又は7%(資本金が3,000万円以下の法人は10%)の税額控除が認められる(中小企業等経営強化法施行規則16)。

 

(1)対象設備

中小企業経営強化税制の対象設備に、テレワーク等のための設備投資に係る新たな類型(デジタル化設備)が追加され、これらの設備を経済産業大臣の認定を受けた経営力向上計画に基づき取得等をした場合に、(2)の即時償却又は税額控除が認められる。

テレワーク等のための設備投資に係る新たな類型(デジタル化設備)とは、遠隔操作、可視化、自動制御化のいずれかに該当する設備(機械装置・工具器具備品・建物附属設備・ソフトウエア)が予定されている。

中小企業経営強化税制のその他の要件として、国内への投資であること、生産等設備であること、中古資産・貸付資産でないこと等の要件を満たす必要がある。

 

(2)取扱い

(1)の設備につき、即時償却又は設備投資額の7%(資本金が3,000万円以下の法人は10%)の税額控除をすることができる。

税額控除については、「この制度」、「中小企業投資促進税制」及び「商業・サービス業・農林水産業活性化税制」における税額控除との合計で当期の法人税額の20%が控除の限度とされる。

 

(3)対象税目

法人税、所得税とされる。

 

(4)適用期限

令和3年3月31日とされる。

 

4. 消費税の課税事業者選択届出書等の提出に係る特例 【法人・個人事業者】

本感染症の影響により、事業者の一定期間(1カ月以上)における売上げが著しく減少(前年同期比概ね50%以上)した場合、課税期間開始後における消費税の課税選択に係る適用の変更を可能とする特例が設けられる(特例法10)。

 

(1)特例内容

以下の取扱いが特別に認められる。

① 「課税事業者選択(又は選択不適用)届出書」について、課税期間の開始後の申請による適用の変更を認める(本来は課税選択等については、課税期間の開始前に届出が必要。)

② 翌課税期間に適用を取り止めることを認める(本来は課税選択を行った場合は、2年間の継続適用等が必要。)

 

(2)適用対象者

以下の要件を満たす納税者について適用が認められる予定である。

① 特例法の施行日(令和2年4月30日)以後に申告期限が到来する課税期間において、

② 本感染症の影響により、令和2年2月1日から令和3年1月31日までの期間の内、一定期間(1カ月以上の任意の期間)の収入が、著しく減少(前年同期比概ね50%以上)した場合で、かつ、

③ 当該課税期間の申告期限(注)までに申請書を提出した場合

(注)国税通則法11による期限延長を受けている場合には、延長後の期限

 

5. 文化芸術・スポーツイベントを中止等した主催者に対する払戻請求権を放棄した観客等への寄附金控除の適用 【個人】

政府の自粛要請を踏まえて文化芸術・スポーツイベントを中止等した結果、主催者に大きな損失が生じている状況を踏まえ、文化芸術・スポーツに係る一定のイベントの入場料等について、観客等が払戻請求権を放棄した場合には、当該放棄した金額について、寄附金控除等の対象とされる(特例法5、地法附60)。

 

(1)対象となるイベント

不特定かつ多数の者を対象とするイベントであって、令和2年2月1日から令和3年1月31日までに日本国内で開催する予定だったものであり、かつ、現に中止等されたものが対象になる。

 

(2)所得税における取扱い

(1)のイベントの入場料等について、観客等が払戻請求権を放棄した場合には、当該放棄した金額について、寄附金控除(所得控除又は税額控除)の対象とされる。

納税者における手続としては、確定申告の際、特例対象イベント指定行事証明書のコピー、払戻請求権放棄証明書を申告書に添付することが必要になる。

なお、本特例を用いた寄附金控除の対象金額は20万円を上限とする。その他の要件等については、現行の寄附金控除と同様とされる。

 

(3)個人住民税における取扱い

所得税において寄附金控除の対象となるもののうち、住民の福祉の増進に寄与するものとして当該地方団体の条例で定めるものについて、当該地方団体の個人住民税の税額控除の対象とされる。

 

6. 住宅ローン控除の適用要件の弾力化 【個人】

本感染症の影響により入居が遅れた場合について、住宅ローン控除の適用要件が弾力化される(特例法6、地法附61)。

 

(1) 需要変動平準化のための住宅ローン控除の特例の適用について

本感染症の影響による住宅建設の遅延等への対応として、住宅ローンを借りて新築した住宅、取得した建売住宅又は中古住宅、増改築等を行った住宅に令和2年12月末までに入居できなかった場合でも、次に掲げる要件を満たす場合には、控除期間が13年に延長された住宅ローン控除を適用できることとされる。

