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IASBがIFRS第17号「保険契約」の修正を公表

月刊誌『会計情報』2020年10月号

注:本資料はDeloitteのIFRS Global Officeが作成し、有限責任監査法人トーマツが翻訳したものです。この日本語版は、読者のご理解の参考までに作成したものであり、原文については英語版ニュースレターをご参照下さい。

トーマツIFRSセンター・オブ・エクセレンス

本「IFRS in Focus」は、国際会計基準審議会(IASB)が2020年6月に公表したIFRS第17号「保険契約」の最近の修正について説明するものである。

  • IASBは、「IFRS第17号の修正」を公表し、IFRS第17号について以下を対象とした限定的な修正を行った。

ーIFRS第17号の発効日及びIFRS第4号におけるIFRS第9号の適用の一時的免除について固定の満了日を2023年1月1日へ延期

ークレジットカード契約及び類似の契約の範囲除外、及び融資金額に限定して保険カバーが付された融資契約の任意の範囲除外

ー企業結合において認識された保険獲得キャッシュ・フローについてのガイダンスを含む、将来の契約更新に関連する保険獲得キャッシュ・フローの認識

ーIFRS第17号の期中財務諸表への適用

ー投資リターン・サービス及び投資関連サービスに帰属するCSMの配分

ー非デリバティブ金融商品を用いたリスク軽減オプション

ー保有している再保険契約を通じた基礎となる保険契約に係る損失の回収

ー財政状態計算書における表示

ー経過措置の論点: 決済期間において取得した契約の分類及び過年度に適用したリスク軽減オプションの修正再表示に関するガイダンス

ー軽微な適用上の論点    

  • 本修正は、2023年1月1日以後開始する事業年度から適用される。早期適用は認められる。これらはIAS第8号に従って遡及的に適用される。
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背景

IFRS第17号の公表以降、IFRS第17号移行リソース・グループ(TRG)の会議を4回開催するなど、IASBは利害関係者が参画する包括的なプログラムを実施してきた。このプログラムを通じて、IASBは、IFRS第17号の適用によるコストと便益のバランスを含む懸念事項及び導入上の課題を識別した。IASBは、これらの懸念事項及び導入上の課題を検討した後、基準を変更する必要性を評価するプロセスを実施した。IASBは、IFRS第17号が多くの分野で改善できる可能性があると判断した。2019年6月、IASBは、IFRS第17号に対する複数の修正案が含まれる公開草案ED/2019/4「IFRS第17号の修正」(ED) *1を公表した。今回最終確定した修正事項は当該プロセスの成果である。

修正事項

IFRS第17号の発効日の2年延期

この修正によりIFRS第17号の強制発効日が変更され、企業はIFRS第17号を2023年1月1日以後開始する事業年度(当初の発効日は2021年1月1日)から適用することが求められる。

また、IASBは、IFRS第4号 「保険契約」 におけるIFRS第9号 「金融商品」 の適用の一時的免除の固定の満了日を修正した(一時的免除に係る詳細については、本誌2016年12月号IFRS in Focus「IASBがIFRS第9号とIFRS第4号を置き換える保険契約の新基準との発行日の相違に関する懸念に対処するためにIFRS第4号「保険契約」の修正を公表」を参照いただきたい。)。これにより企業は IFRS第9号を2023年1月1日以後開始する事業年度に適用することが求められる。

見解

EDにおいて、IASBは当初の発効日を1年延期して2022年1月1日とすることを提案していた。しかし、EDへのコメント提出者の中には、計画的かつ確実な導入を可能とするために、さらなる延期を求める者もいた。IASBは、いくつかの修正案はより多くの導入作業を必要とするため、これらのコメント提出者の意見に同意した。さらに、様々な国及び地域における承認プロセスの遅延は、全世界における発効日を同一にすることが不可能であったことを示している。

また、IASBはIFRS第4号の一時的免除をさらに1年延長することによって、特定の保険者がIFRS第17号とIFRS第9号を同時に適用開始するための適用開始日の調整を維持することによる便益は適切なものであると判断した。

 

 

保険カバーを提供するクレジットカード契約に対する追加の範囲除外

一部のクレジットカードにおいては、クレジットカード発行者が一定の価格範囲内で購入品に対する保証を顧客に提供している。このような保証は、契約の法的な条件又は規制から生じるが、重大な保険リスクを移転することがあり、この場合クレジットカード契約はIFRS第17号の適用範囲に含まれることになる。

IFRS第17号の適用範囲は、信用又は決済手段を提供するクレジットカード契約又は類似の契約が保険契約の定義を満たすとしても、それらの契約が強制的に除外されるように修正される。適用範囲の除外は、当該顧客との契約の価格を設定する際に、企業が個々の顧客に関連した保険リスクの評価を反映していない場合にのみ適用される。また、IASBは、IFRS第9号がクレジットカード契約に組み込まれる保険カバーの構成要素の分離を要求する場合、すなわち保険カバーがクレジットカード契約の契約条件である場合、かつその場合にのみ、当該保険カバーの構成要素にIFRS第17号を適用することとし、これを反映したIFRS第9号の結果的修正も公表した。

見解

EDにおいて修正が提案されたのは、クレジットカードにおける融資契約又はローン・コミットメントにIFRS第9号を適用して会計処理する企業は、当該契約が保険契約の定義を満たすため、IFRS第17号の適用時に会計処理を変更する必要があるとされていたためである。

