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グローバル企業におけるHRBPのあり方

Global HR Journey ~ 日本企業のグローバル人事を考える 第十六回

「日本企業のグローバル人事を考える」と題したGlobal HR Journey。第16回となる今回は、グローバル企業におけるHRBP(HR Business Partner)のあり方について論じる。効果的なHRBP体制を有する日系のグローバル企業は、極めて稀というのが現状という中、HRBPが本来果たすべき役割や、HRBPのグローバルでの組織体制や育成のあり方など、実践的な内容にも踏み込む。

効果的なHRBP体制を有する日系のグローバル企業は、極めて稀というのが現状という中、本稿では、HRBPが本来果たすべき役割に加え、HRBPのグローバルでの組織体制や育成のあり方など、実践的な内容にも踏み込んで論じる。なお、闇雲な欧米の模倣を良しとするわけではないが、HRBP体制の整備にあたっては、間違いなく一日の長があるといえ、欧米企業の先進的な取り組みなども紹介する。
 

人事の主な機能 ~ CoE、HRオペレーション、HRBP

人事が持つべき主な機能としては、ミシガン大学のデイビッド・ウルリッチ教授が20年以上前に提唱したものを起源に、一般的といえるモデルが確立されつつある。簡単におさらいすると、このモデルによれば、人事の機能は大きく以下の三つがあるとされている。

Center of Expertise(CoE)

採用、人材開発、評価・報酬等の人事における専門各領域のエキスパート集団。制度やプログラムの企画とともに、各領域における専門性の高い業務を通じ、HRBPによる現場での問題解決を支援する

HR Operations

人事業務のうち、定型的なものやデータ処理を担う。国内外の先進的な取り組みにおいては、シェアード・サービス・センターのような形で集約することにより、大きな効率化を実現している

HR Business Partner(HRBP)

事業・機能部門のトップといった経営幹部に対して、組織・人事課題の相談や解決策の提案をするとともに、事業や機能部門の現場における人事課題解決策の実行の推進役を担う(各HRBPが特定の事業・機能部門を担当する)


上記を3本の柱(「Three Pillars」)とし、特に欧米の先進企業の大部分はこのモデルをグループ・グローバル全体で採用し、人事のオペレーションをグローバルスケールで効率化・高付加価値化している。

(上記に加え、昨今では企業文化やエンゲージメントといった、「個人」ではなく「組織・チーム」単位のパフォーマンスに着目した組織開発(OD:Organization Development)を担う専門機能を設置するケースもある。これは、様々な価値観・働き方を背景とする多彩な人材を効果的に束ねることの必要性が高まっていることを背景としている。)

デロイトでは、人事の機能を“図1”のように定義している。人事オペレーション全体をガバナンスするリーダーや外部ベンダーも合わせて包括的に表現しているが、エッセンスは「Three Pillars」モデルと本質的に同等といえる。

図1:デロイトの人事機能モデル(Core Elements)

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このモデルの最大の特徴は、CoEのような高度な企画業務と、HR Operationsのような比較的定型的な業務を集約化することによる効率化・高度化をはかる一方、現場密着型のHRBPの設置により、現場のニーズに沿った問題解決を機動的に行うことにある。

我が国においても、HRBPというコンセプト自体は浸透しつつあるが、HRBPの重要性や体制整備に向けた実践的な知見を有している方はほんの一握りではないだろうか。欧米の先進企業でも理想の状態を実現できている例は多いとは言えないものの、HRBPを人事の大切な軸と捉え、トライ・アンド・エラーを通じ着々と体制を整備しつつある。この状況は、日本企業と欧米先進企業との人事のあり方におけるギャップの一つといえる。
 

HRBPの役割

HRBPは日本企業でも一般的となっている「事業部人事」とは異なる。「事業部人事」が現場における事務的な人事業務の遂行やサポートを担っていることに対し、HRBPは人事を通じ事業へインパクトを与えることが究極の目的である。主な役割は概ね以下のように集約される。

