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2020年12月期決算の会計処理に関する留意事項
月刊誌『会計情報』2020年12月号
公認会計士 石川 慶、公認会計士 和田 夢斗
本稿では、2020年12月期決算の会計処理に関する主な留意事項について解説を行う。
2020年12月期に適用される新基準等には、下記Ⅰ〜Ⅳがある。Ⅱは2019年12月期から早期適用が可能であったが、2020年12月期から原則適用となっている。また、2020年12月期において留意が必要な公表物として下記Ⅴがある。さらに、2020年12月期において早期適用が可能な新基準等には、下記Ⅵ〜Ⅷがある。
【目次】 |
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【2020年12月期に適用される会計基準等】 |
(注1) 2020年12月期において早期適用が可能な会計基準等には、上記の他、企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」等がある。
Ⅰ 改正企業会計基準第21号「企業結合に関する会計基準」等
1 公表の経緯・目的
2013年12月の第277回企業会計基準委員会において、公益財団法人財務会計基準機構内に設けられている基準諮問会議より、企業会計基準第21号「企業結合に関する会計基準」(以下「企業結合会計基準」という。)に係る条件付取得対価に関連して対価の一部が返還される場合の取扱いについて検討を求める提言がなされ審議を行うこととなった。
検討の結果、条件付取得対価について、企業結合契約締結後の将来の特定の事象又は取引の結果に依存して、企業結合日後に追加的に交付される又は引き渡されるもののみでなく返還されるものも含まれる旨、及び将来の業績に依存する条件付取得対価について対価が返還される場合の会計処理を明確にする改正が行われている(改正企業結合会計基準65-2項)。
また、企業会計基準適用指針第10号「企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針」(以下「結合分離適用指針」という。)については、上記の条件付取得対価に係る改正の他、結合当事企業の株主に係る会計処理に関する適用指針の記載について企業会計基準第7号「事業分離等に関する会計基準」(以下「事業分離等会計基準」という。)の記載と整合性を図るなどの改正が行われている(改正結合分離適用指針1-2項、338-6項)。
2 条件付取得対価の定義
条件付取得対価について、企業結合契約締結後の将来の特定の事象又は取引の結果に依存して、企業結合日後に追加的に交付される又は引き渡されるもののみでなく、返還されるものも含まれる旨が明確にされた(改正企業結合会計基準(注2))。
改正前 | 改正後 |
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条件付取得対価とは、企業結合契約において定められるものであって、企業結合契約締結後の将来の特定の事象又は取引の結果に依存して、企業結合日後に追加的に交付又は引き渡される取得対価をいう(改正前企業結合会計基準(注2))。 |
条件付取得対価とは、企業結合契約において定められるものであって、企業結合契約締結後の将来の特定の事象又は取引の結果に依存して、企業結合日後に追加的に交付される若しくは引き渡される又は返還される取得対価をいう(改正企業結合会計基準(注2))。 |
(下線は筆者による)
3 対価が返還される条件付取得対価の会計処理
条件付取得対価が企業結合契約締結後の将来の業績に依存する場合において、対価の一部が返還されるときには、条件付取得対価の返還が確実となり、その時価が合理的に決定可能となった時点で、返還される対価の金額を取得原価から減額するとともに、のれんを減額する又は負ののれんを追加的に認識する(改正企業結合会計基準27項(1)、改正結合分離適用指針47項(1))。
追加的に認識する又は減額するのれん又は負ののれんは、企業結合日時点で認識又は減額されたものと仮定して計算し、追加認識又は減額する事業年度以前に対応する償却額及び減損損失額は損益として処理する(改正企業結合会計基準(注4)、改正結合分離適用指針47項(1))。
条件付取得対価が企業結合契約締結後の将来の業績に依存する場合とは、被取得企業又は取得した事業の企業結合契約締結後の特定事業年度における業績の水準に応じて、取得企業が対価を追加で交付する若しくは引き渡す又は対価の一部の返還を受ける条項がある場合等をいう(改正企業結合会計基準(注3))。
(結論の背景) |
4 結合分離適用指針の記載内容の改正
結合当事企業の株主に係る会計処理に関する結合分離適用指針の記載について、事業分離等会計基準と記載内容の整合性を図るための改正が行われている(改正結合分離適用指針279項から289項)。
また、分割型会社分割が非適格組織再編となり、分割期日が分離元企業の期首である場合の分離元企業における税効果会計の取扱いについて、平成22年度税制改正において分割型会社分割のみなし事業年度が廃止されていることから、関連する定めが削除されている(改正結合分離適用指針109項及び403項)。
削除された改正前の定め |
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5 適用時期等
改正企業結合会計基準及び改正結合分離適用指針は、2019年4月1日以後開始する事業年度の期首(12月決算会社では2020年12月期の期首)以後実施される組織再編から適用する(改正企業結合会計基準58-3項、改正結合分離適用指針331-5項)。
これは、一般に、組織再編の会計処理を過去に遡って処理することは、長期にわたり相当程度の情報を入手することが必要になることが多く実務的な対応に困難を伴うことが考えられるためとされている(改正企業結合会計基準129-3項、改正結合分離適用指針460項)。
改正企業結合会計基準及び改正結合分離適用指針の適用初年度において、これまでの会計処理と異なることとなる場合には、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱う(改正企業結合会計基準58-4項、改正結合分離適用指針331-6項)。
なお、改正企業結合会計基準及び改正結合分離適用指針の適用前に行われた企業結合及び事業分離等の会計処理の従前の取扱いについては、改正企業結合会計基準及び改正結合分離適用指針の適用後においても継続することとし、改正企業結合会計基準及び改正結合分離適用指針の適用日における会計処理の見直し及び遡及的な処理は行わない(改正企業結合会計基準58-4項、改正結合分離適用指針331-6項)。
Ⅱ 2018年改正実務対応報告第18号「連結財務諸表作成における在外子会社等の会計処理に関する当面の取扱い」等
ASBJは、2018年9月14日に改正実務対応報告第18号「連結財務諸表作成における在外子会社等の会計処理に関する当面の取扱い」(以下「2018年改正実務対応報告第18号」という。)及び改正実務対応報告第24号「持分法適用関連会社の会計処理に関する当面の取扱い」(以下合わせて「本改正実務対応報告」という。)を公表した。
1 2018年改正前の実務対応報告第18号の概要
原則的な取扱い | 連結財務諸表を作成する場合、同一環境下で行われた同一の性質の取引等について、親会社及び子会社が採用する会計方針は、原則として統一しなければならない(連結財務諸表に関する会計基準17項)。 |
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当面の取扱い | 実務対応報告第18号においては、当面の取扱いを定めており、在外子会社の財務諸表が国際財務報告基準(IFRS)又は米国会計基準に準拠して作成されている場合、及び国内子会社が指定国際会計基準又は修正国際基準に準拠した連結財務諸表を作成して金融商品取引法に基づく有価証券報告書により開示している場合(当連結会計年度の有価証券報告書により開示する予定の場合も含む。)には、当面の間、それらを連結決算手続上利用することができるとされている。 ただし、その場合であっても、 |
2 公表の経緯・目的
ASBJでは、2006年の実務対応報告第18号の公表から2018年改正実務対応報告第18号の検討時点までの間に、新規に公表又は改正されたIFRS及び米国会計基準を対象に、修正項目として追加する項目の有無について、我が国の会計基準に共通する考え方と乖離するか否かの観点や実務上の実行可能性の観点に加えて、子会社における取引の発生可能性や子会社において発生する取引の連結財務諸表全体に与える重要性の観点等から検討が行われた。当該検討を行う際には、IFRSのエンドースメント手続の結果を参考にしたとされている。
その結果、2018年改正実務対応報告第18号では、IFRS第9号「金融商品」における、資本性金融商品の公正価値の事後的な変動をその他の包括利益に表示する選択をしている場合の組替調整が、修正項目として追加されている。
(参考)修正項目の見直しにおいて検討された会計基準 修正項目の見直しにおいて、具体的には主に以下の会計基準の検討が行われたとされている。
(注)IFRS第16号「リース」、IFRS第17号「保険契約」及びASU第2016-02号「リース」は検討対象に含まれていない。 |
3 在外子会社等においてIFRS第9号「金融商品」を適用し、資本性金融商品の公正価値の事後的な変動をその他の包括利益に表示する選択をしている場合の組替調整に関する取扱い
在外子会社等においてIFRS第9号「金融商品」を適用し、資本性金融商品の公正価値の事後的な変動をその他の包括利益に表示する選択をしている場合には、
① 当該資本性金融商品の売却を行ったときに、連結決算手続上、取得原価と売却価額との差額を当期の損益として計上するよう修正する。 ② 企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」の定め又は国際会計基準第39号「金融商品:認識及び測定」の定めに従って減損処理の検討を行い、減損処理が必要と判断される場合には、連結決算手続上、評価差額を当期の損失として計上するよう修正する。 |
とされている。
また、持分法適用関連会社において2018年改正実務対応報告第18号に準じて処理を行う場合には、上記修正を行う。
4 適用時期等
2019年4月1日以後開始する連結会計年度の期首(12月決算会社では2020年12月期の期首)から適用する。
ただし、以下の時期から適用することができる。
① 本改正実務対応報告の公表日以後最初に終了する連結会計年度及び四半期連結会計期間において適用することができる。 ② 2020年4月1日以後開始する連結会計年度の期首(12月決算会社では2021年12月期の期首)又は在外子会社等が初めてIFRS第9号「金融商品」を適用する連結会計年度の翌連結会計年度の期首から適用することができる。なお、2019年4月1日以後開始する連結会計年度(12月決算会社では2020年12月期)以降の各連結会計年度において、本改正実務対応報告を適用していない場合、その旨を注記する。 |
