ナレッジ

IASBは、IFRS基準の狭い範囲の修正のパッケージを公表

IFRS in Focus|月刊誌『会計情報』2020年7月号

注:本資料はDeloitteのIFRS Global Officeが作成し、有限責任監査法人トーマツが翻訳したものです。この日本語版は、読者のご理解の参考までに作成したものであり、原文については英語版ニュースレターをご参照下さい。

トーマツIFRSセンター・オブ・エクセレンス

このIFRS in Focusは、国際会計基準審議会(IASB)によって公表されたIFRS基準に対する最近の狭い範囲の修正のパッケージを取り扱っている。個別の修正は次のとおりである。

  • 「『概念フレームワーク』への参照」(IFRS第3号「企業結合」の修正)
  • 「有形固定資産―意図した使用の前の収入」(IAS第16号「有形固定資産」の修正)
  • 「不利な契約―契約履行のコスト」(IAS第37号「引当金、偶発負債及び偶発資産」の修正)
  • 「IFRS基準の年次改善2018-2020」
  • IASBは、IFRS基準の狭い範囲の修正を公表した。
  • IFRS第3号の修正:
    –1989年版フレームワークの代わりに2018年版概念フレームワークを参照するように、IFRS第3号を更新する。
    –IFRIAS第37号又はIFRIC第21号の範囲に含まれる取引及び他の事象について、企業結合で引き受けた負債を識別するために、取得企業が(概念フレームワークの代わりに)IAS第37号又はIFRIC第21号を適用するという要求事項をIFRS第3号に追加する。
    –IFRS第3号に、取得企業は企業結合で取得した偶発資産を認識しないという明示的な規定を追加する。
  • IAS第16号の修正は、資産を経営者が意図した方法で稼働可能にするために必要な場所及び状態に置く間に生産された物品の販売による収入を有形固定資産項目の取得原価から控除することを禁止する。その代わり、企業は、そうした物品の販売による収入、及び当該物品の生産コストを純損益に認識する。
  • IAS第37号の修正は、契約の「履行コスト」が「契約に直接関連するコスト」を含むことを規定する。契約に直接関連するコストは、契約の増分履行コスト又は契約の履行に直接関連する他のコストの配分のいずれかである。
  • 年次改善のパッケージには、次の軽微な修正が含まれている。
    –初度適用企業としての子会社(IFRS第1号の修正)
    –金融負債の認識の中止に関する「10%」テストに含まれる手数料(IFRS第9号の修正)
    –リース・インセンティブ(IFRS第16号の設例13の修正)
    –公正価値測定における課税(IAS第41号の修正)
  • すべての修正は、2022年1月1日以後に開始する事業年度に発効する。ただし、IFRS第16号の修正は、設例に関してのみであるため、発効日の記載はない。

 

542KB, PDF ※PDFダウンロード時には「本記事に関する留意事項」をご確認ください。

「『概念フレームワーク』への参照」(IFRS第3号「企業結合」の修正)

背景

2018年にIASBは、改訂「概念フレームワーク」を公表し、その際に、IFRS基準に含まれるほとんどのフレームワークへの参照を2018年版概念フレームワークに更新した。しかし、その項を更新することにより、IFRS第3号を適用する企業とってコンフリクトが発生する可能性があるため、IFRS第3号の1つの項は、引き続き1989年版概念フレームワークを参照している。

2018年のフレームワークにおける資産及び負債の定義は1989年のフレームワークの定義と異なっているため、コンフリクトが発生する可能性があり、いくつかの認識された残高について、取得後に2日目の利得又は損失につながる可能性がある。

公開草案において、IASBは、要求事項を大幅に変更せずにIFRS3を更新する、IFRS第3号に対する3つの考えられる修正を識別した。これらの修正が、今回最終化された。

本修正

本修正は、1989年版フレームワークの代わりに2018年版概念フレームワークを参照するように、IFRS第3号を更新する。また、IAS第37号の範囲に含まれる義務について、取得企業が取得日に過去の事象の結果として現在の義務が存在するどうかを判定するために、IAS第37号を適用するという要求事項をIFRS第3号に追加する。IFRIC第21号「賦課金」の範囲に含まれる賦課金について、賦課金を支払う負債を生じさせる義務発生事象が取得日までに発生しているかどうかを判定するために、IFRIC第21号を適用する。

最後に、IASBは、IFRS第3号に取得企業が企業結合で取得した偶発資産を認識しないという明確な規定を追加する。

見解

本修正がなくても、IFRS第3号は、企業結合で取得した偶発資産の認識を禁止している。この禁止は、認識原則から推測することが可能であり、IFRS第3号の結論の根拠で確認される。しかし、IFRS第3号自体には明示的に記載されていない。これを変更するために、IASBは、偶発資産に対する要求事項を明示的にし、フレームワークへの参照を置き換えることはこれを変更しないことを明確にするために、IFRS第3号に項を追加した。

 