① 本感染症の影響によって新築住宅、建売住宅、中古住宅又は増改築等を行った住宅への入居が遅れたこと

② 一定の期日(※)までに、新築、建売住宅・中古住宅の取得、増改築等に係る契約を行っていること

(※)「一定の期日」
…新築の場合:令和2年9月末まで
建売住宅・中古住宅の取得、増改築等の場合:令和2年11月末まで

③ 令和3年12月末までの間に②の住宅に入居していること

本措置は、令和3年分以後の所得税について適用される。

 

(2) 中古住宅取得から6カ月以内の入居を求める要件について

住宅ローンを借りて取得した中古住宅について、その取得の日から入居までに6カ月超の期間が経過していた場合でも、次に掲げる要件を満たす場合には、当該住宅ローンに住宅ローン控除を適用できることとされる。

① 取得後に増改築等を行った中古住宅への入居が、本感染症の影響によって遅れたこと

② ①の増改築等の契約が、中古住宅取得の日から5カ月後まで又は特例法施行の日の2カ月後までに行われていること

③ ①の増改築等の終了後6カ月以内に、当該住宅に入居していること

本措置は、令和2年分以後の所得税について適用される。

 

7. 特別貸付に係る契約書の印紙税の非課税

公的貸付機関等や民間金融機関等が、本感染症によりその経営に影響を受けた事業者に対して行う特別な貸付けに係る契約書については、令和3年1月31日までに作成されるものについて印紙税が非課税とされる(特例法11)。

(注)既に契約を締結し印紙税を納付した者に対しては、遡及的に適用し、還付される(特例法附6)。

 

8. 固定資産税の軽減措置 【法人・個人事業者】

(1) 中小事業者等が所有する償却資産及び事業用家屋に係る固定資産税等の軽減措置

厳しい経営環境にある中小事業者等(原則として業種を限定せず)に対して、令和3年度課税の1年分に限り、償却資産及び事業用家屋に係る固定資産税及び都市計画税の課税標準を2分の1又はゼロとされる(地法附63)。

令和2年2月〜10月までの任意の3カ月間の売上高が、前年の同期間と比べて

課税標準

30%以上50%未満減少している者

2分の1とされる

50%以上減少している者

ゼロとされる

 

令和3年1月31日までに、認定経営革新等支援機関等の認定を受けて各市町村に申告した者に適用する。

なお、本措置は令和3年度の課税分に限定したものである。

 

(2) 生産性革命の実現に向けた固定資産税の特例措置の拡充・延長

本感染症の影響を受けながらも新規に設備投資を行う中小事業者等を支援する観点から、適用対象に一定の事業用家屋及び構築物が加えられる。また、生産性向上特別措置法の改正を前提に、適用期限が2年延長される。

 

9. 自動車税・軽自動車税環境性能割の臨時的軽減の延長

自動車税・軽自動車税環境性能割の税率を1%分軽減する特例措置の適用期限を6カ月延長し、令和3年3月31日までに取得したものが対象とされる(地法附12の2の10、12の2の12、29の8の2、29の18)。

 

10. 耐震改修した住宅に係る不動産取得税の特例措置の適用要件の弾力化 【個人】

現行制度においては、耐震基準不適合既存住宅について、その取得の日から6カ月以内に耐震改修を行い、耐震基準に適合することにつき証明を受け、かつ、入居した場合に、当該住宅が新築された時点に応じて一定の額に税率を乗じて得た額が減額される特例が設けられている(地法附62)。

本措置においては、特例対象住宅をその取得の日から6月以内に居住の用に供することができない場合において、次に掲げる要件を満たすときは、当該特例措置を適用できることとする等所要の措置がとられる。

① 本感染症の影響によって当該耐震改修した住宅を居住の用に供することとなった日が当該取得の日から6月を経過する日後となったこと。

② ①の耐震改修に係る工事の請負契約を、当該住宅の取得の日から5月を経過する日又は法律の施行の日から2月を経過する日のいずれか遅い日までに締結していること。

③ ②の耐震改修に係る工事の終了後6月以内に、当該住宅を居住の用に供すること。

なお、本措置は令和3年度末入居分までの特例措置である。

以上

 

*1 財務省(外部サイト)https://www.mof.go.jp/tax_policy/keizaitaisaku.html

*2 国税庁(外部サイト)https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/kansensho/keizaitaisaku/index.htm

*3 国税庁(外部サイト、PDF)https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/kansensho/pdf/faq.pdf

*4 総務省(外部サイト)https://www.soumu.go.jp/menu_kyotsuu/important/kinkyu02_000399.html

本記事に関する留意事項

本記事は皆様への情報提供として一般的な情報を掲載するのみであり、その性質上、特定の個人や事業体に具体的に適用される個別の事情に対応するものではありません。また、本記事の作成または発行後に、関連する制度その他の適用の前提となる状況について、変動を生じる可能性もあります。個別の事案に適用するためには、当該時点で有効とされる内容により結論等を異にする可能性があることをご留意いただき、本記事の記載のみに依拠して意思決定・行動をされることなく、適用に関する具体的事案をもとに適切な専門家にご相談ください。

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