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四半期決算の会計処理に関する留意事項

月刊誌『会計情報』2020年10月号

公認会計士 石川 慶

本稿では、2021年3月期決算の第2四半期決算(2020年4月1日から同年9月30日まで)の会計処理に関する主な留意事項について解説を行う。

2021年3月期から早期適用が可能な新基準等には、下記Ⅰ及びⅡがある。また、新型コロナウイルス感染症が、第2四半期決算の固定資産の減損や繰延税金資産の回収可能性等の会計上の見積りに影響する可能性があることから、Ⅲ〜Ⅴについても留意していただきたい。

【目次】

【2021年3月期から早期適用できる会計基準等】

Ⅰ 企業会計基準第30号「時価の算定に関する会計基準」等

  ※ 2022年3月期期首から原則適用であるが、2021年3月期期首又は2020年3月期末から適用することも可能

Ⅱ 改正企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」等

  ※ 2022年3月期期首から原則適用であるが、2021年3月期期首から適用することも可能

新基準等

Ⅲ 会計上の見積りを行う上での新型コロナウイルス感染症の影響の考え方に関するASBJの議事概要

Ⅳ 固定資産の減損処理

Ⅴ 繰延税金資産の回収可能性

既存論点

(注) なお、企業会計基準第31号「会計上の見積りの開示に関する会計基準」及び改正企業会計基準第24号「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」は、2021年3月期期末から原則適用となる(2020年3月期期末から早期適用することも可能)。詳細については、本誌2020年5月号(Vol.525)の「ASBJが企業会計基準第31号『会計上の見積りの開示に関する会計基準』を公表」及び「ASBJが改正企業会計基準第24号『会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準』を公表」を参照していただきたい。

なお、次号の本誌(『会計情報』2020年11月号(Vol.531))において四半期報告書の開示について解説を行う予定である。

805KB, PDF ※PDFダウンロード時には「本記事に関する留意事項」をご確認ください。

Ⅰ 企業会計基準第30号「時価の算定に関する会計基準」等

企業会計基準委員会(以下「ASBJ」という。)は、2019年7月4日に以下の会計基準等(以下合わせて「本会計基準等」という。)を公表した。

▶ 企業会計基準第30号「時価の算定に関する会計基準」(以下「時価算定会計基準」という。)

▶ 改正企業会計基準第9号「棚卸資産の評価に関する会計基準」(以下「棚卸資産会計基準」という。)

▶ 改正企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」(以下「金融商品会計基準」という。)

▶ 企業会計基準適用指針第31号「時価の算定に関する会計基準の適用指針」(以下「時価算定適用指針」という。)

▶ 改正企業会計基準適用指針第14号「四半期財務諸表に関する会計基準の適用指針」(以下「四半期適用指針」という。)

▶ 改正企業会計基準適用指針第19号「金融商品の時価等の開示に関する適用指針」(以下「金融商品時価開示適用指針」という。)

また、日本公認会計士協会(会計制度委員会)は、ASBJからの本会計基準等に関連する実務指針等の改正の依頼を踏まえ、2019年7月4日に以下の実務指針等の改正を公表した。

▶ 会計制度委員会報告第4号「外貨建取引等の会計処理に関する実務指針」(以下「外貨建取引等実務指針」という。)

▶ 会計制度委員会報告第14号「金融商品会計に関する実務指針」(以下「金融商品会計実務指針」という。)

▶ 金融商品会計に関するQ&A(以下「金融商品会計Q&A」という。)

 

1 公表の経緯・目的

 我が国においては、金融商品会計基準等において、公正価値に相当する時価(公正な評価額)の算定が求められているものの、算定方法に関する詳細なガイダンスは定められていない。一方、国際会計基準審議会(IASB)及び米国財務会計基準審議会(FASB)は、公正価値測定についてほぼ同じ内容の詳細なガイダンスを定めている(国際財務報告基準(IFRS)においてはIFRS第13号「公正価値測定」(以下「IFRS第13号」という。)、米国会計基準においてはAccounting Standards Codification(FASBによる会計基準のコード化体系)のTopic 820「公正価値測定」(以下「Topic 820」という。))(時価算定会計基準23項)。

これらの状況を踏まえ、ASBJは、2018年3月に開催された第381回企業会計基準委員会において、金融商品の時価に関するガイダンス及び開示に関して、国際的な会計基準との整合性を図る取組みに着手する旨を決定し、検討を重ねて、本会計基準等を公表した(時価算定会計基準23項)。

 

2 開発にあたっての基本的な方針

時価算定会計基準の開発にあたっての基本的な方針として、統一的な算定方法を用いることにより、国内外の企業間における財務諸表の比較可能性を向上させる観点から、IFRS第13号の定めを基本的にすべて取り入れている(時価算定会計基準24項)。

ただし、これまで我が国で行われてきた実務等に配慮し、財務諸表間の比較可能性を大きく損なわせない範囲で、個別項目に対するその他の取扱いを定めている(時価算定会計基準24項)。

また、IFRS第13号では公正価値という用語が用いられているが、時価算定会計基準では代わりに時価という用語を用いている。これは、我が国における他の関連諸法規において時価という用語が広く用いられていること等を配慮したものである(時価算定会計基準25項)。

 

3 範囲

時価算定会計基準は、次の項目の時価に適用する(時価算定会計基準3項)。

▶ 金融商品会計基準における金融商品

▶ 棚卸資産会計基準におけるトレーディング目的で保有する棚卸資産

(結論の背景)

 国際的な会計基準では、公正価値の測定及び開示の首尾一貫性を高めるために、公正価値の測定が求められる(又は認められる)項目のうち、一部の項目を除いてすべての公正価値の測定及び開示に対してIFRS第13号又はTopic 820が適用され、金融商品のみならず固定資産等の公正価値測定も当該基準の範囲に含まれている(時価算定会計基準26項)。

 ここで、金融商品については、国際的な会計基準と整合させることにより国際的な企業間の財務諸表の比較可能性を向上させる便益が高いものと判断し、会計基準の範囲に含めることとしたとされている(時価算定会計基準26項)。

 一方、金融商品以外の資産及び負債については、時価算定会計基準の範囲に含めた場合の整合性を図るためのコストと便益を考慮し、原則として、金融商品以外の資産及び負債は時価算定会計基準の範囲に含めないこととしたとされている(時価算定会計基準26項)。

 ただし、棚卸資産会計基準におけるトレーディング目的で保有する棚卸資産については、売買目的有価証券と同様に毎期時価をもって貸借対照表価額とし、評価差額は当期の損益とする処理が求められており(棚卸資産会計基準15項)、時価の算定についても金融商品と整合性を図ることが適切と考えられることから、時価算定会計基準の範囲に含めることとしたとされている(時価算定会計基準27項)。

 

4 時価の定義

「時価」とは、算定日において市場参加者間で秩序ある取引が行われると想定した場合の、当該取引における資産の売却によって受け取る価格又は負債の移転のために支払う価格をいう(時価算定会計基準5項)。

時価は、直接観察可能であるかどうかにかかわらず、算定日における市場参加者間の秩序ある取引が行われると想定した場合の出口価格(資産の売却によって受け取る価格又は負債の移転のために支払う価格)であり入口価格(交換取引において資産を取得するために支払った価格又は負債を引き受けるために受け取った価格)ではない(時価算定会計基準31項(2))。

(用語の定義)

