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医療機関の働き方改革に向けた病院長研修開催レポート

「病院長の皆様へ 始めるのはトップから」をスローガンに全国31回開催

「医師の働き方改革に関する検討会」報告書が取りまとめられ、個々の医療機関が労働時間短縮や医師の健康確保を進めていくことが重要とされています。しかし、現時点においては医師の在院時間ですら管理できていない病院もあり、早急に意識改革を図る必要があります。医療機関の働き方改革には病院長の意識変革が必要であるという「病院長の皆様へ 始めるのはトップから」をスローガンに、全国で31回の病院長研修を開催しました。

なぜ医療機関の働き方改革が必要なのか

日本の人口は減少局面を迎えて久しく、今後は労働人口が激減することが推計されています(図1)。現在は医療機関の間で人材獲得競争が起きていますが、労働人口が少ない社会が到来したときには、産業間での労働力獲得競争が起きる可能性があります。つまり、医療機関の職場環境が悪いと、そもそも医療の担い手がいなくなってしまうことが懸念されるということです。医療機関の働き方改革は、持続的な医療提供体制を構築するために必要不可欠であると言えます。

出所:厚生労働省

医療機関の経営者や経営幹部の皆様の中には、「いや、医療者は聖職者である。自分が若いときには労働時間など考えたこともなかった」とお考えの方もいらっしゃるかもしれません。しかし、図2に示すように、若手医師の意識は着実に変化しています。この変化を無視して使命を強要することは、当面の医師確保にマイナスになるだけではなく、将来的な我が国の医師のなり手を減らしてしまうことになりかねません。働き方改革は、医療機関の経営面でも、医療提供体制の持続性の面でも、避けることはできない取組みになっています。

とはいえ、働き方改革は労働時間削減だけを意味するものではありません。適正な労働時間による健康確保は重要な取組みではありますが、働き手が少ない社会の到来を見据え、女性や高齢者の活躍の場を広げたり、非正規職員の低賃金や不安定な雇用を解消したりといった取組みも行うことが国の方針として示されています(図3)。

出所:厚生労働省

これらの計画のいくつかは既に実行に移されており、例えば時間外労働の上限規制(原則として月45時間、年360時間)は2019年4月1日から(中小企業は2020年4月1日から)、年次有給休暇の取得義務化は2019年4月1日から、正規雇用労働者と非正規雇用労働者の不合理な待遇差の廃止は2020年4月1日から(中小企業は2021年4月1日から)適用されます。

医療機関も例外ではなく、図4のように医師以外については現時点で一般企業と同じように適用されています。今後、これらの法律が医師にも適用されることになりますので、現時点から計画的に働き方改革を推進することが不可欠となります。

 

出所:厚生労働省

医師の働き方改革のポイント

本研修では、厚生労働省から、病院長の皆様に知っておいて頂きたい医師の働き方改革に関する政策動向や、勤務環境改善のポイントの解説を行いました。その後、各地域で働き方改革に積極的に取り組まれている先生方から事例紹介を頂き、最後に質疑や参加者同士の意見交換の時間を設けました。

厚生労働省からは、医師の働き方改革に関する基本的な方針や、改革のロードマップ、地域医療構想と連携した今後の取組み等の説明とともに、タスクシェアや専門医制度のあり方、宿日直の取扱い等、幅広いテーマで解説がありました。詳細はwebで公表されていますので、ここでの解説は省略しますが、具体的に推進する上での重要なポイントを一つお示しします。

図表5に示すとおり、厚生労働省によるマネジメントシステムは、働き方改革に向けて7つのステップを推奨しています。この中でも特に重要なのが、ステップ1とステップ6です。

ステップ1では、経営トップによる方針表明とされています。経営トップは、改革が必要であると組織の方向をまとめるために、第一段階で、院内の危機感(切迫感)や問題意識を高め、数多くの職員と共有することが必要です。これがないと、なぜ改革が必要なのかを職員が理解することができず、施策を打ち出しても職員の協力や理解を得ながら進めることができません。

また、ステップ6では、実際に取組みを実施していくことになりますが、継続的に改善活動を実施するためには、うまくいったという成功体験が不可欠です。そのため、経営トップは、計画的に短期的な成果が出るように工夫する必要があり、成果が出た場合には組織全体でしっかりと認知・評価できるようアナウンスをする必要があります。

取組みやすい施策から手をつけて、達成感を味わうことが、職員全員で活動を継続する上でのポイントです。

 

出所:厚生労働省

厚生労働省としても、地域医療構想の実現に向けた取組み、実効性のある医師偏在対策、医師・医療従事者の働き方改革を三位一体で推進し、総合的な医療提供体制の改革を推進したい考えです。そうした改革を後押しするため、具体的な来年度の予算措置を講じています(図表6・7)。
特に、「勤務医の働き方改革の推進」は新規で95.3億円の予算(令和2年度)が付き、一定の要件を満たす医療機関がICT等の活用、院内環境の改善といった施策を総合的に推進するための経費をパッケージ化するとしています。その他、個別の医療機関への直接的な補助だけではなく、調査研究等を通した間接的な補助、そして「医療のかかり方普及促進事業」といった国民への啓発活動等もあわせて行うこととされています。
補助金は前年度から大きく増額されていたり、内容も多岐にわたっていたりすることから、皆様の病院でも該当するものがあるかどうかお調べ頂き、是非ご活用ください。

出所:厚生労働省
出所:厚生労働省

研修講評

本研修では、全31回で1300病院超、1800人超の参加申込があり、大変盛況でした。厚生労働省の発表はもとより、事例紹介を頂いた講師の先生の講演や、参加者同士の意見交換についても、参考になったとの声を多数いただいています。およそ6割の参加者が病院長であったことから、「病院長の皆様へ 始めるのはトップから」というスローガンをある程度達成できたものと考えています。アンケート結果から、研修全体を通して、「非常に参考になった」、「参考になった」割合は98%と、満足度が非常に高い研修となりました。来年度も、同様の趣旨の研修会等が開催される予定ですので、是非またご参加ください。


参加者からは、「自らの病院の方向性について改めて振り返ることができた」、「考えるきっかけになったのでよかった」「他の病院の状況がわかったところが一番の収穫でした」という前向きな声が多く聞かれました。スタッフに、「良い研修会を開いてくれてありがとう」と直接お声がけ下さった参加者もいらっしゃいました。一方、「地域的に(面積が広い道県なので)関東圏等と同基準で考えることは不可能」といったように、地域特性への配慮が必要であるという声、「中小規模病院は、病院再編統合を追わなければ根本的な解決にはならないと感じた」といったように、まさに地域医療構想を含めた改革推進が必要であることも示唆されています。「医療を受ける側の理解も必要だ」、「国民側はどう考えるのだろうか」という声もあり、啓発活動が求められていることもわかります。

前述のとおり、厚生労働省は三位一体改革を推進するための予算措置を行っており、地域医療構想調整会議との連携や、医療のかかり方普及促進事業等も並行して実施する予定です。研修を通して上がった声が政策立案に反映されることも十分にあると考えられます。医療機関の皆様の研修参加を通して、より良い医療提供体制、医療政策が実現されるよう、当社としても引き続き取り組んでいきたいと思います。

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