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社会福祉法人における職員の定着と人材育成へのアプローチ

職員の定着を高め人材育成を促進するための人材マネジメントの方向性

介護施設や保育園などの社会福祉施設では人材不足が経営上の重大な問題となっています。国が推し進める「働き方改革」や「生産性向上」への対応も待ったなしの状況です。 社会全体が労働者不足のなか、いかに職員が施設に定着する環境を作るかが重要になります。 また、その実現及び経営・サービスの安定化のためには人材育成を併せて考える必要があります。

社会福祉施設における人材マネジメントの現状と職員の不満

社会福祉施設では職員の退職率が高く、また、新規の職員の採用が困難と言われています。その要因は施設の人材マネジメントに対する戦略や方針・ビジョンが不明瞭であり、職員のニーズに十分に応えらず結果的に不満に繋がっていると考えられます。

人材マネジメントに対する職員の不満として以下の様な例があります。

【人材配置(キャリアパス、役職登用・昇降格)】
・キャリアパスが見えない・分からない
・自身のキャリア志向に合わない
・昇格・昇進に納得いかない

【評価】
・施設が職員に何を求めているか分からない
・頑張りが評価されていない

【給与】
・役職者の給与が低い
・頑張りが給与に反映していない

【育成】
・施設がどの様な人材を育てたいのか分からない
・(育成する側)育成に時間が掛けられない、(育成される側)育成されていない
・育成・研修が場当たり的で計画性がない

【労務】
・残業が多い
・休み(公休・年休)が取れない、取りにくい

安定的な事業運営に向けて職員の確保を図るためには、先ずは既存職員を定着させるべく上記の様な不満を払拭するための取組みが必要です。ひいては職員に寄り添った仕組みや施策の実行によって施設の魅力が高まり、新規採用の向上に繋がる可能性があります。

以降では上記に挙げた不満を解消するための方向性について示唆します。

 

人材配置(キャリアパス、役職登用・昇降格)

<キャリアパス>

社会全体の労働者不足やワークライフバランスを重視する時勢においては、職員のキャリアパスに対する価値観や意向も多様化しています。また、福祉業界では女性比率が高いため出産・育児などのライフタイルの変化と仕事とのバランスを考え役職への昇進や昇格を望む職員は多くありません。そういった中では、これまでの一般職と管理職(マネジメントを担う役職)といった画一的なキャリアパスでは職員の意向に十分に応えられていない可能性があります。

解決の方向性として、マネジメントを担う役職(コース)とは別に、自己の専門性・能力を高めスペシャリストとして活躍する事で組織に貢献するコースや専門的に職員の育成を担うコースなど多様なキャリアキャリアパスを準備する事が必要です。

取組みが進んでいる法人では、法人内の認定資格(マイスターなど)を創設し職員の専門スキル・知識の評価及び処遇を行っています。職員は認定資格の取得を目標として意欲的に日常の業務にあたり、またスキルアップに積極的になるといった効果が現れている様です。

<昇降格>

昇格や役職登用の判断及びプロセスが不透明であれば、職員は法人のマネジメントや人事管理そのものに対して信頼を失くしやる気の低下に繋がってしまいます。

職員が自身のキャリアビジョンや目標を描くためには、昇格や役職登用の条件が明確であり職員にオープンにされている事が大事です。

具体的な要件としては、等級や階層で経験すべき年数(業務スキル・業務方法などを身に付ける)、評価結果(求められる水準の業務遂行を果たせているか)、人物性(昇格先の役割を遂行できる人物か)を設定する例があります。加えて、どの様なプロセス(上司推薦、試験、人事会議など)で審議・決定するかも定めます。

 

評価(専門的なスキルや役割遂行に対する評価)

現場でよく挙がる不満として「専門スキルを評価されていない」、「施設の方針に沿った行動や多様な貢献が評価されていない」などがあります。社会福祉施設は専門家の集団であり、かつ、多様な職種が存在しているため、社会福祉業界に特化していない場合や全職種画一的な評価項目などでは各職種や職員の専門スキルの適切な評価は困難です。

解決の方向性として、各職種の業務内容や業務手順・求めたい品質などの具体事項を基に必要な専門能力や行動を抽出して評価項目として適用します。これにより職種の専門性を適切に評価する事ができます。

また、施設の経営においては、職員が専門スキルを発揮するだけでなく法人の理念や方針に基づいた行動・貢献が必要です。そのため、業務遂行の評価のみならず法人理念や方針・ビジョンに基づいた行動を促進するための評価の仕組みが求められます。実際に取組みを行っている法人では、法人理念やビジョンに即した行動を通常評価とは別に評価し賞与や表彰で処遇しています。法人理念やビジョンが職員の共通認識として深く浸透しています。

 

給与

<処遇改善への対応>

国は社会福祉業界の人材不足を解決を目指し、事業(介護、保育、障害など)毎に処遇改善を進めています。介護事業では2019年10月の消費税増税に伴って処遇改善加算が改定され、経験が一定年数の職員は給与が大幅に改定され見込みです。しかし、これらの処遇改善に対して画一的・一律的な給与の仕組みでは職員全体の公平性を担保する事が難しくなってきています。