  • 「市場参加者」とは、資産又は負債に関する主要な市場又は最も有利な市場において、次の要件のすべてを満たす買手及び売手をいう(時価算定会計基準4項(1))。

  ① 互いに独立しており、関連当事者(企業会計基準第11号「関連当事者の開示に関する会計基準」(以下「関連当事者会計基準」という。)5項(3))ではないこと

  ② 知識を有しており、すべての入手できる情報に基づき当該資産又は負債について十分に理解していること

  ③ 当該資産又は負債に関して、取引を行う能力があること

  ④ 当該資産又は負債に関して、他から強制されるわけではなく、自発的に取引を行う意思があること

  • 「秩序ある取引」とは、資産又は負債の取引に関して通常かつ慣習的な市場における活動ができるように、時価の算定日以前の一定期間において市場にさらされていることを前提とした取引をいう。他から強制された取引(例えば、強制された清算取引や投売り)は、秩序ある取引に該当しない(時価算定会計基準4項(2))。
  • 「主要な市場」とは、資産又は負債についての取引の数量及び頻度が最も大きい市場をいう(時価算定会計基準4項(3))。
  • 「最も有利な市場」とは、取得又は売却に要する付随費用を考慮したうえで、資産の売却による受取額を最大化又は負債の移転に対する支払額を最小化できる市場をいう(時価算定会計基準4項(4))。

 

(その他有価証券の期末前1か月の平均価額に関する定めの削除)

 時価の定義の変更に伴い、改正前の金融商品会計基準(注7)におけるその他有価証券の期末の貸借対照表価額に期末前1か月の市場価格の平均に基づいて算定された価額を用いることができる定めについては、その平均価額が改正された時価の定義を満たさないことから削除されている(金融商品会計基準(注7))。これに併せて、金融商品会計実務指針及び金融商品会計Q&Aにおいても、同様の規定が削除されている(金融商品会計実務指針75項、金融商品会計Q&A Q32)。

 ただし、その他有価証券の減損を行うか否かの判断については、減損の判断が合理的な範囲で幅のある定めとなっていることを踏まえて、期末前1か月の市場価格の平均に基づいて算定された価額を用いることができる取扱いを踏襲している。なお、この場合であっても、評価差額の算定には期末日の時価を用いる(金融商品会計実務指針91項、284項)。

 また、上記の取扱いに併せ、外貨建取引等実務指針において時価として期末前1か月の市場価格の平均に基づいて算定された価額を用いる場合の換算についての取扱いも削除されている(外貨建取引等実務指針11項)。

 

5 時価の算定単位

資産又は負債の時価を算定する単位は、それぞれの対象となる資産又は負債に適用される会計処理又は開示による(時価算定会計基準6項)。

しかし、次の要件のすべてを満たす場合には、特定の市場リスク(市場価格の変動に係るリスク)又は特定の取引相手先の信用リスク(取引相手先の契約不履行に係るリスク)に関して金融資産及び金融負債を相殺した後の正味の資産又は負債を基礎として、当該金融資産及び金融負債のグループを単位とした時価を算定することができる。なお、本取扱いは特定のグループについて毎期継続して適用し、重要な会計方針において、その旨を注記する(時価算定会計基準7項)。

(1) 企業の文書化したリスク管理戦略又は投資戦略に従って、特定の市場リスク又は特定の取引相手先の信用リスクに関する正味の資産又は負債に基づき、当該金融資産及び金融負債のグループを管理していること

(2) 当該金融資産及び金融負債のグループに関する情報を企業の役員(関連当事者会計基準5項(7))に提供していること

(3) 当該金融資産及び金融負債を各決算日の貸借対照表において時価評価していること

(4) 特定の市場リスクに関連して本項の定めに従う場合には、当該金融資産及び金融負債のグループの中で企業がさらされている市場リスクがほぼ同一であり、かつ、当該金融資産と金融負債から生じる特定の市場リスクにさらされている期間がほぼ同一であること

(5) 特定の取引相手先の信用リスクに関連して本項の定めに従う場合には、債務不履行の発生時において信用リスクのポジションを軽減する既存の取決め(例えば、取引相手先とのマスターネッティング契約や当事者の信用リスクに対する正味の資産又は負債に基づき担保を授受する契約)が法的に強制される可能性についての市場参加者の予想を時価に反映すること

 

6 時価の算定方法

「評価技法」に「インプット」を投入して算定対象であるアウトプットの時価を算定する。

 

(1) 評価技法

時価の算定にあたっては、状況に応じて、十分なデータが利用できる評価技法を用いる(時価算定会計基準8項)。

(評価技法の種類)

 時価を算定するにあたって用いる評価技法には、例えば、次の3つのアプローチがある(時価算定適用指針5項)。

(1)マーケット・アプローチ

 マーケット・アプローチとは、同一又は類似の資産又は負債に関する市場取引による価格等のインプットを用いる評価技法をいう。当該評価技法には、例えば、倍率法や主に債券の時価算定に用いられるマトリックス・プライシングが含まれる。

(2)インカム・アプローチ

 インカム・アプローチとは、利益やキャッシュ・フロー等の将来の金額に関する現在の市場の期待を割引現在価値で示す評価技法をいう。当該評価技法には、例えば、現在価値技法やオプション価格モデルが含まれる。

(3)コスト・アプローチ

 コスト・アプローチとは、資産の用役能力を再調達するために現在必要な金額に基づく評価技法をいう。

 

評価技法を用いるにあたっては、関連性のある観察可能なインプットを最大限利用し観察できないインプットの利用を最小限にする(時価算定会計基準8項)。

時価の算定に用いる評価技法は、毎期継続して適用する。当該評価技法又はその適用(例えば、複数の評価技法を用いる場合のウェイト付けや、評価技法への調整)を変更する場合は、会計上の見積りの変更(企業会計基準第24号「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」(以下「企業会計基準第24号」という。)4項(7))として処理する。この場合、企業会計基準第24号18項並びに企業会計基準第12号「四半期財務諸表に関する会計基準」19項(4)及び25項(3)の注記(会計上の見積りの変更の内容及び影響額の注記)を要しないが、当該連結会計年度及び当該事業年度の年度末に係る連結財務諸表及び個別財務諸表において変更の旨及び変更の理由を注記する(金融商品時価開示適用指針5-2項(3)②)(時価算定会計基準10項)。

 

(2) インプット

「インプット」とは、市場参加者が資産又は負債の時価を算定する際に用いる仮定(時価の算定に固有のリスクに関する仮定を含む。)をいう。インプットには、相場価格を調整せずに時価として用いる場合における当該相場価格も含まれる。インプットは、次の「観察可能なインプット」と「観察できないインプット」により構成される(時価算定会計基準4項(5))。

① 「観察可能なインプット」とは、入手できる観察可能な市場データに基づくインプットをいう。

② 「観察できないインプット」とは、観察可能な市場データではないが、入手できる最良の情報に基づくインプットをいう。

 

時価の算定に用いるインプットは、次の順に優先的に使用する(レベル1のインプットが最も優先順位が高く、レベル3のインプットが最も優先順位が低い。)(時価算定会計基準11項)。

観察可能性 レベル 内容

観察可能なインプット

レベル1

時価の算定日において、企業が入手できる活発な市場における同一の資産又は負債に関する相場価格であり調整されていないもの

当該価格は、時価の最適な根拠を提供するものであり、当該価格が利用できる場合には、原則として、当該価格を調整せずに時価の算定に使用する

レベル2

資産又は負債について直接又は間接的に観察可能なインプットのうち、レベル1のインプット以外のインプット

観察できないインプット

レベル3

資産又は負債について観察できないインプット

当該インプットは、関連性のある観察可能なインプットが入手できない場合に用いる

 

(用語の定義)

● 「活発な市場」とは、継続的に価格情報が提供される程度に十分な数量及び頻度で取引が行われている市場をいう(時価算定会計基準4項(6))。

 

 時価は、その算定において重要な影響を与えるインプットが属するレベルに応じて、レベル1の時価、レベル2の時価又はレベル3の時価に分類する。なお、時価を算定するために異なるレベルに区分される複数のインプットを用いており、これらのインプットに、時価の算定に重要な影響を与えるインプットが複数含まれる場合、これら重要な影響を与えるインプットが属するレベルのうち、時価の算定における優先順位が最も低いレベルに当該時価を分類する(時価算定会計基準12項)。

図表1 時価のレベルの分類における評価技法とインプットの関係
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(参考)