本改正実務対応報告の適用初年度においては、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱う。
ただし、会計方針の変更による累積的影響額を当該適用初年度の期首時点の利益剰余金に計上することができる。この場合、在外子会社等においてIFRS第9号「金融商品」を早期適用しているときには、遡及適用した場合の累積的影響額を算定する上で、在外子会社等においてIFRS第9号「金融商品」を早期適用した連結会計年度から本改正実務対応報告の適用初年度の前連結会計年度までの期間において資本性金融商品の減損会計の適用を行わず、本改正実務対応報告の適用初年度の期首時点で減損の判定を行うことができる。
Ⅲ 実務対応報告第39号「連結納税制度からグループ通算制度への移行に係る税効果会計の適用に関する取扱い」
ASBJは、2020年3月31日に実務対応報告第39号「連結納税制度からグループ通算制度への移行に係る税効果会計の適用に関する取扱い」(以下「本実務対応報告」という。)を公表した。
1 公表の経緯・目的
2020年3月27日に成立した「所得税法等の一部を改正する法律」(令和2年法律第8号)(以下「改正法人税法」という。)において従来の連結納税制度が見直され、グループ通算制度に移行することとされた。
グループ通算制度の適用は2022年4月1日以後開始する事業年度からであるが、グループ通算制度の適用対象となる企業は、改正法人税法の成立日以後に終了する事業年度の決算(四半期決算を含む。)において、グループ通算制度の適用を前提として繰延税金資産の回収可能性の判断を行う必要がある。しかし、当該判断を行うことについて、実務上対応が困難であるとの意見が聞かれたことから、本実務対応報告において、税効果会計の適用に関して必要と考えられる取扱いを示すことを目的としている(本実務対応報告1項、7項)。
2 範囲
本実務対応報告は、以下の企業を対象とする(本実務対応報告2項)。
▶ 改正法人税法の成立日の属する事業年度において連結納税制度を適用している企業
▶ 改正法人税法の成立日より後に開始する事業年度から連結納税制度を適用する企業
改正法人税法の成立日の属する事業年度において連結納税制度を適用している企業及び改正法人税法の成立日より後に開始する事業年度から連結納税制度を適用する企業は、税務署長に対して届出書を提出しない限り、2022年4月1日以後開始する事業年度からグループ通算制度の適用対象となる(本実務対応報告8項)。 |
3 会計処理
改正法人税法の成立日以後に終了する事業年度の決算(四半期決算を含む。)についてグループ通算制度の適用を前提とした税効果会計における繰延税金資産及び繰延税金負債の額については、実務対応報告第5号「連結納税制度を適用する場合の税効果会計に関する当面の取扱い(その1)」(以下「実務対応報告第5号」という。)及び実務対応報告第7号「連結納税制度を適用する場合の税効果会計に関する当面の取扱い(その2)」(以下、実務対応報告第5号と合わせて「実務対応報告第5号等」という。)に関する必要な改廃をASBJが行うまでの間は、グループ通算制度への移行及びグループ通算制度への移行にあわせて単体納税制度の見直しが行われた項目について、企業会計基準適用指針第28号「税効果会計に係る会計基準の適用指針」(以下「税効果適用指針」という。)44項の定めを適用せず、改正前の税法の規定に基づくことができる(本実務対応報告3項)。
(結論の背景) 税効果適用指針44項では、「繰延税金資産及び繰延税金負債の額は、決算日において国会で成立している税法(以下、法人税等の納付税額の計算方法が規定されている我が国の法律を総称して『税法』という。)に規定されている方法に基づき8項に定める将来の会計期間における減額税金又は増額税金の見積額を計算する。なお、決算日において国会で成立している税法とは、決算日以前に成立した税法を改正するための法律を反映した後の税法をいう。」とされている。このため、2022年4月1日以後、グループ通算制度の適用を行う企業については、改正法人税法の成立日以後に終了する事業年度の決算(四半期決算を含む。)において、グループ通算制度の適用を前提とした税効果会計の適用を行う必要がある(本実務対応報告9項)。 連結納税制度を適用する場合の税効果会計の適用に関する取扱いは、実務対応報告第5号等に定められている。実務対応報告第5号等は連結納税の範囲に含まれる連結会社群が法人税法上同一の納税主体となることを前提としているのに対し、グループ通算制度は、企業グループ内の各法人を納税主体として、各法人が個別に法人税額の計算及び申告を行い、損益通算等の調整を行う制度とされている。連結納税制度とグループ通算制度では納税主体等が異なることを踏まえると、グループ通算制度の下での連結財務諸表及び個別財務諸表における繰延税金資産の回収可能性の企業による判断にあたっては、ASBJにおける、グループ通算制度に基づいた繰延税金資産の回収可能性の判断についての考え方の整理が必要であり、当該整理に合わせて実務対応報告第5号等を改廃する必要がある(本実務対応報告10項)。 このように、グループ通算制度に関する税効果会計の取扱いについては、繰延税金資産の回収可能性の判断に関する考え方が必ずしも明らかではないこと等から、グループ通算制度の適用を前提とした税効果会計の適用に関しては、税効果適用指針44項の定めを適用せず、改正前の税法の規定に基づくことができるものとする特例的な取扱いを定めることとした(本実務対応報告12項、13項)。 また、改正法人税法ではグループ通算制度への移行にあわせた単体納税制度の見直しが行われている。当該見直しはグループ通算制度を適用しない企業も対象となるが、グループ通算制度への移行にあわせて設けられたものであるため、本実務対応報告2項の企業を対象とした特例的な取扱いを定めるにあたって、その対象に含めることとした。なお、グループ通算制度への移行にあわせた単体納税制度の見直しが行われた項目は以下のとおりである(本実務対応報告14項)。
特例的な取扱いを定めるにあたっては、例えば、繰越欠損金に重要性のない企業では、特例的な取扱いを適用する必要のない場合が生じることも考えられるため、選択適用とされている(本実務対応報告15項)。 また、グループ通算制度の適用を前提とした税効果会計の適用が実務上困難と考えられる主な理由がASBJにおいて実務対応報告第5号等の改廃を検討する必要があることである点を踏まえ、特例的な取扱いを適用する期間は、実務対応報告第5号等に関する必要な改廃をASBJが行うまでの間とされている(本実務対応報告16項)。 |
4 開示
本実務対応報告に基づき税効果適用指針第44項の定めを適用せず、改正前の税法の規定に基づくこととした場合、繰延税金資産及び繰延税金負債の額について、本実務対応報告の取扱いにより改正前の税法の規定に基づいている旨を注記する(本実務対応報告4項)。
(結論の背景) 本実務対応報告に基づき特例的な取扱いを適用した場合、原則的な方法による場合と見積りの基礎が異なることから、繰延税金資産及び繰延税金負債の額について、本実務対応報告の取扱いにより改正前の税法の規定に基づいている旨の注記を求めることとした(本実務対応報告17項)。 |
5 適用時期
本実務対応報告は、公表日以後適用する(本実務対応報告5項)。
【参考「所得税法等の一部を改正する法律案要綱」におけるグループ通算制度の記載(抜粋)】
以下は、財務省から公表されている「所得税法等の一部を改正する法理案要綱」に示されているグループ通算制度に関する記載のうち、繰延税金資産の回収可能性を判断するにあたって関連があると考えられる項目を抜粋したものである。 三 法人税法の一部改正(第3条関係) 1 連結納税制度を見直し、通算制度として次の(1)から(11)までの措置を講ずるとともに、通算制度への移行にあわせて(12)の見直しを行うこととする。 (1) 損益通算及び欠損金の通算 連結納税義務者に関する規定並びに連結所得の金額及び連結法人税額の計算に関する規定を削除するとともに、次の措置を講ずる。(旧法人税法第1編第2章の2、第2編第1章の2関係) ① 損益通算(法人税法第64条の5関係) イ 通算法人の所得事業年度終了の日において通算完全支配関係がある他の通算法人の同日に終了する事業年度において通算前欠損金額が生ずる場合には、その通算法人のその所得事業年度の通算対象欠損金額は、その所得事業年度において損金の額に算入し、通算法人の欠損事業年度終了の日において通算完全支配関係がある他の通算法人の同日に終了する事業年度において通算前所得金額が生ずる場合には、その通算法人のその欠損事業年度の通算対象所得金額は、その欠損事業年度において益金の額に算入する。 (略) ② 欠損金の通算(法人税法第64条の7関係) イ 通算法人の欠損金の繰越控除の適用を受ける事業年度開始の日前10年以内に開始した事業年度において生じた欠損金額はその通算法人の特定欠損金額と各通算法人の欠損金額のうち特定欠損金額以外の金額(以下「非特定欠損金額」という。)の合計額を各通算法人の特定欠損金の繰越控除後の損金算入限度額の比で配分した金額との合計額とし、繰越控除はそれぞれ次に掲げる金額を限度とする。 (イ)各通算法人の損金算入限度額の合計額を各通算法人の特定欠損金額のうち欠損金の繰越控除前の所得の金額に達するまでの金額の比で配分した金額 (ロ)各通算法人の特定欠損金の繰越控除後の損金算入限度額の合計額を各通算法人の配分後の非特定欠損金額の比で配分した金額 (略) (5) その他の所得金額の計算 ① 税効果相当額の授受 内国法人が他の内国法人との間で通算税効果額を授受する場合には、その授受する金額は、損金の額及び益金の額に算入しない。(法人税法第26条、第38条関係) (注)上記の「通算税効果額」とは、通算制度を適用することにより減少する法人税及び地方法人税の額に相当する金額として内国法人間で授受される金額をいう。 (略) (12) 通算制度への移行にあわせた見直し ① 受取配当等の益金不算入制度について、次の見直しを行う。(法人税法第23条関係) イ 関連法人株式等に係る負債利子控除額を、関連法人株式等に係る配当等の額に係る利子相当額として一定の金額とする。 ロ 関連法人株式等又は非支配目的株式等に該当するかどうかの判定については、完全支配関係がある他の法人の有する株式等を含めて判定(現行:連結納税制度において連結法人の有する株式等につき判定)を行うこととする。 ② 寄附金の損金不算入制度について、寄附金の損金算入限度額の計算の基礎となる資本金等の額について、資本金の額及び資本準備金の額の合計額とする。(法人税法第37条関係) ③ 貸倒引当金制度について、完全支配関係がある他の法人(現行:連結完全支配関係がある連結法人)に対して有する金銭債権を貸倒引当金の対象となる金銭債権から除外する。(法人税法第52条関係) (略) 十六 租税特別措置法の一部改正(第16条関係) 連結納税制度の見直しに伴い、次の措置を講ずることとする。 (略) 2 資産の譲渡に係る特別控除額の特例について、法人及び当該法人との間に完全支配関係がある他の法人(現行:連結親法人及び当該連結親法人による連結完全支配関係にある連結子法人)の特別控除額の合計額が定額控除限度額(年5,000万円)を超える場合には、その超える部分の金額を損金不算入とすることとする。(租税特別措置法第65条の6関係) (略) |