EDにおいて、IASBは、クレジットカードについてのみ範囲除外することを提案した。しかし、一部のコメント提出者は、保険契約の定義を満たす他の 「類似」 契約も範囲除外とすることを提案した。コメント提出者は、デビットカード、チャージカード、消費者金融契約、当座預金口座、当座貸越枠を含む、そのような契約の例を提示した。IASBは当該コメント提出者に同意し、IFRS第17号の適用範囲をさらに変更して類似の契約を除外した。また、IFRS第17号の適用範囲の規定が修正されたことにより、クレジットカード契約に組み込まれている保険要素はIFRS第17号の適用範囲に戻された。この結果、非保険要素であるクレジットカードの主契約部分のIFRS第9号における分類に対する保険キャッシュ・フローの影響は排除される。

 

 

重大な保険リスクを移転する融資契約に対する追加的な任意の範囲除外

IFRS第17号及びIFRS第9号の適用範囲は、契約により創出された保険契約者の義務を決済するために要する金額にのみ保険カバーを提供する保険契約について、任意の範囲除外が含まれるように修正された。

これらの契約は通常、特定の不確実な将来事象が債務者に不利な影響を及ぼす場合に、契約に基づく支払の一部又は全部を免除することによって債務者に補償するという企業からの合意と融資とを組み合わせている。それらは非保険会社によって発行されることが多く、通常は保険契約と考えられていない可能性がある。

これらの契約の例としては、以下のものがある。

  • 死亡時に債務免除される住宅ローン
  • 学生ローン契約 (収入に応じて返済する)
  • 終身モーゲージ契約 (エクイティ・リリース・モーゲージと呼ばれることもある)

この修正により、当該契約を発行する企業は、IFRS第17号又は第9号のいずれかを適用して契約を会計処理することが可能になる。

特に、この修正によりIFRS第9号の経過措置が変更され、企業はIFRS第17号の適用開始前に既にIFRS第9号を適用しているか否かに関わらず、IFRS第17号又はIFRS第9号のいずれかを適用することが可能となる。この取消不能の選択は、保険契約のポートフォリオごとに別々に行われる。

見解

IASBは、重大な保険リスクを移転する融資契約が契約全体についてIFRS第17号の保険契約の定義を満たす場合においても、任意選択の範囲除外が認められることを決定した。従って、この修正がなければ、企業はこれらの融資契約にIFRS第17号の会計処理を適用することが求められる。今回の修正により、これらの契約に対して、企業はIFRS第9号の選択適用が可能になる。

IFRS第4号は融資部分を保険契約から任意に分離することを認めていたが、IFRS第17号はこれを禁止し、別個の投資要素のみを分離することを要求している。これらの融資は別個の投資要素ではないため、修正前のIFRS第17号は契約全体に適用されていた。

 

 

更新が見込まれる契約に関連する保険獲得キャッシュ・フロー

保険獲得キャッシュ・フローとは、保険契約の販売、引受及び開始のコストより生じるキャッシュ・フローのうち、グループが属する保険契約のポートフォリオに直接起因するものである。この修正は、保険獲得キャッシュ・フローについて追加的なガイダンスを提供し、企業に対し、以下のように規則的かつ合理的な方法で配分することを要求している。

  • 保険契約グループに直接起因する保険獲得キャッシュ・フローを以下のグループに配分する。

―当該グループ

―当該グループの中の契約の更新から生じると見込まれる保険契約を含む将来のグループ

  • 保険契約のポートフォリオに直接起因するが、個々の契約又は保険契約グループに直接起因しない保険獲得キャッシュ・フローを、ポートフォリオ内のグループに配分する。

また、企業は、次のことも行わなければならない。

  • 関連する契約更新のグループ又はポートフォリオに含めると予想されるグループを認識するまで、それらのキャッシュ・フローを資産として認識する。
  • 関連する保険契約グループの期待履行キャッシュ・フローに基づき、契約の更新を認識するまで、各報告期間における資産の回収可能性を評価する。当該資産の回収可能性の評価は、当該資産が減損している可能性を示唆する事実及び状況がある場合にのみ、企業に要求される。

企業が支払うと予想される保険獲得キャッシュ・フローを認識するのは、関連する保険契約グループが保険契約グループの履行キャッシュ・フローの一部として認識された後である。企業は、支払う保険獲得キャッシュ・フローを、保険契約グループの当初認識日に保険契約グループの契約上のサービス・マージン(CSM)の一部として認識する。このアプローチでは、保険獲得キャッシュ・フローをカバー期間にわたって償却し、保険サービス費用に計上することが要求される。

また、この修正は、企業が報告期間中にグループに含めると予想される保険契約の一部のみを認識する場合(すなわち、グループが報告期間をまたぐ場合)には、企業は認識を中止する保険獲得キャッシュ・フローに係る資産の関連部分を決定し、グループの履行キャッシュ・フローに含めることを明確にしている。

また、開示の要求事項は以下を含むように修正される。

  • 報告期間における保険獲得キャッシュ・フローに係る資産の期首残高から期末残高への調整表(調整表には、当該期間に認識された減損損失又は戻入れも含める)
  • 保険獲得キャッシュ・フローを関連する将来の保険契約グループの測定に含めると予想される時期について、適切な時間帯での、定量的な開示