  • 事業部門・機能部門のリーダーへのコンサルティングを通じた問題解決やコーチング
  • CoEが企画した人事制度や施策の担当組織における導入・カスタマイズ
  • 変革の局面においては自らがロールモデルとなることも含めて組織の変革をリード

もう少し具体的な内容として、デロイトでは以下のようなものをHRBPの主な役割としている。

WorkforceSolution Facilitator

  •  事業遂行に必要なリソースを計画的かつタイムリーに確保
    (現場における要員計画の策定・実行)
  • 経営幹部候補を発掘(サクセッションマネジメント)

Leadership Coach

  • 現場におけるリーダーの育成・コーチング
  • 現場の従業員にとっての相談相手(第三者的な立場でキャリア設計等を助言)
     

Strategic Consultant

  • 現場の環境を理解した上での、その現場固有の組織・人事課題解決への取組み

Organization Effectiveness & Change Leader

  •  組織変革(Change Management)の推進

Local Services Execution

  •  様々な人事施策の現場における落とし込み(必要に応じたカスタマイズ、現場ニーズ・フィードバックの抽出、CoEへの連携)

Culture Champion

  •  企業理念・価値観を体現し、現場に浸透
  • 多国籍の人材のマネジメント支援


HRBPは、日本企業で一般的な「事業部人事」や「事業部総務」とは次の三つの点で異なるといえる。

一つめは、HRBPは人事のプロであり、現場における人事上の高度な問題解決に貢献するという点である。これは、時に現場にとって耳の痛い提案もするコンサルタントのような形での関わり方といえ、現場における単なる御用聞きのようなスタンスとは異なる。

二つめは、現場に寄り添いつつ、人事の出先機関として、現場における人事上のプラクティスの全社的な整合性・一貫性の担保を担う点である。特に欧米企業において人事権は現場にあることが多いが、その会社らしいプラクティスや、特定の事業・機能の利害を超えた全社視点のプラクティスを優先させる場合、時に現場を納得させたり牽制するような役回りを担う。

三つめは、グローバル経営・グループ人材マネジメントという文脈におけるHRBPの大きな存在感である。欧米の先進企業において、特に国境を越えた異動配置が比較的多く発生するケースでは、特定の事業・機能部門の内情を熟知した各国のHRBP同志が国境を越えて連携し、適材の特定や異動を実現していくプロセスをリードする。人材データベースがあればこのプロセスが成立すると思ったら大きな誤解である。グループ全体での経営人材の発掘や計画的な育成なども同様で、人材を見極める・選ぶといった行為はアナログの要素が強く、現場密着と全社視点の塩梅の妙がポイントといえる。また、事業・機能がグローバルで統合された状況においては、事業・機能部門ごとにグローバルで評価のカリブレーションを行うことが必要となるケースがあるが、そのプロセスの円滑化を担うのも各現場を担当するHRBPである。更に、新しいグローバルのプログラムや人事制度の定着化を担うのも現場に密着したHRBPである。特に、人事は各現地法人に任せる、というポリシーではなく、国境を越えてある程度グローバルに統合していく方向性にあっては、グローバルで連携の取れたHRBP体制の確立は不可欠な要素といえる。
 

HRBPの組織体制

HRBPは通常、各事業や機能に配置される。大規模な事業・機能組織であれば、複数のHRBP(例えばシニアなメンバーとジュニアなメンバーのコンビ)がチームとして配置されるが、小規模の場合は1名のHRBP(例えばシニアなメンバー)が複数組織を兼務している場合もある。各社各様であり一概に言えないが、米国においては、概ね従業員200名あたりHRBP1名1 、つまり従業員10,000名の会社であればHRBPは50名程度存在するという調査もある。

