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IASBは、「規制資産及び規制負債」に関する新基準を提案

IFRS in Focus|月刊誌『会計情報』2021年4月号

注:本資料はDeloitteのIFRS Global Officeが作成し、有限責任監査法人トーマツが翻訳したものです。この日本語版は、読者のご理解の参考までに作成したものであり、原文については英語版ニュースレターをご参照下さい。

トーマツIFRSセンター・オブ・エクセレンス

本IFRS in Focusは、2021年1月に国際会計基準審議会(IASB)が公表した、公開草案ED/2021/1「規制資産及び規制負債」というタイトルの新IFRS基準案について解説する。

  • 新基準は、最終化された場合、規制資産及び負債に関する新しい包括的会計モデルを導入することにより、IFRS第14号「規制繰延勘定」を置き換える。
  • 本基準では、企業が、顧客に供給する財又はサービスに対して請求する規制料金を決定する、規制上の合意の当事者である場合に適用することが提案されている。
  • ある期間に供給した財又はサービスに対する合計許容報酬の一部又は全部が、異なる過去又は将来の期間に供給する財又はサービスの規制料金を通じて顧客に請求される場合に、規制資産及び負債が生じる。
  • 企業は、本提案で定義されるすべての規制資産及び負債を認識することとなり、その結果、規制収益及び費用を認識する。
  • 規制資産及び負債は歴史的原価(historical cost)で測定され、将来のキャッシュ・フローの金額と時期の更新された見積りを使用することにより事後測定について修正される。規制資産又は負債の見積り将来キャッシュ・フローは、規制金利を使用して現在価値に割引かれる。
  • 財務業績の計算書において、企業は、すべての規制収益からすべての規制費用を控除した金額を、収益のすぐ下の独立の表示科目として表示する。財政状態計算書において、企業は規制資産及び負債についての表示科目で表示し、特定の状況で相殺が認められる。
  • 新基準は遡及的に適用され、過去の企業結合については免除が利用可能である。
  • IASBは発効日を提案していないが、作成者は、新基準の最終決定と適用開始の間に少なくとも18か月から24か月の期間が与えられる。早期適用は認められることが提案されている。
  • EDのコメント期間は、2021年6月30日に終了する。
531KB, PDF ※PDFダウンロード時には「本記事に関する留意事項」をご確認ください。

背景

料金規制対象活動の会計を取り扱うIFRS基準の具体的なガイダンスがないことは、IASBへのガイダンスについての多くの要請につながった。その結果、2012年9月に、料金規制対象活動に関する包括的なプロジェクトが開始された。

EDは、2014年9月に公表され、顧客が料金規制の対象である財又はサービス企業から購入する以外に選択肢がほとんど又は全くない特定のタイプの料金規制を検討したディスカッション・ペーパーDP/2014/2「料金規制の財務上の影響の報告」*1に続くものである。

DPの公表の前に、IASBは、IFRSをまだ適用していないが従前GAAPの下で規制繰延勘定残高を認識している料金規制対象企業に対して、短期的で暫定的な解決策を提供する限定的な範囲の基準であるIFRS第14号「規制繰延勘定」を公表した。これは、ガイダンスの欠如がそのような企業にとってIFRS基準の適用の障壁である可能性があるという懸念に対処するためのものである。本公開草案の確定後、IFRS第14号は廃止される。

 

要求事項案

目的

基準案は、規制資産、負債、収益及び費用の認識、測定、表示及び開示のための原則及び要求事項を示している。これらの原則及び要求事項の目的は、規制収益及び費用が企業の財務業績にどのような影響を与えるか、及び規制資産及び負債が財政状態にどのような影響を与えるかを忠実に表現する目的適合性のある情報を提供することである。

 

範囲

新基準は、EDに示される定義を満たすすべての規制資産及び負債に適用される。

規制資産及び負債は、以下のすべてを満たす場合に発生する。

  • 企業は規制上の合意の当事者である。
  • 規制上の合意は、顧客に供給する財又はサービスに対して企業が請求する規制料金を決定する。
  • 時点差異が、ある期間に供給した財又はサービスに対する合計許容報酬の一部又は全部が、異なる過去又は将来の期間に供給する財又はサービスの規制料金を通じて顧客に課されるために生じる。