 時価のレベルは、時価の算定に用いるインプットが観察可能であるか及び経営者の見積りによる不確実性が存在するかを表すものであるため、時価の算定対象となる商品の複雑性や市場における流動性を必ずしも示すものではない。例えば、商品としては単純なものであっても時価の算定に用いるインプットによって時価のレベルが異なる場合がある。また、時価がレベル3に分類される商品であっても当該商品の市場における流動性が低いとも限らない(企業会計基準第30号「時価の算定に関する会計基準」等の公表(別紙1))。

 

(3) 資産又は負債の取引の数量又は頻度が著しく低下している場合等

資産又は負債の取引の数量又は頻度が当該資産又は負債に係る通常の市場における活動に比して著しく低下していると判断した場合、取引価格又は相場価格が時価を表しているかどうかについて評価する(時価算定会計基準13項)。

当該評価の結果、当該取引価格又は相場価格が時価を表していないと判断する場合(取引が秩序ある取引ではないと判断する場合を含む。)当該取引価格又は相場価格を時価を算定する基礎として用いる際には、当該取引価格又は相場価格について、市場参加者が資産又は負債のキャッシュ・フローに固有の不確実性に対する対価として求めるリスク・プレミアムに関する調整を行う(時価算定会計基準13項)。

 

(4) 負債又は払込資本を増加させる金融商品の時価

負債又は払込資本を増加させる金融商品(例えば、企業結合の対価として発行される株式)については、時価の算定日に市場参加者に移転されるものと仮定して、時価を算定する(時価算定会計基準14項)。

負債の時価の算定にあたっては、負債の不履行リスクの影響を反映する。負債の不履行リスクとは、企業が債務を履行しないリスクであり、企業自身の信用リスクに限られるものではない。また、負債の不履行リスクについては、当該負債の移転の前後で同一であると仮定する(時価算定会計基準15項)。

(結論の背景)

 負債の不履行リスクが当該負債の移転の前後で同一であるとの仮定(時価算定会計基準15項参照)は現実的なものではないが、負債を引き受ける企業(譲受人)の信用リスクを特定しなければ、市場参加者である譲受人の特性を企業がどのように仮定するかによって、当該負債の時価が大きく異なる可能性があるため、当該仮定を定めている(時価算定会計基準44項)。

 

7 その他の取扱い(第三者から入手した相場価格の利用)

取引相手の金融機関、ブローカー、情報ベンダー等、第三者から入手した相場価格が時価算定会計基準に従って算定されたものであると判断する場合には、当該価格を時価の算定に用いることができる(時価算定適用指針18項)。

(判断方法の例示)

 第三者から入手した相場価格が時価算定会計基準に従って算定されたものであると判断するに場合に、例えば、企業は次のような手続を実施することが考えられる。なお、次の手続は例示であり、状況に応じて選択して実施する。また、記載したもの以外の手続によることも考え得る(時価算定適用指針43項)。

(1) 当該第三者から入手した価格と企業が計算した推定値とを比較し検討する。

(2) 他の第三者から時価算定会計基準に従って算定がなされていると期待される価格を入手できる場合、当該他の第三者から入手した価格と当該第三者から入手した価格とを比較し検討する。

(3) 当該第三者が時価を算定する過程で、時価算定会計基準に従った算定(インプットが算定日の市場の状況を表しているか、観察可能なものが優先して利用されているか、また、評価技法がそのインプットを十分に利用できるものであるかなど)がなされているかを確認する。

(4) 企業が保有しているかどうかにかかわらず、時価算定会計基準に従って算定されている類似銘柄(同じアセットクラスであり、かつ同格付銘柄など)の価格と比較する。

(5) 過去に時価算定会計基準に従って算定されていると確認した当該金融商品の価格の時系列推移の分析など商品の性質に合わせた分析を行う。

 

上記の定めにかかわらず、総資産の大部分を金融資産が占め、かつ総負債の大部分を金融負債及び保険契約から生じる負債が占める企業集団又は企業(以下「企業集団等」という。)以外の企業集団等においては、①第三者が客観的に信頼性のある者で企業集団等から独立した者であり公表されているインプットの契約時からの推移と入手した相場価格との間に明らかな不整合はないと認められる場合で、かつ、②レベル2の時価に属すると判断される場合には、次のデリバティブ取引については、当該第三者から入手した相場価格を時価とみなすことができる

(1) インプットである金利がその全期間にわたって一般に公表されており観察可能である同一通貨の固定金利と変動金利を交換する金利スワップ(いわゆるプレイン・バニラ・スワップ)

(2) インプットである所定の通貨の先物為替相場がその全期間にわたって一般に公表されており観察可能である為替予約又は通貨スワップ

 

なお、オプションを含むような取引については、利用されるボラティリティの種類によってはレベル3の時価に分類されると考えられるため、本項の適用の対象外となる(時価算定適用指針24項)。

(結論の背景)

 総資産の大部分を金融資産が占め、かつ総負債の大部分を金融負債及び保険契約から生じる負債が占める企業とは、銀行、保険会社、証券会社、ノンバンク等が想定される。これら以外の企業集団等においては、実務におけるコストと便益を比較衡量した結果、時価の算定の不確実性が相当程度低いと判断される特定のデリバティブ取引については、第三者から提供された価格を時価とみなすことができるとするその他の取扱いを定めることとしたとされている(時価算定適用指針49項)。

 

8 市場価格のない株式等の取扱い

時価算定会計基準においては、時価のレベルに関する概念を取り入れ、たとえ観察可能なインプットを入手できない場合であっても、入手できる最良の情報に基づく観察できないインプットを用いて時価を算定することとしている。このような時価の考え方の下では、時価を把握することが極めて困難と認められる有価証券は想定されない金融商品会計基準の改正は、時価を用いる場合の時価の算定方法を明らかにするもので、時価評価の範囲の変更を意図するものではないが、時価を把握することが極めて困難と認められる有価証券の定めを残した場合、金融商品会計基準の下でも時価を把握することが極めて困難と認められる有価証券が存在するとの誤解を生じさせかねないため、時価を把握することが極めて困難と認められる有価証券の定めが削除された(金融商品会計基準19項、81-2項)。

ただし、市場価格のない株式等(市場において取引されていない株式及び出資金など株式と同様に持分の請求権を生じさせるもの)に関しては、たとえ何らかの方式により価額の算定が可能としても、それを時価とはしないとする従来の考え方を踏襲し、引き続き取得原価をもって貸借対照表価額とする取扱いとするとされている(金融商品会計基準19項、81-2項)。

これにより、これまで時価を把握することが極めて困難であるとして、取得原価又は償却原価法に基づいて算定された価額をもって貸借対照表価額としていたもののうち、市場価格のない株式等に含まれないものについては、時価をもって貸借対照表価額とすることとなる。

また、市場価格のない株式等については時価を注記しないこととされている。この場合、当該金融商品の概要及び貸借対照表計上額を注記する(金融商品会計基準40-2項(2)なお書き、金融商品時価開示適用指針5項)。

図表2 改正後の金融商品の貸借対照表価額及び時価注記の取扱いの概要
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9 開示

金融商品時価開示適用指針では、今回の取組みが国際的な会計基準との整合性を向上させるものである点を踏まえ、基本的にはIFRS第13号の開示項目との整合性を図っているが、一部の開示項目についてはコストと便益を考慮して採り入れていない(金融商品時価開示適用指針39-3項)。

 「金融商品の時価のレベルごとの内訳等に関する事項」(金融商品会計基準40-2項(3))として、【図表3】に記載の事項を金融資産及び金融負債の適切な区分に基づき注記する(金融商品時価開示適用指針5-2項)(注記のイメージは、【図表4】を参照)。金融資産及び金融負債の適切な区分は、当該金融資産又は金融負債の性質、特性及びリスク並びに時価のレベル等に基づいて決定することになるものと考えられる(金融商品時価開示適用指針39-5項)。