(出所)実務対応報告第39号「連結納税制度からグループ通算制度への移行に係る税効果会計の適用に関する取扱い」の公表の【参考】
Ⅳ 実務対応報告第40号「LIBORを参照する金融商品に関するヘッジ会計の取扱い」
ASBJは、2020年9月29日に実務対応報告第40号「LIBORを参照する金融商品に関するヘッジ会計の取扱い」(以下「本実務対応報告」という。)を公表した。
1 公表の経緯・目的
現在、2014年7月の金融安定理事会(FSB)による提言に基づく金利指標改革(以下「金利指標改革」という。)が進められており、ロンドン銀行間取引金利(以下「LIBOR」という。)の公表が2021年12月末をもって恒久的に停止され、LIBORを参照している契約においては参照する金利指標の置換が行われる可能性が高まっている。LIBORは5つの主要な通貨について公表されており、LIBORを参照する取引は広範に行われているため、金利指標改革により多くの取引に影響が生じる可能性がある。
このため、ASBJでは、LIBORを参照する金融商品について必要と考えられるヘッジ会計に関する会計処理及び開示上の取扱いを明らかにする目的で、本実務対応報告を公表した。
金利指標改革に起因するLIBORの置換は、企業自身の意思決定に基づくものではなく、企業からみると不可避的に生じる事象である。このような事象に対して、そうした事態を想定して開発されていない会計基準を当てはめた場合、当該会計基準の開発時には想定されていなかった結果が生じる可能性があり、こうした会計処理に基づく財務情報が提供されることは、財務諸表作成者が行った取引の実態を適切に表さず、結果として、財務諸表利用者に対する有用な財務情報の提供につながらない可能性があると考えられることから、特にヘッジ会計の適用について、適切な適用範囲を定めたうえで、特例的な取扱いを定めることが必要であるとの考えから、本実務対応報告が公表されている(本実務対応報告27項)。
2 範囲
次の金融商品を適用範囲とする(本実務対応報告3項)。
▶ 金利指標改革に起因して公表が停止される見通しであるLIBORを参照する金融商品について金利指標を置き換える場合に、その契約の経済効果が金指標置換の前後で概ね同等となることを意図した金融商品の契約上のキャッシュ・フローの基礎となる金利指標を変更する契約条件の変更のみが行われる金融商品
▶ こうした契約条件の変更と同様の経済効果をもたらす契約の切替に関する金融商品
▶ 本実務対応報告公表後に、新たにLIBORを参照する契約を締結する場合、その金融商品
なお、(1)「経済効果が概ね同等となることを意図した契約条件の変更」に該当すると考えられる契約変更の例、及び(2)「経済効果が概ね同等となることを意図した契約条件の変更」に該当しないと考えられる契約変更の例が、以下のとおり示されている(本実務対応報告30項、31項)。
(1) 契約条件の変更又は契約の切替の内容が、契約が参照する金利指標をLIBORから他の金利指標へ置き換えることに加えて、例えば、次のような変更である場合には「経済効果が概ね同等となることを意図した契約条件の変更」に該当すると考えられる(本実務対応報告30項)。
(2) 一方、契約条件の変更又は契約の切替の内容に、例えば、次のものが含まれるのであれば、当該契約条件の変更又は契約の切替は「経済効果が概ね同等となることを意図した契約条件の変更」には該当せず、本実務対応報告の適用範囲外になると考えられる(本実務対応報告31項)。
なお、「⑥取引相手の変更」について、店頭デリバティブ取引の取引相手を中央清算機関に変更する場合には、「経済効果が概ね同等となることを意図した契約条件の変更」に該当すると判断される場合もあり得ると考えられるため、その場合には、必ずしも本実務対応報告の適用外となるわけではないと考えられるとされている(本実務対応報告31項)。 |
3 会計処理
(1) 金利指標置換前の会計処理
① ヘッジ対象又はヘッジ手段の契約の切替
本実務対応報告の適用範囲に含まれる金融商品をヘッジ対象又はヘッジ手段としてヘッジ会計を適用している場合、金利指標置換前においては、金利指標改革に起因する契約の切替が行われたときであっても、ヘッジ会計の適用を継続することができる(本実務対応報告5項)。
(結論の背景) 金融商品会計基準等では契約条件の変更時の取扱いに関して定めがなく、本実務対応報告35項に示した契約の切替を行った場合、法的には既存の契約を終了し新たな契約を締結することとなるため、ヘッジ会計の適用を終了又は中止することになると考えられる。ここで、金利指標改革に起因するLIBORの置換は、企業の意思に基づくものではなく、不可避的に生じる事象であり、契約の切替によりヘッジ対象又はヘッジ手段が参照するLIBORを置き換える場合に、ヘッジ会計の適用を終了又は中止し損益を認識することは、会計基準の開発時には想定されていなかった結果となり、取引の実態を適切に表さず、財務諸表利用者に対する有用な財務情報の提供につながらないものと考えられる。また、LIBORの置換の形態のみによってヘッジ会計の適用に違いが生じることは、望ましくないと考えられる(本実務対応報告36項)。 |
② ヘッジ会計の原則的処理方法(繰延ヘッジ)
(a) ヘッジ対象となりうる予定取引の判断基準
本実務対応報告の適用範囲に含まれる金融商品がヘッジ対象である予定取引が実行されるかどうかを判断するにあたって、金利指標置換前においては、ヘッジ対象の金利指標が、金利指標改革の影響を受けず既存の金利指標から変更されないとみなすことができる(本実務対応報告6項)。
(結論の背景) ヘッジ対象がLIBORを参照している場合、企業が予定取引の取引条件の予測可能性及びその実行可能性を判断することは困難であり、ヘッジ会計を終了させる必要性が生じる可能性があるものと考えられる。こうした状況は、金融商品会計基準等の開発時には想定されていなかったものである。 したがって、適用範囲に含まれる金融商品がヘッジ対象である予定取引が実行されるかどうかを判断するにあたって、金利指標置換前においては、ヘッジ対象の金利指標が、金利指標改革の影響を受けず既存の金利指標から変更されないとみなすことができるとした(本実務対応報告38項)。 |
(b) ヘッジ有効性の評価
事前テストに関して、本実務対応報告の適用範囲に含まれる金融商品をヘッジ対象又はヘッジ手段としてヘッジ会計を適用する場合、金利指標置換前においては、ヘッジ対象及びヘッジ手段の参照する金利指標は金利指標改革の影響を受けず既存の金利指標から変更されないとの仮定を置いて実施することができる(本実務対応報告7項)。
また、事後テストに関しても本実務対応報告の適用範囲に含まれる金融商品をヘッジ対象又はヘッジ手段としてヘッジ会計を適用する場合、金利指標置換前においては、事後テストにおける有効性評価の結果、ヘッジ有効性が認められなかった場合であってもヘッジ会計の適用を継続することができる(本実務対応報告8項)。
(結論の背景) 事前テストに関しては、後継の金利指標が未だ判明していない、又は、関連する市場で活発な取引が行われていないなどの理由から、後継の金利指標に基づく事前テストが困難となる可能性があると考えられる。これは企業にとって不可避的に生じる事象によるものであり、このことのみをもってヘッジ会計の有効性の要件を満たさないとしてヘッジ会計の適用を認めないことは、会計基準の開発時には想定されていなかった結果となり、財務諸表利用者に対する有用な財務情報の提供につながらないと考えられる。 そのため、適用範囲に含まれる金融商品をヘッジ対象又はヘッジ手段としてヘッジ会計を適用する場合、金利指標置換前においては、ヘッジ対象及びヘッジ手段の参照する金利指標は金利指標改革の影響を受けず既存の金利指標から変更されないとの仮定を置いて実施することができるとした(本実務対応報告40項)。 次に、事後テストに関して、既存のヘッジ関係について、ヘッジ対象又はヘッジ手段が参照する金利指標の置換前において、金利指標改革に起因するLIBORの置換に関する見込みが将来キャッシュ・フローの見積りに影響し、ヘッジ対象及びヘッジ手段の相場変動又はキャッシュ・フローの変動額の累計の比率にも影響することが考えられる。この場合、将来キャッシュ・フローの変化の要因を、金利指標改革に起因する要因とそれ以外の要因に分解したうえで、有効性の判定を行うことが考えられるが、そうした分解は一般に実務上困難であると考えられる。 ここで、これらは同様に会計基準の開発時には想定されていなかった結果となり、財務諸表利用者に対する有用な財務情報の提供につながらない場合が生じる可能性がある。 そのため、適用範囲に含まれる金融商品をヘッジ対象又はヘッジ手段としてヘッジ会計を適用する場合、金利指標置換前においては、ヘッジ有効性が認められない場合であってもヘッジ会計の適用を継続することができるとした(本実務対応報告41項)。 |
(c) 包括ヘッジ
本実務対応報告の適用範囲に含まれる金融商品を含むグループをヘッジ対象として包括ヘッジを適用する場合、個々の資産又は負債のリスクに対する反応とグループ全体のリスクに対する反応が、ほぼ一様であると認められなかった場合であっても、包括ヘッジを適用することができる(本実務対応報告9項)。
③ 時価ヘッジ
本実務対応報告の適用範囲に含まれる金融商品をヘッジ対象又はヘッジ手段として時価ヘッジを適用する場合、金利指標置換前においては、繰延ヘッジを適用する場合について定めたヘッジの有効性の評価(本稿Ⅳ.3.(1).②.(b))及び包括ヘッジ(本稿Ⅳ.3.(1).②.(c))に関する取扱い(本実務対応報告7項から9項の取扱い)と同様の取扱いとすることができる。なお、金利指標置換時においては金利指標置換時における繰延ヘッジ(本稿Ⅳ.3.(2).①)の取扱い(本実務対応報告13項の取扱い)、金利指標置換後においては繰延ヘッジ(本稿Ⅳ.3.(3).①)及び包括ヘッジ(本稿Ⅳ.3.(3).②)の取扱い(本実務対応報告14項、15項、16及び18項の取扱い)と同様の取扱いとすることができる(本実務対応報告10項)。
④ 金利スワップの特例処理等
(a) 金利スワップの特例処理
本実務対応報告の適用範囲に含まれる金融商品をヘッジ対象又はヘッジ手段として金利スワップの特例処理を適用する場合、金融商品会計実務指針178項③から⑤の条件を満たしているかどうかの判断にあたって、ヘッジ対象及びヘッジ手段の参照する金利指標は既存の金利指標から変更されないとみなすことができる(本実務対応報告11項)。
(結論の背景) 本実務対応報告11項(2)の条件(金利スワップの特例処理の条件のうち、金融商品会計実務指針178項②の条件)については、当初契約時に金利スワップの契約期間とヘッジ対象資産又は負債の満期がほぼ一致しているかどうかの判断を行うことが想定されていると考えられるため、例えば金利スワップの契約の切替が発生した場合には、金利スワップの新たな契約期間とヘッジ対象の満期が一致しないことが考えられるものの、金利スワップとヘッジ対象の残存期間が同一であれば、当該条件を満たすとみなすことができると考えられる(本実務対応報告47項)。 (参考)金融商品会計実務指針178項