事業毎ないし事業における処遇改善の要件を見据えた根本的な見直しを図り、各事業の処遇改善の要件や方向性に計画的かつ適切に対応する事が求められます。

取組みが進んでいる法人では、全職員統一の給与表を事業毎や職種毎に細分化し、処遇改善の要件や事業・職種の外部水準へ適応できる仕組みとしています。

【管理職の処遇改善】

一般職員は上述の処遇改善によって給与が増加していますが、施設の経営を担う管理職は役割や責任の大きさ、他業界の給与水準を踏まえても魅力的とは言えない場合が多く見受けられます。職員は管理職や役職に就く事に魅力を感じられず、それが管理職・役職への適材配置や経営の質向上が果たされていない要因と考えられます。

これらを解決するためには、管理職の役割や責任の明確化と併せて魅力となる報酬水準・体系の構築が有効です。また、それらの実現にあたっては施設にとって必要な業績や利益を確保する事が必要不可欠なため、管理職に対するマネジメントの評価(業績評価)も重要と言えます。

 

人材育成

施設の育成方法として、外部団体から書面で案内された研修会に参加可能な職員を受講させるのみ、といったケースがよく見受けられます。本来、人材育成とは法人が求める職員像やスキル・行動を養成するためのものであり、計画的に果たされるべきです。場当たり的・受動的な研修参加では得られるもの、現場での活用も十分ではありません。

本来の人材育成のあるべき姿に帰り、職員に対して法人の育成の方針・計画を伝え、キャリアパス(人事制度)から必要な能力や知識を定義し、詳細な育成・研修体系を定め計画的に実施する必要があります。

取組みが進んでいる法人では育成の戦略やビジョンを明文化して職員に周知し、階層別の研修体系(研修内容と期待する効果など)の策定・実施と定期的な実践フォローアップをされています。

また、育成の制度として「プリセプター制度」「チューター制度」などを導入し、育成担当者や役割を明確にしています。

 

労務(働き方)

社会情勢として労働者の働き方(労働時間、休日)の見直しが進められており、社会福祉施設でも例外ではありません。労働基準法の改定による時間外時間の上限規制や年10日以上の年次有給休暇が付与される職員の年5日以上の取得義務などがあります。また、厚生労働省は「介護サービス事業における生産性向上に資するガイドライン」を策定し現場での効率化・生産性アップによって職員の負荷の軽減や人材不足の一定の解消を目指しています。一方で、現場からは「職員不足で業務改善や働き方の見直しに取り組めない、進まない」といった声がよく挙げられます。しかし、労働者不足の中では職員の充足はいつ訪れるか分かりません。その間も現場の職員は肉体的・精神的な負荷が減ることなく、それが離職や休職に繋がってしまう可能性があります。

解決の方向性として、現場で行われる業務の種類や量、プロセスや制約を把握し、①業務のやり方(プロセス・フロー)の見直し、②業務の担い手(非正規化、IT化、外部化)の見直しを図る事が有効です。厚労省が策定した「介護サービス事業における生産性向上に資するガイドライン」では業務改善の手法やステップが記されており、取り組みに大いに活用出来ます。

取組みが進んでいる法人では、事務業務の組織・プロセスの見直しとともに事務のIT化の更なる高度化(24時間365日稼働できるロボット(アプリケーション_RPA)の導入の検討)も進んでいます。

 

見直しに向けた取組み体制

新規採用や報酬改定等による業績の確保が厳しくなっている今日では、職員の定着と育成が必要不可欠であり、そのためには各制度を個別的に見直すのではなく人材マネジメント全体の戦略として包括的な改定が重要です。

検討では事務部門のみならず現場をよく知る各部門や職種、将来の幹部候補等を巻き込んだプロジェクト体制を敷く事が効果的と考えられます。それは、プロジェクトを通して人材マネジメントや経営に関する育成に繋がり、何よりも制度や施策の導入目的を果たす上で最も重要となる運用においてプロジェクトメンバーが現場で浸透・伝達役を担い、制度や施策の定着を図ることができるからです。多様なプロジェクトメンバーにより検討を行うため、日常業務への影響を鑑みると一定長期的(一年間など)なプロジェクトになる事が想定されます。

施設にとって負荷が生じる取組みではあるものの、施設への満足度や仕事へのモチベーション向上によって法人への定着が図られ、ひいては法人の魅力UPによる新規職員の採用・確保に繋がる好循環が期待されます。

 

デロイトトーマツグループにおける今後の展開

デロイト トーマツ グループでは、社会福祉施設の事業の安定と発展のためには職員の定着と育成が重要であり、職員の意向やニーズを取り入れた人材マネジメントの見直し、生産性向上を見据えた業務改善の取り組みが必要であると考えております。具体的に上記に関するアドバイザリーサービスの提供やセミナーを実施しています。

今後も定期的に職員の定着と育成に繋がる取組みに関して、事例を踏まえた情報発信を予定しております。

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