 ただし、重要性が乏しいものは注記を省略することができる(金融商品時価開示適用指針5-2項)。企業は、注記の対象となる金融商品について、貸借対照表日現在の残高のほか、時価の見積りの不確実性の大きさを勘案したうえで、当期純利益、総資産及び金融商品の残高等に照らして、注記の必要性を判断することになるものと考えられる(金融商品時価開示適用指針39-4項)。

 なお、連結財務諸表において注記している場合には、個別財務諸表において記載することを要しない(金融商品時価開示適用指針5-2項)。

図表3 金融商品の時価のレベルごとの内訳等に関する事項の注記
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図表4 金融商品の時価のレベルごとの内訳等に関する事項の注記のイメージ
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なお、IFRS第13号では【図表3】に記載の事項に加えて次の注記を求めているものの、金融商品時価開示適用指針では、これらの注記は求めていない。

コストと便益を考慮して、注記を求めないこととしたもの

▶ レベル1の時価とレベル2の時価との間のすべての振替額及び当該振替の理由(IFRS第13号93項(c))(金融商品時価開示適用指針39-17項)

▶ 貸借対照表で時価評価するレベル3の時価の金融商品について、観察できないインプットを合理的に考え得る代替的な仮定に変更した場合の影響(IFRS第13号93項(h)(ii))(金融商品時価開示適用指針39-18項)

 

金融商品会計基準の適用対象外となるため、注記を求めないこととしたもの(金融商品時価開示適用指針39-16項)

▶ 非金融資産の最有効使用に関する開示(IFRS第13号93項(i))

▶ 非経常的な時価の算定に関する開示(IFRS第13号93項(a)、(b)、(d)及び(g))

▶ 分離不可能な第三者の信用補完とともに発行されている負債の公正価値測定における信用補完の反映方法の開示(IFRS第13号98項)

 

 四半期では、貸借対照表で時価評価する金融商品について、企業集団の事業運営にあたっての重要な項目であり、かつ、前年度末と比較して著しく変動している場合に、【図表3】(1)「貸借対照表日における時価のレベル(レベル1〜3)ごとの合計額」を、適切な区分に基づき開示する(四半期適用指針80項(3)④)。ただし、総資産の大部分を金融資産が占め、かつ総負債の大部分を金融負債及び保険契約から生じる負債が占める企業集団以外の企業集団においては、第1四半期及び第3四半期では注記を省略することができる(四半期適用指針80項(3))。

 

10 適用時期等

(1) 適用時期

時価算定会計基準、棚卸資産会計基準及び金融商品会計基準は、2021年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用する(時価算定会計基準16項、棚卸資産会計基準21-5項、金融商品会計基準41項(5))。

(結論の背景)

システムの開発やプロセスの整備及び運用までを含めると十分な準備期間が必要であるとの意見や、具体的な実務の運用を検討するためにより時間を要するとの意見が寄せられたことから、2021年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用することとしたとされている(時価算定会計基準45項)。

 

ただし、速やかに適用することへの一定のニーズがあると想定されることから、2020年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から、また、2020年3月31日以後終了する連結会計年度及び事業年度における年度末に係る連結財務諸表及び個別財務諸表から早期適用することができる。なお、これらのいずれかの場合には、同時に公表又は改正された時価算定会計基準、棚卸資産会計基準及び金融商品会計基準を同時に適用する必要がある(時価算定会計基準17項、45項、棚卸資産会計基準21-6項、金融商品会計基準41項(6))

 

(2) 経過措置

本会計基準等では、次の経過措置を定めている。

(時価算定会計基準及び時価算定適用指針)

① 適用初年度の取扱い

原則

時価算定会計基準及び時価算定適用指針が定める新たな会計方針を、将来にわたって適用する

この場合、その変更の内容について注記する(時価算定会計基準19項、時価算定適用指針25項)。

容認

時価の算定にあたり観察可能なインプットを最大限利用しなければならない定めなどにより、時価算定会計基準及び時価算定適用指針の適用に伴い時価を算定するために用いた方法を変更することとなった場合で当該変更による影響額を分離することができるときは、会計方針の変更に該当するものとし、当該会計方針の変更を過去の期間のすべてに遡及適用することができる

また、適用初年度の期首より前に新たな会計方針を遡及適用した場合の累積的影響額を、適用初年度の期首の利益剰余金及びその他の包括利益累計額又は評価・換算差額等に加減し、当該期首残高から新たな会計方針を適用することもできる

これらの場合、企業会計基準第24号10項に定められる事項を注記する(時価算定会計基準20項、時価算定適用指針25項)。

 

② 投資信託の時価の算定に関しては、本会計基準等公表後概ね1年をかけて検討を行うこととし、それまでの間は改正前の取扱いを踏襲することができる。この場合、金融商品時価開示適用指針5-2項の注記(時価のレベルごとの内訳等に関する事項の注記)は要しない

  当該注記を行わない場合、当該投資信託について、その旨及び貸借対照表計上額を金融商品時価開示適用指針5-2項(1)の注記(貸借対照表日における時価のレベル(レベル1〜3)ごとの合計額の注記)に併せて注記する(時価算定適用指針26項)。

③ 貸借対照表に持分相当額を純額で計上する組合等への出資の時価の注記については、組合等への出資の時価の算定に関して、時価の算定対象が出資そのものなのか構成要素なのかが不明確であり投資信託と同様の論点が生じ得るとの意見が聞かれたため、投資信託の取扱いを改正する際にその取扱いを明らかにすることとし、それまでの間は金融商品時価開示適用指針4項(1)の注記(金融商品に関する貸借対照表の科目ごとの、貸借対照表計上額、時価及びその差額の注記)は要しない

  当該注記を行わない場合、当該組合等への出資について、その旨及び貸借対照表計上額を金融商品時価開示適用指針4項(1)の注記に併せて注記する(時価算定適用指針27項、52項)。

 

(金融商品時価開示適用指針)

④ 金融商品時価開示適用指針5-2項の注記(時価のレベルごとの内訳等に関する事項の注記)については、適用初年度の比較情報は要しない(金融商品時価開示適用指針7-4項)。

⑤ 改正金融商品会計基準を年度末の財務諸表から適用する場合には、適用初年度における金融商品時価開示適用指針5-2項(4)②の注記(レベル3の時価の金融商品の期首残高から期末残高への調整表)を省略することができる。また、この場合、適用初年度の翌年度においては、同注記の比較情報は要しない(金融商品時価開示適用指針7-5項)。

 

 

(棚卸資産会計基準)

⑥ トレーディング目的で保有する棚卸資産の時価の定義の見直しにより生じる会計方針の変更については、時価算定会計基準の適用初年度における原則的な取扱いと同様に将来にわたって適用する。この場合、その変更の内容について注記する(棚卸資産会計基準21-7項)。

 

(金融商品会計基準)

⑦ その他有価証券の期末の貸借対照表価額に期末前1か月の市場価格の平均に基づいて算定された価額を用いることができる定めの削除や、市場価格のない株式等以外の時価を把握することが極めて困難な有価証券の定めの削除など、時価の定義の見直しに伴う金融商品会計基準の改正により生じる会計方針の変更は、時価の算定を変更することになり得るという意味では時価算定会計基準が定める新たな会計方針の適用と同一であるため、時価算定会計基準の適用初年度における原則的な取扱いと同様に将来にわたって適用する。この場合、その変更の内容について注記する(金融商品会計基準44-2項)。

 

(四半期適用指針)

⑧ 適用初年度においては、四半期適用指針80項(3)④の注記(貸借対照表日における時価のレベル(レベル1〜3)ごとの合計額の注記)を要しない(四半期適用指針81-9項)。

 

Ⅱ 改正企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」等

ASBJは、2020年3月31日に以下の改正会計基準等(以下合わせて「本改正会計基準等」という。)を公表した。

▶ 改正企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」(以下「収益会計基準」という。)

▶ 改正企業会計基準適用指針第30号「収益認識に関する会計基準の適用指針」(以下「収益適用指針」という。)

