HRBP起点の改革プロジェクトを追う~業務改革&要員計画編~ ブックマークが追加されました
《ストーリー編》
事例:尾張マシナリー(機械メーカー)
登場人物:
有田…人事本部長、風土改革プロジェクトリーダー
瀬戸…人事部次長、HRBP(HRビジネスパートナー)および人事制度分科会のリーダー
清水…HRBP(商品戦略本部担当)
上野…HRBP(営業第二本部担当)。担当業務は全社人員計画の立案
最上…外部コンサルタントのリーダー
大野…外部コンサルタントのHRBP担当リーダー
前回までのあらすじ
ビジネスパートナーによる提言ワークショップを経て、適材適所・採用強化・人事制度のそれぞれについて改革分科会が設立された。各改革分科会のコアメンバーとして、ビジネスパートナーが迎え入れられ、検討および実行がなされていった。
1人のビジネスパートナーの素朴な疑問
「そもそも、うちの会社の生産性って低いんじゃないか?」
ビジネスパートナーが一堂に会する全体会議の場で、清水がつぶやいた。ちょうどステップアッププランに基づいた当年度の全社重点施策に対して、ビジネスパートナーとしてどのような貢献ができるのかを討議しているところだった。全社重点施策の1つとして“さらなる生産性向上”を掲げられていた。
しかし、清水に言わせれば、「自分たちの仕事は手戻りも多く、とても“生産的”とはいえないと思う。例えば、社長向けの報告書でもそうだ」─担当者が作成した社長報告資料は、当然ながら、課長や部長、本部長のチェックを経て、社長に説明されることになる。清水が指摘したのは、そのプロセスである。各チェックにて指摘事項があった場合には、必ず課長チェックから再開するのである。そのため、課長、部長、本部長間で必ずしも意見が集約されていない場合には、資料を何度も作り直すことになる。
他のビジネスパートナーからも、生産性が低いと思われる同様の具体例が挙がった。「自分がなぜ呼ばれているのか分からない会議がある」「資料が段ボールで山積みになっていて、どこにあるのか分からない」「必ずしも自分が担う必要がない業務が多い」等。これらの声を聞いていた瀬戸は、改めてビジネスパートナーが各本部の状況をつぶさに把握していることに驚き、また喜ばしく思った。
自分たちの成功体験 人事部の業務改革
「“生産的”ではないとのことですが、皆さんがビジネスパートナーを始めたときのことを思い出してください」
ビジネスパートナーと伴走してきた大野が切り出した。ビジネスパートナーの取り組みは、当初、それぞれが1 人分の仕事を抱えた状態から、ビジネスパートナーの仕事を上乗せしていたため、残業時間が急増するなど、しばらくは工数を確保するだけでも至難の状態だった。しかし、現在は、ビジネスパートナーを開始する以前と同程度の残業時間にまで抑えることができている。大野は上野に問いかけた。
「上野さんは残業時間を元通りにするまでの期間が特に短かったのを覚えています。このときにした取り組みがあれば教えていただけますか」
上野は自身の動き方を振り返りながら答えた。
「ビジネスパートナーに指名されたとき、最初に“今まで通りのやり方をしていては仕事が回らなくなる”と強く思ったことを覚えています。そのとき、腹を括って“本当に自分がやらなければいけない業務は何か”と考えるようになりました。例えば、必ず出るべき会議以外は欠席することに決めました。あと、自身の担当業務も見直しましたね。手元の仕事を棚卸しして、担当者に任せられる仕事は積極的に切り出し、必要に応じて型化し、効率的に業務が回るように工夫しました」
大野は嬉しそうにうなずいた。
「皆さんが実際に行った即効性のある取り組みは、各本部に横展開できるものも多いかと思います。まずはこれを棚卸ししてみてはいかがでしょうか」
瀬戸もこれに続いて語り始める。
「確かに、IT投資を含むような、大きな効率化施策は時間がかかるが、即効性のある取り組みは各本部でも歓迎されやすそうですね。しかし、そんな簡単な取り組みだけでは、中期経営計画に盛り込まれるほどの生産性向上は見込めないでしょう。もっと抜本的な取り組みについても、ビジネスパートナーとして各本部に提言していくことはできないだろうか」
大野は立ち上がり、ホワイトボードに向かいながら話し始めた。
「それでは、人事として、即効性のある施策に加えて、抜本的な効率化施策の検討も提案していきましょう。一般的には、このような観点で効率化施策を洗い出します」
そう言いながら、大野は観点を書き出した(図表1)。
瀬戸は、ビジネスパートナーそれぞれに、担当本部に即効性のある施策リストと効率化施策の洗い出し観点等を持ち込み、生産性向上の動きを作り出していくよう指示した。