EDは、規制上の合意を「顧客との契約に適用される規制料金を決定する一連の強制可能な権利及び義務」と定義している。一部の規制上の合意のみが、規制資産又は規制負債を創出する能力がある。例えば、一部の規制上の合意は、企業が財又はサービスに対して顧客に請求することができる価格に上限を設ける。このような契約は、以下を生じさせない場合、規制資産又は規制負債を創出しない。

  • すでに供給されている財又はサービスのために、将来の料金を増額させる権利
  • 顧客にすでに請求されている金額のために、将来の料金を減額させる義務

合計許容報酬とは、企業が財又はサービスを供給する期間又は異なる期間のいずれかにおいて、規制上の合意が、規制料金を通じて顧客に請求する権利を与える、供給する財又はサービスに対する報酬の全額である。

時点差異は、例えば、規制料金が1年目の見積りインプット・レートに基づいていたが、その年の期末までに実際のインプットの原価が高いと判断された場合に生じる。規制上の合意に従って、2年目に供給される財又はサービスに対する規制料金に、これらの超過したインプットの原価が含まれる。この場合、企業は、1年目の財務諸表において、規制資産及び規制収益として、2年目の規制料金を通じて請求される超過したインプットの原価を報告する。

見解

IASBは、投資家がそのような時点差異に関する情報を有していない場合、ある期間から別の期間への企業の収益及び費用の関係の変動が時点差異によってどの程度引き起こされたかを理解することは困難であると考えている。さらに、時点差異から生じる企業の権利及び義務を理解し、将来のキャッシュ・フローに対する企業の見通しを評価することも困難である。

 

認識

上記の原則を適用するために、企業は以下を認識する。

  • すでに供給した財又はサービスに対する合計許容報酬の一部が将来の収益に含まれるため、将来の期間に顧客に請求される規制料金を決定する際に、金額を加算する企業の強制可能な現在の権利を描写する規制資産。
  • すでに認識されている収益に、将来供給する財又はサービスに対する合計許容報酬の一部を提供する金額が含まれているため、将来の期間に顧客に請求される規制料金を決定する際に、金額を減算する企業の強制可能な現在の義務を示す規制負債。
見解

規制資産は金融資産ではなく、顧客又は他の当事者に対して、企業に現金の支払いを要求する権利を与えるものではない。顧客が増額された規制料金を支払う際に、企業が最終的に現金を受け取る。同様に、規制負債は金融負債ではない。

 

規制資産及び負債を認識し、それらの変動により、企業は以下を認識する。

  • 過去の期間に収益が認識された又は将来の期間の収益に含まれる、当期に供給した財又はサービスに対する合計許容報酬の一部を描写する規制収益。
  • 過去の期間に供給した又は将来供給する財又はサービスに対する合計許容報酬の一部を提供する、当期の収益に含まれる金額を描写する規制費用。

新基準に基づいて提供される情報は、IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」を含むIFRS基準を適用することにより、企業がすでに提供している情報を補足する。

見解

規制上の合意の対象ではない企業が、いつでも財又はサービスの価格を上げることができない場合、当該能力は規制資産と同様の資産を創出しない。これは、当該能力は、すでに供給されている財又はサービスの結果として、固定又は決定可能な金額を回収することを目的として価格を上げる強制可能な現在の権利を創出しないためである。

 

測定

規制資産及び負債は、歴史的原価(historical cost)で測定され、将来のキャッシュ・フローの金額と時期の更新された見積りを使用することにより事後測定について修正される。

 

将来キャッシュ・フローの見積り

企業は、規制資産又は負債から生じるすべての将来のキャッシュ・フローの見積り及びそれらの見積りを現在価値に割引くことを含む、キャッシュ・フローベースの測定手法を使用する。

