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連結納税制度を抜本的見直し、「グループ通算制度」導入

月刊誌『会計情報』2020年6月号

令和2年度税制改正により、連結納税制度について抜本的な見直しが行われ、グループ通算制度として改組されることになった。連結納税制度からグループ通算制度への見直しの内容について解説する。

デロイト トーマツ税理士法人 公認会計士・税理士 大野 久子

1 はじめに

令和2年度税制改正により、連結納税制度について抜本的な見直しが行われ、グループ通算制度として改組されることになった。令和2年度税制改正関連法 1は令和2年3月27日に可決成立し、31日に公布された。

平成14年に創設された連結納税制度は、100%の資本関係の内国法人のグループの所得・欠損を合算・相殺し、その結果である連結所得について連結親法人が納税主体となって代表して申告納税(連結申告)する制度である。グループ内の所得と欠損を相殺することができるため、グループ内の欠損を早期に生かして節税することができるという、いわゆる損益通算が最大のメリットとなっている。

しかし、全体を合算・相殺し、また一部の計算項目についての配賦計算が行われる仕組みであるため、税務調査等による修正・更正の際にも全社再計算が必要となり、国税当局・納税者共に手間となっていた。

そこで、今回の改正により、損益通算のメリットを残しながら単体申告化するという抜本的見直しが行われることになり、名称も「グループ通算制度」に変更されることになった。グループ通算制度は約2年の猶予期間の後、令和4年4月1日以後開始事業年度から適用される。現行の連結納税制度を適用している企業グループも、それ以降は原則としてグループ通算制度に自動移行する。

また、この抜本的見直しに伴い、従来から連結納税制度選択の足かせとなっていた、子法人の時価評価課税・欠損金の切捨てについて、組織再編税制の考え方が取り入れられ、その対象が縮小された。

以下、公表された内容に基づき、連結納税制度からグループ通算制度への見直しの内容について解説する。なお、本改正に関連する法人税施行令(以下「施行令」)等の改正は執筆日(令和2年4月28日)現在未公表となっており、「令和2年度税制改正の大綱」 2(以下「大綱」)による記述となっている部分があり、後日の施行令等公表に留意する必要がある。

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2 損益通算の基本的な仕組み

(1) 損益通算しながら単体申告

連結納税制度においては、連結親法人が納税義務者となり、グループ内に所得の法人と欠損の法人が存在する場合には、それらを合算・相殺したものを連結所得として連結申告することにより損益通算が行われていた。

これに対し、グループ通算制度においては、納税主体はグループ内の各法人とされ、次のプロラタ計算により、欠損法人の欠損金額を所得法人において損金算入することとされている(法法64の5①〜④)。

① 欠損法人の通算前欠損金額の合計額(所得法人の通算前所得金額の合計額を限度)を所得法人の通算前所得金額の比で配分し、所得法人において損金算入する

② 損金算入金額の合計額を欠損法人の通算前欠損金額の比で配分し、欠損法人において益金算入する

例えば、前ページの図の例については次のような計算になる。

① 通算前欠損金額の合計額(400≦通算前所得金額1,000)を通算前所得金額の比で配分し、損金算入

A社 400×200/1,000=80

B社 400×800/1,000=320

② 損金算入金額の合計額を通算前欠損金額の比で配分し、益金算入

C社 400×200/400=200

D社 400×200/400=200

 

(2) 繰越欠損金の通算

(ⅰ)基本的な考え方

繰越欠損金についても、基本的にグループ全体でとらえ、グループ内で通算される点については、連結納税制度と同じである。

具体的には、(1)の損益通算をしてもなお欠損金が残る場合には、これを10年間繰越控除し、基本的にグループ全体の所得から控除できる(基本的に繰越欠損金の共有が可能であり、このようにグループ全体で共有使用される欠損金を「非特定欠損金」と呼ぶ)(法法64の7①)。

一方、グループ通算制度開始・加入前に発生した繰越欠損金のうち、通算グループに持ち込まれ「特定欠損金」とされた金額については、その法人の所得を上限にしか使用できない(法法64の7②)。

