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中国におけるシェアードサービスセンター事情

Global HR Journey ~ 日本企業のグローバル人事を考える 第二十回

中国で複数のSSCを視察したコンサルタントが、中国におけるSSC活用の背景や、SSC立上げ・運営にあたっての日本との違いについて、実際にSSCを運営している企業の担当者からヒアリングした内容等を交えてご紹介する。

「最近、日系企業のシェアードサービス視察が多いのよ。2週間前は金融系の会社が来ていたし、来月は別のメーカーさんが訪問予定ですよ。」と、先日訪ねたシェアードサービスセンター(以下SSC)の中国人ディレクターが話していた。

確かに、直近でもSSCの立上げを開始している日系企業の話をよく聞くようになり、筆者も複数のSSC視察に同行した。SSC立上げ・運営をするにあたって、日本と中国では何が違うのか?その疑問に対して、実際にSSCを運営している企業の担当者からヒアリングした内容等を交えてご紹介する。

 

中国におけるSSC活用の背景

ファーウェイ、ハイアール、レノボなど大手中国企業や外資系企業でSSCが活用されているというのは想像に難くないと思うが、その裾野は広がりつつあり、2015年前後からは中国地場系企業においてもSSC活用が進んでいる。

SSC活用の一番の目的はガバナンス強化である。グループ各社で経理業務や給与計算業務を行うということは、ローデータも集計情報も各社にあり、レポートを受ける本社側にとっては、正確な情報が得られなかったり、時間が掛かったりしてしまう。そこで、対象業務を丸ごとSSCに移管・集約することで、データや情報が可視化され、本社が直轄で確認できる状態となり、情報のブラックボックス化防止や、更には現場での不正防止にもつながってくる。

もちろん、第二の目的としてコスト削減効果も見込まれるが、二級・三級都市においても人件費が上昇し続けているため、単純にSSCに移管しただけではコスト削減を見込むことはできない。既存拠点で移管対象業務に従事する従業員の再配置や人員削減が必要となり、SSC側でも少人数でオペレーションを回すために既存プロセスの見直し、デジタル・システムへの投資などによる業務効率化が求められる。中国のSSC立上げにおいては、35-40%の既存人員を削減していると言われており、組織変革を行っていくためには、正に「No Pain, No Gain」であると言えるのではないだろうか。

 

在中国日系企業におけるSSC活用の動き

ここにきて日系企業でSSC活用が議論されるようになった理由としては、中国市場において中国企業が台頭し、彼らや外資系企業との競争がより激しくなってきたことが挙げられる。競合他社は中国式の独自のやり方で意思決定や業務・技術改善スピードの迅速化、コスト削減の徹底化を推進している。今まで日系企業はボトムアップ型の事業部別・個社別経営によって強みを発揮してきたが、現状のままでは競合他社に負けてしまうという危機感から、全社経営を加速しようとしており、その過程でシステム・各種制度統合やSSC機能の立上げを検討する日系企業が出始めている。

もちろん、今までのやり方とは大きく異なる上、現場従業員にとっては自分の業務が変わっていく可能性があるため、ネガティブな反応が出てくるのも事実である。

例えば、SSCを立上げ中のある日系企業においては、中国現地法人のトップは積極的に実施したいと思っているが、現場の工場に「自分の仕事が取り上げられる」と思われたために反発を受けてしまい、現場を説得するのに苦労したと聞く。特に現場のマネージャーに対しては、なぜこのような大掛かりな組織変革を行うのかを丁寧に説明し、自分が担うべきミッション・今後の新しい役割を当人に与え納得してもらい、改革の推進者となってもらうことが重要である。

別のある企業の経理責任者からは、「離れた場所で現場の事情も分からずにSSCが経理作業をすると、業務の精度や従業員サービスへの質の低下を招くのではないか」との懸念が聞かれた。確かに一見、近くで対応してくれる担当者がいなくなるのは心許ないかもしれないが、現状のサービスが最善とは限らない。SSCに移管する際に守るべきサービスレベルや従業員との接点を再構築し、サービスの受益者となる従業員にとってより使いやすいものとは何か、エンプロイーエクスペリエンスを追求していく必要がある。

 

中国におけるSSC立上げ・運用の仕組み

ここまではSSC活用にまつわる動向についてご説明したが、具体的にどの様な方法で立上げや運用が行われているかについて、言及していきたい。

1. ロケーション選定

まず、SSC拠点の設置場所としては、代表的には東北部の大連、内陸部の重慶・成都、沿岸部では無錫・蘇州などが挙げられる。選定基準としては、①業務集約対象となる地域、②SSC人材の人件費やクオリティ(語学含む)、③不動産コスト、④ITなど各種インフラ、⑤税制優遇や各種法規制など、バランスを見ながら選定を進めていく必要がある。