当該見積りには、過去の事象及び報告期間の期末に存在する状況に関する過大なコストや労力をかけずに利用可能なすべての合理的で裏付け可能な情報、及び規制上の合意又は法律の将来の変更以外の将来の状況に関する現在の予想が含まれる。

規制資産又は負債から生じるキャッシュ・フローは、過去の期間に供給した財又はサービスに対する合計許容報酬の一部を含めることにより規制資産を回収する、又は過去の期間に認識した収益に含まれる金額を減額することにより規制負債を履行する規制料金を企業が顧客に請求することから生じる。これには規制料金算定金利が含まれる。

キャッシュ・フローは、規制上の合意の境界内でなければならない。すなわち、将来の規制料金を決定する際に企業が報告期間の末日に金額を加算又は減算し、当該権利又は義務が加算を認める又は減算を要求する最も遅い将来の日以前に生じる、強制可能な現在の権利又は強制可能な現在の義務から生じなければならない。

不確実性のあるキャッシュ・フローについては、企業は、企業又は顧客が不確実性を負担するかどうかを判断することが要求されることとなる。例えば、規制上の合意が、未回収金額を、その後の将来期間に対する規制料金を決定する際に許容可能であると取り扱うために、顧客が、規制資産から生じる将来のキャッシュ・フローに対する信用リスクを負担する場合、企業は、将来のキャッシュ・フローの見積りに、その後の将来期間に回収する現金を含める。企業が信用リスクを負担する場合、回収できない可能性のある金額の見積りを控除後の将来キャッシュ・フローを見積る。

不確実性のある将来キャッシュ・フローは、「最も可能性の高い金額」又は「期待値」のいずれかキャッシュ・フローを良く予測する方法により見積もられる。選択した方法は、規制資産が回収される又は規制負債が履行されるまで一貫して適用されるが、異なる規制資産又は負債に対して異なる方法を選択することができる。

規制資産又は負債は、IAS第21号「外国為替レート変動の影響」を適用する貨幣性項目として取り扱うことが提案されている。

 

見積り将来キャッシュ・フローの割引

規制資産又は負債の見積り将来キャッシュ・フローは、規制料金算定利率を使用して現在価値に割引かれる。規制料金算定利率とは、すなわち、規制資産の回収までのタイムラグを企業に補償する、又は規制負債を履行するまでのタイムラグを企業に請求するために規制上の合意によって提供される金利である。その結果、企業は、関連する規制資産又は負債の存続期間にわたって規制利息の収益又は費用を認識する。

規制料金算定利率が、貨幣の時間価値及び規制資産から生じる将来のキャッシュ・フローの金額及び時期の不確実性を補償するのに十分ではない場合、企業は、そのような補償を提供するために十分な最低限の金利を適用することとなる。

規制上の合意が規制資産又は負債の存続期間中に異なる期間に異なる金利を適用することによって規制料金算定利率を不均等に提供する場合、企業はそれらの不均等な規制料金算定利率を規制資産又は負債の存続期間を通じて使用する単一の割引率に変換する。単一の割引率を決定する際、企業は規制料金算定利率の将来の変更の可能性を考慮しない。

 

事後測定

当初認識の後、規制資産又は負債から生じる将来のキャッシュ・フローの見積り金額及び時期は、その日に存在する状況を反映するために、各報告期間の末日に更新される。企業は、特定の状況を除き、当初認識において決定した割引率を引き続き使用することとなる。

例えば、帳簿価額は、規制資産の一部又は全部の回収、又は規制負債の一部又は全部の履行について更新される。また、規制料金にまだ反映されていない規制料金算定金利の発生についても更新される。

事実及び状況が変化する、又は新しい情報が明るみになった場合、将来キャッシュ・フローの金額又は時期の見積りが改訂される。これらの例としては、不確実性の解消、規制当局による審査又はその他の行動、及び規制金利、規制上の合意又はその境界の変更が含まれる。