以下、グループ通算制度における繰越欠損金控除の計算方法について説明するが、これらの計算にあたっては、当事業年度開始日前10年以内に開始した親法人事業年度に対応する事業年度(以下「発生年度」)に発生した繰越欠損金について、発生年度の古い順に、特定欠損金⇒非特定欠損金の順に控除計算を行う(法法64の7①)。

(ⅱ)損金算入限度額

その法人が更正法人等に該当する場合、又は通算グループ内の全社が中小法人等のみ又は新設法人のみである場合を除き、欠損控除前所得金額(損益通算後)の50%相当額(注1)の合計額が繰越欠損金控除の上限(以下「損金算入限度額」)とされる(法法57①)。

(注1) 更生法人等については、欠損控除前所得の金額の100%(更生法人等の判定は各法人について行う)。また、通算グループ内の全て法人が中小法人等のみ又は新設法人のみである場合は、欠損控除前所得の金額の100%(法法57⑪)。

(ⅲ)特定欠損金の控除計算

特定欠損金額の控除額は、以下の算式により算出される(法法64の7①三イ)。

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特定欠損金は、その法人の欠損控除前所得金額を上限に控除される限定付き欠損金であり、それぞれの①特定欠損金残高(欠損控除前所得金額の残額を上限)を控除可能性のある金額として捉えた上、②通算グループ全体の損金算入限度額合計の残額を①の比率で配分して控除額が決定される。

(注2)

  • 「②通算グループ全体の損金算入限度額合計の残額」…(ⅱ)で求めた損金算入限度額の通算グループ全体の合計額からより古い発生年度の繰越欠損金控除に使用された金額を控除した金額

(注3)

  • ①かっこ書き及び③分母の中の「欠損控除前所得金額の残額」…欠損控除前所得金額からより古い発生事業年度の繰越欠損金控除に使用された金額を控除した金額
(ⅳ)非特定欠損金の配賦・控除計算

非特定欠損金については、通算グループ全体で共有して使用することを前提に控除額を算出する。

まず、第1ステップとして、①非特定欠損金の通算グループ合計額を、②各通算法人の損金算入限度額の残額の比で配賦する(法法64の7①二ハ)。

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(注4)

  • 「②当該通算法人の損金算入限度額の残額」…(ⅱ)で求めた損金算入限度額から、より古い発生年度の繰越欠損金控除及び同じ発生年度の特定欠損金控除に使用された金額を控除した金額

第2ステップとして、③通算グループ全体の非特定欠損金の合計額のうち、②通算グループ全体の損金算入限度額合計の残額までの金額の比率を求め、これを非特定欠損金としての控除比率(非特定損金算入割合)として把握する。この非特定損金算入割合を、第1ステップで各法人に配賦された非特定欠損金額①に乗ずると、各通算法人における非特定欠損金の損金算入金額が算出される(法法64の7①三ロ)。

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(3) 修更正時の処理

連結納税制度における修更正は、1社でも数字が変更になると全社やり直しになるという点で手間がかかっていた。そのため、グループ通算制度においては、損益通算・繰越欠損金の通算によりグループ内他法人と授受した金額は期限内申告書のものに固定し、修更正は対象法人1社についてのみにおいて行うこととされた(法法64の5⑤、64の7④⑤)。ただし、これらを悪用し、欠損金の繰越期間に対する制限を潜脱するため又は離脱法人に欠損金を帰属させるため、あえて誤った当初申告を行うなど、法人税の負担を不当に減少させる結果となると認めるときは、税務署長は、上記の取扱いを適用しないで、全体を再計算することができることとされている(法法64の5⑧)、64の7⑧二。

 

(4) 税効果相当額の授受

連結納税制度においては、連結親法人がグループ全体の連結法人税額を納付するが、それぞれの法人の内訳として連結法人税個別帰属額が計算されていた。そして、全体の金額を負担した連結親法人と各法人との間でその負担額の精算をするかどうかは任意とされており、それをグループ内で精算したとしても益金・損金を構成しないこととされていた。

これに対し、グループ通算制度においては、各法人が単体申告するため、連結法人税個別帰属額のような考え方は無い。しかし、損益通算・欠損金の通算により他法人の欠損を自社の所得から控除することがあるため、その損益通算・欠損金の通算の規定その他通算法人のみに適用される規定を適用することにより減少する法人税・地方法人税の額に相当する金額として通算法人間で授受される金額(「通算税効果額」)については、従来同様に益金・損金を構成しないこととされている(法法26④、38③)。

