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医療・介護現場における働き方改革の進め方

現在、国が主導し進めている「働き方改革」は、医療機関や介護施設でもその必要性が高まってきています。医療・介護における働き方改革の進め方や今後の課題などをまとめて解説します。

国は、「日本一億総活躍プラン」の元、新しい三本の矢として、「希望を生み出す強い経済」、「夢をつむぐ子育て支援」、「安心につながる社会保障」を打ち出しました。その中で、働き方改革は一億総活躍社会実現に向けた最大のチャレンジとして位置づけられ、同一労働同一賃金、長時間労働の是正、高齢者の就労促進などを積極的に進めています。そのような動きの中で、政府は、平成28年に働き方改革実現会議を立ち上げ、10回の検討が行われました。その中でテーマの一つとして議論された時間外労働の上限規制は、2019年からの施行が予定されています。国がどれだけ働き方改革に本気なのかを理解することができます。

医療・介護分野においても、同様の動きが見られます。医療分野については、平成29年4月に、15回の検討結果が「新たな医療の在り方を踏まえた医師・看護師等の働き方ビジョン検討会報告書」としてまとめられ、医師や看護師の働き方に対して新たな提言がなされました。また、介護分野においても、介護職員処遇改善加算が見直され、施設におけるキャリアパスの整備などが推進されている動きが見られます。

一方、医師の働き方改革については、医師法との関係があり、労働時間の上限規制に関して、医師については5年後を目途に適用することになりましたが、「医師の働き方改革に関する検討会」が平成29年8月にスタートし、今後より具体的に医師の働き方改革についての議論が進むものと考えられます。

医療・介護における働き方改革の必要性

医療・介護業界において働き方改革が進められる背景としては、人口構造の変化により患者・利用者数が今後益々増加し、ニーズが多様化していく状況の中、医師の長時間労働、過労死といった社会的な問題に加え、AI、IoTなどのテクノロジーの進歩が、診断を支援できるようになってきたという背景があります。これまでは、医療・介護従事者の自己犠牲を伴う負担や、職員個々のモラールに依拠していた労働の実態があったことは否めませんが、今後はより高度かつ多種多様な医療・介護サービスを提供する必要性が高まるとともに、より高い効率性が求められることになります。これらを可能とするためには、働き方を抜本的に変えていく必要があると考えられます。

働き方改革の進め方

医療・介護分野においては、既に現場レベルでの働き方の改革、言い換えますと勤務環境改善への取り組みが行われているところが多くあります。特に医療現場では、看護師が主体となって、各種改善活動を進めているところも少なくありません。一方で、働き方改革という概念は大きなものであるため、一体何から始めればよいのかよくわからない、といった声もお聞きします。例えば、短時間正職員制度を導入する、医療クラークの人数を増やす、など、一般的に講じられるものも多々ありますが、そもそも現在何が問題になっているのかを正確に把握しないまま、施策が講じられていることがあるのも事実です。

我々が考える働き方改革の進め方の第一歩は、まず現状の働いている状態を可視化し把握することが重要であると考えています。現状を分析すると、これまで把握できていなかった事実が浮かび上がってくることがあります。例えば、医師は診療業務ではなく、労働時間の多くを患者サマリー作成に要していたり、看護師は看護記録の作成や申し送りに必要以上に時間を要していたことがわかったりします。今現場で何が起こっているのか、何の業務に対してどれだけの時間を要しているのか、丁寧に把握することが重要です。

その上で、各病院・各施設において、働き方改革を実現できたときの状態(ゴール)を設定し、そのための施策を検討し実行する、というアプローチをたどることが望ましいと考えます。例えば、「長時間労働の是正」という目標を掲げることがあります。この目標そのものは悪いものではありません。しかし、目的が「働き方を改革する」ことであることを考えると、長時間労働が是正されて「どのように働くことができていれば良いのか」、をより明確にイメージできるような目標を考えていくことの方がより本質的であると考えます。例えば、「仕事以外の時間を持ち、自己研鑽のための時間を持つことができている」というゴールをイメージすると、モニタリングする指標は労働時間だけではなくなり、より合目的的な指標(KPI)を設定することができると考えられます。このようにして、現状を把握し、ゴールを設定して施策を検討する、という一連のプロセスを踏むアプローチが望ましいと考えています。

様々な医療機関や介護施設が、現場レベルで工夫しながら業務に取り組まれていることは既に記述の通りですが、考えるべき施策は①(一人当たりの)業務量を減らす、②業務の処理スピードを上げる、に集約されるものと考えられます。例えば、医療クラークの活用は、入力作業をクラークに任せることによる医師の業務量を減らすための施策であり、また、クラークが入力するスピードは医師よりも(一般的に)早いために、業務の処理スピードを上げるための施策であるとも捉えることができます。他の医療機関や介護施設の取り組み事例は既に多くありますので、このような二つの視点から事例を分析し、自施設にどのように活用するのが効果的かを検討するのも望ましいアプローチであると考えます。

働き方改革のこれから

ここでは、劇的に業務量を減らし、処理スピードを上げる可能性のあるツールとして、RPA(Robotic Process Automation)をご紹介します。RPAは、これまで職員がパソコンに向かって操作していた定型的な業務を、RPAが成り代わって自動的に処理してくれるものです。1日24時間稼働することが可能なので、就業時間や残業時間を何ら気にすることなく、業務を素早く効率的に処理することができます。現在は、国内の大手企業を中心に徐々にRPAの採用が進んでいる状況ですが、医療機関における今後の活用可能性としては、保険請求などの事務処理や職員配置(シフト作成)などの業務をより効率化する余地があるものと考えられます。

RPAのようなツールの普及や、前述の医師の労働問題については、これからの課題であると考えられますが、現場における改善活動は今後も継続的に行っていくことが重要です。夜勤が偏っている職員をどうにか平準化したい、というような問題が生じている現場で、現場の職員同士でのワークショップを行うことで、協力する風土が醸成され、その問題が解決するという事例もあります。働き方改革の有効な手段が、実は現場から挙がってくることは少なくありません。

今後、働き方改革をより効果的な活動にしていくためには、前述のように現状を把握することから始め、「どのような働き方にするのか」、そのゴールを設定した上でKPIを設定し施策を検討する、その検討手段として地道な現場とのコミュニケーションを通じた改善活動を行っていくとともに、先進ツールなどの情報を入手しながら、継続的に働き方改革を進めていくことが望ましいと考えています。

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