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(b) 外貨建会計処理基準等における振当処理
本実務対応報告の適用範囲に含まれる金融商品をヘッジ対象又はヘッジ手段として振当処理を適用するに際し、円貨でのキャッシュ・フローが固定されているかどうかの判断にあたって、ヘッジ対象及びヘッジ手段の参照する金利指標は既存の金利指標から変更されないとみなすことができる(本実務対応報告12項)。
(2) 金利指標置換時の会計処理
① ヘッジ会計の原則的処理方法(繰延ヘッジ)
金利指標置換前において本実務対応報告の適用範囲に含まれる金融商品をヘッジ対象又はヘッジ手段としてヘッジ会計を適用していた場合、金利指標置換時において、ヘッジ会計開始時にヘッジ文書で記載したヘッジ取引日(開始日)、識別したヘッジ対象、選択したヘッジ手段等を変更したとしても、ヘッジ会計の適用を継続することができる(本実務対応報告13項)。
(結論の背景) 金利指標を置き換えた場合、金利指標置換時にヘッジ取引日(開始日)、識別したヘッジ対象、選択したヘッジ手段等を変更することになると考えられるが、このようなヘッジ文書の変更のみでヘッジ会計の中止とした場合、金利指標置換前と同様に有用な財務情報の提供につながらないと考えられる。 したがって、適用範囲に含まれる金融商品をヘッジ対象又はヘッジ手段としてヘッジ会計を適用していた場合、金利指標置換時において、当初のヘッジ会計開始時にヘッジ文書に記載したヘッジ取引日(開始日)、識別したヘッジ対象、選択したヘッジ手段等を変更したとしても、ヘッジ会計の適用を継続することができるとした(本実務対応報告52項)。 |
(3) 金利指標置換後の会計処理
① ヘッジ会計の原則的処理方法(繰延ヘッジ)
金利指標置換前において本実務対応報告の適用範囲に含まれる金融商品をヘッジ対象又はヘッジ手段としてヘッジ会計を適用していた場合、金利指標置換時以後、本実務対応報告8項の取扱いを適用しヘッジ会計の適用を2023年3月31日以前に終了する事業年度まで継続することができる。これは、LIBORの公表停止が予定されている2021年12月末から概ね1年間を想定したものである。また、当該取扱いを継続している間、再度金利指標を置き換えたとしても、ヘッジ会計の適用を継続することができる(本実務対応報告14項)。
本実務対応報告14項に従い2023年3月31日以前に終了する事業年度までヘッジ会計を継続した場合、2023年4月以降に事後テストを実施するときは、金融商品実務指針第156項の定めに従い、原則としてヘッジ開始時を起点としてヘッジ対象及びヘッジ手段の相場変動又はキャッシュ・フロー変動の累計を比較する。ただし、継続適用を条件に、金利指標置換時(再度金利指標を置き換えた場合は当該再置換時を含む。)を起点とすることを選択することができる(本実務対応報告15項)。
金利指標改革とは関係なくヘッジ会計が中止となった場合で、本実務対応報告の適用範囲に含まれる金融商品をヘッジ対象としている場合、当該ヘッジ対象の契約の切替が行われたときであっても、契約の切替後のヘッジ対象に係る損益が認識されるまで、ヘッジ手段に係る損益又は評価差額を繰り延べる(本実務対応報告17項)。
(結論の背景) 日本円におけるLIBORの後継の金利指標として、貸付金又は借入金(ヘッジ対象)について「ターム物リスク・フリー・レート」を選好する意見が聞かれているが、日本円に関する「ターム物リスク・フリー・レート」は、LIBORの公表停止が見込まれる2021年12月末までに関連する市場で活発な取引が行われるか不明であるため金利指標置換後の金利指標の選択に関する実務や企業のヘッジ行動について不確実な点が多い(本実務対応報告53項)。 よって、適用範囲に含まれる金融商品をヘッジ対象又はヘッジ手段としてヘッジ会計を適用していた場合、事後テストに関する本実務対応報告8項の取扱いを適用していたか否かにかかわらず、金利指標置換時以後、同項の取扱いを適用し、2023年3月31日以前に終了する事業年度までヘッジ会計の適用を継続することができるとした(本実務対応報告53項)。 なお、本実務対応報告公表時には本実務対応報告47項のように金利指標の選択に関する実務や企業のヘッジ行動について不確実な点が多いため、公表から約1年後に、当該取扱いについて再度確認する予定とされている(本実務対応報告53項)。 また、2023年4月以降の事後テストについて、金融商品実務指針156項に基づき、ヘッジ有効性の判定は、原則としてヘッジ開始時から有効性判定時までの期間において実施することが原則的な考え方となる一方で、後継の金利指標のみに基づいて事後テストを実施することが適切であるとの考え方も想定されることから、継続適用を条件に、金利指標置換時(再度金利指標を置き換えた場合は当該再置換時を含む。)を起点に事後テストを実施することも認めることとした(本実務対応報告53項)。 さらに、ヘッジ手段が消滅した場合など、金利指標改革とは無関係にヘッジ会計が中止となった場合、本実務対応報告では、本実務対応報告の適用範囲に含まれる金融商品について契約の切替が行われた場合であっても、ヘッジ会計の適用を継続することができることとしている。したがって、同様の考え方により、既にヘッジ会計が中止されている場合に、本実務対応報告の適用範囲に含まれる金融商品であるヘッジ対象の契約の切替が行われたときは、ヘッジ会計の終了とはせず、引き続きヘッジ手段に係る損益又は評価差額を繰り延べることとした(本実務対応報告54項)。 |
② 包括ヘッジ
包括ヘッジについても原則的処理方法に関する特例的な取扱いと同様の特例的な取扱いを可能としている(本実務対応報告18項)。
③ 金利スワップの特例処理等
金利スワップの特例処理及び振当処理についても原則的処理方法に関する特例的な取扱いと同様の特例的な取扱いを可能としている(本実務対応報告19項)。
4 注記事項
報告日時点において本実務対応報告を適用することを選択した企業は、本実務対応報告を適用しているヘッジ関係について、次の内容を注記する(本実務対応報告20項)。
① ヘッジ会計の方法(繰延ヘッジか時価ヘッジか)並びに金利スワップの特例処理及び振当処理を採用している場合にはその旨 ② ヘッジ手段である金融商品の種類 ③ ヘッジ対象である金融商品の種類 ④ ヘッジ取引の種類(相場変動を相殺するものか、キャッシュ・フローを固定するものか) |
また、本実務対応報告を一部のヘッジ関係のみに適用する場合には、その理由を注記する(本実務対応報告20項)。
ただし、連結財務諸表において上述の内容を注記している場合には、個別財務諸表において記載することを要しない(本実務対応報告20項)。
当該注記は、2023年3月31日以前に終了する事業年度まで行う(本実務対応報告21項)。
(結論の背景) 現状、重要な会計方針の1つとしてヘッジ会計の方法に関する注記が求められていることを踏まえ、報告日時点において本実務対応報告を適用している企業は、本実務対応報告を適用しているヘッジ関係の内容(ヘッジ会計の方法、ヘッジ手段、ヘッジ対象、ヘッジ取引の種類等)を注記することとした(本実務対応報告59項)。 また、本実務対応報告の適用はヘッジ関係ごとに選択できるため(本実務対応報告18項参照)、一部のヘッジ関係にのみ適用する場合には、その理由を記載することとした(本実務対応報告59項)。 |
5 適用時期
本実務対応報告は公表日以後適用することができる。ただし、公表日より前にヘッジ会計の中止又は終了が行われたヘッジ関係には、ヘッジ会計が中止となった場合の取扱い(本稿Ⅳ.3.(3).①)(本実務対応報告17項)を除き適用することができない(本実務対応報告22項)。
また、本実務対応報告を適用するにあたっては、ヘッジ関係ごとにその適用を選択することができる(本実務対応報告23項)。
Ⅴ ASBJ議事概要「会計上の見積りを行う上での新型コロナウイルス感染症の影響の考え方」
ASBJは、2020年4月9日及び5月11日に開催された第429回及び第432回企業会計基準委員会において、会計上の見積りを行う上での新型コロナウイルス感染症の影響の考え方について審議を行った。その結果、当該考え方について、ASBJにおける議論の内容を周知するために、議事概要「会計上の見積りを行う上での新型コロナウイルス感染症の影響の考え方」及びその追補(以下合わせて「議事概要」という。)を公表した。議事概要の主な内容は以下のとおりである。
なお、議事概要は、ASBJのWebサイトに掲載されている。
財務諸表を作成する上では、固定資産の減損、繰延税金資産の回収可能性など、様々な会計上の見積りを行うことが必要となる。会計基準では、会計上の見積りを「資産及び負債や収益及び費用等の額に不確実性がある場合において、財務諸表作成時に入手可能な情報に基づいて、その合理的な金額を算出すること」と定義している。 ここで、新型コロナウイルス感染症の広がりは、経済、企業活動に広範な影響を与える事象であり、また、今後の広がり方や収束時期等を予測することは困難であるため、会計上の見積りを行う上で、特に将来キャッシュ・フローの予測を行うことが極めて困難な状況となっているものと考えられる。このような状況において、会計上の見積りを行う上では、以下の点に留意する必要があると考えられる。
上記の(4)の「重要性がある場合」については、当年度に会計上の見積りを行った結果、当年度の財務諸表の金額に対する影響の重要性が乏しい場合であっても、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクがある場合には、新型コロナウイルス感染症の今後の広がり方や収束時期等を含む仮定に関する追加情報の開示を行うことが財務諸表の利用者に有用な情報を与えることになると思われ、開示を行うことが強く望まれる。 |
Ⅵ 企業会計基準第30号「時価の算定に関する会計基準」等
ASBJは、2019年7月4日に以下の会計基準等(以下合わせて「本会計基準等」という。)を公表した。
▶ 企業会計基準第30号「時価の算定に関する会計基準」(以下「時価算定会計基準」という。)
▶ 改正企業会計基準第9号「棚卸資産の評価に関する会計基準」(以下「棚卸資産会計基準」という。)
▶ 改正企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」(以下「金融商品会計基準」という。)
▶ 企業会計基準適用指針第31号「時価の算定に関する会計基準の適用指針」(以下「時価算定適用指針」という。)
▶ 改正企業会計基準適用指針第14号「四半期財務諸表に関する会計基準の適用指針」(以下「四半期適用指針」という。)
▶ 改正企業会計基準適用指針第19号「金融商品の時価等の開示に関する適用指針」(以下「金融商品時価開示適用指針」という。)
また、日本公認会計士協会(会計制度委員会)は、ASBJからの本会計基準等に関連する実務指針等の改正の依頼を踏まえ、2019年7月4日に以下の実務指針等の改正を公表した。