IASBはIFRS第17号を修正し、キャッシュ・フローの支払又は受取りが行われていないが、関連する保険契約グループを認識する前に、将来の保険獲得キャッシュ・フローに係る負債の認識を他のIFRS基準が企業に要求している場合、当該保険契約キャッシュ・フローに係る資産の認識も要求することとした。さらに、IASBはIFRS第17号を修正し、保険契約グループのCSMの当初測定において、当該グループが認識される前に支払又は受領した関連キャッシュ・フローについて過去に認識した資産又は負債の認識の中止による影響を含めるように企業に求めた。また、これは、たとえキャッシュ・フローの支払又は受取りが行われていなくても、他のIFRS基準の要求事項により過去に認識された資産及び負債に対しても適用される。

見解

この修正は、TRGでの議論の結果である。TRGは、代理店に支払われる返還不能手数料に関する懸念事項について議論した。この場合、当該コストは、企業が将来において予想される契約更新を通じて回収できることを期待していることから、最初の保険契約の測定額とは相対的に高い金額となる可能性がある。将来の契約更新が新規に発行された保険契約グループの契約の境界線の外になった場合、修正前のIFRS第17号では、保険契約グループの測定にそれらを考慮しなかった。このため、契約獲得コストの繰り延べは認められず、将来の契約更新に帰属させることはできなかった。その結果、新たに発行された保険契約グループは不利な契約になることが多かった。

一部の利害関係者は、IFRS第17号の当初の要求事項は、IFRS第15号 「顧客との契約から生じる収益」 の要求事項と矛盾していると述べた。IFRS第17号とIFRS第15号の測定アプローチは異なるものの、この修正は契約獲得コストに関するIFRS第17号の要求事項とIFRS第15号の要求事項をより近づける調整である。

IASBは、IFRS第17号の既存のガイダンスが十分であると考えたため、保険獲得キャッシュ・フローの一部を予想される契約更新に配分する方法について、特定の要求事項を策定しないことを決定した。

 

見解

この修正は、保険契約グループのCSMの当初の測定に、当該グループに関連するキャッシュ・フローについて過去に認識した資産又は負債の認識の中止による影響を含めるように要求している。関連するキャッシュ・フローとは、グループの当初認識前ではなく当初認識後に支払われていたら、当初認識時にグループの履行キャッシュ・フローに含まれるであろうキャッシュ・フローである。IASBは、保険契約グループに関連し、当該グループが認識される前に支払われるか、又は受領される他のキャッシュ・フロー(例えば、支払期日前に支払われる保険料)が存在する可能性に気が付いた。修正前のIFRS第17号では、これらのキャッシュ・フローの会計処理について言及していなかった。

 

 

保険獲得キャッシュ・フローに係る資産―経過措置及び企業結合

IASBは、経過措置に関する規定を修正し、企業に対し、移行日において、保険獲得キャッシュ・フローに係る資産を識別し、認識し、測定することを要求することとした。企業がIFRS第17号を遡及適用することが実務上不可能な場合に、かつその場合にのみ、企業は修正遡及アプローチ又は公正価値アプローチのいずれかを適用して、移行日における保険獲得キャッシュ・フローに係る資産を測定する。

修正遡及アプローチは以下のように修正される。

a)IFRS第17号C8項の要求事項に従い、遡及アプローチを適用するための合理的で裏付け可能な情報を企業が有していない場合にのみ、企業は以下のb) からd) の修正を使用することが認められる。

b)a) で認められている範囲内で、企業は、移行日現在で利用可能な情報を用いて、以下の方法により保険獲得キャッシュ・フローに係る資産を測定しなければならない。

i. 移行日前に支払われた保険獲得キャッシュ・フローの金額を識別する(移行日前に消滅した契約に関連する金額を除く)

i. b) iで識別した金額を、企業が今後適用する方法と同じ規則的かつ合理的な配分方法を用いて以下に対して配分する

1. 移行日に認識される保険契約グループ

2. 移行日後に認識すると予想される保険契約グループ

c)企業は、b) ii.1を適用して算定した保険獲得キャッシュ・フローの金額を控除することにより、移行日に認識される保険契約グループのCSMの測定を調整しなければならない。

d)企業は、移行日後に認識すると予想される保険契約グループについて、b) ii.2を適用して算定した金額で保険獲得キャッシュ・フローに係る資産を認識しなければならない。

上記修正を適用するために必要な合理的で裏付け可能な情報を有していない場合、企業は、修正遡及アプローチを適用して、移行日後に認識すると予想される契約グループに関連する保険獲得キャッシュ・フローに係る資産を認識できず、また、移行日に存在する保険契約グループのCSMを調整することはできない。

公正価値アプローチを適用する企業は、以下の権利を取得するための保険獲得キャッシュ・フローが未払であった場合、移行日に負担するであろう保険獲得キャッシュ・フローの金額として測定した保険獲得キャッシュ・フローに係る資産を認識しなければならない。

  • 企業がすでに支払った保険獲得キャッシュ・フローを再度支払うことなく、移行日後に将来の契約(更新予定分を含む)を獲得する権利
  • 移行日前に発行されたが移行日において未だ認識されていない保険契約の保険料から保険獲得キャッシュ・フローを回収する権利

IFRS第17号は、事業を構成しない保険契約の移転又はIFRS第3号 「企業結合」 の範囲に含まれる企業結合において、企業が保険契約を獲得した場合の保険獲得キャッシュ・フローに係る資産の取扱いについて言及していなかった。そのためIASBは、IFRS第3号及びIFRS第17号を修正し、事業を構成しない保険契約の移転又はIFRS第3号の範囲に含まれる企業結合において、取得日の公正価値で測定した別個の保険獲得キャッシュ・フローに係る資産を認識するように要求した。