 

3 その他基本的な仕組み

その他の基本的な仕組みは、連結納税制度と概ね同様とされ、次の通りである。

項目

連結納税制度の概要

グループ通算制度

適用法人

基本的に、完全支配関係(100%の支配関係)のある内国普通法人のグループ

基本的に同左(法法64の9)

適用方法

原則として、最初の連結事業年度開始の日の3月前までに承認申請を行い、国税庁長官の承認を受ける

基本的に同左(法法64の9②)

青色申告

青色申告とは別個の制度(青色申告と概ね同等の要件が必要)

青色申告を前提とする

  • グループ通算制度の承認を受けた場合、青色申告の承認を受けたとみなされる(法法125②)
  • 適用法人・適用方法・承認取消事由等の規定において青色申告の承認を前提とした規定が追加された(法法64の9①四五、③三ハ、64の10⑤)が、実質的な改正ではない

電子申告

令和2年4月1日以後開始事業年度については、親法人の資本金が1億円超であれば、電子申告が義務化される

グループ通算制度適用法人は、電子申告により法人税・地方法人税の申告をしなければならない(法法75の4①二)

  • 親法人の電子署名により子法人の申告及び申請、届出等を行うことができることとされるほか、ダイレクト納付についても所要の措置がとられる(法法150の3)

申告期限の延長特例

親法人が申請を行い、原則2カ月延長される

同左(法法75の2⑪)

事業年度

親法人の事業年度に統一

同左(法法14③)

取止め

制度適用の取止めは基本的にやむを得ない事情がある場合に限られる

  • 親法人が帳簿不備等により連結納税の承認を取り消された場合には、グループ全体の連結納税が取止めになる
  • 親法人が解散したり、他の内国法人の100%保有になった場合などには、グループ全体の連結納税が取止めになる

基本的に同左(法法64の10)

  • 青色申告を前提にした制度になることによる措置が加えられる(法法64の10⑤)

税率

連結親法人が中小法人等に該当するかどうかにより適用税率が決まる。中小法人の軽減税率は連結所得の年800万円以下の金額について適用される。

各法人の適用税率によることとされているが、協同組合等を除き、以下のように、実質的には通算グループ全体を考慮して決定される

  • 中小法人の軽減税率は、通算グループ内の全法人が中小法人に該当する場合のみ適用され、その適用対象所得金額は、年800万円を所得金額の比で配分した金額とされる(法法66①⑥⑦)

連帯納付責任

同左

  • 通算グループ内の他の法人の法人税について連帯納付責任を負う(法法152)

包括的租税回避防止規定

同左(法法132の3)

 

4 グループ通算制度開始・加入

(1)制度適用開始・加入時の時価評価・欠損金等の取扱いの概要

連結納税制度の適用を開始する場合、又は子法人が新たに加わる場合、納税単位が変わるため、参加する法人はその直前に保有資産の時価評価を行って含み損益を清算し(時価評価課税)、繰越欠損金の切捨てを行うこととされていた。

ただし、連結親法人にとっては納税義務者であることに変更は無いことから、上記の時価評価課税・欠損金切捨ての対象外とされ、連結納税に持ち込んだ繰越欠損金は「非特定連結欠損金」として、連結グループ全体の連結所得から控除できることとされていた。

また、子法人についても、一定の要件を満たす特定連結子法人(グループ内新設子法人、適格株式交換等完全子法人など)については、時価評価課税・欠損金切捨ての対象外とされていた(ただし持ち込んだ繰越欠損金についてはその法人の個別所得を上限に控除される「特定連結欠損金」になる)。

グループ通算制度においては、開始・加入時の時価評価課税・欠損金切捨ての対象について、組織再編税制の考え方を取り入れることにより、その対象が縮小される。すなわち、従来は主に100%化した手法により時価評価課税・欠損金切捨ての有無が判断されていたのに対し、グループ通算制度においては、時価評価課税については適格組織再編と同等の要件を満たしているかどうか等により判定され、欠損金切捨てについても、支配関係が5年超継続しているか、共同事業性があるかどうか等により判断されることになる。この変更により、従来は株式買取りにより100%化した場合には必ず時価評価課税・欠損金切捨ての対象となっていたものが、要件を満たせば対象外になり得ることになったのである。

