誰がために鐘は鳴る~女性活躍推進は何のため?~ ブックマークが追加されました
ナレッジ
誰がために鐘は鳴る~女性活躍推進は何のため?~
女性活躍推進の意義について、その考え方を紹介します
「女性活躍推進」という言葉を耳にしたり目にしたりする機会が増えたと感じる方も多いのではないでしょうか。2019年5月に女性活躍推進法等の一部を改正する法律が成立し、6月に公布されたこともあり、ますますそのキーワードに注目が集まっているともいえます。では、女性が活躍する社会を目指すことにどのような意義があるのでしょうか。女性活躍の推進が組織の成長につながる道筋について、その考え方をご紹介します。
「女性活躍」は女性だけのものなのか
「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律(以下、「女性活躍推進法」とする。)」をご存知でしょうか。2015年8月に成立した法律で、「働く場面で活躍したいという希望を持つすべての女性が、その個性と能力を十分に発揮できる社会を実現する」ために、女性の活躍推進に向けた数値目標を盛り込んだ「行動計画」の策定・公表や「女性の職業選択に資する情報」の公表を事業主に義務付けるものです※1。 2019年5月には、この一部を改正する法律が成立し、行動計画の策定・届出義務及び自社の女性活躍に関する情報公表の義務の対象が、これまで常時雇用する労働者が301人以上の事業主であったところ、101人以上の事業主へと拡大される(施行については公布後3年以内の政令で定める日となる)等※2、より多くの事業主が積極的な取組を求められるようになりました。
皆さんは、「女性活躍」と聞いてどのようなイメージを抱きますか。女性というワードが使われているため、女性のためだけにある言葉のように感じる方がいらっしゃるかもしれません。また、この度の法改正で義務の対象となったことで初めてこのキーワードを身近なものとして意識するようになった方も中にはいらっしゃるでしょう。いずれにせよ、「確かに必要なことだ」と感じているものの、それにどのような意義があるのかについて腹落ちしている人はどのくらいいらっしゃるでしょうか。
※1(参考)内閣府男女共同参画局「女性活躍推進法―見える化サイトー」
※2(参考)厚生労働省「女性活躍推進法特集ページ」
女性活躍の推進は組織の成長につながる
女性活躍推進の意義について考える上で興味深いデータがあります。内閣府男女共同参画局が2018年度に「ESG投資における女性活躍情報の活用状況に関する調査研究」において実施した、我が国で活動する機関投資家向けのアンケート調査結果(※外部サイト:内閣府男女共同参画局)です。
機関投資家?と不思議に感じる方がいらっしゃるかもしれませんが、機関投資家は投資判断を行う際に、その企業がこの先に成長していくかどうかを考察しており、いわば企業(組織)の成長を見極めるエキスパートといえます。この調査結果には、彼ら/彼女らが「女性活躍の推進」をどのように捉えられているかが示されています。
調査結果では、投資判断や業務において女性活躍情報を活用する理由として、7割以上の回答者が「企業の業績に長期的には影響がある情報と考えるため」と答えています。また、女性活躍情報を企業の業績に影響がある情報と考える理由については、「ダイバーシティの確保がイノベーションにつながることなどが期待できるから」(85.4%)、「人材獲得により影響があると判断できるから」(69.5%)、「新しい商品・サービスの開発が期待できるから」(65.9%)等の理由が挙がりました。
また、同研究の報告書では、アンケート調査に加えて、機関投資家へのインタビューを実施した結果も踏まえて、女性活躍推進が企業(組織)の成長につながる4つの考え方が示されています(以下は、内閣府男女共同参画局「ESG投資における女性活躍情報の活用状況に関する調査研究 報告書」(2018)より、要約して作成)。
(1)イノベーション
例えば、これまで腕力のある男性のみで力仕事を行っていた工程に女性が入ることになり、運搬用機材等を導入することで、腕力に自信のない者でも誰でも作業が可能となったり(プロセスイノベーション)、商品開発の際に男性のみならず女性の視点も入ることで、多様なアイデアが生まれたり(プロダクトイノベーション)する。
(2)働き方改革による生産性向上
フレックスタイム制、在宅勤務、各種休暇制度など、女性のみならず男性にとっても柔軟な働き方ができる環境整備が進むことで、生産性の向上が図られる。
(3)人材の確保(採用、リテンション対策)
女性も働きやすく活躍できる会社であるというアピールポイントを示し、男女問わず優秀な人材を獲得しようと工夫する企業は、魅力的な職場に集う新規人材の確保のみならず既存人材の定着にもつながる。
(4)ダイバーシティによるリスク低減
多様な視点から議論や評価することで、グループシンク(同質思考)に陥ることなく企業にとってのリスクを回避したり軽減したりすることにつながる。
まずは女性活躍状況の可視化から
ここまで、女性活躍の推進は単に女性のためだけのものではなく、組織全体の成長へとつながるものという考えを紹介してきました。女性活躍推進のための各種取組内容の紹介については別の機会に譲ることとして、最後に、組織における女性活躍状況に関する情報の開示について記しておきたいと思います。
男女共同参画白書では、女性活躍情報の「見える化」の重要性について、「女性の活躍状況に関する情報の公表等の義務付けによって,企業における女性活躍についての『見える化』を推進させ、各企業の女性活躍の状況や取組に関する情報を求職者や投資家が得やすくなり,市場を通じた企業に対するモニタリングが働くことで、各企業が女性活躍推進に自律的に取り組む潮流をつくることも女性活躍推進法の目指すところである。」としています(内閣府男女共同参画局「男女共同参画白書 平成29年度版」より)。このように、モニタリング機能といった外的要因による効果もさることながら、女性活躍情報の開示が求められる中で、そもそも自身の組織は女性活躍についてどのような状況にあるのか、例えば、新規採用者や管理職に占める女性労働者の比率はどうなっているか、育児休暇の男女別の取得率はどうか、男女の平均勤続年数の差異はどうかといった現状を可視化して把握し、そこから課題と対応策を検討していくという、組織の内側で起こる動き自体も意義深いことであると考えられます。
その他の記事
AI技術が医療現場にもたらす未来
医用画像診断等におけるAI技術発展の現状と今後の見通し