最新動向/市場予測

AI技術が医療現場にもたらす未来

医用画像診断等におけるAI技術発展の現状と今後の見通し

今、AI 技術の進化 が止まりません。ヘルスケア領域においても健康管理、病気の予防や早期発見、診断支援、予後モニタリングまで利用シーンにおける様々な切り口から製品化に向けた動きが進んでいます。 そこで本稿では、中でもAI技術と親和性が高く、検討が進んできている医用画像診断 におけるAI 技術の進展や、国における法制度整備の現状、今後の更なる発展の見通しについてレポートします。

「医療機器」とは

さて、医療機器と言われて連想するものはどういったものでしょうか。AIのお話の前に、医療機器を定義しておきましょう。医薬品や医療機器および再生医療等の製品の製造から販売までに関して定めた法律に目を向けると、我が国には「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(以下、薬機法)」という法律があります。この2条第4項にて「医療機器」とは、「人若しくは動物の疾患の診断、治療若しくは予防に使用されること、又は人若しくは動物の身体の構造若しくは機能に影響を及ぼすことが目的とされている機械器具等(再生医療等製品を除く)であって、政令で定めるものをいう」とされています。さらに使用における安全上のリスクや目的や用途などにより、高度管理医療機器、管理医療機器、一般医療機器と分類されています。

 

出所:一般社団法人医療機器産業連合会ホームページよりトーマツ作成

薬機法という法律は、平成26年11月、改正が行われ施行されたもので、以前は「薬事法」と呼ばれていました。この改正の大きなポイントは2つあります。1つは、従来ソフトウェア部分のみでは薬事法の規制対象とならず、ハードウェア部分に組み込んだ形で規制していたものを、ソフトウェアを単体で流通することを可能とし、「医療機器プログラム」として規制対象とした点です。もう1つは法の内容の一部改正だけでなく法律の題名が「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」と改定された点です。以前使われていた「薬事法」という名称は、昭和18年に制定されていたので、半世紀以上使用されてきた法律名が変更となった大きな変化でした。しかし、これらは時代に合わせた配慮であり、高度化する医療機器の承認・許可に係る規定を、医薬品の規定から独立させることになったのです。それから5年あまりが経過。今年5月には新たに今後のAI搭載を推進する改定案を含める提案が閣議決定されています。

 

AI開発の政策動向と医療現場に求められるAIリテラシー

厚生労働省は昨年7月から医薬品開発や診断・治療支援など保健医療分野でのAI開発と利活用を加速するための課題と施策を議論してきており、「保健医療分野AI(人工知能)開発加速コンソーシアム」を立ち上げています。これには背景として、第5期科学技術基本計画の重要事項として位置付けられている“Society5.0”という、わが国の科学技術イノベーション政策に関する基本計画があります。当コンソーシアムでは2019年6月6日、医薬品に開発やゲノム医療などで活用できるAI開発を促すため、取り組むべき施策をまとめました。その中で、医薬品医療機器総合機構(PMDA)による医療機器の薬事承認や審査におけるAI活用に言及。さらに、市販後に性能が恒常的に変化する医療機器の改良プロセスを評価し、市販後の性能変化に合わせて柔軟に承認内容を変更できる方策の検討が明記されました。これは現状、市販後に自己学習するAIの仕組みは、「性能変化した別製品」として制限されていた点が、この施策によって大きく変わる可能性があります。
施策 の中にはAIに関する教育を医療者に行うことも記載されています。AI技術はIT業界のみならず、今後広がりが想定される医療現場において重要性が高まります。機器を使う側にもAI活用リテラシーが問われることとなるでしょう。

AI技術発展は医療分野でも存在感が増しています

AIブームは、推論・探索を可能にした第一次ブーム(1950〜60年代)、ルールを規定が可能となった第二次ブーム(1980年代〜90年代半ば)があり、現在は深層学習 を基盤にした第三次AIブームを迎えています。以前のブームと比べて、できることが劇的に増えただけでなく、AIが人類の知能を人工知能が凌駕する、技術的特異点(シンギュラリティ)が到来するという説が米国の発明家・未来学者であるレイ・カーツワイル博士により提唱されるまでになっています。
1979年に福島邦彦先生によって提唱された階層的、多層化された人工ニューラルネットワーク である、ネオコグニトロン。この手法は手書き文字認識やその他のパターン認識の課題に用いられており、畳み込みニューラルネットワークの発想の元となったといわれています。その後、世界中のコンピュータビジョン関連の研究者たちが集まる「ImageNet Large Scale Visual Recognition Challenge」という画像認識コンペティションなどで現在の形として応用されています。2012年のコンペティションにおいて、カナダのトロント大学チームが提唱した畳み込みニューラルネットワーク (Convolutional Neural Networks (以下CNN)登場以降、画像認識においてこのCNNを用いることが、デファクトスタンダードになってきており、医療画像においてもこの手法を用いた画像処理が行われています。CNNが用いられている のは、一言でいうとその精度の高さにあります。
医療機器においてもCNNを搭載した機種が出てきており、例えばCTやMRIにおいてノイズの多いインプットデータに対し、開発段階で繰り返し高画質な教師データを学習させておいたアルゴリズムによってノイズを除去したり、空間分解能を向上させたりできるシステムが販売されています。また、2019年7月11日から開催している、第27回日本乳癌学会学術総会において、超音波検査装置の描出する動画に対しリアルタイムに腫瘍検出する解析システム研究が紹介されました。「リアルタイム動画」へのAI活用は新たなアプローチであり、より高精度の診断をサポートにつながると期待されます。
もちろん機械学習 と呼ばれるシステムはCNNだけでなく様々存在しているので、これを応用した製品も販売されています。検査時に横たわった患者の向きや体の大きさ・厚み・体型を自動認識し、被ばくを抑え最適な位置で撮影できるよう寝台の高さ調整まで行ってくれるといった操作アシストやMRI装置において撮影断面設定を自動アシストしてくれる技術を搭載した装置なども医療現場を支える技術です。また、AIを搭載した内視鏡画像診断支援ソフトウェア も登場しています。産学官連携で研究開発されたこのシステムは、臨床性能試験を経て、未だ なかなか多くの機器が取得できてない医薬品医療機器等法の製造販売承認を取得しています。このシステムでは主要性ポリープと非腫瘍性ポリープの可能性を数値化し、可視化することで医師の診断をサポートするものです。
すでに医療の現場をサポートするべく機器のAI化は進みつつあるのです。

AIの加速的進歩は医療への向き合い方を変えます

AIを臨床領域に導入する目的は、臨床現場におけるアウトカムの向上にあります。①装置の自動スキャンや操作サポート技術において関与するケース、②画像やデータに係る内容として自動標識やセグメント分け等の自動化するに関与するケース、③異常を自動検知し、それを応用して人的ミスを発見するのみならず、異常所見検出によって診断サポートに関与するケースなど、AIのアルゴリズムは臨床ワークフロー効率を高め、同時に診断ミスなどの回避や、例えば診療報酬の算定ミスなどを防ぐいわば生産性向上に寄与するリソースになりうると考えられます。
そして、この先のステージに期待されるのは治療決定サポートに関与するケースと考えられます。AI技術は、個別化医療を促進し、さらには患者自身の医療や健康、予防に向かう姿勢のパラダイムシフト、治療参画意識の変化を促すこととなり得、医師や看護師・コメディカル従事者だけでなく、私たちの病気予防・治療 への向き合い方も変わってくると思慮されます。
 

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