ただし、親法人については、連結納税制度においては納税義務者として特別扱いされていたのに対し、グループ通算制度への移行により基本的に子法人と同列に扱われることになった、すなわち、時価評価課税・欠損金切捨ての対象外になるためには一定の要件を満たすことが必要になるほか、繰越欠損金を持ち込めた場合にも特定欠損金とされ、親法人の所得を上限に控除をすることになる(SRLYルール(注))。親法人については連結納税に比べ納税者不利な改正と言える。

(注) 欠損金の繰越控除を自己の所得の範囲内に限定するルールをSRLYルール(Separate Return Limitation Year Rule)と呼ぶ。

 

(2) 制度適用開始時の時価評価・欠損金等の切捨て

制度適用開始時の保有資産の時価評価及び含み損益・開始前欠損金の制限の対象と内容は次の図の通りである。

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(ⅰ)親法人による完全支配関係継続が見込まれていない場合

まず、親法人による完全支配関係(親法人を判定する場合はいずれかの子法人との間の完全支配関係)の継続が見込まれているかどうかを判定する。見込まれていない場合には時価評価対象法人となり、具体的な取扱いは次の通りとなる。

  • 開始直前事業年度において、時価評価資産の評価損益を計上する(法法64の11①)。
  • 開始前の繰越欠損金は切り捨てられ、通算制度開始後に損金算入することはできない(法法57⑥)
(ⅱ)時価評価対象外法人について、親法人との支配関係が5年超である場合

次に、(ⅰ)の判定で時価評価対象外法人とされた法人について、親法人との支配関係(親法人を判定する場合にはいずれかの子法人との間の支配関係)が5年超であるかを判定する(法法57⑧)。そして、5年超である場合には、以下の取扱いとなる。

  • 開始時の時価評価については対象外
  • 開始前の繰越欠損金の切捨ては無く、特定欠損金とされる(法法64の7②一)
  • 開始後にも特に含み損使用の制限等無し
(ⅲ)時価評価対象外法人について、共同事業性がある場合

次に、(ⅱ)の判定で支配関係5年以下とされた法人については、共同事業性の有無を判定する(法57⑧)。

次の要件の全てに該当する場合には、共同事業性有りと判定される(大綱)。

イ) 事業関連性要件

ロ) イの各事業の事業規模比5倍以内要件又は当該法人の特定役員継続要件

ハ)当該法人のイの主要な事業の事業規模拡大2倍以内要件又は特定役員継続要件

共同事業性有りの判定になった場合には、(ⅱ)の支配関係5年超の法人と同じ取扱いとなる。

  • 開始時の時価評価については対象外
  • 開始前の繰越欠損金の切捨ては無く、特定欠損金とされる(法法64の7②一)
  • 開始後にも特に含み損使用の制限等無し
(ⅳ)時価評価対象外法人で、支配関係5年以内、共同事業性なしで、支配関係発生日以後に新たな事業を開始した場合

(ⅲ)で共同事業性なしとの判定になると、繰越欠損金・含み損の通算制度開始後の使用について、何らかの制限を受けることになる。

まず、支配関係発生日以後に新たな事業を開始した場合には、次の取扱いとなる。

  • 開始時の時価評価については対象外
  • 支配関係発生前に生じた繰越欠損金及び特定資産譲渡等損失から成る繰越欠損金は切捨て(法法57⑧)
  • 開始後の特定資産譲渡等損失につき損金不算入(支配関係発生から5年経過日と開始から3年経過日といずれか早い日までの制限)(法法64の14①)
(ⅴ)時価評価対象外法人で、支配関係5年以内、共同事業性なしで、支配関係発生日以後に新たな事業を開始していない場合

(ⅳ)の新たな事業を開始した場合に該当しない場合には、開始時の時価評価や繰越欠損金の切捨ては無いが、開始後に実現した一定の含み損について損益通算の対象外とされる制限が課される。