また、IASBは、IFRS第17号への移行時に、移行日において認識される保険獲得キャッシュ・フローに係る資産について、企業が当該資産の減損に係る要求事項を遡及的に、すなわち、移行日前の期間に対して、適用することは要求されないことを明確化した。

 

期中財務諸表

IFRS第17号は通常、将来のサービスに関連する履行キャッシュ・フローの見積りの変更についてCSMを調整することを要求している一方で、現在及び過去のサービスに関連する見積りの変更ならびに実績調整(すなわち、過去の予測値と現在の実績値の差)は直ちに純損益に認識することを要求している。そのため、会計処理は報告日のタイミングによって異なる。

IAS第34号 「期中財務報告」 では、企業の報告の頻度によって年次の経営成績の測定が左右されてはならないと述べている。修正前のIFRS第17号B137項では、企業が、その後の期中財務報告期間又は事業年度において、過去の期中財務報告期間に行った会計上の見積りの取扱いを変更しないことを要求していた。この要求事項の適用は、報告の頻度が認識額に影響することを意味していた。

公開草案はこの要求事項の変更を提案していなかったが、公開草案に対するコメント提出者のほとんどが、その適用に関する懸念を示すコメントを追加した。

これらの懸念に基づき、IASBはIFRS第17号を修正し、企業に以下のことを要求している。

  • 過去の期中財務報告で行った会計上の見積りについて、その後の期中財務報告又は年次財務報告でIFRS第17号を適用する際に、取扱いを変更するかどうかを会計方針として選択すること
  • その会計方針の選択を、発行した保険契約及び保有している再保険契約の全てに適用すること(すなわち、会計方針の選択は報告企業レベルで行われる。このことは、子会社レベルの財務諸表における選択が、当該子会社を含む連結財務諸表レベルで行われる選択と同一である必要はないことを意味する。)

 

投資サービスに関連するCSMの配分

IFRS第17号は、ある期間に提供されたサービスの金額を基礎として収益を認識することを要求している。収益は、(報告期間の期首に予想した金額である)保険サービス費用に対する報酬である保険料の金額と、カバー単位で表現される報告期間に提供されたサービスの量に基づく未稼得利益(CSM)の解放から構成される。

今回の修正は、

  • 直接連動有配当保険契約のカバー単位及びカバー期間の定義に、企業が提供する投資関連サービスの給付の量及び予想期間が含まれることを明確化している。
  • 企業が、直接連動有配当保険契約以外の保険契約のCSMを、保険カバー及び投資リターン・サービスの両方の給付の量及び予想期間を考慮して決定されたカバー単位に基づいて配分することを要求している。

また、この修正は、(直接連動有配当保険契約における)投資関連サービス及び(直接連動有配当保険契約以外の保険契約における)投資リターン・サービスを定義している。

投資リターン・サービスは、以下の3つの条件が全て満たされた場合にのみ存在する。

  • 契約に投資要素が含まれているか、又は保険契約者がある金額を引き出す権利を有している
  • 当該構成要素又は当該金額に投資リターンが含まれる
  • 企業は当該投資リターンを生み出すために投資活動の実施を見込んでいる。

企業は、保険契約が投資リターン・サービス又は投資関連サービスを提供しないと判断する場合であっても、保険契約者のために保険カバーからの給付を拡充する投資活動を実施する範囲で、当該投資活動に関連するコストを保険契約の境界線内のキャッシュ・フローとして含めることが求められる。

企業は、以下の開示を提供する必要がある。

  • 企業が報告期間末日に残存しているCSMを純損益にいつ認識すると見込んでいるのかについて、適切な期間帯での、定量的開示
  • 保険カバー及び投資関連サービス又は投資リターン・サービスによって提供される給付の、相対的なウェイト付けを決定するために使用したアプローチの具体的な開示

修正前のIFRS第17号では、カバー単位に基づいて、保険のカバー期間、すなわち保険事故に対するカバーが提供されている間においてのみCSMを認識することが認められていた。契約上、投資と保険契約サービスの提供時期は異なる場合がある。この修正により、直接連動有配当保険契約のカバー単位の定義には、保険と投資の両サービスの提供が含まれ、一般モデルにおけるCSMは、保険カバーと投資リターン・サービスの両方を考慮して決定されるカバー単位に基づいて配分される。これに対応して、開示の要求事項も修正された。

見解

直接連動有配当保険契約は、定義上、投資関連サービスを提供する。直接連動有配当保険契約以外の場合には、企業は、規準に基づいて投資リターン・サービスがあるかどうかを識別する必要がある。

公開草案は、「契約上のサービス・マージン」、「カバー期間」、「残存カバーに係る負債」、「発生保険金に係る負債」の定義について結果的修正を提案した。特に、IASBは、IFRS第17号を修正して、企業が発行した保険契約から生じる全ての義務を、残存カバーに係る負債及び発生保険金に係る負債の定義に含めることを提案した。

IASBは、IFRS第17号付録Aに 「保険契約サービス」 の定義が追加されることを確認したが、意図しない結果を招くリスクがあるため、基準の中で使用される他の用語は変更しないこととした(つまり、「カバー単位」、「カバー期間」、「残存カバーに係る負債」 といった用語の中の 「カバー」 を 「サービス」 に置き換えない)。

 

 

保有している再保険契約及び非デリバティブ金融商品を含めるリスク軽減オプションの拡張

IFRS第17号には、直接連動有配当保険契約に限り、特定の状況において、基礎となる項目に対する企業の持分に係る金融リスクの変動の影響を、CSMを調整する代わりに、純損益に認識する選択肢が含まれる(リスク軽減オプション)。IFRS第17号の修正は、直接連動有配当保険契約において、金融リスクを軽減するために、保有している再保険契約又は非デリバティブ金融商品を利用する場合に、リスク軽減オプションの適用を拡張するものである。