発効日

本修正は、取得日が2022年1月1日以後に開始する最初事業年度の開始以後である企業結合に発効する。企業が(更新版「概念フレームワーク」と一緒に公表された)他のすべての更新された参照を、同時に適用する又は以前に適用した場合、早期適用が認められる。

 

「有形固定資産―意図した使用の前の収入」(IAS第16号の修正)

背景

IAS第16号は、資産が正常に機能するかどうかの試運転コスト(資産を当該場所に設置し稼働可能な状態にする間に生産した物品の販売による正味の収入を控除後)が、直接起因するコストに含まれることを規定している。

企業は、IAS第16号の要求事項を異なって適用している。一部の企業は、試運転により生産された物品の販売による収入のみを控除しているが、他の企業は、資産が経営者が意図した方法で稼働可能にするために必要な場所及び状態に置かれる(すなわち、使用可能となる)まですべての販売収入を控除している。一部の企業については、有形固定資産項目の取得原価から控除される収入が多額である場合があり、試運転のコストを上回る場合もある。

本修正

IASBは、資産が使用可能となる前に生産された物品の販売による収入、すなわち資産を管理者が意図した方法で稼働可能にするために必要な場所及び状態に置く間の収入を、有形固定資産の取得原価から控除することを禁止するように、IAS第16号を修正することを決定した。そのため、企業は、このような販売収入及び関連するコストを純損益に認識する。企業は、IAS第2号「棚卸資産」に従って、これらの物品のコストを測定する。

IASBはまた、「資産が正常に機能しているかどうかを試運転する」の意味を明確にすることを決定した。IAS第16号は、これを、資産の技術的及び物理的性能が、当該資産を財又はサービスの生産又は供給、他者への賃貸、又は管理目的で使用できるかどうかを評価することであると規定している。

包括利益計算書において独立表示していない場合、財務諸表において、企業の通常の活動のアウトプットではない生産物に関連する純損益に含まれる収入及びコストの金額、及びそのような収入及びコストが含まれる包括利益計算書の表示科目を開示しなければならない。

見解

公開草案はコストの識別及び測定に関する要求事項を提案しなかったが、IASBは、コストを識別するためには広範な判断が要求され、企業がコストを識別して測定する方法に違いをもたらす可能性があるというコメントに同意した。

そのため、IASBは、IAS第2号の要求事項が過度に規範的でなくコストを識別して測定するためのフレームワークを定めており、企業が生産された物品の販売が通常の活動のアウトプットであると判断した場合、企業はコストを識別して測定する際に、IAS第2号を適用することがすでに要求されているため、IASBはコストを識別し測定する際に、企業にIAS第2号を適用することを要求することを決定した。

 

発効日及び経過措置

本修正は、2022年1月1日以後に開始する事業年度に発効する。早期適用は認められる。

企業は、本修正を遡及的に適用するが、本修正を最初に適用する際の財務諸表において表示する最も古い期間の期首以後に、資産を経営者が意図した方法で稼働可能にするために必要な場所及び状態に置く有形固定資産の項目に対してのみ適用する。企業は、本修正の適用開始の累積的影響を、表示する最も古い期間の期首に、利益剰余金(又は、適切な場合には、資本の他の内訳項目)の期首残高の修正として認識しなければならない。

 

「不利な契約―契約履行のコスト」(IAS第37号「引当金、偶発負債及び偶発資産」の修正)

背景

IAS第37号では、契約が不利であるかどうかを評価する際に、企業が考慮するコストに関するガイダンスは提供していない。一部の契約について、IAS第37号の不利な契約の要求事項の解釈が異なることにより、これらの契約を締結している企業に重要性のある影響を及ぼす可能性がある。

本修正

IASBは、契約を「履行するためのコスト」が「契約に直接関連するコスト」で構成されることを規定することにより、IAS37を修正することを決定した。契約に直接関連するコストは、契約の増分履行コスト(例えば、直接労務費又は材料費)及び契約の履行に直接関連する他のコストの配分(例えば、契約の履行に使用される有形固定資産の項目の減価償却費の配分)の両方で構成される。

見解

公開草案において、IASBは、契約に直接関連するコスト及び直接関連するものではないコストの例を含めることを提案した。これらの例は、IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」に基づいていた。

最終的な修正について、IASBは、当該例を、契約に直接関連するコストのタイプの一般的な記述、すなわち契約の増分履行コスト及び契約の履行に直接関連する他のコストの配分に置き換えることを決定した。IASBは、財又はサービスを提供する契約のみではなく、すべてのタイプの契約に当該一般的な記述を適用可能であり、異なるIFRS基準における例示の文言のわずかな相違の影響に関する疑問を避け、企業が特定のコストを含めるか除外するかを決定するための判断を適用できるフレームワークを提供すると結論付けた。

 

発効日及び経過措置

本修正は、2022年1月1日以後に開始される事業年度に発効する。早期適用は認められる。

企業は本修正を、企業が本修正を最初に適用する事業年度の期首現在にすべての義務の履行を完了していない契約に対して、本修正を適用する。比較情報は修正再表示しない。その代わりに、企業は本修正の適用開始の累積的影響を、適用開始日現在の利益剰余金(又は、適切な場合には、資本の他の内訳項目)の期首残高の修正として認識しなければならない。

