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新型コロナウイルス感染症とIFRS基準での財務報告—その先にあるもの

IFRS in Focus|月刊誌『会計情報』2020年8月号

注:本資料はDeloitteのIFRS Global Officeが作成し、有限責任監査法人トーマツが翻訳したものです。この日本語版は、読者のご理解の参考までに作成したものであり、原文については英語版ニュースレターをご参照下さい。

トーマツIFRSセンター・オブ・エクセレンス

はじめに

2020年上半期の財務報告が困難であったと言うことは、非常に控えめな表現である。企業は、政府が義務付けたシャットダウン、サプライチェーンの混乱等に直面した。同時に、従業員がリモートで勤務している間に、どのように帳簿を締めるかを見出さなければならなかった。

このニュースレターは、年次又は期中のいずれにおいても、今後の財務報告書の最も一般的なホット・トピックである可能性が高いものを戦略的に見てみる。これらのトピックに関する会計上の検討事項の詳細については、IFRS in Focus「新型コロナウイルス感染症に関連する会計上の検討事項」 *1を参照いただきたい。

577KB, PDF ※PDFダウンロード時には「本記事に関する留意事項」をご確認ください。

予測

COVID-19のパンデミックの前例のない性質に関連する不確実性が続いているため、(のれんを含む)非金融資産の回収可能性を評価し、繰延税金資産(DTA)の回収可能性を判断し、継続企業として存続する能力を評価するための仮定及び見積りを策定することに関連する課題に直面し続ける可能性が高い。

COVID-19の効果的な予測には、必要な頻度での再予測が含まれる。頻度は、予測モデルにとって重要とみなされる新しい情報が入手可能となる時期又は新しいドライバーが識別される時期に左右される可能性が高い。V字型の回復の可能性が薄れるにつれて、多くのエコノミストは、U字型又はW字型の回復の可能性がより高いと考えている。多くの場合、企業は予測プロセスの一部として異なるシナリオを使用する。

COVID-19の影響は広範囲であるが、すべての産業及び特定の産業内のすべての企業が同様に影響を受けるとは予想されない。企業に対するパンデミックの影響は、提供する製品及びサービス、サプライチェーン、政府支援の利用可能性、パンデミックに対応して実施している行動、パンデミックの流行における財務上の強みなどの要因に基づいているかもしれない。さらに、新しい経済データ、ロックダウンの緩和、継続的な在宅勤務の指令、及び消費者の行動及び選好などの進化する要因は、企業の結果に重大な影響を与える可能性が高い。これらのシナリオを区別する初期の兆候をモニターすることは、企業が進化するCOVID-19ビジネス環境に予測を適応させようとしているため、特に重要である。

 

非金融資産の減損(のれんを含む)

事象及び状況の変化が、報告日に資産が減損している可能性を示す場合、(例えば、のれん及び耐用年数が確定できない無形資産等)資産が減損について毎年テストしなければならない場合であっても、企業は減損についてのテストが要求される。現在の報告期間において、企業は、資産の減損についてのCOVID-19の潜在的な影響を熟考することが期待され、それには広範な経済指標や、産業、事業の地理的な地域及びパンデミックに対応して実行した又は実行を予定した行動のような特定の事実や状況を考慮することが含まれる。企業は、減損について資産をテストする際に、日常的に判断を使用しなければならないが、そのような判断を使用する必要性は、次のように拡大される。

  • パンデミックがビジネス、消費者の需要、及び政府の行動に及ぼす広範な影響(例えば、旅行、在宅指令、政府補助金の権利に関連する制限の影響のモデル化)。
  • 減損についての資産のテストに使用された日付以降に発生した事象及び状況の変化の影響。
  • 変動性のある期間における市場価値により証明される価値の指標。

企業は、資産の減損の兆候を監視し、特定の事実と状況に基づいて十分に根拠がある判断に到達し、重要な判断及び見積りを開示することが期待される。

 

繰延税金資産

企業は、繰越期限切れになる前にDTAを実現する能力を評価する必要がある。将来の損失の予測を含む、(他の減損分析の想定値のような)予測利益の調整は、その回収可能性の評価に織り込む必要がある。現在及び予測される将来の損失、特に累積損失又は累積損失の予想をもたらす損失は、企業がDTAを使用する能力を著しく損なう可能性があり、したがって、DTAの一部又は全額の認識を妨げる可能性がある。

 