※ 収益適用指針においては、以下の設例及び開示例が追加されている。

  [設例27]履行により契約資産が認識される場合

  [設例28]履行により顧客との契約から生じた債権が認識される場合

  [開示例1]収益の分解情報

  [開示例2]残存履行義務に配分した取引価格の注記

  [開示例3]残存履行義務に配分した取引価格の注記-定性的情報

 

▶ 改正企業会計基準第12号「四半期財務諸表に関する会計基準」(以下「四半期会計基準」という。)

▶ 改正企業会計基準適用指針第14号「四半期財務諸表に関する会計基準の適用指針」(以下「四半期適用指針」という。)

▶ 改正企業会計基準適用指針第19号「金融商品の時価等の開示に関する適用指針」(以下「金融商品時価開示適用指針」という。)

 

1 公表の経緯・目的

ASBJは、2018年3月に、我が国における収益認識に関する包括的な会計基準として、以下の企業会計基準及びその適用指針(以下、合わせて「2018年収益会計基準等」という。)を公表した。

▶ 企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」(以下、「2018年収益会計基準」という。)

▶ 企業会計基準適用指針第30号「収益認識に関する会計基準の適用指針」(以下、「2018年収益適用指針」という。)

2018年収益会計基準等においては、注記について、2018年収益会計基準等を早期適用する場合の必要最低限の注記(企業の主要な事業における主な履行義務の内容及び企業が当該履行義務を充足する通常の時点(収益を認識する通常の時点))のみを定め、2018年収益会計基準等が適用される時(2021年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首)までに、注記事項の定めを検討することとされていた。

また、収益認識の表示に関する次の事項についても同様に、2018年収益会計基準等が適用される時までに検討することとされていた。

(1) 収益の表示科目

(2) 収益と金融要素の影響(受取利息又は支払利息)の区分表示の要否

(3) 契約資産と債権の区分表示の要否

上記の経緯を踏まえ、本改正会計基準等が公表された。

 

2 表示

(1) 損益計算書

 顧客との契約から生じる収益を、適切な科目をもって損益計算書に表示する。なお、顧客との契約から生じる収益については、それ以外の収益と区分して損益計算書に表示するか、又は、両者を区分して損益計算書に表示しない場合には、顧客との契約から生じる収益の額を注記する(収益会計基準78-2項)。

 顧客との契約から生じる収益は、例えば、売上高、売上収益、営業収益等として表示する(収益適用指針104-2項)。また、顧客との契約に重要な金融要素が含まれる場合、顧客との契約から生じる収益と金融要素の影響(受取利息又は支払利息)は、損益計算書において区分して表示する(収益会計基準78-3項)。

(2) 貸借対照表

企業が履行している場合や企業が履行する前に顧客から対価を受け取る場合等、契約のいずれかの当事者が履行している場合には、企業は、企業の履行と顧客の支払との関係に基づき、契約資産、契約負債又は顧客との契約から生じた債権を計上する。また、契約資産、契約負債又は顧客との契約から生じた債権を、適切な科目をもって貸借対照表に表示する。なお、契約資産と顧客との契約から生じた債権を貸借対照表に区分して表示しない場合には、それぞれの残高を注記する。また、契約負債を貸借対照表において他の負債と区分して表示しない場合には、契約負債の残高を注記する(収益会計基準79項)。

契約資産、契約負債又は顧客との契約から生じた債権について、以下の例があげられている(収益適用指針104-3項)

項目 貸借対照表上の表示科目
① 契約資産 契約資産、工事未収入金等
② 契約負債 契約負債、前受金等
③ 顧客との契約から生じた債権 売掛金、営業債権等

 

 2018年収益会計基準では、早期適用する場合は、契約資産と債権を貸借対照表において区分表示せず、かつ、それぞれの残高を注記しないことができる旨が定められていたが(2018年収益会計基準88項)、収益会計基準では削除されている。

 

(3) その他

IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」(以下「IFRS第15号」という。)において要求されている顧客との契約から生じた債権又は契約資産について認識した減損損失の開示に関しては、企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」の見直しと合わせて検討することとし、当該開示は求めないとされている(収益会計基準158項)。

 

3 注記事項

(1) 基本的な方針

注記事項の開発にあたっての基本的な方針として、次の対応を行うこととしたとされている(収益会計基準101-6項)。

① 包括的な定めとして、IFRS第15号と同様の開示目的及び重要性の定めを含める。また、原則としてIFRS第15号の注記事項のすべての項目を含める

② 企業の実態に応じて個々の注記事項の開示の要否を判断することを明確にし、開示目的に照らして重要性に乏しいと認められる項目については注記しないことができることを明確にする。

 

(結論の背景)

 収益は、企業の主な営業活動からの成果を表示するものとして、企業の経営成績を表示するうえで重要な財務情報と考えられ、収益に関する情報によって、財務諸表利用者は、企業の顧客との契約及び当該契約から生じる収益を適切に理解できるようになり、より適切な将来キャッシュ・フローの予測ができるようになることから、より適切な経済的意思決定ができるようになると考えられる(収益会計基準101-3項)。

 したがって、収益に関する注記事項は、注記全体の中でも重要性が高いものであり、収益会計基準においては、会計処理に関する定めと同様に、注記事項についても原則としてIFRS第15号及びTopic 606と同様の内容が取り入れられた(収益会計基準101-4項)。

 一方で、注記が大幅に増加することに対する懸念から、個別の注記事項ごとに有用性を検討し取り入れるものを決めるべきとの意見も寄せられた。しかしながら、有用性が認められることから注記が必要とされる情報は契約の類型によって異なるものであるため、さまざまな契約の類型を考慮して注記事項を定めることとした場合、ある場合には有用な情報を開示することになっても、他の場合には有用な情報を開示することにならない等、すべての状況において有用な情報を開示するようにこれを定めることは困難であると考えられる(収益会計基準101-5項)。

 

(2) 重要な会計方針の注記

顧客との契約から生じる収益に関する重要な会計方針として、次の項目を注記する(収益会計基準80-2項)。

① 企業の主要な事業における主な履行義務の内容

② 企業が当該履行義務を充足する通常の時点(収益を認識する通常の時点)

 

上記項目以外にも、重要な会計方針に含まれると判断した内容については、重要な会計方針として注記する(収益会計基準80-3項)。

 

(3) 収益認識に関する注記

① 開示目的

収益認識に関する注記における開示目的は、顧客との契約から生じる収益及びキャッシュ・フローの性質、金額、時期及び不確実性を財務諸表利用者が理解できるようにするための十分な情報を企業が開示することである(収益会計基準80-4項)。

上記の開示目的を達成するため、収益認識に関する注記として、次の項目を注記する。ただし、次の項目に掲げている各注記事項のうち、上記の開示目的に照らして重要性に乏しいと認められる注記事項については、記載しないことができる(収益会計基準80-5項)。

 

【収益認識に関する注記】

(1) 収益の分解情報

(2) 収益を理解するための基礎となる情報

(3) 当期及び翌期以降の収益の金額を理解するための情報

 

(結論の背景)

 IFRS第15号で要求されている注記を収益会計基準に取り入れるにあたり、IFRS第15号において、個々の注記が設けられた意図を理解することがより有用であると考えられるため、上記項目は、開示目的との関連、すなわち、どのように開示目的が達成されることが想定されるのかを踏まえて、IFRS第15号の項目を再分類したものである(収益会計基準167項)。

 そのうえで、開示目的を達成する方法として、IFRS第15号を参考として上記項目ごとに具体的な注記事項を定めているが(収益会計基準80-10項から80-24項参照)、IFRS第15号の注記事項の取扱いと同様に、これらの注記事項は最低限の注記のチェックリストとして用いられることを意図したものではない。特定の注記が財務諸表利用者の意思決定に影響を及ぼすか否かについては、契約の類型により異なると考えられる。必要な注記を検討するにあたっては、開示目的に照らして重要性を考慮すべきであると考えられるため、収益会計基準では、重要性に乏しい情報の注記をしないことができることを明確にしている(収益会計基準167項)。

