ナレッジ

IFRS財団からの画期的な提案は、サステナビリティ報告のためのグローバル基準を提示する

IFRS in Focus|月刊誌『会計情報』2020年12月号

トーマツIFRSセンター・オブ・エクセレンス

IFRS財団の協議文書

IFRS財団(IFRSF)の評議員会は、「サステナビリティ報告に関する協議文書」を公表した。本文書では、どのようにIFRSFがサステナビリティ基準審議会(SSB)を設立し、IFRSFの既存の取決めの下でガバナンスを提供し監督するかを概説している。

アウトリーチ及び評議員会のタスクフォースの作業を受けて、評議員会は、サステナビリティ(持続可能性)報告における一貫性及び比較可能性を改善する緊急ニーズがあると結論付けた。「比較可能性があり一貫性のある基準により、企業はサステナビリティ・イニシアチブの透明性を高めることを通じて、社会的な信頼(public trust)を構築することを可能にし、社会が気候変動に対処するためのイニシアチブを要求する文脈で投資家及びより広範な関係者に役立てる。」

評議員会は、サステナビリティ基準及びフレームワークの多様なアプローチ及び目的が、「世界的に分裂(fragmentation)を増大させる脅威をもたらす」ことを認識している。グローバルなフレームワークは、この分裂を防ぎ、比較可能性を高め、アプローチ及び目的の複雑さを減少させるために必要である。資本市場の参加者、規制当局、その他の利害関係者から、サステナビリティのパフォーマンスに関する透明性の高い測定及び情報開示を求める声が高まっており、効果的なビジネス経営の基本的な部分とますます考えられてきた。

 

サステナビリティ基準審議会及びIFRSFのガバナンス

評議員会は、IFRSFの既存の制度及びガバナンス構造の中で、SSBを設立することを提案している。 SSBは、IFRS基準を補完する、財務報告と首尾一貫し接続するサステナビリティ報告のフレームワークを開発する。このアプローチは、投資家及び他の主要な財務諸表利用者に役割を果たすというIASBのミッションと一貫することとなる。 

IFRS財団の既存の基準設定プロセス、及びデュー・プロセスの手続は、SSBのニーズに適合させ、厳格な監督と透明性を提供する。 これは、サステナビリティ報告基準の一貫した使用及び適用につながり、さらなるコンバージェンスを達成するためのサステナビリティ報告機関、政府、規制当局、他の利害関係者間の国際的な協調、協力及び調整に貢献する。

 

企業価値の創造に目的適合性のあるサステナビリティ基準の解決策から始める

本協議は、サステナビリティの進展に対する会社の影響と企業価値の創造の理解に目的適合性のある情報のサブセットをカバーする、サステナビリティ情報の広範な領域(universe)を認識している。 また、企業の環境への影響と当該企業のリスク及び機会との間に関係があるため、企業の環境への影響に関する情報が投資家にとってますます重要になっていることを強調している。

評議員会は、投資家や他の市場参加者に最も目的適合性があるサステナビリティ情報に関する基準から開始することを提案している。 評議員会は、より広範なアプローチを直ちに採用することは、基準設定の複雑さを増大させ、基準の採用に影響を与える又は遅らせる可能性があることを認識している。 提案されたアプローチは、IASBの現在のミッション及び焦点とより密接に結びつくこととなる。

 

既存のサステナビリティ基準及びフレームワーク設定主体と協調した作業

IFRSFは、SSBの提案は、主要な世界のサステナビリティ報告組織のこれまでの作業、その基準及びフレームワーク、そしてそれらに蓄積された知識及び経験に基づいて構築することを想定している。IFRSFは、サステナビリティ報告の確立された組織の知識と共に、基準設定における高く評価された専門知識を活用することができることとなる。

これを支持して、評議員会は、主要な国際サステナビリティ基準設定主体及びフレームワークによる趣旨に関する共同声明*1を参照している。本声明は、一貫した包括的な企業報告システムを達成するためのビジョンを定め、IFRSF及び他の利害関係者と協力して、包括的な企業報告のためのグローバル基準設定のアーキテクチャの「ビルディング・ブロック」を創出することをコミットしている。 

505KB, PDF ※PDFダウンロード時には「本記事に関する留意事項」をご確認ください。

グローバル基準及びより広範なエコシステム

主要な組織はすでにこのような動きを支持している。国際会計士連盟(IFAC)は、今月初めに公表されたビジョンにおいて、IFRSFに対して、グローバルなサステナビリティ基準設定主体を設立するよう求めている。また、2020年7月に公表されたフォローアップ・ペーパーに示されているように、Accountancy Europeのペーパー「企業報告のための相互接続された基準設定」*2に対する回答者によるフィードバックと整合している。

さらなる進展において、共同声明の著者は、証券監督者国際機構(IOSCO)のサステナブル金融タスクフォースの議長であるEric Thedeen氏にオープン・レター *3を発行した。そこでは、「IOSCOは、企業報告の包括的なシステムの一環として、企業価値創造に目的適合性のあるサステナビリティ情報の一貫した報告のために、このグローバル・アーキテクチャの必要な構成要素間の協力を促進することによって、システム変更を加速する上で主導的かつ重要な役割を果たすことが可能である。この役割は、IASBの焦点と同様に、投資家及び他の財務諸表の主要な利用者にとって目的適合性がある情報にIOSCOが焦点を当てることに当てはまる。」と、記載されている。

一連のグローバルなサステナビリティ基準を達成することは、コーポレート・ガバナンス、内部統制の強化、サステナビリティ報告に対する保証を含む、より広範なシステム変更をもたらすために不可欠である。 さらに、IFACと共同声明で提唱され、協議文書に暗示されているビルディング・ブロック・アプローチは、資本市場に対するグローバルに一貫したサステナビリティ開示の必要性を満たす一方で、現地の政策の優先事項に十分な柔軟性を認めている。また、幅広い市場での協調、受入可能性、適用を促進し、法域の政策目標に沿った任意又は強制的な適用を可能にする。

評議員会の「サステナビリティ報告に関する協議文書」は、コメント募集のため2020年12月31日まで公開されている。

 

以上

 

*1 https://29kjwb3armds2g3gi4lq2sx1-wpengine.netdna-ssl.com/wp-content/uploads/Statement-of-Intent-to-Work-Together-Towards-Comprehensive-Corporate-Reporting.pdf

*2 Accountancy Europeのウェブサイト(https://www.accountancyeurope.eu/wp-content/uploads/200615-Follow-up-paper-Interconnected-standard-setting.pdf

*3 https://29kjwb3armds2g3gi4lq2sx1-wpengine.netdna-ssl.com/wp-content/uploads/Open-Letter-to-Erik-Thedeen-Chair-of-the-Sustainable-Finance-Task-Force-of-IOSCO.pdf

本記事に関する留意事項

本記事は皆様への情報提供として一般的な情報を掲載するのみであり、その性質上、特定の個人や事業体に具体的に適用される個別の事情に対応するものではありません。また、本記事の作成または発行後に、関連する制度その他の適用の前提となる状況について、変動を生じる可能性もあります。個別の事案に適用するためには、当該時点で有効とされる内容により結論等を異にする可能性があることをご留意いただき、本記事の記載のみに依拠して意思決定・行動をされることなく、適用に関する具体的事案をもとに適切な専門家にご相談ください。

お役に立ちましたか?