継続企業

COVID-19によって引き起こされる潜在的な長期にわたる混乱は、財務諸表の発行の承認日まで入手可能な情報を考慮して、報告日から少なくとも12ヶ月間、企業が継続企業として存続できるかどうかについての懸念を生じさせる可能性がある。企業は、特に以下の要因を考慮する必要がある。

  • 業績予測の変更
  • 潜在的な流動性及び運転資金不足
  • 資金源にアクセスする能力
  • 契約上の義務
  • 製品及びサービスに対する需要の減少

さらに、経営者は、政府の支援の可能性を含む計画が、ビジネスへの悪影響を軽減できるかどうかを検討しなければならない。COVID-19の影響は、特定の業界(例えば、航空会社、旅行、ホスピタリティ)でより大きいかもしれないが、現在の経済環境は、持続可能なビジネス・モデルを開発し維持する多くの企業の能力を大幅に緊張させた。

 

契約上の取決めの変更

多くの企業は、COVID-19の影響が長期化するという現実に対処する一環として、契約を変更している。COVID-19の流行のタイミング及び関連する政府が義務付けた又は自発的なシャットダウンを考慮すれば、今後の財務諸表は、これらの変更の影響を反映する最初のものである可能性がある。多くの場合、既存の契約上の取決めの変更は、そのような変更を将来に向かって又は変更時に会計処理すべきかについての会計上の疑問を生じさせる。また、変更が(1)新しい契約を表すかどうか、(2)他の既存の契約に影響を与えるかどうか、及び/又は(3)将来履行される契約に関連する会計方針に影響を与えるかどうかなど、契約条件の変更に関連する疑問が生じる。我々は、以下で解説する会計上のトピックに関連する契約条件の変更の大幅な増加を観察した。

 

リース

COVID-19をきっかけに、多くの企業が、さまざまなリースの条件(例えば、支払いの時期、支払額、契約期間)を変更している。さらに、IASBは、COVID-19により生じた賃料減免を会計処理する際に、借手に救済措置を提供するためにリース基準を修正した。このような救済措置の下で、賃料減免がリースの条件変更を表すかどうかを判断するために賃料減免を評価する代わりに、企業は、適格な賃料減免をリースの条件変更ではないかのように会計処理することを選択することができる。リース基準の最近の修正に関するさらなる情報は、IFRS in Focus「IASBが、COVID-19に関連した賃料減免(rent concessions)について、IFRS第16号の修正を最終化」 *2を参照いただきたい。

さらに、借手は、使用権資産の減損についてテストを行うことが要求される場合がある。

 

収益契約

一部の企業は、価格譲歩、将来の財又はサービスの購入についての割引、無料の財又はサービス、支払条件の延長、ロイヤルティ・プログラムの延長、ペナルティなしで契約を終了する機会、購入コミットメントの改訂などの特性を提供することで、パンデミックの影響を軽減しようとするかもしれない。

収益契約に改訂が行われる場合、変更の性質によって報告の結果が大きく異なる可能性がある。企業は、(ビジネス慣行及び顧客とのコミュニケーションを含む)契約条件の変更の特定の事実と状況を検討し、そのような変更が1時点(例えば、2020年6月30日に終了した報告期間中)又はより長期にわたって当該影響を会計処理するかを判断しなければならない。

 

ローンの支払条件又は債務リストラクチャリング

COVID-19に関連する流動性についての圧力の継続により、多くの債務リストラクチャリングにつながっている(例えば、満期日の延長、金利の引下げ又はコベナンツ条件の緩和)。

貸手及び借手は、負債性金融商品の変更が大幅な条件変更を表すかどうかを評価する必要があり、その場合、既存の金融商品の認識を中止し、公正価値で新しい金融商品が認識され、利得又は損失をもたらす。

貸手はまた、金融資産の条件変更が認識の中止につながらない場合に、どのように条件変更及び減損の要求事項を適用するかについてのIFRS第9号「金融商品」の要求事項を検討する必要がある。

 

金融資産の回収可能性

広範な事業の混乱、財政上の困難及び流動性の問題のため、企業は回収可能性の問題を有している可能性がある。以下で説明するように、回収可能性に関する懸念は、どのくらいのキャッシュが回収されるかを単に見積もることを超えて広がっている。

 