 

 IFRS第15号の注記の定めと収益認識に関する注記の定めとの関係は、【図表5】のとおりである。

図表5 IFRS第15号の注記の定めと収益認識に関する注記の定めとの関係
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② 収益認識に関する注記の記載方法等

収益認識に関する注記を記載するにあたり、どの注記事項にどの程度の重点を置くべきか、また、どの程度詳細に記載するのかを開示目的に照らして判断する。重要性に乏しい詳細な情報を大量に記載したり、特徴が大きく異なる項目を合算したりすることにより有用な情報が不明瞭とならないように、注記は集約又は分解する(収益会計基準80-6項)。

収益認識に関する注記を記載するにあたり、収益会計基準80-10項から80-24項において示す注記事項の区分に従って注記事項を記載する必要はない(収益会計基準80-7項)。また、重要な会計方針として注記している内容は、収益認識に関する注記として記載しないことができる(収益会計基準80-8項)。収益認識に関する注記として記載する内容について、財務諸表における他の注記事項に含めて記載している場合には、当該他の注記事項を参照することができる(収益会計基準80-9項)。

 

③ 収益の分解情報(【図表5】収益認識に関する注記(1))

当期に認識した顧客との契約から生じる収益を、収益及びキャッシュ・フローの性質、金額、時期及び不確実性に影響を及ぼす主要な要因に基づく区分に分解して注記する(収益会計基準80-10項)。

(結論の背景)

 収益の分解情報は、単一の区分により開示される場合もあれば、複数の区分により開示される場合(例えば、製品別の収益の分解と地域別の収益の分解)もあると考えられる。一方で、企業の収益及びキャッシュ・フローの性質、金額、時期及び不確実性に影響を及ぼす要因のすべてを考慮する必要がないことを明確にするために、収益会計基準では、「主要な」要因に基づく区分による収益の分解情報が求められている(収益会計基準178項)。

 

企業会計基準第17号「セグメント情報等の開示に関する会計基準」(以下「セグメント情報等会計基準」という。)を適用している場合、収益の分解情報と、セグメント情報等会計基準に従って各報告セグメントについて開示する売上高との間の関係を財務諸表利用者が理解できるようにするための十分な情報を注記する(収益会計基準80-11項)。

図表6 収益認識に関する注記(1)「収益の分解情報」の開示例
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収益の分解に用いる区分を検討する際に、次のような情報において、企業の収益に関する情報が他の目的でどのように開示されているのかを考慮する(収益適用指針106-4項)。

① 財務諸表外で開示している情報(例えば、決算発表資料、年次報告書、投資家向けの説明資料)

② 最高経営意思決定機関が事業セグメントに関する業績評価を行うために定期的に検討している情報

③ 他の情報のうち、上記①及び②で識別された情報に類似し、企業又は企業の財務諸表利用者が、企業の資源配分の意思決定又は業績評価を行うために使用する情報

 

 収益を分解するための区分の例として次のものがあげられる(収益適用指針106-5項)。

① 財又はサービスの種類(例えば、主要な製品ライン)

② 地理的区分(例えば、国又は地域)

③ 市場又は顧客の種類(例えば、政府と政府以外の顧客)

④ 契約の種類(例えば、固定価格と実費精算契約)

⑤ 契約の存続期間(例えば、短期契約と長期契約)

⑥ 財又はサービスの移転の時期(例えば、一時点で顧客に移転される財又はサービスから生じる収益と一定の期間にわたり移転される財又はサービスから生じる収益)

⑦ 販売経路(例えば、消費者に直接販売される財と仲介業者を通じて販売される財)

 

④ 収益を理解するための基礎となる情報(【図表5】収益認識に関する注記(2))

 顧客との契約が、財務諸表に表示している項目又は収益認識に関する注記における他の注記事項とどのように関連しているのかを示す基礎となる情報として、【図表7】に記載の事項を注記する(収益会計基準80-12項から80-19項及び収益適用指針106-6項から106-7項)。

図表7 収益認識に関する注記(2)「収益を理解するための基礎となる情報」
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⑤ 当期及び翌期以降の収益の金額を理解するための情報(【図表5】収益認識に関する注記(3))

当期及び翌期以降の収益の金額を理解するための情報として、【図表8】に記載の事項を注記する。

図表8 収益認識に関する注記(3)「当期及び翌期以降の収益の金額を理解するための情報」
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 次のいずれかの条件に該当する場合には、【図表8】「(b)残存履行義務に配分した取引価格」の注記を記載しないことができる(収益会計基準80-22項)。

① 履行義務が、当初に予想される契約期間が1年以内の契約の一部である。

② 履行義務の充足から生じる収益を収益適用指針19項に従って認識している(収益適用指針[開示例2-1])。

③ 次のいずれかの条件を満たす変動対価である。

  • 売上高又は使用量に基づくロイヤルティ
  • 収益会計基準72項の要件に従って、完全に未充足の履行義務(あるいは収益会計基準32項(2)に従って識別された単一の履行義務に含まれる1つの別個の財又はサービスのうち、完全に未充足の財又はサービス)に配分される変動対価

 

また、上記のいずれかの条件に該当するため、【図表8】「(b)残存履行義務に配分した取引価格」の注記に含めていないものがある場合には、上記のいずれの条件に該当しているか、及び注記に含めていない履行義務の内容を注記する(収益適用指針[開示例2-1])。さらに上記③のいずれかの条件に該当するため注記に含めていないものがある場合には、次の事項を注記する(収益会計基準80-24項)。

① 残存する契約期間

② 【図表8】「(b)残存履行義務に配分した取引価格」の注記に含めていない変動対価の概要(例えば、変動対価の内容及びその変動性がどのように解消されるのか)

 

 顧客との契約から受け取る対価の額に、取引価格に含まれない変動対価の額等、取引価格に含まれず、結果として【図表8】「(b)残存履行義務に配分した取引価格」の注記に含めていないものがある場合には、その旨を注記する(適用指針[開示例2-3])(収益会計基準80-23項)。

⑥ 工事契約等(受注制作のソフトウェア含む)から損失が見込まれる場合

企業会計基準第15号「工事契約に関する会計基準」(以下「工事契約会計基準」という。)に関する注記事項は、収益会計基準が適用される時(2021年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首)に廃止されることとなるため、収益会計基準においては、工事契約会計基準に定める次の注記が引き継がれている(収益適用指針106-9項、106-10項及び193項)。

(a) 当期の工事損失引当金繰入額

(b) 同一の工事契約に関する棚卸資産と工事損失引当金がともに計上されることとなる場合には、次の①又は②のいずれかの額(該当する工事契約が複数存在する場合には、その合計額)

    ① 棚卸資産と工事損失引当金を相殺せずに両建てで表示した場合

      その旨及び当該棚卸資産の額のうち工事損失引当金に対応する額

    ② 棚卸資産と工事損失引当金を相殺して表示した場合

      その旨及び相殺表示した棚卸資産の額

 

(結論の背景)

 「当期の工事損失引当金繰入額」の注記事項については、その記載がない場合には、売上原価に工事損失がどの程度含まれているのかという、これまで提供されていた情報が開示されなくなる。また、「同一の工事契約に関する棚卸資産と工事損失引当金がともに計上されることとなる場合」の注記事項については、その記載がない場合には、当該棚卸資産と工事損失引当金を総額表示又は相殺表示のいずれの方法を採用しているのか、工事損失引当金に対応する棚卸資産がどの程度発生しているのかという、これまで提供されていた情報が開示されなくなる。

 このように、工事契約会計基準に定める注記事項について収益適用指針に含めない場合、財務諸表利用者にとっての情報が減少することになるため、工事契約会計基準における注記事項の定めが踏襲されている(収益適用指針193項)。