IFRS第17号では、保有している再保険契約及び発行した再保険契約はいずれも、直接連動有配当保険契約の定義から除外されており、変動手数料アプローチ(VFA)ではなく、一般モデルを使用して会計処理される。これは、直接連動有配当保険契約について、企業がデリバティブでリスクをヘッジし、リスク軽減オプションを適用している場合を除き、金融保証の影響及び基礎となる項目に対する企業の持分に対する金融リスクの影響が、純損益ではなく、CSMに反映されることを意味していた。しかし、保有している再保険契約については金融リスク及び非金融リスクの双方を再保険者に移転する可能性があり、金融保証の影響及び金融リスクの影響は純損益に反映された。これによりミスマッチが生じていた。

このミスマッチに対処するため、IASBはいくつかの選択肢を検討した。IASBは、基礎となる契約が直接連動有配当保険契約である場合に、直接連動有配当保険契約の範囲を拡張して保有している再保険契約を含めることに反対した。その代わりに、IASBは、リスク軽減オプションに使用できるリスク軽減手段の範囲を拡張することを決定した。デリバティブに加えて、保有している再保険契約、及び保証の影響などの基礎となる項目から生じない金融リスクを軽減するために、純損益を通じて公正価値で測定される非デリバティブ金融商品が、リスク軽減手段として認められる。

見解

認められる手段のいずれかを用いて直接連動有配当保険契約にリスク軽減オプションを適用するためには、企業は文書化したリスク管理目的及びリスク管理戦略を有していなければならず、その目的を適用する際には、経済的相殺が存在することを立証する必要がある。

選択は取消不能であり、保険グループが適格要件を満たさなくなった場合にのみ、リスク軽減オプションは中止される。

EDを策定する際に、IASBは、金融リスクを軽減するためにデリバティブ以外の金融商品(例えば、債券)を利用する場合にもリスク軽減オプションを適用すべきであるという関係者からの提案を却下した。EDに対するコメント提出者は、会計上のミスマッチをさらに減らすため、IASBがこの決定を再検討するように提案した。

一部のコメント提出者は以下のように説明した。

  • 企業は、直接連動有配当保険契約の金融リスクを軽減するために、デリバティブと非デリバティブ金融商品(例えば、固定利付債券)を組み合わせて使用することが多い。
  • 企業は、デリバティブ又は非デリバティブ金融商品のいずれかを用いて、金融リスクを軽減することができる。これらのコメント提出者は、非デリバティブ金融商品を利用する方が、デリバティブを利用するよりもコストがかからないことが多いと説明した。
  • デリバティブの利用可能性が限られている場合には、非デリバティブ金融商品を利用することにより、金融リスクの一部を軽減することができる。

IASBは、これらのコメントを検討し、企業が、履行キャッシュ・フローに与える金融リスクの影響を、純損益を通じて公正価値で測定する非デリバティブ金融商品を用いて軽減する場合に、リスク軽減オプションの適用を認めることを決定した。企業は、適格要件が満たされた場合にのみ、当該オプションを適用することが認められる。

 

 

基礎となる契約が不利な場合の保有している再保険契約

この修正は、基礎となる不利な保険契約グループの当初認識時又は当該グループへの不利な契約の追加時に、企業が損失を認識する場合、保有している再保険契約グループのCSMを調整し、その結果として収益を認識することを要求するものである。企業は、保有している再保険契約から回収される損失の金額を以下の積によって算定する。

  • 基礎となる保険契約について認識する損失
  • 基礎となる保険契約に係る保険金のうち、保有している再保険契約から回収すると企業が見込んでいる割合

IFRS第17号に対するこの修正は、基礎となる保険契約について損失が認識される前又は損失が認識されるのと同時に、保有している再保険契約が認識される場合にのみ適用される。

不利な契約グループには、再保険契約でカバーされた契約とそうでない契約の両方が含まれる場合がある。この修正は、上記のような状況において、企業が保有している再保険契約からの損失の回収に関する要求事項を適用するために、規則的かつ合理的な配分方法を用いることを要求している。これにより、保有している再保険契約からの損失の回収額を決定する目的のために、基礎となる保険契約に係る損失額を識別するシステムを開発する必要はなくなる。企業は、保険契約グループの損失要素の事後変動のうち、(再保険契約でカバーされた)基礎となる保険契約に関連する部分を決定するために、同一の規則的かつ合理的な配分方法を用いなければならない。

この修正は、会計上のミスマッチや有用な情報の著しい喪失を回避し、複雑さを軽減するのにも有用である。

見解

この修正の主な特徴は、当初認識時に不利な保険契約を発行し、保有している再保険契約を利用してリスクを移転する企業の 「初日(day one)」 のミスマッチを解消することである。

EDにおいて、IASBは、比例的なカバーを提供する保有している再保険契約に対してのみ、修正が適用されることを提案した。しかし、コメント提出者は、修正案が、保有している再保険契約の限定的な範囲にのみ適用されることに懸念を表明した。これらのコメント提出者は、比例的なカバーを提供する保有している再保険契約の定義を拡大するか、あるいは保有している再保険契約の全てにこの修正を適用するべきであるとの見解を示した。IASBは、これらのコメント提出者の見解に同意し、保有している再保険契約の全てに適用可能な修正にすることを決定した。

 

 