  • 開始時の時価評価については対象外
  • 開始前の繰越欠損金の切捨ては無く、特定欠損金とされる(法法64の7②一)
  • 開始後に特定資産譲渡等損失に計上され、これが欠損金を構成した場合には、損益通算の対象外とされた上で、特定欠損金とされる(支配関係発生から5年経過日と開始から3年経過日といずれか早い日までの制限)(法法64の6①②、64の7②三)

なお、減価償却費の額の割合が30%を超える場合には、以下の取扱いとなる。

  • 開始時の時価評価については対象外
  • 開始前の繰越欠損金の切捨ては無く、特定欠損金とされる(法法64の7②一)
  • 開始後の欠損金につき損益通算の対象外とされた上で、特定欠損金とされる(支配関係発生から5年経過日と開始から3年経過日といずれか早い日までの制限)(法法64の6③、64の7②三)

 

(3) 子法人加入時の時価評価・欠損金の切捨て等

次に、損益通算グループに子法人が加入する場合についての保有資産の時価評価及び含み損益・加入前欠損金の制限の対象と内容は次の図の通りである。

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(ⅰ)時価評価対象になるかどうか

まず、新たに通算グループに加入した子法人が以下のいずれかに該当するかどうかを検討し、該当する場合には時価評価対象外法人となる(法法64の12①及び大綱)。

  • 通算グループ内新設法人
  • 通算法人を株式交換等完全親法人とする適格株式交換等に係る株式交換等完全子法人
  • 適格組織再編成と同様の要件に該当する場合

A) 加入直前に通算親法人による支配関係がない法人で次の全てに該当するもの

◇親法人との間の完全支配関係の継続要件

◇当該法人の従業者継続要件

◇当該法人の主要事業継続要件

◇当該法人の主要な事業と通算グループ内のいずれかの法人の事業との事業関連性要件

◇上記各事業の事業規模比5倍以内要件又は当該法人の特定役員継続要件

B) 加入直前に通算親法人による支配関係がある法人で次の全てに該当するもの

◇親法人との間の完全支配関係の継続要件

◇当該法人の従業者継続要件

◇当該法人の主要事業継続要件

これらに該当しない場合には、時価評価対象法人となる。具体的な取扱いは次の通りである。

  • 加入直前事業年度において、時価評価資産の評価損益を計上する(法法64の12①)。
  • 加入前の繰越欠損金は切り捨てられ、通算制度加入後に損金算入することはできない(法法57⑥)
(ⅱ)時価評価対象外法人について、親法人との支配関係が5年超である場合

次に、(ⅰ)の判定で時価評価対象外法人とされた法人について、親法人との支配関係が5年超であるかを判定する(法法57⑧)。親法人との支配関係が5年超である場合には、以下の取扱いとなる。

  • 加入時の時価評価については対象外
  • 加入前の繰越欠損金の切捨ては無く、特定欠損金とされる(法法64の7②一)
  • 加入後にも特に含み損使用の制限等無し
(ⅲ)時価評価対象外法人について、共同事業性がある場合

次に、(ⅱ)の判定で親法人との支配関係が5年以下となった法人については、共同事業性の有無を判定する(法57⑧)。

次の要件の全てに該当する場合には、共同事業性有りと判定される(大綱)。

  • 加入の直前に親法人との支配関係がない法人で上記(*1) A) 適格組織再編成と同等の要件に該当するもの
  • 加入の直前に親法人との支配関係がある法人で次の要件の全てに該当するもの

イ)事業関連性要件

ロ)イの各事業の事業規模比5倍以内要件又は当該法人の特定役員継続要件

ハ)当該法人のイの主要な事業の事業規模拡大2倍以内要件又は特定役員継続要件

  • 非適格株式交換等により加入した株式交換等完全子法人で共同で事業を行うための適格株式交換等の要件のうち対価要件以外の要件に該当するもの

共同事業性有りの判定になった場合には、(ⅱ)の支配関係5年超の法人と同じ取扱いとなる。

  • 加入時の時価評価については対象外
  • 加入前の繰越欠損金の切捨ては無く、特定欠損金とされる(法法64の7②一)
  • 加入後にも特に含み損使用の制限等無し
(ⅳ)時価評価対象外法人で、支配関係5年以内、共同事業性なしで、支配関係発生日以後に新たな事業を開始した場合