次にHRBPと関連する組織との関係を欧米先進企業の例を参考に解説しよう(図2参照)。

図2:HRBP組織の概念図

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HRBPと現場との関係

  • HRBPの直属の上司(「ソリッド」のレポート関係)は、配置される事業・機能に対してではなく、人事(例えばCHRO)であることが一般的である(つまり、HRBPの所属はあくまで人事部門)。他方、HRBPの使命としては、当該の事業・機能への貢献であることから、事業・機能の長との間には人事に次ぐレポート関係(すなわち「ドッテド」のレポート関係)であることも欧米先進企業では多い。
  • 一方、この反対のパターン(つまり事業・機能の長が直属の上司となるパターン)は、現場の裁量が最優先となっている組織でない限り、お勧めできない。このパターンにおいては、現場に寄り添った支援がより実現しやすくなる一方、会社全体としての一貫性・横串機能や牽制機能が損なわれる可能性があるからだ。現場の機動力や柔軟な対応は大切な観点であるが、一定の牽制機能の存在がより健全性を高め、効果的に機能することにつながることが多い。
  • なお、HRBPの毎年期初の目標・KPIの設定にあたっては、自らが担当する事業・機能の長の意向がきちんと反映される仕組みとすることが、大切なポイントといえる(例えば、目標設定プロセスにおいて、事業・組織側の意向をヒアリングするプロセスを公式に組み込む等)。
     

HRBPと他のHR機能との関係

  • CoEやHR Operationsとの関係について、これも一概には言えないが、CoEやHR OperationsはHRBPを支援(≒HRBPに貢献)する役割と言えることから、CHROなどを直属の上司(「ソリッド」のレポート関係)としつつ、HRBPに対しては、CHROに次ぐレポート関係(すなわち「ドッテド」のレポート関係)とするケースがある。また、その場合、CoEやHR Operationsの目標・KPIの設定にあたっては、支援されるHRBPの意向が反映される仕組みの導入がポイントといえる(さらに、HRBPとCoEやHR Operationsとの間において、Service Level Agreementを結んで、サービスの品質を月例の会議で確認している事例もある)。

グローバルでのHRBP同士の関係

  • HRBPはグローバル・グループ全体でも一貫性を担保したり、ベストプラクティスをグローバルで共有したり、また、国境を越えた適所適材やサクセッションマネジメントにおいて連携して動けるよう、レポート関係を構築したり、チームビルディングをすることが大切となる。
  • 欧米の先進事例においては、HRBP同士は国境・拠点を越えてレポートラインでつながっていることが多い(例えば、ローカルのHRBPは地域統括会社のHRBPにレポートし、地域統括会社のHRBPは、グローバル本社のHRBPにレポートする等)。また、指示命令系統がつながっているだけでなく、年数回の全世界のHRBP担当者全体のバーチャル会議や、HRBP幹部だけの対面の会議を定期的に行って、有機的なチーム体制を維持している。
     

以上から読み取れるポイントは二つ。一つめは、単にHRBPを各現場に配置するだけでは不十分であるという点にある。レポートラインや人事評価などを通じ、現場の意向がHRBPの動きに反映され、HRBPの意向がCoEやHRBPに反映されるメカニズムを確固たる仕組みとして整備しておくことが欠かせない。これは、現場に価値を提供すること、現場に貢献することこそを人事の究極の目的として据え、まさに現場を軸とした体制を追求した結果に他ならない。人事権が現場にある等、人事が現場発である傾向の強い欧米企業らしい発想に起因していることは間違いないが、日本企業においても十分応用できる考え方といえる。

二つめは、HRBP同士のつながりの構築である。特に国をまたぐ人材マネジメントにおいては、現場に対する貢献という点でも、現場における人事の全社的な整合性・一貫性の担保という点でも大変重要となる。
 

HRBPのプロファイル~育成・確保に向けて

HRBPの育成・確保は、欧米の先進企業においても容易ではない。まずはHRBPのプロファイルを典型的な職務記述書を通じて紹介しよう(図3)。

図3:HRBPの職務記述書(JD)

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HRBPは人事のプロであるとともに、担当する事業・機能の知見や勘所という二つの要素を持っていることが欠かせない。しかしながら、当社の米国企業を中心とした調査によると、HRBPが現場を理解しているとみなされているケースは2割に満たず、理想と現実にはかなりのギャップがあり、簡単ではない問題であることが見て取れる。