財政状態計算書における保険契約の表示の簡素化

この修正は、保険契約グループではなく、保険契約ポートフォリオを用いて財政状態計算書における保険契約の資産及び負債を表示することを企業に要求している。なお、認識及び測定のための集約レベルは、引き続き保険契約グループとなる。

IASBは、財政状態計算書において、より高い集約レベルで保険契約を表示するための実務上の救済を提供することのメリットと、相殺を禁止する 「財務報告に関する概念フレームワーク」 の要求事項とのバランスについて検討し、実務上の救済を提供することにメリットがあると考えた。相殺による表示における情報の喪失は、コスト軽減と、修正が既存の導入プロセスを混乱させることがないという事実とを考慮すると、許容可能であると考えられる。従って、IASBは、企業がポートフォリオ・レベルでグループを相殺するように、表示の要求事項を修正した。資産及び負債であるグループを区分して表示する代わりに、資産である保険契約ポートフォリオ、負債である保険契約ポートフォリオ、資産である保有している再保険契約のポートフォリオ及び負債である保有している再保険契約のポートフォリオを区分して表示することが求められる。

見解

測定のための会計単位は、契約グループのままである。この修正により、当該会計単位に基づく表示の要求事項は削除されるが、開示の要求事項を満たすためには、グループレベルの情報が引き続き要求される場合がある。例えば、財政状態計算書に表示される金額は、注記において、損失要素を除いた残存カバーに係る負債、損失要素及び発生保険金に係る負債に区分する必要がある。開示される情報がポートフォリオより詳細なレベルになるのは、ポートフォリオ内の一部のグループが不利である場合に限られる。

 

 

企業結合に係る追加の経過的救済措置

企業結合又はポートフォリオの移転により取得した保険契約について、保険契約の取得又は移転前に発生した保険金の決済に係る負債は、クレーム・ディベロップメントが不利となるリスクを取得企業に移転する。従って、取得企業にとって、保険契約の取得又は移転前に発生した保険金の決済に係る負債は、残存カバーに係る負債に分類される。この分類により、将来の期間において取得企業は保険収益を認識することになる。

IASBは、IFRS第17号を修正することにより、公正価値アプローチ及び修正遡及アプローチのいずれを用いても、企業結合やポートフォリオの移転により取得した契約のクレーム・ディベロップメントのカバーに関する移行時のCSMを見積ることが困難であるという作成者の懸念に対応した。

この修正は、経過措置を変更し、修正遡及アプローチに例外を導入して、契約が取得又は移転される前に発生した保険金の決済に係る負債を発生保険金に係る負債として分類することを企業に要求するものである。この例外の使用は、企業が完全遡及アプローチを適用するための合理的で裏付け可能な情報を有していない場合にのみ要求される。公正価値アプローチにおいてもこのような負債を発生保険金に係る負債として分類することを選択できる救済措置を提供する。

この例外の適用の影響は、取引日に受払いされた対価と履行キャッシュ・フローとの差額がCSMに計上されるのではなく、期首の利益剰余金に認識されることである。事後の期間において、保険収益は認識されない。

見解

この修正はIFRS第17号への移行時にのみ適用される。従って、IFRS第17号への移行後に取得した保険契約の測定において、クレーム・ディベロップメントが不利となるリスクは残存カバーに係る負債(事後の収益)に含まれる。

 

 

リスク軽減オプションの適用日及び公正価値アプローチの使用に関する追加の経過的救済措置

EDを策定する際、IASBはリスク軽減オプションの遡及適用を認めることを検討したが、事後的判断の使用を避けるため、IFRS第17号における遡及適用の禁止を変更せず維持することとした。その代わりに、IASBは、IFRS第17号の経過措置を修正し、以下の場合に限り、直接連動有配当保険契約のグループに対して公正価値アプローチを使用できるようにすることを決定した。

  • 当該グループについてIFRS第17号を遡及適用できる
  • 企業が移行日から将来に向かって、リスク軽減オプションを当該グループに適用することを選択する
  • 企業が当該グループから生じる金融リスクを軽減するために移行日前に、デリバティブ、保有している再保険契約、又は純損益を通じて公正価値で測定される非デリバティブ金融商品を利用していた。

また、IASBは、IFRS第17号の経過措置を修正し、リスク軽減オプションを適用するためのリスク軽減関係を移行日までに指定することを条件に、企業が適用開始日ではなく移行日から将来に向かってリスク軽減オプションを適用できるようにした。適用開始日は、企業が初めてIFRS第17号を適用する事業年度の期首であり、移行日は、適用開始日の直前の事業年度の期首である。

今回の修正にあたって、IASBは、ヘッジ会計に関する事後的判断の使用を認めないという原則を維持しつつ、リスク軽減オプションを遡及適用しないことの影響に関する関係者の懸念に対応している。

 

その他の修正

修正
見解

IFRS第17号B96項の修正により、貨幣の時間価値及び金融リスクに関連する変動により生じた、投資要素又は保険契約者に対する融資の予想返済額と実際返済額との差異から生じる変動は、CSMの調整から除外される。

投資要素の返済は確実であるが、返済の時期のみ不確実性がある。この修正は、貨幣の時間価値及び金融リスクに関連する変動が保険金融収益又は費用に反映されることを要求している。ただし、投資要素の返済額の変動のうち、貨幣の時間価値及び金融リスクに関連しない部分については、ロック・イン割引率でCSMを調整する。