特に大連はソフトウェアパークを中心に外資のオフショア開発拠点として発展してきた経緯もあり、ITインフラの充実度合や英語・日本語などの語学が堪能な人材が豊富である。そのため、APAC(アジア太平洋)地域など海外からのサービス受託(GBS: Global Business Service)を行っている外資系企業も存在し、オフィス風景もカジュアルで働きやすい印象を受けた。

特に筆者が訪問した中で印象的だったのが重慶である。内陸都市に対して地味なイメージを持たれる方も多いが、人口3,000万人を擁し、長江沿いに高層ビルが立ち並ぶ重慶は、名物の火鍋以上に刺激的であった。

長江沿いに高層ビルが立ち並ぶ
長江沿いに高層ビルが立ち並ぶ重慶(写真は筆者が車中にて撮影)

2. SSC立上げ・運用プロセス

SSCの立上げにあたっては、「業務プロセスの標準化」と「SSCへの業務集約化」という2つの大きなテーマがあるが、中国においては、SSCへの業務集約化を先行して行った後、または同時に業務プロセスの標準化を行うことが多い。これはグローバルのSSCトレンドとも一致しており、大半の企業が同様の進め方を行っている。

これは、SSC移管前に業務プロセスの標準化を進める、日本企業における一般的なアプローチと異なっており、違和感を感じられるかもしれない。具体的にどのように進めているのか、以下にてご説明したい。

① SSC拠点での新規採用

中国には、戸籍制度等のため人材の移動に制約があり、同じ都市で働き続けることを好む傾向もあるため、転勤をする中国人従業員は少なく、基本的にSSCを立ち上げる現地で人員採用をする必要がある。例えば、重慶周辺では毎年15-20万人の大学生が卒業しており、毎年多くの若い人材が採用され、SSCに供給される。

② 現行業務の移管

まずは業務標準化を行わず、各拠点で行われている現行業務をそのままSSCに移管する。これは、各拠点でブラックボックス化していた業務を移管の過程で可視化し、現状把握すると同時に、採用したSSC担当者に業務内容を覚えさせるためのトレーニングとしても機能する。なお、前述のSSCディレクター曰く、今まで各社でバラバラに対応して人手を掛けていたのが、一か所でまとめて対応することになるので、この集約化を行うだけでも全体の業務効率化を図ることができると話していた。実際、全拠点で21人いた給与計算担当者を最終的には14人まで削減したという(33%減、担当者一人当たり1,000名の従業員を対応)。

③ 業務プロセスの定義・手順化

次に、移管した業務プロセスをモジュール単位で細分化して再定義し、手順化を行う。手順化まで落とし込みマニュアルを作成することで、非熟練者をいち早く戦力化し、一定のクオリティを保つことができる。

④ 担当チーム編成

上記で再定義したプロセスを基に、マネージャーを中心に社会人2-3年目の若手レベル、大卒レベルのメンバーでチームを編成する。もしメンバーが辞めた場合でも、マニュアル化をしているため、業務を回すことが可能である。

⑤ 業務プロセスの更なる改善、システム統合・デジタルツール導入への投資

上記で日々のオペレーションが回るようになった後、SSCを主体として更なる標準化の取り組みを進めていく。その中でも一番インパクトが大きいものがシステム統合であり、単なるコスト削減だけでなく、より戦略的な企業経営に寄与するデータ分析情報の提供や、セルフサービス化による従業員の使いやすさを高めるプラットフォームとして機能する。また、デジタルツールの活用としては、所得税申告にRPA(Robotic Process Automation。ソフトウェアを活用した定型業務の自動化)を活用し、今まで数日かかっていた作業を2時間まで短縮し、作業精度の向上にも成功したという事例もある。

最後に

一連のSSC視察を通じて、中国では地方都市における人材供給のエコシステムを活用しながら、システム化・デジタル化への積極的な投資も行い、徹底的なオペレーションの効率化を図っている、という印象を受けた。SSCを立ち上げるのが目的ではなく、事業戦略に沿って全社の人事や経理業務機能の在り方を再定義し、その中でSSCをどう位置付けて運用していくかが重要であり、経営課題として検討すべき事項ではないだろうか。なかなか実状が伝わりづらい中国ビジネスであるが、ぜひ現地現物を見ていただき、今後の事業発展の材料としていただけると幸いである。

執筆者紹介

大津 達朗(Otsu Tatsuro)
Deloitte Consulting (Shanghai) Company Ltd. Senior Consultant

ITコンサルティング会社等を経て現職。日系企業の海外進出支援、クロスボーダーのM&A案件(デュー・デリジェンス、PMI)を多数手がける。2019年よりDeloitte Chinaの北京オフィスに出向し、中国国内の日系企業(特に製造業)に対して組織・人事関連等のコンサルティング業務に従事。

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