 

「IFRS基準の年次改善2018-2020」

IASBは、「IFRS基準の年次改善2018-2020」を公表した。この文書には、IASBの年次改善プロジェクトの結果として、4つのIFRS基準の修正が含まれている。

初度適用企業としての子会社(IFRS第1号の修正)

IFRS第1号「国際財務報告基準の初度適用」のD16項(a)は、親会社よりも後で初度適用企業となる子会社は、親会社の連結財務諸表に含められていたであろう帳簿価額で資産及び負債を測定することができる。

本修正は、この救済措置を、すべての在外営業活動体の換算差額累計額に拡張する。IFRS第1号D16項(a)の免除規定を使用する子会社は、親会社のIFRS移行日に基づいて、連結手続及び親会社が当該子会社を取得した企業結合の影響について何の修正もなかったとした場合に、親会社の連結財務諸表に含められていたであろう帳簿価額で、すべての在外営業活動体の換算差額累計額を測定する選択もできる。同様の選択は、IFRS第1号D16項(a)の免除規定を使用する関連会社又は共同支配企業にも利用可能である。

本修正は、2022年1月1日以後に開始される事業年度に発効する。早期適用は認められる。

見解

公開草案は、IFRS第1号D16項(a)を適用する企業が、修正により導入される拡張される救済措置を使用することが「要求」されることを提案した。しかし、公開草案に対する回答により、企業が親会社により報告された金額を使用して換算差額累計額を測定することが煩雑である可能性があることが明らかになった。したがって、IASBは、IFRS第1号D16号(a)を適用する子会社に対して、換算差額累計額に対して当該免除を使用することを認めるが、要求しないことを決定した。

 

金融負債の認識の中止に関する「10%」テストに含まれる手数料(IFRS第9号の修正)

IFRS第9号「金融商品」は、負債性金融商品の既存の借手と貸手との間で大幅に異なる条件による交換ある場合(既存の金融負債又はその一部の条件の大幅な変更を含む)、企業に金融負債の認識の中止を行い、新たな金融負債を認識することを要求する。

新たな条件によるキャッシュ・フローの割引現在価値が、当初の金融負債の残りのキャッシュ・フローの割引現在価値と少なくとも10%異なる場合には、条件が大幅に異なっている(10%テスト)。

本修正は、金融負債の認識を中止するかどうかを評価する際の「10%テスト」を適用する際に、企業が含める手数料を明確化する。企業は、企業(借手)と貸手との間で支払うか又は受取る手数料のみを含める。これには、企業又は貸手のいずれかが他方に代わって支払うか又は受取る手数料が含まれる。

本修正は、2022年1月1日以後に開始する事業年度に発効する。早期適用は認められる。本修正は、企業が本修正を最初に適用する日以後に行われる条件変更及び交換に将来に向かって適用される。

リース・インセンティブ(IFRS第16号の修正)

IFRS第16号「リース」の設例13には、賃借設備改良に関する補償が事実パターンの一部として含まれている。本設例では、当該補償がIFRS第16号のリース・インセンティブの定義を満たすかどうかについての結論を十分に明確に説明していない。

リース・インセンティブの処理に関する混乱の可能性を解決するために、本修正は、賃借設備改良に関する補償の例示を削除する。

IFRS第16号の修正は設例にのみ関連するため、発効日は記載されていない。

公正価値測定における課税(IAS第41号の修正)

2008年に、IASBは、公正価値を測定する際に税引前の割引率を使用する要求事項をIAS第41号「農業」から削除した。しかし、その際に、公正価値を測定する際に税引前キャッシュ・フローを使用する要求事項をIAS第41号22項から削除しなかった。

このコンフリクトを解決するため、IASBは、公正価値を測定する際に企業が課税のキャッシュ・フローを除外するIAS第41号の要求事項を削除した。これにより、IAS第41号の公正価値測定が、内部的に整合しているキャッシュ・フローと割引率を使用するIFRS第13号「公正価値測定」の要求事項と整合することになり、作成者が、最も適切な公正価値測定について税引前又は税引後のキャッシュ・フローと割引率を使用するかどうかを決定できることとなる。

本修正は、2022年1月1日以後に開始される事業年度に発効する。早期適用は認められる。本修正は将来に向かって適用される。すなわち、企業が本修正を最初に適用する日以後の公正価値測定に対して適用される。

以上

 

本記事に関する留意事項

本記事は皆様への情報提供として一般的な情報を掲載するのみであり、その性質上、特定の個人や事業体に具体的に適用される個別の事情に対応するものではありません。また、本記事の作成または発行後に、関連する制度その他の適用の前提となる状況について、変動を生じる可能性もあります。個別の事案に適用するためには、当該時点で有効とされる内容により結論等を異にする可能性があることをご留意いただき、本記事の記載のみに依拠して意思決定・行動をされることなく、適用に関する具体的事案をもとに適切な専門家にご相談ください。

お役に立ちましたか?