▶ 会計制度委員会報告第4号「外貨建取引等の会計処理に関する実務指針」(以下「外貨建取引等実務指針」という。)
▶ 会計制度委員会報告第14号「金融商品会計に関する実務指針」(以下「金融商品会計実務指針」という。)
▶ 金融商品会計に関するQ&A(以下「金融商品会計Q&A」という。)
1 公表の経緯・目的
我が国においては、金融商品会計基準等において、公正価値に相当する時価(公正な評価額)の算定が求められているものの、算定方法に関する詳細なガイダンスは定められていない。一方、国際会計基準審議会(IASB)及び米国財務会計基準審議会(FASB)は、公正価値測定についてほぼ同じ内容の詳細なガイダンスを定めている(国際財務報告基準(IFRS)においてはIFRS第13号「公正価値測定」(以下「IFRS第13号」という。)、米国会計基準においてはAccounting Standards Codification(FASBによる会計基準のコード化体系)のTopic 820「公正価値測定」(以下「Topic 820」という。))(時価算定会計基準23項)。
ASBJは、2018年3月に開催された第381回企業会計基準委員会において、金融商品の時価に関するガイダンス及び開示に関して、国際的な会計基準との整合性を図る取組みに着手する旨を決定し、検討を重ねて、本会計基準等を公表した(時価算定会計基準23項)。
2 開発にあたっての基本的な方針
時価算定会計基準の開発にあたっての基本的な方針として、統一的な算定方法を用いることにより、国内外の企業間における財務諸表の比較可能性を向上させる観点から、IFRS第13号の定めを基本的にすべて取り入れている(時価算定会計基準24項)。
ただし、これまで我が国で行われてきた実務等に配慮し、財務諸表間の比較可能性を大きく損なわせない範囲で、個別項目に対するその他の取扱いを定めている(時価算定会計基準24項)。
また、IFRS第13号では公正価値という用語が用いられているが、時価算定会計基準では代わりに時価という用語を用いている。これは、我が国における他の関連諸法規において時価という用語が広く用いられていること等を配慮したものである(時価算定会計基準25項)。
3 範囲
時価算定会計基準は、次の項目の時価に適用する(時価算定会計基準3項)。
▶ 金融商品会計基準における金融商品
▶ 棚卸資産会計基準におけるトレーディング目的で保有する棚卸資産
(結論の背景) 国際的な会計基準では、公正価値の測定及び開示の首尾一貫性を高めるために、公正価値の測定が求められる(又は認められる)項目のうち、一部の項目を除いてすべての公正価値の測定及び開示に対してIFRS第13号又はTopic 820が適用され、金融商品のみならず固定資産等の公正価値測定も当該基準の範囲に含まれている(時価算定会計基準26項)。 ここで、金融商品については、国際的な会計基準と整合させることにより国際的な企業間の財務諸表の比較可能性を向上させる便益が高いものと判断し、会計基準の範囲に含めることとしたとされている(時価算定会計基準26項)。 一方、金融商品以外の資産及び負債については、時価算定会計基準の範囲に含めた場合の整合性を図るためのコストと便益を考慮し、原則として、金融商品以外の資産及び負債は時価算定会計基準の範囲に含めないこととしたとされている(時価算定会計基準26項)。 ただし、棚卸資産会計基準におけるトレーディング目的で保有する棚卸資産については、売買目的有価証券と同様に毎期時価をもって貸借対照表価額とし、評価差額は当期の損益とする処理が求められており(棚卸資産会計基準15項)、時価の算定についても金融商品と整合性を図ることが適切と考えられることから、時価算定会計基準の範囲に含めることとしたとされている(時価算定会計基準27項)。 |
4 時価の定義
「時価」とは、算定日において市場参加者間で秩序ある取引が行われると想定した場合の、当該取引における資産の売却によって受け取る価格又は負債の移転のために支払う価格をいう(時価算定会計基準5項)。
時価は、直接観察可能であるかどうかにかかわらず、算定日における市場参加者間の秩序ある取引が行われると想定した場合の出口価格(資産の売却によって受け取る価格又は負債の移転のために支払う価格)であり、入口価格(交換取引において資産を取得するために支払った価格又は負債を引き受けるために受け取った価格)ではない(時価算定会計基準31項(2))。
(用語の定義) ◆ 「市場参加者」とは、資産又は負債に関する主要な市場又は最も有利な市場において、次の要件のすべてを満たす買手及び売手をいう(時価算定会計基準4項(1))。 ① 互いに独立しており、関連当事者(企業会計基準第11号「関連当事者の開示に関する会計基準」(以下「関連当事者会計基準」という。)5項(3))ではないこと ② 知識を有しており、すべての入手できる情報に基づき当該資産又は負債について十分に理解していること ③ 当該資産又は負債に関して、取引を行う能力があること ④ 当該資産又は負債に関して、他から強制されるわけではなく、自発的に取引を行う意思があること ◆ 「秩序ある取引」とは、資産又は負債の取引に関して通常かつ慣習的な市場における活動ができるように、時価の算定日以前の一定期間において市場にさらされていることを前提とした取引をいう。他から強制された取引(例えば、強制された清算取引や投売り)は、秩序ある取引に該当しない(時価算定会計基準4項(2))。 ◆ 「主要な市場」とは、資産又は負債についての取引の数量及び頻度が最も大きい市場をいう(時価算定会計基準4項(3))。 ◆ 「最も有利な市場」とは、取得又は売却に要する付随費用を考慮したうえで、資産の売却による受取額を最大化又は負債の移転に対する支払額を最小化できる市場をいう(時価算定会計基準4項(4))。 |
(その他有価証券の期末前1か月の平均価額に関する定めの削除) 時価の定義の変更に伴い、改正前の金融商品会計基準(注7)におけるその他有価証券の期末の貸借対照表価額に期末前1か月の市場価格の平均に基づいて算定された価額を用いることができる定めについては、その平均価額が改正された時価の定義を満たさないことから削除されている(金融商品会計基準(注7))。これに併せて、金融商品会計実務指針及び金融商品会計Q&Aにおいても、同様の規定が削除されている(金融商品会計実務指針75項、金融商品会計Q&A Q32)。 ただし、その他有価証券の減損を行うか否かの判断については、減損の判断が合理的な範囲で幅のある定めとなっていることを踏まえて、期末前1か月の市場価格の平均に基づいて算定された価額を用いることができる取扱いを踏襲している。なお、この場合であっても、評価差額の算定には期末日の時価を用いる(金融商品会計実務指針91項、284項)。 また、上記の取扱いに併せ、外貨建取引等実務指針において時価として期末前1か月の市場価格の平均に基づいて算定された価額を用いる場合の換算についての取扱いも削除されている(外貨建取引等実務指針11項)。 |
5 時価の算定単位
資産又は負債の時価を算定する単位は、それぞれの対象となる資産又は負債に適用される会計処理又は開示による(時価算定会計基準6項)。
しかし、次の要件のすべてを満たす場合には、特定の市場リスク(市場価格の変動に係るリスク)又は特定の取引相手先の信用リスク(取引相手先の契約不履行に係るリスク)に関して金融資産及び金融負債を相殺した後の正味の資産又は負債を基礎として、当該金融資産及び金融負債のグループを単位とした時価を算定することができる。なお、本取扱いは特定のグループについて毎期継続して適用し、重要な会計方針において、その旨を注記する(時価算定会計基準7項)。
(1) 企業の文書化したリスク管理戦略又は投資戦略に従って、特定の市場リスク又は特定の取引相手先の信用リスクに関する正味の資産又は負債に基づき、当該金融資産及び金融負債のグループを管理していること (2) 当該金融資産及び金融負債のグループに関する情報を企業の役員(関連当事者会計基準5項(7))に提供していること (3) 当該金融資産及び金融負債を各決算日の貸借対照表において時価評価していること (4) 特定の市場リスクに関連して本項の定めに従う場合には、当該金融資産及び金融負債のグループの中で企業がさらされている市場リスクがほぼ同一であり、かつ、当該金融資産と金融負債から生じる特定の市場リスクにさらされている期間がほぼ同一であること (5) 特定の取引相手先の信用リスクに関連して本項の定めに従う場合には、債務不履行の発生時において信用リスクのポジションを軽減する既存の取決め(例えば、取引相手先とのマスターネッティング契約や当事者の信用リスクに対する正味の資産又は負債に基づき担保を授受する契約)が法的に強制される可能性についての市場参加者の予想を時価に反映すること |
6 時価の算定方法
「評価技法」に「インプット」を投入して算定対象であるアウトプットの時価を算定する。
(1) 評価技法
時価の算定にあたっては、状況に応じて、十分なデータが利用できる評価技法を用いる(時価算定会計基準8項)。
(評価技法の種類) 時価を算定するにあたって用いる評価技法には、例えば、次の3つのアプローチがある(時価算定適用指針5項)。 (1) マーケット・アプローチ マーケット・アプローチとは、同一又は類似の資産又は負債に関する市場取引による価格等のインプットを用いる評価技法をいう。当該評価技法には、例えば、倍率法や主に債券の時価算定に用いられるマトリックス・プライシングが含まれる。 (2) インカム・アプローチ インカム・アプローチとは、利益やキャッシュ・フロー等の将来の金額に関する現在の市場の期待を割引現在価値で示す評価技法をいう。当該評価技法には、例えば、現在価値技法やオプション価格モデルが含まれる。 (3) コスト・アプローチ コスト・アプローチとは、資産の用役能力を再調達するために現在必要な金額に基づく評価技法をいう。 |
評価技法を用いるにあたっては、関連性のある観察可能なインプットを最大限利用し、観察できないインプットの利用を最小限にする(時価算定会計基準8項)。
時価の算定に用いる評価技法は、毎期継続して適用する。当該評価技法又はその適用(例えば、複数の評価技法を用いる場合のウェイト付けや、評価技法への調整)を変更する場合は、会計上の見積りの変更(企業会計基準第24号「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」(以下「企業会計基準第24号」という。)4項(7))として処理する。この場合、企業会計基準第24号18項並びに企業会計基準第12号「四半期財務諸表に関する会計基準」19項(4)及び25項(3)の注記(会計上の見積りの変更の内容及び影響額の注記)を要しないが、当該連結会計年度及び当該事業年度の年度末に係る連結財務諸表及び個別財務諸表において変更の旨及び変更の理由を注記する(金融商品時価開示適用指針5-2項(3)②)(時価算定会計基準10項)。
(2) インプット