(ⅲ)で共同事業性なしとの判定になると、繰越欠損金・含み損の通算制度加入後の使用について、何らかの制限を受けることになる。

まず、支配関係発生日以後に新たな事業を開始した場合には、次の取扱いとなる。

  • 加入時の時価評価については対象外
  • 支配関係発生前に生じた繰越欠損金及び特定資産譲渡等損失から成る繰越欠損金は切捨て(法法57⑧)
  • 加入後の特定資産譲渡等損失につき損金不算入(支配関係発生から5年経過日と加入から3年経過日といずれか早い日までの制限)(法法64の14①)
(ⅴ)時価評価対象外法人で、支配関係5年以内、共同事業性なしで、支配関係発生日以後に新たな事業を開始していない場合

(ⅳ)の新たな事業を開始した場合に該当しない場合には、加入時の時価評価や繰越欠損金の切捨ては無いが、加入後に実現した含み損について損益通算の対象外とされる制限が課される。

  • 加入時の時価評価については対象外
  • 加入前の繰越欠損金の切捨ては無く、特定欠損金とされる(法法64の7②一)
  • 加入後に特定資産譲渡等損失に計上され、これが欠損金を構成した場合には、損益通算の対象外とされた上で、特定欠損金とされる(支配関係発生から5年経過日と加入から3年経過日といずれか早い日までの制限)(法法64の6①②、64の7②三)

なお、減価償却費の額の割合が30%を超える場合には、以下の取扱いとなる。

  • 加入時の時価評価については対象外
  • 加入前の繰越欠損金の切捨ては無く、特定欠損金とされる(法法64の7②一)
  • 加入後の欠損金につき損益通算の対象外とされた上で、特定欠損金とされる(支配関係発生から5年経過日と加入から3年経過日といずれか早い日までの制限)(法法64の6③、64の7②三)

 

(4) 完全支配関係の継続が見込まれない子法人株式の時価評価

グループ通算制度の適用開始又は通算グループへの加入をする子法人で、親法人との間に完全支配関係の継続が見込まれないものの株式については、租税回避防止等の観点から、株主において時価評価により開始又は加入直前の事業年度に評価損益を計上することとされる(損益通算をせずに2カ月以内に通算グループから離脱する法人を除く)(法法64の11②、64の12②)。

 

(5) 加入時のみなし事業年度の特例

通算親法人との完全支配関係を生じ通算グループに加入する子法人は、原則として、連結納税と同様に、その完全支配関係を有することとなった日の前日までのみなし事業年度を設ける必要がある(法法14④一)。

ただし、子法人が通算親法人との完全支配関係を期中に有することとなった場合に、一定の書類を所轄税務署庁に提出したときは、その完全支配関係を有することとなった日(以下「加入日」)の前日の属する月次決算期間又は会計期間の末日まででみなし事業年度を区切るという特例を適用することができる(法法14⑧)。

従来から、加入日の前日の属する月次決算期間の末日までで区切る特例は存在したが、会計期間の末日までとする特例が追加されている。

 

5 通算グループからの離脱

(1) 離脱時の時価評価

連結納税制度では、連結納税グループから離脱する法人についての資産の時価評価は行うことは無かった。グループ通算制度では、次の場合には、それぞれ次の資産について、直前の事業年度において時価評価損益の計上を行うこととされている(損益通算の適用を受けない法人として政令で定める法人等を除く)(法法64の13)。

イ) 主要な事業を継続することが見込まれていない場合(離脱の直前における保有資産の時価が簿価を超える場合として政令で定める場合を除く) :固定資産、土地等、有価証券(売買目的有価証券等を除く)、金銭債権及び繰延資産(帳簿価額が1,000 万円未満のもの及びその含み損益が資本金等の額の2分の1又は1,000 万円のいずれか少ない金額未満のものを除く)

ロ) 帳簿価額が10 億円を超える上記イ)の資産の離脱後の譲渡等による損失を計上することが見込まれ、かつ、その法人の株式の譲渡等による損失が離脱後に計上されることが見込まれている場合:その資産