投資要素の対象期間の期首から予期せぬ返済まで又は不払いまでの期間において、当該投資要素は、貨幣の時間価値の影響を受け、また、金融リスク、貨幣の時間価値及び金融リスクの変動の影響を受ける可能性がある。これらの影響は、期首において予想されたとおりである場合もあれば、期首において予想されたものと異なる場合もある。いずれの場合においても、その影響は保険金融収益又は費用として認識されるべきであり、CSMを調整すべきではない。

IFRS第17号B 96項(d)の修正 は、企業が非金融リスクに係るリスク調整の変動を非金融リスクに関連するものと金融リスク及び貨幣の時間価値の影響に関連するものに分解することを選択した場合に、CSMの測定、金融リスクの変動の認識時期及び収益と保険金融収益又は費用の分解に影響を及ぼすことを明確にしている。

2019年4月のTRGの議論では、非金融リスクに係るリスク調整の変動を、金融リスクに関連するものと非金融リスクに関連するものとに分解する選択は任意であることを確認した。

投資要素の定義の修正は、定義を満たすために、全ての状況において返済可能な金額でなければならないことを明確にしている。

この修正により、「全ての状況において返済可能」 とは、失効時、解約時及び消滅時に返済可能であることを明確にしている。契約の中には、保険金請求の発生にかかわらず保険契約者に返済されるものもあるが、例えば失効時には返済可能でないものもある。このような金額は、投資要素について明確化された定義を満たしていない。

分離した投資要素が裁量権付有配当投資契約の定義を満たす場合に、当該要素にIFRS第17号を適用することを確実にするための修正が行われた。

この修正は、独立した契約として発行されたならばIFRS第17号の適用範囲内となる契約を表す別個の構成要素を、IFRS第17号の適用範囲から意図せず除外していたことを明らかにした上で克服するものである。

IFRS第17号48項(a)及びIFRS第17号50項(b)の修正は、非金融リスクに係るリスク調整の変動に対して損失要素を調整することを明確にしている。

この修正は、履行キャッシュ・フローの変動が、期待将来キャッシュ・フローの変動と同様に、非金融リスクに係るリスク調整の変動を含むことを明確にしている。

IFRS第17号88項及び89項がリスク軽減オプションの適用から生じる保険金融収益又は費用には適用されないことを明記し、リスク軽減オプションの適用から生じる保険金融収益又は費用の表示方法を明記するために、リスク軽減オプションに係る新たな要求事項を追加する修正が行われた。これにより、表示は使用された軽減手法に従うことが明確にされた。

IFRS第17号の 「その他の包括利益(OCI)」 オプションには、純損益に認識すべき保険金融収益又は費用の金額を決定するための2つの方法がある。企業は、保険金融収益又は費用の(全額を純損益に認識するのではなく)一部をOCIに含めるかどうかを選択することができるが、OCIを用いることを選択した場合には、純損益及びOCIの金額を決定するためにどの方法を適用するかを選択することはできない。その方法は状況によって異なる。当該契約グループが変動手数料アプローチの契約グループであり、企業が基礎となる項目を保有している場合には、企業は当期の簿価利回りを使用しなければならない。その他の全ての契約グループについては、金融変数が保険契約者への支払金額に実質的な影響を与える契約である場合は実効利回法又は予想予定利率法を使用し、その他の全ての契約については当初認識時に決定したロック・イン割引率を用いなければならない。また、OCIオプションを適用し、かつ当期の簿価利回りの使用が求められている企業は、IFRS第17号のリスク軽減オプションの適用を選択する場合もある。その場合は、会計上のミスマッチが生じることになるが、この修正により、ミスマッチへの対応が行われた。

IFRS第17号 B 66項(f)とB 65項(m)の不一致を解消するための修正及びIFRS第17号B121項の結果的修正が行われた。

企業は、修正されたIFRS第17号B65項(m)を適用して、保険契約の条件に基づいて保険契約者に個別に請求可能な法人所得税の受払額を履行キャッシュ・フローに含める。修正の意図した結果は、企業が、IFRS第17号を適用して他の発生費用に対する保険収益の認識と整合的な方法で、当該税額のために保険契約者が支払った対価について保険収益を認識することである。企業が保険収益を認識できるようにするため、IFRS第17号:B121項の項目一覧は、保険契約の条件に基づいて保険契約者に個別に請求可能な法人所得税を含めるように修正された。

基礎となる項目の変動に起因して生じた保険契約グループの測定の変動は、投資における変動、すなわち、貨幣の時間価値又は金融リスクに関する仮定に関連する変動として取り扱わなければならないことを明確にする修正が行われた。

この修正は、保険契約の基礎となる項目自体に、保険契約のプールのような非金融リスクが含まれる場合の保険契約の取扱いを明確にするものである。

IFRS第17号B 123項(a)の修正は、顧客への融資及び顧客への融資の免除に関するキャッシュ・フローから生じる変動が、保険収益から除外されることを明確にしている。

保険事故の発生時に免除される融資(エクイティ・リリース・モーゲージなど)や再保険契約など、さまざまな種類の保険契約には、発行者から保険契約者への融資が含まれる。このような融資の実行金額及び返済金額を収益から除外することは、投資要素の取扱いと整合的である。融資の免除は、他の保険金請求と同様に取り扱われる。

IFRS第17号103項の修正は、保険契約負債の期首残高から期末残高への調整表において、企業が返戻保険料を区分開示する必要がないことを明確にしている。

投資要素の定義について、あらゆる状況において返済可能であると明確にするにあたり、IASBは、保険金請求の発生にかかわらず返済可能であるが契約の満期時に返済できない金額は、サービスの提供に伴って費消されるため、投資要素ではないことを明確にした。このような契約満了前に返済可能な金額は、返戻保険料である。返済時点において、このような金額を投資要素の返済として識別するか、又は返戻保険料として識別するかは、作成者にとって負担と考えられていた。