「インプット」とは、市場参加者が資産又は負債の時価を算定する際に用いる仮定(時価の算定に固有のリスクに関する仮定を含む。)をいう。インプットには、相場価格を調整せずに時価として用いる場合における当該相場価格も含まれる。インプットは、次の「観察可能なインプット」と「観察できないインプット」により構成される(時価算定会計基準4項(5))。
① 「観察可能なインプット」とは、入手できる観察可能な市場データに基づくインプットをいう。 ② 「観察できないインプット」とは、観察可能な市場データではないが、入手できる最良の情報に基づくインプットをいう。 |
時価の算定に用いるインプットは、次の順に優先的に使用する(レベル1のインプットが最も優先順位が高く、レベル3のインプットが最も優先順位が低い。)(時価算定会計基準11項)。
観察可能性 | レベル | 内容 |
---|---|---|
観察可能なインプット |
レベル1 |
時価の算定日において、企業が入手できる活発な市場における同一の資産又は負債に関する相場価格であり調整されていないもの 当該価格は、時価の最適な根拠を提供するものであり、当該価格が利用できる場合には、原則として、当該価格を調整せずに時価の算定に使用する |
レベル2 |
資産又は負債について直接又は間接的に観察可能なインプットのうち、レベル1のインプット以外のインプット |
|
観察できないインプット |
レベル3 |
資産又は負債について観察できないインプット 当該インプットは、関連性のある観察可能なインプットが入手できない場合に用いる |
(用語の定義) ◆ 「活発な市場」とは、継続的に価格情報が提供される程度に十分な数量及び頻度で取引が行われている市場をいう(時価算定会計基準4項(6))。 |
時価は、その算定において重要な影響を与えるインプットが属するレベルに応じて、レベル1の時価、レベル2の時価又はレベル3の時価に分類する。なお、時価を算定するために異なるレベルに区分される複数のインプットを用いており、これらのインプットに、時価の算定に重要な影響を与えるインプットが複数含まれる場合、これら重要な影響を与えるインプットが属するレベルのうち、時価の算定における優先順位が最も低いレベルに当該時価を分類する(時価算定会計基準12項)。
(参考) 時価のレベルは、時価の算定に用いるインプットが観察可能であるか及び経営者の見積りによる不確実性が存在するかを表すものであるため、時価の算定対象となる商品の複雑性や市場における流動性を必ずしも示すものではない。例えば、商品としては単純なものであっても時価の算定に用いるインプットによって時価のレベルが異なる場合がある。また、時価がレベル3に分類される商品であっても当該商品の市場における流動性が低いとも限らない(企業会計基準第30号「時価の算定に関する会計基準」等の公表(別紙1))。 |
(3) 資産又は負債の取引の数量又は頻度が著しく低下している場合等
資産又は負債の取引の数量又は頻度が当該資産又は負債に係る通常の市場における活動に比して著しく低下していると判断した場合、取引価格又は相場価格が時価を表しているかどうかについて評価する(時価算定会計基準13項)。
当該評価の結果、当該取引価格又は相場価格が時価を表していないと判断する場合(取引が秩序ある取引ではないと判断する場合を含む。)、当該取引価格又は相場価格を時価を算定する基礎として用いる際には、当該取引価格又は相場価格について、市場参加者が資産又は負債のキャッシュ・フローに固有の不確実性に対する対価として求めるリスク・プレミアムに関する調整を行う(時価算定会計基準13項)。
(4) 負債又は払込資本を増加させる金融商品の時価
負債又は払込資本を増加させる金融商品(例えば、企業結合の対価として発行される株式)については、時価の算定日に市場参加者に移転されるものと仮定して、時価を算定する(時価算定会計基準14項)。
負債の時価の算定にあたっては、負債の不履行リスクの影響を反映する。負債の不履行リスクとは、企業が債務を履行しないリスクであり、企業自身の信用リスクに限られるものではない。また、負債の不履行リスクについては、当該負債の移転の前後で同一であると仮定する(時価算定会計基準15項)。
(結論の背景) 負債の不履行リスクが当該負債の移転の前後で同一であるとの仮定(時価算定会計基準15項参照)は現実的なものではないが、負債を引き受ける企業(譲受人)の信用リスクを特定しなければ、市場参加者である譲受人の特性を企業がどのように仮定するかによって、当該負債の時価が大きく異なる可能性があるため、当該仮定を定めている(時価算定会計基準44項)。 |
7 その他の取扱い(第三者から入手した相場価格の利用)
取引相手の金融機関、ブローカー、情報ベンダー等、第三者から入手した相場価格が時価算定会計基準に従って算定されたものであると判断する場合には、当該価格を時価の算定に用いることができる(時価算定適用指針18項)。
(判断方法の例示) 第三者から入手した相場価格が時価算定会計基準に従って算定されたものであると判断するに場合に、例えば、企業は次のような手続を実施することが考えられる。なお、次の手続は例示であり、状況に応じて選択して実施する。また、記載したもの以外の手続によることも考え得る(時価算定適用指針43項)。
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上記の定めにかかわらず、総資産の大部分を金融資産が占め、かつ総負債の大部分を金融負債及び保険契約から生じる負債が占める企業集団又は企業(以下「企業集団等」という。)以外の企業集団等においては、①第三者が客観的に信頼性のある者で企業集団等から独立した者であり、公表されているインプットの契約時からの推移と入手した相場価格との間に明らかな不整合はないと認められる場合で、かつ、②レベル2の時価に属すると判断される場合には、次のデリバティブ取引については、当該第三者から入手した相場価格を時価とみなすことができる。
(1) インプットである金利がその全期間にわたって一般に公表されており観察可能である同一通貨の固定金利と変動金利を交換する金利スワップ(いわゆるプレイン・バニラ・スワップ) (2) インプットである所定の通貨の先物為替相場がその全期間にわたって一般に公表されており観察可能である為替予約又は通貨スワップ |
なお、オプションを含むような取引については、利用されるボラティリティの種類によってはレベル3の時価に分類されると考えられるため、本項の適用の対象外となる(時価算定適用指針24項)。
(結論の背景) 総資産の大部分を金融資産が占め、かつ総負債の大部分を金融負債及び保険契約から生じる負債が占める企業とは、銀行、保険会社、証券会社、ノンバンク等が想定される。これら以外の企業集団等においては、実務におけるコストと便益を比較衡量した結果、時価の算定の不確実性が相当程度低いと判断される特定のデリバティブ取引については、第三者から提供された価格を時価とみなすことができるとするその他の取扱いを定めることとしたとされている(時価算定適用指針49項)。 |
8 市場価格のない株式等の取扱い
時価算定会計基準においては、時価のレベルに関する概念を取り入れ、たとえ観察可能なインプットを入手できない場合であっても、入手できる最良の情報に基づく観察できないインプットを用いて時価を算定することとしている。このような時価の考え方の下では、時価を把握することが極めて困難と認められる有価証券は想定されない。金融商品会計基準の改正は、時価を用いる場合の時価の算定方法を明らかにするもので、時価評価の範囲の変更を意図するものではないが、時価を把握することが極めて困難と認められる有価証券の定めを残した場合、金融商品会計基準の下でも時価を把握することが極めて困難と認められる有価証券が存在するとの誤解を生じさせかねないため、時価を把握することが極めて困難と認められる有価証券の定めが削除された(金融商品会計基準19項、81-2項)。
ただし、市場価格のない株式等(市場において取引されていない株式及び出資金など株式と同様に持分の請求権を生じさせるもの)に関しては、たとえ何らかの方式により価額の算定が可能としても、それを時価とはしないとする従来の考え方を踏襲し、引き続き取得原価をもって貸借対照表価額とする取扱いとするとされている(金融商品会計基準19項、81-2項)。
これにより、これまで時価を把握することが極めて困難であるとして、取得原価又は償却原価法に基づいて算定された価額をもって貸借対照表価額としていたもののうち、市場価格のない株式等に含まれないものについては、時価をもって貸借対照表価額とすることとなる。
また、市場価格のない株式等については時価を注記しないこととされている。この場合、当該金融商品の概要及び貸借対照表計上額を注記する(金融商品会計基準40-2項(2)なお書き、金融商品時価開示適用指針5項)。
9 開示
金融商品時価開示適用指針では、今回の取組みが国際的な会計基準との整合性を向上させるものである点を踏まえ、基本的にはIFRS第13号の開示項目との整合性を図っているが、一部の開示項目についてはコストと便益を考慮して採り入れていない(金融商品時価開示適用指針39-3項)。
「金融商品の時価のレベルごとの内訳等に関する事項」(金融商品会計基準40-2項(3))として、【図表3】に記載の事項を金融資産及び金融負債の適切な区分に基づき注記する(金融商品時価開示適用指針5-2項)(注記のイメージは、【図表4】を参照)。金融資産及び金融負債の適切な区分は、当該金融資産又は金融負債の性質、特性及びリスク並びに時価のレベル等に基づいて決定することになるものと考えられる(金融商品時価開示適用指針39-5項)。
ただし、重要性が乏しいものは注記を省略することができる(金融商品時価開示適用指針5-2項)。企業は、注記の対象となる金融商品について、貸借対照表日現在の残高のほか、時価の見積りの不確実性の大きさを勘案したうえで、当期純利益、総資産及び金融商品の残高等に照らして、注記の必要性を判断することになるものと考えられる(金融商品時価開示適用指針39-4項)。
なお、連結財務諸表において注記している場合には、個別財務諸表において記載することを要しない(金融商品時価開示適用指針5-2項)。
なお、IFRS第13号では【図表3】に記載の事項に加えて次の注記を求めているものの、金融商品時価開示適用指針では、これらの注記は求めていない。
コストと便益を考慮して、注記を求めないこととしたもの ▶ レベル1の時価とレベル2の時価との間のすべての振替額及び当該振替の理由(IFRS第13号93項(c))(金融商品時価開示適用指針39-17項) ▶ 貸借対照表で時価評価するレベル3の時価の金融商品について、観察できないインプットを合理的に考え得る代替的な仮定に変更した場合の影響(IFRS第13号93項(h)(ii))(金融商品時価開示適用指針39-18項)
金融商品会計基準の適用対象外となるため、注記を求めないこととしたもの(金融商品時価開示適用指針39-16項) ▶ 非金融資産の最有効使用に関する開示(IFRS第13号93項(i)) ▶ 非経常的な時価の算定に関する開示(IFRS第13号93項(a)、(b)、(d)及び(g)) ▶ 分離不可能な第三者の信用補完とともに発行されている負債の公正価値測定における信用補完の反映方法の開示(IFRS第13号98項) |