少なくとも米国において、HRBPの大半は人事畑の出身である。当社の調査によれば、究極のHRBPといえるCHROについては、就任者のうち4割が人事畑以外の出身者であるが、実際に現場を担当するHRBPのレベルでは人事に関する専門的なバックグラウンドを持つ人が大半であり、欧米の優秀なHRBPは現場の深い理解に加え、採用や報酬といった複数のCoEを経験するなど、人事に対する深い知見・経験を持っている場合が多い。例えば、Googleなどにおいては、人事のバックグラウンドを持つHRBPに現場を経験させる意図的なローテーションを組んでいるといわれている 2

また、欧米の先進事例におけるHRBPは、担当する部門内の主要な会議には必ず出席し、計画・目標やその進捗推移などを理解するとともに日常のビジネス・オペレーションの理解に努める。さらには、会議における参加者の発言や振る舞いをつぶさに観察することにより、常に担当する部門内の人材を見極め、異動や育成に関して、いつでも所属長にアドバイスを提供できる状況づくりに余念がない。

なお、HRBPの役割を理解するのは、HRBP自身だけでなく、HRBPを受け入れて活用する事業・機能部門にも必要といえる。ニワトリとタマゴの話ではないが、事業・機能部門のリーダーがHRBPにレベルの低い仕事を依頼し続けるようではHRBPも成長の機会がない。うまく使うことが大切である。


欧米企業のHRBPは比較的高学歴である。ある調査によれば、HRBPのポジションに修士以上の学歴を要件として求めている割合は2割程度であるが、9割において修士号の保持を歓迎しており、実際の就任者の6割は修士号を保持している3 。また、People Analyticsや人事におけるAIの活用が一般的になる中、このスキルをHRBPに持たせて、予測的な分析に基づく問題解決能力の向上に乗り出す例も現れている。更に、事業部門など人事以外の実務経験を有することを求める傾向が以前より、強まってきているとも言われている。


そもそもローテーションによるジェネラリスト志向を長年続けてきた企業が多く、人事のプロを養成する大学などの教育機関も少ないことから、日本には人事の専門家自体がそれほど多くない。その点は、欧米企業にはないハンディキャップがあるといえる。他方、日本企業には、長期雇用も相まって現場を知り尽くした現場のプロは多数存在するのは利点である。だとすると、欧米とは異なったアプローチで効果的に育成できる余地もありそうだ。
 

おわりに

欧米の先進企業は、事業や機能にHRBPという人事のプロを配置し、現場の人事課題解決を機動的に行うとともに、グループ・グローバルワイドの人材マネジメントを円滑に行う体制を構築しつつある。この状況は、日本企業と欧米先進企業との人事のあり方における大きなギャップの一つだ。闇雲に欧米企業に追従することを勧めるわけではないが、HRBP体制の確立は日本企業にも多くの有意義な点があることは論を待たない。

HRBPの育成・確保は一朝一夕にはいかないことから、今すぐにでも着手すべき課題である。日本企業には、人事のプロは決して多くないが、すでに述べた通り、長期雇用も相まって現場を知り尽くした現場のプロは多数存在する。欧米のように人事の専門家に現場の経験を積ませるのではなく、現場の経験者に人事の教育を施すことで、欧米企業とは一味違うアプローチでHRBP体制を構築できる可能性は十分にある。
 

筆者紹介

嶋田 聰
シニアマネジャー

グローバル人材マネジメント、グローバル共通人事制度、国際人事異動制度の設計・導入支援などに加え、クロスボーダーM&A・PMIや、学習・人材開発等、日系企業のグローバル化の人事領域における支援に数多く携わる。海外におけるプロジェクト経験は北米・南米・欧州・アジア・アフリカ含む約20ヵ国。多国籍チームのプロジェクト・マネジメント経験も豊富。
 

1The Talent Strategy Group, “HR Business Partner Benchmarking Report” (accessed at “https://www.talentstrategygroup.com/application/third_party/ckfinder/userfiles/files/HRBP%20Benchmarking%20Report%20-%20Talent%20Strategy%20Group.pdf”)
2Ikenna Njemanze, “What Does Being a Strategic HR Business Partner Look Like in Practice,” (accessed at “Cornell University ILR School DigitalCommons@ILR”), 2016.
3The Talent Strategy Group (同上)

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