規制料金算定利率が変更された場合、企業は新しい料金を使用して将来のキャッシュ・フローの見積りを更新することが提案されている。

場合によっては、規制上の合意には、企業が関連する現金を支払う又は受け取る場合、又はその直後に、当該項目が財務諸表の費用又は収益として認識される場合にのみ、規制料金を決定する際の費用又は収益の項目が含まれる。このような場合、企業は、IFRS基準を適用することにより、関連する負債又は関連する資産を測定する際に企業が使用する測定基礎を使用して、結果として生じる規制資産又は負債を測定する。企業は、規制資産又は規制負債に存在するが、関連する負債又は関連する資産には存在しない不確実性を反映するように、その測定を調整する。

これらの測定の提案が適用され、その他の包括利益(OCI)を通じて関連する負債又は資産を再測定することから生じる規制収益又は費用をもたらす場合、企業は、結果として生じる規制収益又は費用をOCIに表示する。

 

表示

財務業績の計算書では、上記のようにOCIで表示されない限り、すべての規制収益からすべての規制費用を控除して、収益のすぐ下の独立の表示科目として表示する。規制利息収益及び費用は、当該表示科目に含まれる。

財政状態計算書では、企業は規制資産及び負債についての表示科目に表示する。これらは、IAS第1号「財務諸表の表示」に従って、企業が流動性の順序ですべての資産と負債を表示する場合を除き、流動と非流動に区分される。

企業が同じ規制料金に含まれることによりそれらを相殺する法的強制力のある権利を有し、かつ企業が同じ将来の期間に供給される財又はサービスに対する同じ規制料金でそれらの規制資産及び負債の回収又は履行に起因する金額が含まれると予想される場合、企業は規制資産及び負債を相殺することが認められることが提案されている。

見解

本提案は、キャッシュ・フロー計算書において、企業が報告するキャッシュ・フローには影響しない。

 

開示

EDは、企業が、以下についての理解の基礎を提供する規制資産、負債、収益及び費用に関する情報を提供することを提案している。

  • 企業の収益と費用との関係(財又はサービスに対する合計許容報酬が、企業が当該財又はサービスを供給した期間の収益にすべて反映されていたならば可能となっていたのと同程度に完全に)。これには、ある期間に供給される財又はサービスに対する合計許容報酬の一部が、異なる期間に供給される財又はサービスに対する規制料金の決定、従って収益に含まれていた(又は将来含まれる)ため、企業の財務実績がどのように影響を受けたかの理解が含まれる。
  • 報告期間の末日時点の、企業の規制資産及び負債。
  • 規制資産及び負債の変動が、規制収益又は費用により生じたものではないかどうか。

これらの目的を達成するために、EDは詳細な開示の要求事項を提案している。

 

経過措置、発効日及びコメント期間

新基準が最終化された場合、IASBは、企業がIAS第8号「会計方針,会計上の見積りの変更及び誤謬」に従って、新基準を遡及的に適用することを提案している。企業は、過去の企業結合に遡及的に新基準を適用しないことを選択することができる。企業が当該選択を行う場合、EDは、過去の企業結合をどのように会計処理するかに関する詳細なガイダンスを提供している。

IASBは発効日を提案していないが、公表日から開始する18か月から24か月の移行期間後に新基準が発効するように発効日を設定することを提案している。早期適用が認められることが提案されている。

EDのコメント期間は2021年6月30日に終了する。

以上

 

*1 詳細な内容は、デロイトトーマツのウェブサイト「IFRS in Focus:IASBが、料金規制に関するディスカッション・ペーパーを公表(2014.10.23)」をご参照いただきたい。(https://www2.deloitte.com/jp/ja/pages/finance/articles/ifrs/ifrs-ifrsinfocus-20141023.html)

本記事に関する留意事項

本記事は皆様への情報提供として一般的な情報を掲載するのみであり、その性質上、特定の個人や事業体に具体的に適用される個別の事情に対応するものではありません。また、本記事の作成または発行後に、関連する制度その他の適用の前提となる状況について、変動を生じる可能性もあります。個別の事案に適用するためには、当該時点で有効とされる内容により結論等を異にする可能性があることをご留意いただき、本記事の記載のみに依拠して意思決定・行動をされることなく、適用に関する具体的事案をもとに適切な専門家にご相談ください。

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