四半期では、貸借対照表で時価評価する金融商品について、企業集団の事業運営にあたっての重要な項目であり、かつ、前年度末と比較して著しく変動している場合に、【図表3】(1)「貸借対照表日における時価のレベル(レベル1〜3)ごとの合計額」を、適切な区分に基づき開示する(四半期適用指針80項(3)④)。ただし、総資産の大部分を金融資産が占め、かつ総負債の大部分を金融負債及び保険契約から生じる負債が占める企業集団以外の企業集団においては、第1四半期及び第3四半期では注記を省略することができる(四半期適用指針80項(3))。
10 適用時期等
(1) 適用時期
時価算定会計基準、棚卸資産会計基準及び金融商品会計基準は、2021年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首(12月決算会社では2022年12月期の期首)から適用する(時価算定会計基準16項、棚卸資産会計基準21-5項、金融商品会計基準41項(5))。
(結論の背景) システムの開発やプロセスの整備及び運用までを含めると十分な準備期間が必要であるとの意見や、具体的な実務の運用を検討するためにより時間を要するとの意見が寄せられたことから、2021年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用することとしたとされている(時価算定会計基準45項)。 |
ただし、速やかに適用することへの一定のニーズがあると想定されることから、2020年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首(12月決算会社では2021年12月期の期首)から、また、2020年3月31日以後終了する連結会計年度及び事業年度における年度末(12月決算会社では2020年12月期の期末)に係る連結財務諸表及び個別財務諸表から早期適用することができる。なお、これらのいずれかの場合には、同時に公表又は改正された時価算定会計基準、棚卸資産会計基準及び金融商品会計基準を同時に適用する必要がある(時価算定会計基準17項、45項、棚卸資産会計基準21-6項、金融商品会計基準41項(6))
(2) 経過措置
本会計基準等では、次の経過措置を定めている。
(時価算定会計基準及び時価算定適用指針) ① 適用初年度の取扱い
② 投資信託の時価の算定に関しては、本会計基準等公表後概ね1年をかけて検討を行うこととし、それまでの間は改正前の取扱いを踏襲することができる。この場合、金融商品時価開示適用指針5-2項の注記(時価のレベルごとの内訳等に関する事項の注記)は要しない。 当該注記を行わない場合、当該投資信託について、その旨及び貸借対照表計上額を金融商品時価開示適用指針5-2項(1)の注記(貸借対照表日における時価のレベル(レベル1〜3)ごとの合計額の注記)に併せて注記する(時価算定適用指針26項)。 ③ 貸借対照表に持分相当額を純額で計上する組合等への出資の時価の注記については、組合等への出資の時価の算定に関して、時価の算定対象が出資そのものなのか構成要素なのかが不明確であり投資信託と同様の論点が生じ得るとの意見が聞かれたため、投資信託の取扱いを改正する際にその取扱いを明らかにすることとし、それまでの間は金融商品時価開示適用指針4項(1)の注記(金融商品に関する貸借対照表の科目ごとの、貸借対照表計上額、時価及びその差額の注記)は要しない。 当該注記を行わない場合、当該組合等への出資について、その旨及び貸借対照表計上額を金融商品時価開示適用指針4項(1)の注記に併せて注記する(時価算定適用指針27項、52項)。
(金融商品時価開示適用指針) ④ 金融商品時価開示適用指針5-2項の注記(時価のレベルごとの内訳等に関する事項の注記)については、適用初年度の比較情報は要しない(金融商品時価開示適用指針7-4項)。 ⑤ 改正金融商品会計基準を年度末の財務諸表から適用する場合には、適用初年度における金融商品時価開示適用指針5-2項(4)②の注記(レベル3の時価の金融商品の期首残高から期末残高への調整表)を省略することができる。また、この場合、適用初年度の翌年度においては、同注記の比較情報は要しない(金融商品時価開示適用指針7-5項)。
(棚卸資産会計基準) ⑥ トレーディング目的で保有する棚卸資産の時価の定義の見直しにより生じる会計方針の変更については、時価算定会計基準の適用初年度における原則的な取扱いと同様に将来にわたって適用する。この場合、その変更の内容について注記する(棚卸資産会計基準21-7項)。
(金融商品会計基準) ⑦ その他有価証券の期末の貸借対照表価額に期末前1か月の市場価格の平均に基づいて算定された価額を用いることができる定めの削除や、市場価格のない株式等以外の時価を把握することが極めて困難な有価証券の定めの削除など、時価の定義の見直しに伴う金融商品会計基準の改正により生じる会計方針の変更は、時価の算定を変更することになり得るという意味では時価算定会計基準が定める新たな会計方針の適用と同一であるため、時価算定会計基準の適用初年度における原則的な取扱いと同様に将来にわたって適用する。この場合、その変更の内容について注記する(金融商品会計基準44-2項)。
(四半期適用指針) ⑧ 適用初年度においては、四半期適用指針80項(3)④の注記(貸借対照表日における時価のレベル(レベル1〜3)ごとの合計額の注記)を要しない(四半期適用指針81-9項)。 |
Ⅶ 企業会計基準第31号「会計上の見積りの開示に関する会計基準」
ASBJは、2020年3月31日に企業会計基準第31号「会計上の見積りの開示に関する会計基準」(以下「本会計基準」という。)を公表した。
1 公表の経緯・目的
2016年3月及び2017年11月、基準諮問会議に対して、IAS第1号「財務諸表の表示」(以下「IAS第1号」という。)125項において開示が求められている「見積りの不確実性の発生要因」について、財務諸表利用者にとって有用性が高い情報として日本基準においても開示を求めることを検討するよう要望が寄せられた。その後、2018年11月に、基準諮問会議より、「見積りの不確実性の発生要因」に係る注記情報の充実について検討することがASBJに提言され、この提言を受けて、ASBJは、2018年12月より審議を開始し、その結果を公表した(本会計基準13項)。
2 開発にあたっての基本的な方針
本会計基準の開発にあたっての基本的な方針として、個々の注記を拡充するのではなく、原則(開示目的)を示したうえで、具体的な開示内容は企業が開示目的に照らして判断することとされている。また、IAS第1号第125項の定めが参考とされている(本会計基準14項)。
3 会計上の見積りの開示目的
会計上の見積りは、財務諸表作成時に入手可能な情報に基づいて合理的な金額を算出するものであるが、財務諸表に計上する金額に係る見積りの方法や、見積りの基礎となる情報が財務諸表作成時にどの程度入手可能であるかは様々であり、その結果、財務諸表に計上する金額の不確実性の程度も様々となる。このため、当年度の財務諸表に計上した金額が会計上の見積りによるもののうち、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスク(有利となる場合及び不利となる場合の双方が含まれる。以下同じ。)がある項目における会計上の見積りの内容について、財務諸表利用者の理解に資する情報を開示することが目的とされている(本会計基準4項)。
ここで、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクがある項目は企業によって異なるため、個々の会計基準を改正するのではなく、会計上の見積りの開示について包括的に定めた会計基準において原則(開示目的)を示し、開示する具体的な項目及びその記載内容については当該原則(開示目的)に照らして判断することが企業に求められている(本会計基準16項)。
4 開示する項目の識別
(1) 項目の識別における判断
当年度の財務諸表に計上した金額が会計上の見積りによるもののうち、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクがある項目を識別する(本会計基準5項)。
翌年度の財務諸表に与える影響を検討するにあたっては、影響の「金額的大きさ」とその「発生可能性」を総合的に勘案して企業が判断することとされており、判断のための詳細な規準は示さないこととされている(本会計基準21項、22項)。
(2) 識別する項目
識別する項目は、通常、当年度の財務諸表に計上した資産及び負債であるとされている(本会計基準5項)。ただし、当年度の財務諸表に計上した金額に重要性があるものに着目して開示する項目を識別するのではなく、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクがあるものに着目して開示する項目を識別することとされているため、例えば、固定資産について減損損失の認識は行わないとした場合でも、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクを検討したうえで、当該固定資産を開示する項目として識別する可能性がある(本会計基準23項)。
なお、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクがある場合には、①当年度の財務諸表に計上した収益及び費用(一定期間にわたり充足される履行義務に係る収益の認識や、ストック・オプションの費用処理額の見積りなど)、②会計上の見積りの結果、当年度の財務諸表に計上しないこととした負債(引当金など)、③注記において開示する金額を算出するにあたって見積りを行ったもの(金融商品や賃貸等不動産の時価情報など)についても、識別することを妨げないとされている点に留意が必要である(本会計基準23項)。
(3) 識別する項目の数
翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクがある項目を識別するとしていることから、比較的少数の項目を識別することになると考えられる(本会計基準25項)。
5 注記事項
(1) 項目名
識別した項目について、識別した会計上の見積りの内容を表す項目名を注記する(本会計基準6項)。
なお、当該注記は独立の注記項目とし、識別した項目が複数ある場合には、それらの項目名は単一の注記として記載する(本会計基準6項)。
これはIAS第1号125項では求められていないものの、本会計基準に基づき開示された情報であることが明瞭にわかるようにすることが有用であるとの考えに基づく(本会計基準26項)。
(2) 項目名に加えて注記する事項
識別した項目のそれぞれについて、次の事項を注記する(本会計基準7項)。
① 当年度の財務諸表に計上した金額 ② 会計上の見積りの内容について財務諸表利用者の理解に資するその他の情報 |
なお、上記②のその他の情報として注記する事項には、以下が例示として挙げられている(本会計基準8項)。
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6 個別財務諸表における取扱い