予想信用損失引当金

経済成長予測の引下げは、多くの借手の債務不履行確率を高め、損失率は、より全般的な資産価格の下落によって明らかな担保の価値の下落のために増加する可能性がある。

予想信用損失(ECL)にCOVID-19が与える影響は、銀行及び他の貸付ビジネスにとって特に困難であり、大きな影響を及ぼす。IFRS in Focus「新型コロナウイルス感染症に関連する予想信用損失会計の検討事項」 *3は、COVID-19のパンデミックにより生じる可能性のあるECLについての会計処理に関連する特定の重要なIFRS会計上の考慮事項について説明している。

この影響は、非金融企業にとっても大きな影響を及ぼす可能性がある。これは、ECLはローンに適用されるだけでなく、有利子金融資産に対する多くの投資(例えば、債券)、営業債権、契約資産、リース債権、発行したローン・コミットメント及び発行した金融保証契約にも適用されるためである。非金融企業におけるこれらのエクスポージャーの範囲は、グループ内ローンなどのグループ内取引又は他の企業の債務について報告企業が提供する保証のようなグループ内取引のために、個別の会社の財務諸表においてもより大きくなる可能性がある。

 

営業債権と収益認識

信用リスク又は取引価格の調整(例えば、価格譲歩、リベート、値引)など、いくつかの理由で金額は回収不能とみなされることがある。信用リスクと取引価格の調整の区別は、回収可能性の分析の全般的な結果(したがって、売掛金の推定価値)に影響を与えない可能性があるが、そのような金額の表示は、回収可能性の懸念とみなされる基礎となる原因(例えば、信用リスク対価格譲歩)に応じて、関連する開示要求と共に大きく異なる可能性がある(すなわち、減損損失対収益の減額)。

新規、一部又は完全に完了した顧客との契約に関する回収可能性の懸念により、既存及び将来の契約について認識できる収益の金額が制限される可能性がある。さらに、企業は、回収可能性の懸念の結果として、強制力のある契約が「存在しない」と判断する可能性があり(IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」で定義される)、契約の下で義務を充足したとしても、収益を認識することが禁止される。このような場合、収益を認識するタイミングは、契約の下での企業の履行からのみでなく、現金の受領からも切り離される可能性があるため、企業は収益認識についての要件をさらに評価する必要がある。

 

リストラクチャリング、処分コスト及び政府支援

パンデミックの長期的な影響により、企業は、政府援助又は他の形式の救済を求め、さまざまなリストラクチャリング活動を検討するなど、事業を維持するための積極的な施策を講じている。

 

従業員の退職

多くの企業がパンデミックに対応して実施した一般的な措置には、既存の解雇計画の条件の実施、一時帰休又は一時的なレイオフの付与、1回限りの従業員の解雇又は転勤給付の提供、有給休暇の提供、又はこれらの異なる給付と制度の組合せが含まれる。このような取決めの具体的な条件に応じて、コスト又は負債が、数報告期間にわたって発生する、又は特有の会計上の課題が発生する可能性がある。財務報告目的で費用が反映される期間は、提供される制度及び給付の種類によって、企業間及びある企業内でも異なる場合がある。

 

リストラクチャリング及び資産処分計画

パンデミックに対処するために企業が開始した計画には、施設の閉鎖、設備の処分、又は建物の売却が含まれる場合がある。このような計画は、即時処分又は処分時まで部分的な営業を継続する形をとることができるため、コストを認識し、資産を売却目的保有として表示する時期、認識されるコストの金額、及びそれらのコストの表示に関する質問を提起する。これらのいずれも当該活動に関連する特定の事実と状況に依存する。

 

政府援助及び保険の補償

COVID-19パンデミックに対応して、多くの法域の政府は、パンデミックに起因する財務上の困難を経験している企業を支援するための法律を検討しているか、実施している。企業は、(減損分析及び継続企業の評価の目的を含め)このような政府援助を認識する適切な時期を決定し、財務諸表の注記に開示する情報を検討する必要がある。

企業は、業務停止、イベントの取消し、医療費の増加に関連するコスト、資産の減損又は株主訴訟などの行動に対する保険に加入する場合がある。保険の補償は本質的に不確実であり、重要な見積りを伴う。このタイプの保険カバーについての補填資産は、その金額ではなく、その存在がほぼ確実である場合に認識される。これは、企業が特定の費用をカバーする保険を保有していることがほぼ確実である場合、可能性のある回収の範囲がその金額の信頼可能な見積りに到達できる場合、補填資産を認識することを意味する。

 