 なお、工事契約会計基準に定める注記事項のうち、「工事契約に係る認識基準」及び「決算日における工事進捗度を見積るために用いた方法」の記載については、通常、収益会計基準の注記事項における「履行義務の充足時点に関する情報」に含めて注記することになると考えられるため、工事契約会計基準の廃止に伴って追加する注記事項の検討対象に含めないこととしたとされている(収益適用指針193項)。

 

(4) 連結財務諸表を作成している場合の個別財務諸表における注記

 連結財務諸表を作成している場合、個別財務諸表においては、収益会計基準78-2項、78-3項及び79項の表示及び注記の定め(本稿「2表示(1)損益計算書及び(2)貸借対照表」参照)を適用しないことができる(収益会計基準80-25項)。

 連結財務諸表を作成している場合、個別財務諸表においては、収益認識に関する注記の定めにかかわらず、(1)「収益の分解情報」及び(3)「当期及び翌期以降の収益の金額を理解するための情報」について注記しないことができる(収益会計基準80-26項)。

連結財務諸表 個別財務諸表

(収益認識に関する注記)

(1) 収益の分解情報

(2) 収益を理解するための基礎となる情報

(3) 当期及び翌期以降の収益の金額を理解するための情報

(収益認識に関する注記)

(1) 収益の分解情報(省略可)

(2) 収益を理解するための基礎となる情報(注)

(3) 当期及び翌期以降の収益の金額を理解するための情報(省略可)

(注) 個別財務諸表において、(2)「収益を理解するための基礎となる情報」の注記を記載するにあたり、連結財務諸表における記載を参照することができる(収益会計基準80-27項)。

(5) 四半期財務諸表における注記

 すべての四半期の四半期連結財務諸表及び四半期個別財務諸表において、年度の期首から四半期会計期間の末日までの期間に認識した顧客との契約から生じる収益について、(1)「収益の分解情報」を注記しなければならない。なお、(1)「収益の分解情報」は、セグメント情報等に関する事項に含めて記載している場合には、当該注記事項を参照することにより記載に代えることができる。(四半期会計基準19項(7-2)、25項(5-3)、58-5項から58-8項)。

連結財務諸表 四半期財務諸表

(収益認識に関する注記)

(1) 収益の分解情報

(2) 収益を理解するための基礎となる情報

(3) 当期及び翌期以降の収益の金額を理解するための情報

(収益認識に関する注記)

(1) 収益の分解情報

(2) 収益を理解するための基礎となる情報(省略可)

(3) 当期及び翌期以降の収益の金額を理解するための情報(省略可)

 

4 会計処理

(1) 契約資産の性質

 2018年収益会計基準においては、契約資産を金銭債権として取り扱うこととされていたが、収益会計基準においては、国際的な会計基準における取扱いを踏まえ、契約資産が金銭債権に該当するか否かについて言及されていない(収益会計基準77項)。

2018年収益会計基準 収益会計基準

77. (前段略)

 契約資産は、金銭債権として取り扱うこととし、金融商品会計基準に従って処理する。

77. (前段略)

 本会計基準に定めのない契約資産の会計処理は、金融商品会計基準における債権の取扱いに準じて処理する。また、外貨建ての契約資産に係る外貨換算については、企業会計審議会「外貨建取引等会計処理基準」の外貨建金銭債権債務の換算の取扱いに準じて処理する。

 

(結論の背景)

 IFRS第15号は、契約資産が金融資産に該当するか否かについて言及しないこととしたうえで、契約資産の減損の測定、表示及び開示については、IFRS第9号「金融商品」及びIFRS第7号「金融商品:開示」に従って、金融資産と同じ基礎で行うことを要求している(収益会計基準150-3項)。

 この点、収益会計基準においても契約資産が金銭債権に該当するか否かについて言及しないことにより、IFRS第15号が必ずしも言及していない契約資産の性質について、収益会計基準において金銭債権とすることにより発生し得る意図しない帰結を回避することが可能となるものと考えられる。また、契約資産とは、企業が顧客に移転した財又はサービスと交換に受け取る対価に対する企業の無条件ではない権利であり(収益会計基準10項参照)、無条件の権利である顧客との契約から生じた債権(収益会計基準12項参照)とは性質が異なる。これらの点を踏まえて、2018年収益会計基準77項の「契約資産は、金銭債権として取り扱うこととし、金融商品会計基準に従って処理する。」の記載が削除されている(収益会計基準150-3項)。

 

5 適用時期等

(1) 適用時期

 本改正会計基準等の適用時期は、以下のとおりである。

原則適用 本改正会計基準等は、2018年収益会計基準等の適用日を踏襲し、2021年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用する(収益会計基準81項、収益適用指針107項、四半期会計基準28-14項、四半期適用指針81-10項、改正金融商品時価開示適用指針7-6項(収益会計基準以外の条項については以下記載省略))。
早期適用 2020年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から本改正会計基準等を適用することができる(収益会計基準82項)。また、2020年4月1日に終了する連結会計年度及び事業年度から2021年3月30日に終了する連結会計年度及び事業年度までにおける年度末に係る連結財務諸表及び個別財務諸表から本改正会計基準等を適用することができる(収益会計基準83項)。

 

なお、2018年収益会計基準等は、2018年収益会計基準等に定められていたとおり、2021年3月31日以前に開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用できる(本改正会計基準等を適用している場合を除く。)(収益会計基準83-2項)。

(2) 経過措置

① 2018年収益会計基準等を適用せずに本改正会計基準等を適用する場合

 本改正会計基準等の適用初年度においては、適用初年度の比較情報について、新たな表示方法に従い組替えを行わないことができる(収益会計基準89-2項)。

 また、本改正会計基準等の適用初年度においては、収益会計基準78-2項、79項なお書き及び80-2項から第80-27項に記載した内容を適用初年度の比較情報に注記しないことができる(収益会計基準89-3項)。

② 2018年収益会計基準等を適用したうえで本改正会計基準等を適用する場合

 将来にわたり新たな会計方針を適用することができる。本改正会計基準等の適用初年度においては、本改正会計基準等の適用により表示方法(注記による開示も含む。)の変更が生じる場合には、企業会計基準第24号「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」(以下「企業会計基準第24号」という)14項の定めにかかわらず、適用初年度の比較情報について、新たな表示方法に従い組替えを行わないことができる。この場合、企業会計基準第24号16項(3)における「組替えられた過去の財務諸表の主な項目の金額」について注記しないことができる。また、収益会計基準78-2項、第79項なお書き及び第80-2項から第80-27項に記載した内容を適用初年度の比較情報に注記しないことができる(収益会計基準89-4項)。

 

Ⅲ 会計上の見積りを行う上での新型コロナウイルス感染症の影響の考え方に関するASBJの議事概要

ASBJは、2020年4月9日及び5月11日に開催された第429回及び第432回企業会計基準委員会において、会計上の見積りを行う上での新型コロナウイルス感染症の影響の考え方について審議を行った。その結果、当該考え方について、ASBJにおける議論の内容を周知するために、議事概要「会計上の見積りを行う上での新型コロナウイルス感染症の影響の考え方」及びその追補(以下合わせて「議事概要」という。)を公表した。

また、当該議事概要で示した考え方について、四半期決算における考え方を明らかにする目的で、6月26日に開催された第436回企業会計基準委員会において審議を行い、その結果を議事概要「会計上の見積りを行う上での新型コロナウイルス感染症の影響の考え方(2020年6月26日更新)」(以下「6月公表議事概要」という。)として公表している。

なお、6月公表議事概要は、ASBJのWebサイトに掲載されている。

2020年4月9日及び5月11日に公表された議事概要の主な内容は以下のとおりである。

 財務諸表を作成する上では、固定資産の減損、繰延税金資産の回収可能性など、様々な会計上の見積りを行うことが必要となる。会計基準では、会計上の見積りを「資産及び負債や収益及び費用等の額に不確実性がある場合において、財務諸表作成時に入手可能な情報に基づいて、その合理的な金額を算出すること」と定義している。