 

(2) 離脱時の投資簿価修正

連結納税制度においては、連結納税グループ内で二重課税・二重控除を回避するため、連結子法人株式簿価を調整する投資簿価修正制度があったが、この投資簿価修正制度は、グループ通算制度においては以下のように改組される(大綱)。なお、損益通算をせずに2カ月以内に通算グループから離脱する法人については適用されない。

項目

改正案

修正対象

通算グループからの離脱法人の株式

修正のタイミング

離脱直前の帳簿価額を修正

修正金額

離脱法人の株式簿価=離脱法人の簿価純資産価額に相当する金額になるよう修正する

 

6 各個別制度の取扱い

所得の調整計算・税額控除の計算の個別制度の取扱いについては、連結納税制度では各法人ごとに計算して結果を合算する項目もある一方、グループ全体で計算する項目もあった。グループ通算制度では単体申告となることから、個別計算が原則となるが、一部の項目に全体計算の考え方が残される。なお、本稿では概要のみにとどめるため、詳細は法人税法及び施行令を確認されたい。

 

(1) 全体計算の考え方が残される項目

例外的に全体計算の考え方が残される項目のうち、主なものは次のとおりである。

  • 外国子会社配当等の益金不算入制度(大綱)
  • 中小判定:次の制度における中小法人の判定について、通算グループ内のいずれかの法人が中小法人に該当しない場合には、通算グループ内の全ての法人が中小法人に該当しないこととされる

▶貸倒引当金(法法52①イ)

▶欠損金の繰越控除(法法57 11一、三、59⑤)

▶軽減税率(法法66⑥、⑦)

▶特定同族会社の特別税率の不適用(法法67④)

▶中小企業等向けの各租税特別措置(措法42の4④他)

  • 外国税額控除(法法69⑭)
  • 試験研究を行った場合の税額控除制度(研究開発税制)(措法42の4⑧)
  • 租税特別措置法における適用除外事業者(措法42の4④他)

 

(2) グループ法人税制が改正され、単体納税でもグループの考え方が取り入れられる項目

次の項目は、個別計算にはなるが、個別計算の方法についてグループの考え方が取り入れられる。なお、単体納税を適用している法人の計算内容についても同様に変更になる。

  • 受取配当等の益金不算入制度(法法23④〜⑥)
  • 貸倒引当金(法法52⑨二)
  • 資産の譲渡に係る特別控除額(措法65の6)

 

(3) 通算グループ内の子法人株式評価損益・譲渡損益の不計上

租税回避防止等の観点から、以下については計上しないこととされる。なお、損益通算をせずに2カ月以内に通算グループから離脱する法人については適用されない。

  • 通算グループ内の子法人株式の評価損益(法法25④、33⑤)
  • 通算グループ内の他の法人に対する子法人株式の譲渡損益(法法61の11⑧)

 

7 適用関係

(1) 施行

グループ通算制度は、令和4年4月1日以後に開始する事業年度から適用される(改正法附1五ロ、14)。

 

(2) 既に連結納税制度を適用している場合

令和4年3月31日における連結親法人及び同日の属する連結親法人事業年度終了の日における連結子法人についての連結納税制度の承認は、令和4年4月1日以後に開始する事業年度においてはグループ通算制度の承認とみなされ(改正法附29①)、グループ通算制度に自動移行する。

ただし、連結親法人が令和4年4月1日以後最初に開始する事業年度開始の日の前日までに税務署長に届出書を提出することにより、連結納税制度の適用を終了し、グループ通算制度を適用しない単体納税法人となることができる(改正法附29②)。

連結納税制度からグループ通算制度に自動移行した場合には、以下をはじめとする必要な経過措置が設けられている。

  • 連結納税制度における連結欠損金個別帰属額はグループ通算制度における繰越欠損金とみなされる(改正法附20①⑦)
  • 上記のうち、特定連結欠損金個別帰属額は、グループ通算制度における特定欠損金額とみなされる(改正法附28③)。

 

8 地方税

グループ通算制度に移行後の地方税については、従来同様、各法人における申告・納付が継続される。ただし、住民税の課税標準は法人税額、事業税の課税標準は所得金額とされているため、法人税の計算結果から、損益通算及び欠損金の通算の影響を除いた金額に戻す調整を行うこととされている。