表示及び開示

判断及び見積り

不確実な時期に報告を行う際には、財務諸表の利用者に対して、現在の不確実性に直面している企業の回復力、及び主要な仮定及び財務情報を作成する際に行われた判断を理解するための適切な洞察を提供することが特に重要である。ほとんどの企業にとって、予測及び他の重要な判断と見積もりの策定に使用されたインプット及び仮定の議論は、注目の多い領域である。

COVID-19のパンデミックがどのように拡大し、経済に与える影響についての、単一の見解はない。この不確実性は、期中財務報告書を含め、判断、仮定及び感応度の見積りの完全な開示の必要性が、通常よりも大幅に重要である。

 

純損益の表示

COVID-19の影響はマクロ経済に対するものであり、すべての企業に影響を与える。現在の環境は前例がないかもしれないが、広範で長期的な影響がある可能性が高い一連の事象から世界的に生じるものである。影響の一部は、減損損失やリストラクチャリング計画に関連するものなど、区別できる損失又は費用を生じる。しかし、収益の減少及び/又は営業が閉鎖又は縮小されている間の給与及びその他の費用の継続による企業の収益性の全体的な低下のような、他の影響もある可能性がある。そのため、企業の業績に対するCOVID-19の影響の識別は、恣意的な仮定の使用なしには困難であるかもしれない。さらに、比較対象期間にこの問題が存在しないことを理由として、COVID-19の影響が起こらなかったかのように、IFRS財務諸表に業績を表示することは適切ではない。COVID-19の影響を説明するために企業が含めようとしている情報は、財務諸表への注記又は他の財務上のコミュニケーションに含めることがより適切である。

 

代替的業績指標

2020年5月29日に公表された「COVID-19に関する開示の重要性に関する声明」 *4において、証券監督者国際機構(IOSCO)は、以下のとおり言及している。「現在の環境では、発行企業が、潜在的に誤解を招く可能性のない、信頼性があり有益な非GAAP財務指標の要素に注意をはらうことが特に重要である。現在の環境の不確実性を考慮して、発行企業は調整後又は代替的利益指標の妥当性を慎重に評価しなければならない。すべてのCOVID-19の影響が非経常的なものであるとは限らず、損失又は費用を非経常的、稀な又は異常であると結論付ける経営者の根拠は、限定的である可能性がある(すなわち、すべてのCOVID-19の影響が非経常的ではない)。これには、COVID-19の影響が貸借対照表日をまたぐものも含まれる。経営者が、調整額をCOVID-19に具体的にどのように関連付けられるかを説明しない場合、調整がCOVID-19に関連するとの説明は誤解を招く可能性がある。例えば、COVID-19に関連しない減損の兆候がパンデミックの前に存在していた場合、我々は、減損をCOVID-19関連のものと特徴づけないよう発行企業に警告する。さらに、仮定の売上高及び/又は利益指標(例えば、COVID-19の影響がなかった場合、会社の売上高及び/又は利益はXX%増加したというもの)を非GAAP財務指標とするのは適切ではない。」

 

以上

 

*1 デロイト トーマツのウェブサイト(https://www2.deloitte.com/jp/ja/pages/finance/articles/ifrs/ifrs-ifrsinfocus-20200616.html)を参照いただきたい。
また、デロイト トーマツのウェブサイトの、「IFRSに関する新型コロナウイルス感染症(COVID-19)関連情報のページ」(https://www2.deloitte.com/jp/ja/pages/finance/articles/ifrs/ifrs-covid19.html)には、IFRSに関する新型コロナウイルス感染症(COVID-19)関連情報を掲載している。

*2 本誌2020年7月号をご参照いただきたい

*3 デロイト トーマツのウェブサイト(https://www2.deloitte.com/jp/ja/pages/finance/articles/ifrs/ifrs-ifrsinfocus-20200331.html)を参照いただきたい。

*4 金融庁のウェブサイトに、本声明の仮訳が掲載されている。(https://www.fsa.go.jp/inter/ios/20200602.html

本記事に関する留意事項

本記事は皆様への情報提供として一般的な情報を掲載するのみであり、その性質上、特定の個人や事業体に具体的に適用される個別の事情に対応するものではありません。また、本記事の作成または発行後に、関連する制度その他の適用の前提となる状況について、変動を生じる可能性もあります。個別の事案に適用するためには、当該時点で有効とされる内容により結論等を異にする可能性があることをご留意いただき、本記事の記載のみに依拠して意思決定・行動をされることなく、適用に関する具体的事案をもとに適切な専門家にご相談ください。

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