IFRS第17号28項の修正は、保険契約がいつ発行されたかにかかわらず、保険契約が認識要件を満たした時点でグループに追加されることを明確にしている。

IASBは、IFRS第17号22項が、保険契約の認識時期ではなく発行時期に言及する規定あるため、同項について同様の修正は必要ないことを確認した。これは、(1つの年次グループが存在する)ある期間に発行されたが、将来の期間に開始するカバー期間に関連している契約に対して、実務上の示唆を与えている。

IFRS第17号第104項、B 121項及びB 124項の修正は、非金融リスクに係るリスク調整に関連する金額を、その他の構成要素の記述から明示的に除外する。

この修正は、二重計上の可能性を防止するために必要となった。

感応度分析に関する開示要求において、「リスク・エクスポージャー」 を 「リスク変数」 に置き換える修正が行われた。

この修正は、使用する用語を訂正するために必要であった。

IFRS第17号B93項からB95A項までの修正は、企業結合への言及がIFRS第3号の範囲に含まれる企業結合であることを明確にする。

この修正により、共通支配下の企業結合については、これらの測定の要求事項が必ずしも適用されないことが明確になった。

IFRS第3号の結果的修正により、IFRS第17号の適用開始日前に行われた企業結合について、企業がIFRS第3号17項(b)における例外を引き続き使用すること、及び、取得した保険契約を、取得日現在ではなく契約の開始日現在の契約条件に基づいて分類することが認められた。

保険リスクの重要性は、時の経過につれて変化する可能性がある。企業結合により取得した契約については、取得企業はIFRS第3号15項に基づき、取得日における保険リスクの重要性を評価し、取得日において保険契約として分類する。しかし、IFRS第3号には、IFRS第4号の適用範囲の保険契約について、この原則の例外が含まれていたため、この実務上の便法により、IFRS第17号の適用開始日前に行われた企業結合について、既存の保険契約の分類を維持することが可能になる。

IFRS第7号 「金融商品:開示」、IFRS第9号及びIAS第32号 「金融商品:表示」 の範囲に関する結果的修正が行われた。この修正により、これらの基準における 「IFRS第17号の範囲に含まれる契約」 という文言は、 「IFRS第17号で定義されている保険契約及びIFRS第17号の範囲に含まれる裁量件付有配当投資契約」 に置き換えられる。

この修正は、保有している保険契約が、IFRS第7号、IFRS第9号及びIAS第32号の範囲に含まれないことを明確にするために必要である。

 

 

集約レベル-保険契約者間でリスクの世代間共有のある保険契約の年次コホート

EDに至るまでの議論では、IASBは集約レベルに関して、特に年次コホートの要求事項について受領したフィードバックを検討した。当時、IASBは全会一致でIFRS第17号の集約レベルの要求事項を変更しないことを決議した。

IASBはEDにおいて年次コホートの要求事項に関する質問をしなかったが、一部のコメント提出者は要求事項を変更せずに維持するとのIASBの決定についてコメントした。IASBの決定に同意する一部のコメント提出者もいたが、他のコメント提出者は、保険契約者間でリスクの世代間共有のある保険契約について、IASBが年次コホートの要求事項の免除を提案するべきであると述べた。

本論点を分析した後、IASBは以下のように結論付けた。

  • 免除を提案する理由は、年次コホートの要求事項に係るコストが、一部の契約に関する情報の便益を上回る可能性があるためである。これらのコストには、契約を忠実に表現する情報をもたらす仮定や配分を決定する際、状況によって、かなりの判断が必要とされることが含まれる。
  • そのような免除の適用に対して潜在的な需要があり、また現在の経済環境における金融保証の影響に関する情報が損なわれる危険があるため、免除は堅牢で明確に定義されたものであることが必要である。
  • 恣意的で正当化することが困難な 「ブライト・ライン」 を用いず、また特に複雑な規準を策定せずに、このような免除を規定する方法はない。
  • 結果的に生じる複雑さにより、基準の導入が中断され、進行中の基準適用の便益が減少する。

従って、IASBは、IFRS第17号の年次コホートの要求事項を変更せず維持すると決定した。

 

 

経過措置及び発効日

企業は、IAS第8号 「会計方針、会計上の見積りの変更及び誤謬」 に従って、修正を遡及適用する。修正は、2023年1月1日以後開始する事業年度から適用される。早期適用は認められる。

以 上

 

*1  EDの詳細な内容については、本誌2019年9月号IFRS in Focus「IASBはIFRS第17号『保険契約』の導入を支援する修正案を公表」(https://www2.deloitte.com/jp/ja/pages/get-connected/pub/atc/201909/kaikeijyoho-201909-05.html)を参照いただきたい。

本記事に関する留意事項

本記事は皆様への情報提供として一般的な情報を掲載するのみであり、その性質上、特定の個人や事業体に具体的に適用される個別の事情に対応するものではありません。また、本記事の作成または発行後に、関連する制度その他の適用の前提となる状況について、変動を生じる可能性もあります。個別の事案に適用するためには、当該時点で有効とされる内容により結論等を異にする可能性があることをご留意いただき、本記事の記載のみに依拠して意思決定・行動をされることなく、適用に関する具体的事案をもとに適切な専門家にご相談ください。

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