主な調整内容は次の通りである。なお、他にも詳細な規定が置かれているため、適用に当たっては確認が必要である。

  • 住民税(地法53、321の8)

▶課税標準=法人税額であるが、以下の調整を行う。

▶損益通算が行われた場合

◇法人税の計算において損金算入された場合
:損金算入額(通算対象欠損金額)×法人税率 を加算【加算対象通算対象欠損調整額】(地法53⑪⑫、321の8⑪⑫)

◇法人税の計算において益金算入された場合
:益金算入額(通算対象所得金額)×法人税率 を控除【控除対象通算対象所得調整額】(地法53⑬⑭、321の8⑬⑭)

▶繰越欠損金の通算が行われた場合

◇法人税の計算において他法人の繰越欠損金を損金算入した場合
:損金算入額(被配賦欠損金控除額)×法人税率 を加算【加算対象被配賦欠損調整額】(地法53⑰⑱、321の8⑰⑱)

◇法人税の計算において自社の繰越欠損金が他法人で損金算入された場合
:損金算入額(配賦欠損金控除額)×法人税率 を控除【控除対象配賦欠損調整額】(地法53⑲⑳、321の8⑲⑳)

▶通算制度開始・加入にあたり、繰越欠損金が切捨てられた場合

◇切捨て金額(通算適用前欠損金額)×法人税率 を認識し、繰越控除【控除対象通算適用前欠損調整額】(地法53③④、321の8③④)

  • 事業税(地法72の18、72の23)

▶付加価値割の単年度損益及び所得割の課税標準=各事業年度の益金から損金を控除

◇益金・損金は法人税の計算と同様であるが、損益通算、欠損金の通算等を除く(地法72の18②、72の23②)

 

9 現状における考察

(1) 連結納税制度・グループ通算制度の新規適用を検討する場合

グループ通算制度は令和4年4月1日以後開始事業年度から適用され、それより前は連結納税制度における開始も可能であるため、現状で連結納税制度を適用していないグループは、連結納税制度において開始すべきか、それともグループ通算制度施行後に開始すべきか又はいずれの制度も適用しないかについて、検討と意思決定が必要である。

3月決算法人が連結納税制度において適用開始する場合には、令和3年4月1日から(申請期限:令和2年12月31日)の適用開始が必要である。まずはこれに向けて、連結納税制度においての適用開始が必要かどうかの検討を進める必要がある。グループ通算制度における適用開始は3月決算法人においては令和4年4月1日〜令和5年3月31日の事業年度が初年度となり、初年度から適用開始する場合の申請期限は令和3年12月31日となる。

特に、親法人の欠損金をグループ全体の所得から控除したいと考えるグループは、グループ通算制度適用前に連結納税制度を開始する必要があるため、早急な検討が必要と考えられる。

 

(2) 連結納税制度を既に適用している場合

連結納税制度を既に適用している場合、グループ通算制度施行までに届け出ればグループ通算制度に移行しない選択もあることから、移行した場合の影響を確認する必要がある。ただし、グループ内の損益通算のメリットは継続するため、大多数のグループはグループ通算制度への移行をするのではないかと予想される。

 

(3) 組織再編税制に似た要件等に注意

前述のとおり、グループ通算制度開始・加入時の取扱いについて、組織再編税制の考え方が取り入れられている。もともと組織再編税制は複雑な税制であり、開始・加入時の規定の適用を誤ると、思わぬ時価評価課税や欠損金の切捨てが起きる危険性もあり、十分な検討が必要である。

以上

本記事に関する留意事項

本記事は皆様への情報提供として一般的な情報を掲載するのみであり、その性質上、特定の個人や事業体に具体的に適用される個別の事情に対応するものではありません。また、本記事の作成または発行後に、関連する制度その他の適用の前提となる状況について、変動を生じる可能性もあります。個別の事案に適用するためには、当該時点で有効とされる内容により結論等を異にする可能性があることをご留意いただき、本記事の記載のみに依拠して意思決定・行動をされることなく、適用に関する具体的事案をもとに適切な専門家にご相談ください。

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