 ここで、新型コロナウイルス感染症の広がりは、経済、企業活動に広範な影響を与える事象であり、また、今後の広がり方や収束時期等を予測することは困難であるため、会計上の見積りを行う上で、特に将来キャッシュ・フローの予測を行うことが極めて困難な状況となっているものと考えられる。このような状況において、会計上の見積りを行う上では、以下の点に留意する必要があると考えられる。

(1) 「財務諸表作成時に入手可能な情報に基づいて、その合理的な金額を算出する」上では、新型コロナウイルス感染症の影響のように不確実性が高い事象についても、一定の仮定を置き最善の見積りを行う必要があるものと考えられる。

(2) 一定の仮定を置くにあたっては、外部の情報源に基づく客観性のある情報を用いることができる場合には、これを可能な限り用いることが望ましい。ただし、新型コロナウイルス感染症の影響については、会計上の見積りの参考となる前例がなく、今後の広がり方や収束時期等について統一的な見解がないため、外部の情報源に基づく客観性のある情報が入手できないことが多いと考えられる。この場合、新型コロナウイルス感染症の影響については、今後の広がり方や収束時期等も含め、企業自ら一定の仮定を置くことになる。

(3) 企業が置いた一定の仮定が明らかに不合理である場合を除き、最善の見積りを行った結果として見積もられた金額については、事後的な結果との間に乖離が生じたとしても、「誤謬」にはあたらないものと考えられる。

(4) 最善の見積りを行う上での新型コロナウイルス感染症の影響に関する一定の仮定は、企業間で異なることになることも想定され、同一条件下の見積りについて、見積もられる金額が異なることもあると考えられる。このような状況における会計上の見積りについては、どのような仮定を置いて会計上の見積りを行ったかについて、財務諸表の利用者が理解できるような情報を具体的に開示する必要があると考えられ、重要性がある場合は、追加情報としての開示が求められるものと考えられる

 

 上記の(4)の「重要性がある場合」については、当年度に会計上の見積りを行った結果、当年度の財務諸表の金額に対する影響の重要性が乏しい場合であっても、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクがある場合には、新型コロナウイルス感染症の今後の広がり方や収束時期等を含む仮定に関する追加情報の開示を行うことが財務諸表の利用者に有用な情報を与えることになると思われ、開示を行うことが強く望まれる。

 

また、上記議事概要の考え方について、四半期決算における考え方を明らかにして欲しいとの意見があったため、ASBJは、審議の上、以下を確認した。

(1) 前年度の財務諸表において第429回企業会計基準委員会の議事概要(上記参照)の(4)に関する追加情報の開示を行っている場合で四半期決算において新型コロナウイルス感染症の今後の広がり方や収束時期等を含む仮定に重要な変更を行ったときは、他の注記に含めて記載している場合を除き、四半期財務諸表に係る追加情報として、当該変更の内容を記載する必要があるものと考えられる。

(2) 前年度の財務諸表において仮定を開示していないが、四半期決算において重要性が増し新たに仮定を開示すべき状況になったときは、他の注記に含めて記載している場合を除き、四半期財務諸表に係る追加情報として、当該仮定を記載する必要があるものと考えられる。

(3) 前年度の財務諸表において第429回企業会計基準委員会の議事概要(上記参照)の(4)に関する追加情報の開示を行っている場合で四半期決算において新型コロナウイルス感染症の今後の広がり方や収束時期等を含む仮定に重要な変更を行っていないときも重要な変更を行っていないことが財務諸表の利用者にとって有用な情報となると判断される場合は、四半期財務諸表に係る追加情報として、重要な変更を行っていない旨を記載することが望ましい

 

Ⅳ 固定資産の減損処理

 減損処理は、固定資産の収益性の低下により投資額の回収が見込めなくなった状態が相当程度に確実な場合に限って回収可能性を反映させるように帳簿価額を減額する会計処理であり、直接的に貸借対照表価額を求めるものではないと考えらえる。したがって、期末のみならず、期中において減損処理が行われる場合がある(企業会計基準適用指針第6号「固定資産の減損に係る会計基準の適用指針」(以下「減損適用指針」という。)134項)。

 四半期会計期間における減損の兆候の把握にあたっては、使用範囲又は方法について当該資産又は資産グループの回収可能価額を著しく低下させる変化を生じさせるような意思決定(事業の廃止や再編成・除売却・転用等)や、経営環境の著しい悪化に該当する事象が発生したかどうかについて留意することとされている(企業会計基準適用指針第14号「四半期財務諸表に関する会計基準の適用指針」(以下「四半期適用指針」という)14項、減損適用指針13項、14項)。

(結論の背景)

 「固定資産の減損に係る会計基準」では、固定資産の減損の兆候として4つの事象が例示されている。また、減損適用指針76項において、「通常の企業活動において実務的に入手可能なタイミングにおいて利用可能な企業内外の情報に基づき、減損の兆候がある資産又は資産グループを識別することとなる」とされている。したがって、四半期適用指針においてもこれらの趣旨を勘案し、前年度末等において所有する資産又は資産グループについて全体的に減損の兆候を把握している場合には、必ずしも四半期会計期間ごとに資産又は資産グループに関連する営業損益、営業キャッシュ・フローあるいはその市場価格を算定又は入手することを求めるのではなく、使用範囲又は方法について当該資産又は資産グループの回収可能価額を著しく低下させる変化を生じさせるような意思決定や、経営環境の著しい悪化に該当する事象が発生したかどうかについて留意することとしたとされている(四半期適用指針92項)。

 

Ⅴ 繰延税金資産の回収可能性

四半期財務諸表に計上された繰延税金資産についても、原則として、年度決算と同様の方法により回収可能性の判断を行うこととなるため、四半期決算日ごとに、将来の回収見込みについて見直しを行うことになる。

しかしながら、四半期会計期間ごとに収益力に基づく一時差異等加減算前課税所得やタックス・プランニングに基づく一時差異等加減算前課税所得、あるいは将来加算一時差異について(企業会計基準適用指針第26号「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」(以下「回収可能性適用指針」という。)6項)改めて判断することを求めるのは実務上過度な負担を強いることになるとも考えられることから、以下の簡便的な取扱いが定められている(四半期適用指針16項、17項、94項)。

 

【繰延税金資産の回収可能性の判断における簡便的な取扱い】

ケース 簡便的な取扱い

① 重要な企業結合や事業分離、業績の著しい好転又は悪化、その他経営環境の著しい変化が生じておらず、かつ、一時差異等の発生状況について前年度末から大幅な変動がないと認められる場合

繰延税金資産の回収可能性の判断にあたり、前年度末の検討において使用した将来の業績予測やタックス・プランニングを利用することができる

② 重要な企業結合や事業分離、業績の著しい好転又は悪化、その他経営環境に著しい変化が生じ、又は、一時差異等の発生状況について前年度末から大幅な変動があると認められる場合(具体的には、回収可能性適用指針15項から32項に従って判断される分類が変わる程度の著しい変化又は大幅な変動が生じた場合などが考えられる。)

繰延税金資産の回収可能性の判断にあたり、財務諸表利用者の判断を誤らせない範囲において、前年度末の検討において使用した将来の業績予測やタックス・プランニングに、当該著しい変化又は大幅な変動による影響を加味したものを使用することができる

 

以上

本記事に関する留意事項

本記事は皆様への情報提供として一般的な情報を掲載するのみであり、その性質上、特定の個人や事業体に具体的に適用される個別の事情に対応するものではありません。また、本記事の作成または発行後に、関連する制度その他の適用の前提となる状況について、変動を生じる可能性もあります。個別の事案に適用するためには、当該時点で有効とされる内容により結論等を異にする可能性があることをご留意いただき、本記事の記載のみに依拠して意思決定・行動をされることなく、適用に関する具体的事案をもとに適切な専門家にご相談ください。

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