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IASBが、COVID-19に関連した賃料減免(rent concessions)について、IFRS第16号の修正を最終化
IFRS in Focus|月刊誌『会計情報』2020年7月号
注:本資料はDeloitteのIFRS Global Officeが作成し、有限責任監査法人トーマツが翻訳したものです。この日本語版は、読者のご理解の参考までに作成したものであり、原文については英語版ニュースレターをご参照下さい。
トーマツIFRSセンター・オブ・エクセレンス
本IFRS in Focusは、2020年5月に国際会計基準審議会(IASB)によって公表された「COVID-19に関連した賃料減免」(IFRS第16号「リース」の修正)を取り扱っている。
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背景
COVID-19によって、多くの貸手は、支払代金を延期又は緩和する救済を借手に提供している。一部のケースでは、これは当事者間の交渉であるが、政府が救済の提供を奨励又は要求した結果である場合もある。
IFRS第16号は、リース契約の変更が基準で定義されているリースの条件変更であるかどうか評価することを借手に要求しており、そうである場合、借手は改訂後の割引率を使用してリース負債を再測定する必要がある。IASBは、リースの条件変更の定義を満たすCOVID-19に関連した賃料減免を識別すること、及び、その定義を満たすものについて必要な会計処理を適用することについて借手は重要な実務上の課題に直面すると提言された。
IASBは、COVID-19の結果として生じる賃料減免を会計処理する実務上の便法を借手に提供するために、2020年4月にIFRS第16号「リース」を修正する公開草案ED/2020/2「COVID-19に関連した賃料減免」を提案し、これが今回最終化された。
見解IASBは、COVID-19に関連した大量の賃料減免について貸手が直面している実務上の困難に関して、貸手から受け取った公開草案に対するフィードバックを検討した。しかしながら、IASBは、基準設定に着手する十分な証拠が無いため、貸手の会計処理を修正しないことを決定した。この結論に達するため、IASBは以下の点を考慮した。
IASBは、既存の貸手の会計処理の要求事項を用いてCOVID-19に関連した賃料減免を会計処理することは財務諸表の利用者に有用な情報を提供すると考えている。 |
修正
実務上の便法
IASBは、以下の実務上の便法を追加することによってIFRS第16号を修正する。
借手は、COVID-19に関連した賃料減免がリースの条件変更であるかどうかの評価を行わないことを選択できる。この選択を行う借手は、COVID-19に関連した賃料減免から生じるリース料の変更を、当該変更がリースの条件変更でないかのようにIFRS第16号を適用して会計処理する場合と同じ方法で会計処理しなければならない。
実務上の便法が適用されるのは、COVID-19の直接の結果として生じる賃料減免に対してのみであり、かつ、下記の条件のすべてが満たされる場合のみである。
(a)リース料の変更により生じる当該リースの改訂後の対価が、当該変更の直前のリースの対価とほぼ同額であるか、又はそれを下回ること。
(b)リース料の減額が、当初の期限が2021年6月30日以前に到来する支払いにのみ影響を与えること(例えば、賃料減免が2021年6月30日以前のリース料の減額と2021年6月30日よりも先のリース料の増額を生じさせる場合には、この条件を満たすことになる)。
(c)当該リースの他の契約条件に実質的な変更がないこと。
見解公開草案において、IASBは、実務上の便法は当初の期限が2020年に到来するリース料にのみ利用可能とすべきと提案していた。しかしながら、公開草案に対する多くの回答者は、現在提供されている12ヵ月間継続する賃料減免も対象とするために、2021年6月まで期間を延長することを提案した。IASBは、回答者に同意し、日付を修正した。 |
当該免除を適用する借手は、実務上の便法がすべての適格な契約に適用されていること、もしくは、すべての賃料減免に適用されていない場合には実務上の便法を適用している契約の性質に関する情報を開示することを要求される。また、借手は、実務上の便法を適用している賃料減免から生じるリース料の変更を反映するために純損益に認識した金額を開示しなければならない。
見解IASBは、実務上の便法が幅広く適用され過ぎて意図しない結果を生じさせる可能性があるというリスクに留意した。したがって、IASBは、実務上の便法の範囲を限定して、COVID-19の直接の結果として生じる賃料減免のみに適用するようにしている。 実務上の便法は、IFRS第16号の要求事項からの離脱であり、COVID-19の間に借手に実務上の救済を与えるためにのみ提供されている。IASBは、借手にIFRS第16号からの離脱を要求すべきではないと決定した。一部の借手(例えば、リース料の変更を扱うシステムを有している借手)は、COVID-19の期間全体を通じてのリース契約のすべての変更に既存の要求事項を適用することを望む可能性がある。したがって、IASBは、借手が実務上の便法を適用することを容認するが、要求はしていない。 借手が実務上の便法をリースに適用することを選択する場合には、同様の特性を有し同様の状況にあるすべてのリース契約に実務上の便法を整合的に適用することになる。 |
免除を適用するリース料の変更の会計処理
実務上の便法を適用する借手は、一般的に以下のように会計処理する。
- リース料の免除は、変動リース料として会計処理する。また、借手は、リース負債のうちリース料の免除によって消滅した部分の認識の中止を行う。
- ある期間のリース料を減額するが、他の期間における金額を比例的に増加するようなリース料の変更(リースの全体の対価は変更させずに、個々の支払の時期のみを変化させる場合)は、引き続きリース負債についての利息の認識と貸手に対して行った支払についてリース負債を減額するように会計処理する。
リース料がある期間で減額され、その後の期間にそれよりも少ない額だけ増加する場合(したがって、合計対価は少なくなる場合)、リース料の変更は支払の免除とリース料の繰延の両方を含んでいる。
借手が実務上の便法を適用して認識するリース負債は、貸手に対して負っている将来のリース料の現在価値を表す。
経過措置及び発効日
借手は遡及的に修正を適用し、修正の適用開始から生じる差異を、借手が修正を最初に適用する事業年度の期首現在の利益剰余金(又は、適切な場合には、資本の他の内訳項目)の期首残高に認識することを要求される。
借手が修正を最初に適用する事業年度において、借手はIAS第8号「会計方針、会計上の見積りの変更及び誤謬」の28項(f)により要求される情報(すなわち、影響を受ける各表示科目の修正額及び1株当たり利益への影響)の開示を要求されない。
借手は、当該修正を2020年6月1日以後開始する事業年度に適用しなければならない。早期適用は認められ、これには、2020年5月28日時点で発行が未だ承認されていない財務諸表も含まれる。
見解文言上は「事業年度」となっているが、修正は期中財務報告にも利用可能である。 |
指定国際会計基準への指定
2020年5月29日に金融庁が、「連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則に規定する金融庁長官が定める企業会計の基準を指定する件」の一部改正(案)を公表した。改正案では、「COVID-19に関連した賃料減免」(IFRS第16号「リース」の修正)を含む、IASBが2020年1月1日から2020年5月31日までに公表したIFRSを、指定国際会計基準とすることを提案している。コメント期間は2020年6月29日までである。
以上
本記事に関する留意事項
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