連結財務諸表を作成している場合、個別財務諸表においては、会計上の見積りの内容について財務諸表利用者の理解に資するその他の情報の注記について連結財務諸表における記載を参照することができる。なお、識別した項目ごとに、当年度の個別財務諸表に計上した金額の算出方法に関する記載をもって、会計上の見積りの内容について財務諸表利用者の理解に資するその他の情報に代えることができる。この場合であっても、連結財務諸表における記載を参照することができる(本会計基準9項)。
7 適用時期等
本会計基準の適用時期については以下のとおりである(本会計基準10項)。
原則適用 | 2021年3月31日以後終了する連結会計年度及び事業年度の年度末(12月決算会社では2021年12月期の期末)に係る連結財務諸表及び個別財務諸表から適用する。 |
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早期適用 | 公表日以後終了する連結会計年度及び事業年度における年度末(12月決算会社では2020年12月期の期末)に係る連結財務諸表及び個別財務諸表から早期適用することができる。 |
また、本会計基準の適用初年度において、本会計基準の適用は表示方法の変更として取り扱う。ただし、企業会計基準第24号「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」14項の定めにかかわらず、本会計基準6項及び7項に定める注記事項について、適用初年度の連結財務諸表及び個別財務諸表に併せて表示される前連結会計年度における連結財務諸表に関する注記及び前事業年度における個別財務諸表に関する注記(以下「比較情報」という。)に記載しないことができる(本会計基準11項)。
Ⅷ 改正企業会計基準第24号「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」
ASBJは、2020年3月31日に、改正企業会計基準第24号「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」(以下「本会計基準」という。)を公表した。
1 公表の経緯・目的
2018年11月に開催された第397回企業会計基準委員会において、基準諮問会議より、関連する会計基準等の定めが明らかでない場合に採用した会計処理の原則及び手続に係る注記情報の充実について検討することが提言され、この提言を受けて、ASBJは、2018年12月より審議を開始し、その結果を本会計基準として公表した。
2 範囲
本会計基準は、会計方針の開示、会計上の変更及び過去の誤謬の訂正に関する会計処理及び開示について適用する(本会計基準3項)。
また、本会計基準は、関連する会計基準等の定めが明らかでない場合に採用した会計処理の原則及び手続に係る注記情報の充実のために所与の改正を行ったものである。なお、関連する会計基準等の定めが明らかでない場合に採用した会計処理の原則及び手続に係る注記情報の充実を図るに際しては、関連する会計基準等の定めが明らかな場合におけるこれまでの実務に影響を及ぼさないために、企業会計原則注解(注1-2)の定めを引き継ぐこととしている(本会計基準28-2項)。
3 開示目的
(1) 重要な会計方針に関する注記の開示目的
重要な会計方針に関する注記の開示目的は、財務諸表を作成するための基礎となる事項を財務諸表利用者が理解するために、採用した会計処理の原則及び手続の概要(どのような場合にどのような項目を計上するのか、計上する金額をどのように算定しているのか)を示すことにある。この開示目的は、会計処理の対象となる会計事象や取引(以下「会計事象等」という。)に関連する会計基準等の定めが明らかでない場合も同じである(本会計基準4-2項)。
(結論の背景) 重要な会計方針に関する情報は、財務諸表利用者が財務諸表の作成方法を理解し、財務諸表間で比較を行うために不可欠な情報であると考えられる。 また、関連する会計基準の定めが明らかでない場合に採用した会計処理の原則及び手続の開示上の取扱いを明らかにして、財務諸表利用者が財務諸表を理解する上で不可欠な情報が提供されるようにすることは有用であると考えられる(本会計基準44-2項、44-3項)。 これは、現状では、関連する会計基準等の定めが明らかでない場合に、企業が実際に採用した会計処理の原則及び手続が重要な会計方針として開示されているか否かについて実態は様々であり、当該会計処理の原則及び手続について、財務諸表利用者が理解することが困難なことがあるものと考えられるためである(本会計基準44-3項)。 したがって、本会計基準では、開示目的について、関連する会計基準等の定めが明らかでない場合も同じである旨が示されている(本会計基準44-3項)。 なお、本会計基準は、重要な会計方針に関する注記における従来の考え方を変更するものではなく、関連する会計基準等の定めが明らかな場合における取扱いに関するこれまでの実務を変更することを意図するものではない(本会計基準44-3項)。 |
(2) 関連する会計基準等の定めが明らかでない場合
「関連する会計基準等の定めが明らかでない場合」とは、特定の会計事象等に対して適用し得る具体的な会計基準等の定めが存在しない場合をいう(本会計基準4-3項)。
また、「関連する会計基準等の定めが明らかでない場合」に該当するものとして、以下が例示として挙げられている(本会計基準44-4項、44-5項)
① 関連する会計基準等が存在しない新たな取引や経済事象が出現した場合に適用する会計処理の原則及び手続で重要性があるもの これには、対象とする会計事象等自体に関して適用される会計基準等については明らかではないものの、参考となる既存の会計基準等がある場合に当該既存の会計基準等が定める会計処理の原則及び手続を採用した場合も含まれる。 ② 業界の実務慣行とされている会計処理方法で重要性があるもの 会計基準等には、一般に公正妥当と認められる会計処理の原則及び手続を明文化して定めたもの(法令等)も含まれる(企業会計基準適用指針第24号「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準の適用指針」5項及び16項参照)。そのため、「関連する会計基準等の定めが明らかでない場合に採用した会計処理の原則及び手続」には、①に加えて、業界の実務慣行とされている会計処理の原則及び手続のみが存在する場合で、当該会計処理の原則及び手続に重要性があるものも該当すると考えられる。これには、企業が所属する業界団体が当該団体に所属する各企業に対して通知する会計処理の原則及び手続が含まれる。 |
4 注記事項
(1) 重要な会計方針に関する注記
本会計基準では、重要な会計方針に関する注記について、企業会計原則注解(注1-2)の定めを引き継いでおり、以下のとおり従来から変更されていない。
財務諸表には、重要な会計方針を注記する(本会計基準4-4項)。会計方針の例としては、次のようなものがある。ただし、重要性の乏しいものについては、注記を省略することができる(本会計基準4-5項)。
① 有価証券の評価基準及び評価方法 ② 棚卸資産の評価基準及び評価方法 ③ 固定資産の減価償却の方法 ④ 繰延資産の処理方法 ⑤ 外貨建資産及び負債の本邦通貨への換算基準 ⑥ 引当金の計上基準 ⑦ 収益及び費用の計上基準 |
また、会計基準等の定めが明らかであり、当該会計基準等において代替的な会計処理の原則及び手続が認められていない場合には、当該会計方針の注記を省略することができる(本会計基準4-6項)。
なお、開示の詳細さ(開示の分量)については、注記の内容は企業によって異なるものであり、開示の詳細さは各企業が開示目的に照らして判断すべきものと考えられることから、特段定められていない(本会計基準44-7項)。
(2) 未適用の会計基準等に関する注記
本会計基準では、これまで会計方針の変更の取り扱いの一部(改正前の企業会計基準第24号「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」12項)として定められていた「未適用の会計基準等に関する注記」に関する定めを、独立した項目(本会計基準22-2項)に移動する改正が行われている。これは、「未適用の会計基準等に関する注記」に関する定めは、「既に公表されているものの、未だ適用されていない新しい会計基準等」全般(専ら表示及び注記事項を定めた会計基準等も含む)に適用されることを明確化することを意図したものである。
【未適用の会計基準等に関する注記に関する定め】
改正前 | 改正後 |
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12項 既に公表されているものの、未だ適用されていない新しい会計基準等がある場合には、次の事項を注記する。なお、連結財務諸表で注記を行っている場合は、個別財務諸表での注記を要しない。 (1) 新しい会計基準等の名称及び概要 (2) 適用予定日(早期適用する場合には早期適用予定日)に関する記述 (3) 新しい会計基準等の適用による影響に関する記述 |
22-2項 既に公表されているものの、未だ適用されていない新しい会計基準等がある場合には、次の事項を注記する。なお、専ら表示及び注記事項を定めた会計基準等に関しては、(3)の事項の注記を要しない。また、連結財務諸表で注記を行っている場合は、個別財務諸表での注記を要しない。 (1) 新しい会計基準等の名称及び概要 (2) 適用予定日(早期適用する場合には早期適用予定日)に関する記述 (3) 新しい会計基準等の適用による影響に関する記述 |
(注)下線部分が改正箇所
5 適用時期等
本会計基準の適用時期については以下のとおりである(本会計基準25-2項)。
原則適用 | 2021年3月31日以後終了する事業年度の年度末(12月決算会社では2021年12月期の期末)に係る財務諸表から適用する。 |
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早期適用 | 公表日以後終了する事業年度の年度末(12月決算会社では2020年12月期の期末)に係る財務諸表から早期適用することができる。 |
また、適用初年度において本会計基準の内容を適用したことにより新たに注記する会計方針は、表示方法の変更に該当せず、関連する会計基準等の定めが明らかでない場合に採用した会計処理の原則及び手続を新たに開示するときには、追加情報としてその旨を注記する(本会計基準25-3項)。
以上
本記事に関する留意事項
本記事は皆様への情報提供として一般的な情報を掲載するのみであり、その性質上、特定の個人や事業体に具体的に適用される個別の事情に対応するものではありません。また、本記事の作成または発行後に、関連する制度その他の適用の前提となる状況について、変動を生じる可能性もあります。個別の事案に適用するためには、当該時点で有効とされる内容により結論等を異にする可能性があることをご留意いただき、本記事の記載のみに依拠して意思決定・行動をされることなく、適用に関する具体的事案をもとに適切な専門家にご相談ください。